表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/63

破壊者(16)

 一見して普通だったのにひと安心したのを後悔する。操作機器が何一つなかったらどうしようと思っていたら、きちんとフィットバー(操縦桿)もペダルもあったので安堵したのだ。

 腕に沿って屈曲するバーに腕を合わせるとシリコンクランプが軽く自動保持してくる。指に触れるスイッチ類も馴染みのもの。


(良かった。普通)

 そう思ったのもつかの間。


 柔らかなシステム音声が機体との同調を告げると、とんでもないものが襲いかかってきた。通常の拡張感の比ではない。

 そんな経験はないが、まるで金属製の鎧を素肌に纏ったかのよう。自分の皮膚が硬質な何かに変化したかのごとく感じる。


(は……ん……)

 初めて感じる皮膚感覚に痺れる。アームドスキンとはよく言ったものだと切に感じた。

(ヤバい。丸裸で放り出されたみたい。21mの身体で恥ずかしがってどうするんだとも思うけど)

 本当の顔が上気しているのではないかと思い、むしろそれが恥ずかしい。


「大丈夫、ジビレ?」

 ミザリーが尋ねてくる。

「わたし、変ですか?」

「うっとりした顔してたから」

「同調感覚に飲まれるな。依存性が高くなる者もたまにいる」

 図星を突かれて顔が熱くなる。


(今度こそ赤くなってる。ミザリー様に見られたくなかった)

 恥じ入って面を伏せる。


「僕らが降りたら宇宙(そと)に出てみろ」

 ヴォイドは気にしているふうもない。

「了解です」

「じゃあね」

 彼女は動かせるものと信じているようだ。


(こんなの、身の丈に合う動作しかできないに決まってる。ほとんど自分そのものじゃない)

 少年に対する不満は八つ当たりでしかない。


 白いラインで彩られた紫のアームドスキンはするりと動く。違和感などあるはずもない。完璧に自分の身体のように感じているのだから。

 依存性が生じても変ではないだろう。拡張感を超えて全能感まで覚える。これに酔ったら手放せなくなる。


(裸で宇宙遊泳する経験なんてない。したいなんて思わないし)


 バルキュラ本星を足下に見ながら慣熟飛行をしたジビレだった。


   ◇      ◇      ◇


(呑気に飛んでやがるな)

 何にでも当たりたい気分なのはナセール・ゼアである。


「白いライン? こいつ、あの小僧でも、ヴァオリーとかいう無人機でもないみたいじゃん」

 協定者ヴォイドの操る機体は軍のデータに登録された。

「違うな」

「だろ?」

「ほら、これだ、ヴァオロン。乗ってるとしたら、愛しのお嬢様の女護衛だろ。傍にひっついていたやつ」

 覗き込んできたザズがパネルを操作する。

「つんとした感じだったけど、結構イケてなかったか? あんなタイプの女は一度落としたら甘々だったりするんじゃね?」

「勝手にしろ」

「お近付きになりたいんなら、そこから攻めるのも手だと思ったのになー」

 ろくでもないことを言う。

「できるか! そんな状況でミザリーさんにも移り気したように演じてみろ。決定的に嫌われてしまうじゃん!」

「だよなー」


 腹を抱える戦友の鳩尾に軽く肘を入れる。息が詰まって崩れ落ちたザズの首根っこを苛立たしげに持ちあげて引きおこす。


「こらぁ、あんまりじゃれてないのぉー」

 妙に間延びした注意が飛んでくる。

「でも、隊長。こいつ、ひどいんですよ」

「げほ……。お前が変な夢を見続けてるから、早めに起こしてやろうと思ったのによ」

「あり余ってる元気は敵にぶつけてねぇー」


 彼女はナセールの隊の隊長。名前はロミルダ・ファチネー。二金宙士だ。

 三十路を過ぎて数年の艶っぽい女性である。年齢に言及すると怒りだすので、同年代の宙士に尋ねておおよその年齢だけ判明している。怒ったところで可愛らしいだけなのだが、アームドスキンに乗った時の彼女の勇ましさは誰もが認めるところ。


「その敵はまだ接近中ですか?」

「そー。そのまま一戦交える気みたい」

 彼ら第一次迎撃艦隊は接敵軌道を取っている。

「変ですよね。後ろに大規模な本艦隊が構えてるっていうのに、そのまま当たってくるんですかね?」

「な? 奇襲なら精神的ダメージも狙えそうだけど、例の件で先遣艦隊の存在も知れちまってるんだから意味ないじゃん」

「んー、向こうも分かってないんじゃない?」

 ロミルダは厚めの唇に指を当てる。

「ここ十年は大攻勢なんてなかったから正規軍の実力を測ろうとしているのかもぉー。えーっと、威力偵察ってやつぅー?」

「あー、なるほど」


 十年もすれば戦列を形成する戦力も世代が変わる。ナセールだって十年前は訓練所でもみくちゃにされていた頃だ。前回の大攻勢に至っては入隊前の話である。


「それに、あのヴォイドちゃんが仕掛けたもんだから、余計に分からなくなってるのかもぉー」

 あれが正規軍の一角だとしたら無闇な攻勢は得策ではないと思ったのではないかと彼女は言う。

「確かに。今なら引き返せますもんね。こっちだって第二次迎撃艦隊は招集編成の真っただ中なんですから」

「敵本艦隊を確認してからアタックレーサーにも呼集かけたんだろ?」

「だから編成にも時間かかってるみたいだぜ」

 訓練はしてても部隊行動には慣れていない。

「どう足掻いても付け焼刃なのにねぇー。あはははー」


(笑い事じゃないんだけどさ。味方なんだから)


 若干でも連携できるとしたら彼らのような宙士レーサーだけだろうとナセールは思った。

次回 「ゆけ、ヴァオリー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ