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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

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27/63

破壊者(13)

「とはいえ、戦闘となれば制御できない戦力は困る。だろう、ヘルムート?」

 譲歩を見せるヴォイドにミザリーは疑問を感じる。


(急速に現人類社会を吸収しているから? 頑なだった頃が嘘みたい)

 関係性の重要さを身につけてきたのかもしれない。


「たしかに現場指揮官は君の扱いに困るだろうが、調整も可能だと思っているがね」

 父は少年を自由にさせようと考えているらしい。

「最低限、歩調を揃える努力はやぶさかではない。だが、意思の疎通さえ難しいのでは困ることになる」

『作戦目的等はこちらで把握可能でも、こちらの動きを報せる方法となると一方的にしかなりません』

「指揮官の負担になるようでは確かに困る。調整役を配置するのが順当だろうか」


 ゼムナの遺志(レイデ)に直接コンタクトされれば判断に迷うだろう。ヘルムートはその間に緩衝役を置くつもりらしい。


「ふむ、しかし誰を置こうが、いきなりレイデに何かを言われても否やとは言いにくいだろう? どうだ、ヤカリム?」

 急に指名された総理補佐官は面食らっている。

「あー……。は、はい、それは厳しいかと」

「ならばこちらにも現代社会の常識に通じた交渉役がいると効率良いと思わないか、ヤカリム?」

「それなら現場もやり易くはなるでしょう。でも、その交渉役はあなたの信頼を得た人物でなくてはならなくなりますが」

 不穏な方向に話が進んでいるとミザリーは感じる。

『最適な人物がおります。ミザリー様ですね?』

「え、わたくし?」


 ここまでの話を思い返すと結論ありきで交渉が進められているように思える。これはヴォイドの策略らしい。


「わたくしでいいの?」

「不足はない。ただし、相手は軍人になるな。民間人のお前では取りあわない可能性も出てくる。それは僕にとって面白くない状態だと思わないか、ヤカリム?」

「事前に話を通しておけば……、いえ、公職が必要になるかもしれませんね」

 途中で彼に首を振られて補佐官は方針転換する。

「無理にとは言わんが、ミザリーに相応の軍属の階位が欲しいものだ。どうだ、ヤカリム?」

「そうですね、ヴォイド様。フェルメロス軍務相、計っていただけますか?」

「それは構いませんが、お気付きで? 貴殿は私に娘を戦場に送れと言っているんですよ?」

 言われたヤカリムは目を見開いて「あっ!」とこぼす。


 だが、ヘルムートは半笑い。途中からこの才媛が少年に飲まれていることに気付いていたのだろう。どう話を持っていくのか傍観に徹していたようだ。


「軽率でした。申し訳ございません」

「忘れましょう。まずは娘の意思を聞きたく思います」

「うむ、順当だな」

 強引に進める気のないハユ首相は人権派らしい。

「無論、傷一つつける気はない。最大限の努力をもってミザリーを守ると約束しよう」

「その点は心配していない。君ならば娘を大事にしてくれると信じている。ただ、なにぶん一般人なのでね。戦場の怖さを知らん。拒むのならば聞き入れてやりたい」

「否めんな」

 ヴォイドも認める。


 四人分の視線が彼女に集中する。こんな状況になるなど予想だにしていなかった。それでもきちんと答えを出さなくてはならない。


(彼はわたくしを信じて話を向けてくれている。応えたい)

 ミザリーはそう思う。


「戦場が怖くないとは言いません」

 言葉を選んで告げる。

「トゥルーバルとの戦闘時にはわたくしもあそこにいました。あれが戦場というのなら不思議と怖くありませんでした。ヴォイドの本当の頼もしさを知っていますから。同じ状況ならば頑張れると思います、父様」

「そうか。やってくれるか」

「はい」

 父は自分を眩しげに見る。

「いつの間にか一人前になっていたのだな。私を助けてくれ」

「喜んで」


 ヘルムートの肩に置いた手が誇らしく思える。バルキュラの苦難に対し、彼女も身を挺して父親を助けるのが可能なら、こんなに嬉しいことはない。


「助かったぞ、ヤカリム」

「いえ、何ほどでも」


 立ち上がって傍に寄ったヴォイドが労うように背中に軽く触れる。それだけで補佐官は頬を染めて嬉しげに身をくねらせた。


(完全に取りこんじゃってるわ。ヴォイドって意外としたたかなところがあるのね)

 ここに来る途上でみせた笑いは、彼が要点を定めたのを意味していたのだろう。


 ミザリーには軍属として「高等文官」の階級が与えられることになった。軍人ならば杖宙士(じょうちゅうし)に値する階級。冠宙士(かんちゅうし)にも意見できる地位となれば、権限として不自由を感じることはないだろう。ただ、いきなりジャンプアップが過ぎるきらいがあって腰が引けてしまう。


「ミザリー」

 総理の前を辞した後、少年が語りかけてくる。

「お前は僕にとって指標だ。困らせるようなことをしなければ、現人類の常識から外れていないのが確認できる。無理を言ってすまないが、よろしく頼む」

「いいの。君と会ったあの日から運命は感じてたもの。思ったよりずいぶんと大きな話になってきたけれども、わたくしに務まるのならやってみようと思うから」

「お前を通して人類を見つめたい。良い答えが出ることを祈ってくれ」


 思いがけない重責も、彼とともに歩みたいとミザリーは願った。

次回 「お前がオレをどうしたいのか、よーく分かったぜ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 ……まぁ、順当(?)な流れですねぇ?
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