破壊者(14)
急襲を受けて一時撤退したトゥルーバル先遣艦隊は再び進撃を開始している。それと並行して積極的な情報収集も行っていた。その中でエース級筆頭であるオズ・クエンタムは不可解な映像に遭遇する。
(わけが分からん)
彼は額を押さえた。
(こいつは何がしたい)
映像は彼らと謎の紫のアームドスキンの戦闘状況。それは事実だからまあいい。実際に立て直しを余儀なくされた。
報道番組のキャスターは過去映像としてもう一つの戦闘を提示する。そこにはアタックレースに乱入して、全機を戦闘不能に追い込んだアームドスキンの姿。この二つは確実に同機体としか思えない。
(これは間違いなく奴だ)
オズの前に立ち塞がった少年と思われるパイロット。
(かたや我らの進軍を阻止し、かたや本国の堕落の象徴を破壊する。突然現れたとしか思えないこの部隊の目的は何だ? アームドスキンは全て敵だとでも言うのか? 他国の工作かなにかか?)
それにしても動機も思い浮かばない。
「クエンタム殿」
艦内回線が呼びかけてくる。
「間もなく本国の監視網に差しかかります。スクランブル待機をお願いします」
「分かった。格納庫に向かう」
自室のコンソールをシャットダウンすると老練のパイロットは立ちあがった。
◇ ◇ ◇
宙賊艦隊接近の報は速やかにバルキュラ軍にもたらされる。準備が整えられ、編成も済んでいた迎撃部隊は地上基地に集められていた。この後、軍務大臣からの訓辞があるとされている。
(珍しい。普段はこんな形式ばったことをばっさりと切り捨てる実務肌の方なのに)
部隊に編入されているナセール・ゼアは理解に苦しんでいた。
三銀宙士の彼は一兵卒に過ぎない。そんな思いを声高に主張できるわけもなく、ただ、宙軍ポートの一角に並ばされてその時を待っている。
「なんだろうな、ナセール?」
隣の戦友ザズ・オルクローが問いかけてくる。
「なにって、なにが?」
「なんもなけりゃ、こんな面倒なことをする方じゃないだろ?」
「そうだけどさ」
同じ疑問を抱いていたらしい。
「発破かけてくるかもな。今回のトゥルーバルの攻勢はそれなりの規模って話だ。命の危険だって小さくない。戦功挙げたら大盤振る舞いの昇格を約束してくれるとかな」
「そうなったらギャランティも上がるから嬉しいけどさ」
「それ以上に夢に近付くから嬉しいんだろ?」
肘でつつかれる。
(三銀宙士が一金になったり二金になったくらいで手の届く相手かよ)
冷やかされているのは重々承知のうえ。
(もう二つは上がらなきゃいけないじゃん。こいつ、俺に戦死しろって言ってるのかよ)
ギャランティも上がるが、それを受け取るのは家族に変わる。もちろん、あの女性とも永遠の別れになるのだ。
「お前がオレをどうしたいのか、よーく分かったぜ。宇宙に上がったら背中に気をつけることにする」
すぐに気付いたザズは腹を抱えて笑い声を噛み殺す。
「そんな馬鹿なことするか。でも、もしもの時は何とかしてお前の想いだけは愛しのミザリー嬢に伝えてやるから」
「余計なお世話だ! そんなん自分でするから黙ってろ!」
「へいへい」
隊長が咳払いをする。黙れという合図だ。背筋を伸ばして演壇に注目すると軍務相のヘルムート・フェルメロスが登壇する。
「貴官らの健闘を願う。それだけだ」
実に単純明快なひと言。
「文民側の長として命じるとすれば、だ。そして個人として命じるならば、家族を泣かせるな。絶対に諦めず、生きて帰るのを優先しろ。そのうえで守れるものを守れ」
胸に染みる訓辞である。ここまで言われて奮起しない者はいないだろう。長く軍部を掌握し、敬意を集めつづけてきた男の言葉らしいと感じる。
計算がないとは思わない。それでも彼が上司ならば気持ちよく働けると思わせてくれる。それは大事だと感じた。
(やっぱりあの方の父君だけあるな)
どこまでいけるか分からないが、頑張って駆け上り彼の前に立ちたいと思う。
「それと一つだけ注意点がある」
軍務相は続ける。
「今回の作戦に我が娘が同行する」
(は?)
我が耳を疑っていると、文官の列の中から戦闘服に身を包んだミザリーが登壇してきた。
(はああぁー!?)
皆が絶句する。予想外も甚だしい。
「高等文官としての従軍だが貴官らの配慮は求めない。娘には職務がある」
ミザリーは明らかに付け焼刃といった敬礼を送ってくる。
「お邪魔とは思われますが、どうかご容赦ください。今回わたくしは高等文官の位を預かり、ある方の補佐を行います。重要な役目と心得てはおりますれど、適うかぎり皆様の任務のお手伝いをさせていただきたく存じます」
(なんだなんだ、何がどうなってんだいったい。あの方って誰だよ。軍務相閣下じゃないのかよ。隣にいるのにあの方もなんもないじゃんか)
開いた口が塞がらないまま、とりとめのない思考が頭を占める。
「集まってもらったのは他でもない。娘が補佐する方を皆に紹介しておかねばならんからだ」
ヘルムートではないらしい。
「では、来ていただこう」
軍務相が手を挙げると上空を見上げる。噴射音が彼方より迫ってきたかと思うと一機のアームドスキンが演壇の横に着地する。
(ちょっと待てぇー!)
それはナセールが敗北したあの紫の機体だった。
次回 (なにをよろしくすればいいんだよ)




