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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

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31/63

破壊者(17)

 一方的な関与に危険性を見たヴォイドは現代の流儀に合わせるべく初手は控える。第一次迎撃部隊が戦列を組んで陣形を整えるのを眺めていた。


「ヴァオリー1から8を放出。制御シーケンス始動」

『接続は正常です。問題はございませんか?』

 レイデが尋ねてくる。

「何度も試した。問題無い」

『切断モードを選択してください』

「ヴァオル・ムル防衛」


 発着スロットから生みだされるヴァオリーが次々と親機であるヴァオロンと接続する。操作円環(バーゲ)を介した制御領域はそれだけ消費されていった。万一超空間(フレニオン)接続が断たれた時の動作モードをミザリーの守護に設定しておく。


「八機も使えるの?」

 当のミザリーの言葉は単なる賞賛だ。

「使える。が、この辺りが限界だ」

「負担になるのね。無理しては駄目よ」

「心配いらん。実戦運用は初めてだけどな」


 ヴォイドの限界だ。とはいえヴァオロンのパイロンアンテナも十機が限界という計算結果が出ている。このサイズで時空界面に与えられる影響は多くはない。

 超空間(フレニオン)通信に割く余裕もないので会話も電波無線である。ターナ(ミスト)に影響を受ければミザリーとの会話も維持できなくなるだろう。


「僕の心配より自分の心配をしろ。ちゃんとヘルメットも被っておけ」

 彼女の長い髪は低重力でふわりと舞っている。

「ええ。でも、これ少し重いわ」

「旅行ではない。ここが戦場になるのを忘れるな」

「はい」

 生命維持装置の充実した装備は重量もある。


(連れ出すのならそれなりの心得を説いておくべきだったか?)

 彼女の安心感は信頼の表れともとれるが放置していいものではない。


「まだちょっと慣れない……」

 落ち着きがないのはジビレのほう。

「不慣れな仕草をするな。つけこまれる」

「え、動作に表れていますか? どこまでセンシティブな機体」

「まあいい。ヴァオル・ムルを離れるな」

 護衛は「もちろんですよ」と答える。


(では行くか)

 火線ではビーム光が両軍を繋げつつある。交戦状態に入ったようだ。

(前回のように意表を突くのは無理だ。姿を見せれば対策を取ってくるに決まっている)

 当然分析もされているだろう。どこまで知られたかは分からないが。


 あんな機体でよくやるとヴォイドは思う。現人類が独自に発展させた多数の機種が存在しているのは学んだ。戦術に適した改良を施しているのだろうが、以前に彼が感じたような構造的な改悪も見られる。正直やわ(・・)になっていると感じた。


「敵の主力は『ドロタフ』という名前か」

 軍からのデータが反映された表示を読む。

「混じっているのが『コフトカ』。先日からんできた男もそれに乗っていたな」


 名乗り合ったわけではない。だが、宙賊と呼ばれる割には腕の立つ男だったと思う。状況分析も退き際も見事だった。感心すると同時に危険な敵だとも思える。


「ゆけ、ヴァオリー」


 少年は意識を拡散させた。


   ◇      ◇      ◇


(こそこそと逃げ隠れして素人の財産をかすめ取ってきた連中が)

 それがトゥルーバルに対するナセールの印象。

(いやに突っ張りやがるじゃん)


 訓練に演習、さらには宙士レーサーにとアームドスキン一色の暮らしをしてきた自負のある彼が、自分の覚える感触に疑念を抱く。妙に手堅いのだ。

 水際立った陣形の戦列から猛烈な砲火を浴びせているというのに崩れる気配もない。ジェットシールドを押し立ててじわりじわりと寄せてくる。不気味でならない。


「当たってないぜ、ザズ」

 不安を振り払うように茶化す。

「お前こそな、ナセール。どうした? ダントリッサーに乗り過ぎてエンデロイの操縦のし方を忘れちまったか?」

「うっせえ。実戦出力のビームカノンぶっ放すのも久しぶりだから感覚を忘れてるだけさ」

「まさか反力計算を切ってるとか言わないだろ?」


(そんな初歩の初歩みたいなミスするか)

 戦友の冗談を笑い飛ばせないほど損害を与えられていない。

(当たってないわけじゃないが効果的とはいえないな)


 弾かれ躱されるビームの航跡に眉根が自然と寄ってくる。押されているという空気が彼の心へ忍び入りつつあった。

 敵機もずっとジェットシールドを展開しているわけではない。すぐに過負荷で発生コアが焼け落ちる。ここぞというところで効果的な使い方をされているから見事に防がれているという印象。


「なにやってんのさぁー。もうちょっと張り切りなぁー」

 隊長のロミルダが発破をかけてくる。

「宙賊相手に手加減なんて要らないよぉー? それとも人間に向けたビームカノンのトリガーを落とす指に躊躇いがあるとか言わないよねぇー?」

「そんなわけない!」


 ナセールとて宙賊征伐作戦に従事したことはある。ゼムナ軍の遠征で支援されていた頃のバルキュラ軍に比べれば実戦経験は豊富なほう。

 いつもと同じ感覚でやっているのに結果が出ない。なにか違和感が付きまとう。まるで戦場で何度もまみえて癖まで知り尽くされている敵を前にしているかのごとく感じる。


(こんなはずじゃないとか泣き言いってる場合じゃないぞ。オレは市民の命を背負ってるんじゃん)


 ナセールは集中を高めて敵機の動きを目で追った。

次回 (こんな戦績で昇格狙ってるか言えないじゃん!)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 力は手段である。 振るう事に慣れてはいけない。
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