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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

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破壊者(11)

「それで君が判断した結果がアタックレースの襲撃だったというわけか」

 ヘルムートは悩ましげに溜息をつく。


 ヴォイドにとってそれが結論だったのは既に判明している。誤解から生じた状態だとて、現人類に遺跡技術を利用する資格なしと判断されたのだ。


「現人類とヒュノスの接し方が我らとあまりに異なっていたがゆえにそう判断せざるを得なかった」

 少年も言葉に困る雰囲気で口を開く。

「まったく違う使い方をしていたの?」

「自衛のための抑止力であった。それだけに強力な攻撃力を持つ」

『他には主に宇宙活動用の機材として活用されていました。人間と同じ動きが可能だというのが利便性が高かった理由です。現在のように建設機械などには用いられていません。それ専用の機材が多様化していましたので』

 基本的に兵器という位置づけだったらしい。

「賭け事に利用するなどという発想は生まれなかった。それだけに面食らってしまったという思いはある。極端な判断だったと思う」

「得心してもらったのは娘から聞いている」

「政府として補償を要求するか?」

 父は困って唸り声を上げている。


(父様はまだ何もお話しになっていないのね。ことを穏便に済ませられればと考えていらっしゃるんだわ)

 内心の読める反応だった。


「どんな印象を抱いているかは不明だが、我々はゼムナの遺志に関わる案件に疑義も抱かず正当性を感じる傾向がある。歴史に根差したものだ」

 ヴォイドが常識を知らないのを前提に話を進めている。

「君の行動を罪に問うなどという事態になればどんな社会的な反発を受けるか分からない。政府にそんな非常識な人間はいまいと思う」

「ならば僕が自戒を持って償いをを行動で示せばよいのだな」

「それが今回のトゥルーバル阻止行動というわけかね?」

 少年自身がそう語っていた。

「償いも含んでいる。が、あれはいけない。我を通すための武力にヒュノスを使うのは許さん」

「組織としての益は一面的ではないだろうか? 国益に沿うとはいえ、他国から見ればそれは我と感じられるかもしれない」

「何の義もなく、だ」


 国民のために国益を願う行動は義だという意味だろう。少年は何かにつけ「義」という言葉を使う。彼にとって重要な要素なのだとミザリーは思う。いうなれば集団における「公共の福祉」を「義」と表現しているのかもしれない。


「トゥルーバルの脅威から国土を防衛するのは義があると思ってくれていると解していいかな? 今後も協力を得られると?」

 ヘルムートは踏み込んでいく。

「ヒュノス……、アームドスキンにとってそれは存在理由である。異論はない」

「そうかね。非常に助かる申し出だ」

「ありがとう、ヴォイド。わたくしたちを守ってくださるのね」

 母の感謝に少年は表情を和らげて「引き受けよう」と言った。


 父は長い長い吐息の後に安堵の面持ちになる。それだけ意を決した面談だったらしい。緊張の果てに成果を得られ弛緩しているようであった。

 テレーゼが労わりの言葉をかけて冷めてしまったお茶を淹れかえる。夫婦の阿吽の呼吸にミザリーも安らぎを得た。しかし、そこでハッと気付く。


(ヴォイドはこんな感情から切り離されて長い長い眠りに捕らわれていたのかもしれない。もっと優しくしてあげなくては)

 運命を感じる出会いは彼女にその役割を振ったのだと心に決める。


「いかんせん、ことの重大性が過ぎるな」

 ヘルムートの悩みは尽きない。

「さて、どうすべきか」

「一人で抱え込む必要はないのではなくて、あなた」

「うむ、総理を含め真実をつまびらかにして判断を仰がねばならんだろう。それは規定事項にしても世間に大々的に公表するわけにはいかん。あまりに衝撃的な事実だ。どんな余波があるかしれない」

 自分たちは監視されていると知っておののかない者は少数派。

「協定者だったか? それでよいだろう。ゼムナの遺志とやらの代弁者を演じるとしよう」

『わたしの意は含まれませんが』

「それで頼んでいいだろうか? 総理がどう申されるかは分からないが、方向性はそのほうが良いと思う」


 父の役割は重要になる。先史文明人の協力を得られると知れば、威勢と感じない人間は少ないはず。自制が利けばいいが。


「ハユ総理は適切なご判断をくださるでしょうか?」

 ミザリーは不安を覚える。

「覇権国家への野望を抱かれればヴォイドを利用しようとなさるかもしれません」

「説得するしかあるまいな」

「悩むまでもない。くだらぬ野心を持つならば切り捨てるまで」

 少年は一刀両断する。

「そうだな。その時はヘルムートに元首になってもらおう。お前たちが言う通りの精神状態がまかり通るなら、僕が口添えするだけで実現は難しくないのではないか?」

「あらあら、駄目よ、ヴォイド。それは無茶が過ぎてよ」

「私には国を治めたいなどという野望はないので勘弁してくれんかな」

 彼は「そのくらいがちょうどよい」と不穏なことを言う。


(ああ、わたくしは時代の潮流の真ん中に放り出されてしまったのかも。父様に判断を委ねてばかりではいけないのかもしれないわ)


 急に背中にかかってきた重荷にミザリーは戸惑いを覚えていた。

次回 (あら、これ駄目かもしれない)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……元々は我を通す為に創られた様な? レース襲撃の件は[実践訓練]とでもすれば……。
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