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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

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破壊者(15)

 兵士皆が放心する中で、紫のアームドスキンは立膝の姿勢になる。ハッチが開くと小柄な身体が現れ、手の平に移って地面へと降りてきた。

 我に返った兵はそのほとんどが腰に手をやる。しかし、この場にハンドレーザーの携行は許されていない。まるでコピーのように顔を顰めた集団が一斉に飛びかかろうと構えた。


「待て!」

 予想していた反応だと言わんばかりに軍務相が大音声を解き放つ。

「列に戻れ。すぐに説明する」


 不信感のみなぎる空気にもヘルムートは怯まない。十分に準備をしてきたからであろう。茶番自体がこのためだと思われる。


(こいつは……)

 ナセールは警戒を解けない。が……。

(子供かよ。冗談きついぜ)


 ヘルメットの向こうから現れたのは少年の顔。見た目から十代前半だと思われる。身長も150cmほどだろう。

 陽光に青みを感じさせる黒髪。緑の瞳が彼らを射る。えもいわれぬ光。そこに含まれているのは威厳のようなものだと感じられた。


「彼の名はヴォイド・アドルフォイ。協定者だ」

 衝撃の台詞が放たれた。


 整列していた者は思わず仰け反って数歩下がる。それくらい特異な存在。一生に一度お目にかかれれば幸運だといえよう。


「この中には彼との戦闘に及んだ者が含まれていよう」

 ヘルムートが続ける。

「行き違いの末の状況であった。それは不問に付すと言われている」

「わたくしが補佐するのはこの方です。キャリ・ダナ峡谷での事件は、初めてアタックレースを観たヴォイドがアームドスキンを遊戯に使っていると勘違いしたことから始まっています。ゼムナの遺志『レイデ』とともに歩む彼にとって許しがたい行為だったようです。ですが、誤解はすでに解けておりますので安心してください」

 ミザリーが父親の言葉を継いでいる。

「ご存じのようにトゥルーバルの接近を察知した彼は阻止行動に移っています。我らバルキュラ国民の心強き味方なのです。協定者に協力いただき、民主政治を守ることが皆様の務めです。これよりは共に戦う同志とお心得ください」

「高等文官の言った通りだ。皆、よいな?」

「は!」

 全員が敬礼で応じる。だが胸中は複雑である。


(なんだこりゃ。オレは恥をかいただけなのか?)

 怒ればいいのか笑えばいいのか分からない。


 演壇から降りたミザリーは協定者の少年の後ろに立つと両肩に手を置く。顔を近付けて彼の耳に囁いた。ヴォイドは彼らに頷いてみせると「よろしく頼む」と言う。


(なにをよろしくすればいいんだよ。泣きたくなってきた)


 親しげな空気にナセールは膝の力が抜けそうだった。


   ◇      ◇      ◇


 金属製の寝台がその封を解くと中から人型が現れる。人体ではない。身長は20数mもある。

 伸びていた作業アームが両開きの扉に格納されつつ寝台は起き上がる。紫の巨体は隣に居並ぶヴァオリーと似た形状をしていた。ヴォイドのヴァオロンとも違う。肩にアンテナパイロンを有していない。


「量産型ヴァオロン?」

『はい。子機操作機能を外してあります』

 ミザリーの問いにレイデが淡々と答える。


 冷静でいられないのはジビレ。もう一機のヴァオロンは彼女のために準備されたと告げられたからだ。


「なんでですか? 軍から一機借り受けるという話だったはずです」

 頭を抱えつつ女性護衛は苦悩する。

「ええ、父様に話そうとしてたらヴォイドがあなたにも用意するって言ったんだもの」

「遠慮申し上げてほしかったです……」

 消え入りそうな声で訴える。

「どうして? アームドスキンとして性能は上のほうがいいんじゃなくて?」

「高性能ならいいわけではないんです。身の丈にあった機体に乘らないと振り回されるだけなんですよ」

「そんなものなの? 困ったわねぇ」


 ジビレは兵役時代も、バルキュラ軍の主力量産機『エンデロイ』さえ乗ったことがない。その後継機となる隊長機『フェンブル』など触れたこともないと主張した。


 彼女が所属していた宙賊パトロール部隊カウンター分隊は航路ステーションに常駐している宙士になる。父親が病床に伏して母が将来を悲観したため地上勤務に転属を申し出たが許されず、仕方なく除隊したのだ。

 その後、父が快癒し職を求めて彷徨っていた時にフェルメロス家に拾われる。以降の四年は軍の訓練所に通うだけ。そんな所に置いてあるのは型落ちの旧式機。しかし、その旧式機をジビレは愛機としていたのである。末端のカウンター分隊はそんな扱いであった。


「案じることはない。ヴァオロンはお前の身の丈に合った動きで応じるだろう。ヒュノスとはそういうものだ」

 ヴォイドは気軽に言う。

「設計の基本思想そのものが異なる」

「そんな常識はわたしには無いんですって」

「乗ればわかる」


 ミザリーにも促され、ジビレは渋々といった(てい)で降下してきたバケットに乗りこむ。ちょっと狭い三人乗りのバケットを経てパイロットシートに収まると懐かしい感覚が甦ってきた。


(あの頃は毎日ここにいた。待機時間はなんでもここでしてたな)

 兵役時代を思い出す。


σ(シグマ)・ルーンにエンチャント。(スリー)(ツー)(ワン)機体同調(シンクロン)成功(コンプリート)

 システム音声が駆動可能状態になったのを告げる。


 ジビレはその感覚に震えあがった。

次回 (21mの身体で恥ずかしがってどうするんだとも思うけど)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……自分の身体の様に動かせるロボット!? (殴るも蹴るも思いのまま?)
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