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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

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24/63

破壊者(10)

「ゼムナの遺志……」


 ヴォイドの母という設定を持つ女性はミザリーにとって神の如き存在だと明かした。少年の正体に関する推測を立てた時から接触する可能性も視野に入れていたつもりでも、いざ前にすると臆してしまう。


「では」

 深呼吸を一つ交えて尋ねる。

「やはりヴォイドは協定者なのですか?」

「協定者? なんだ?」

『協定者とはわたしたちが選んだ人間を指します。彼らを介して人類と接触してきたのです』


 レイデの説明が交えられる。それで完全に分からなくなってしまった。少年は自身が協定者という自覚がないままにゼムナの遺志と接してきたのだろうか?


(まさか本当にゼムナの遺志に育てられたとか? 社会に通じず、純粋に育てられたから言葉も常識も知らないっていうのもあり得るの?)

 推測としては穴だらけ。ミザリーは混乱で支離滅裂な思考に陥っている自分に落胆する。


「違うな」

 首を振って彼女を見てくる。

「レイデは人工知能(アテンド)だ。僕のサポートをするのが役目」

「あてんど?」

『サポートシステムとしての本来の呼び名を人工知能(アテンド)と言います。「ゼムナの遺志」というのは人類が我々につけた呼び名ですね』

 説明は理解できても繋がりが頭の中で結びつかない。

「本来の呼び名というのはいつの話だと理解すればいいのだろうか?」

『あなたが予想している通りでしょう』


 ヘルムートがおののいている。家族の場ではともかく、公的な立場で話す時、これほどまでに感情を露わにする父は見たことがない。政治家の信条を崩すほどの予想なのだろう。


『彼は協定者ではありません。創造主です』

 衝撃の事実が告げられる。

「ゼムナ人……、いや、先史文明人」

「あらあら、ヴォイドはすごい人だったのねぇ」

「先史文明人……?」


 頭が回らない。考えがついていかない。あまりのことに動悸が激しくなり過呼吸の兆候さえ感じられてきた。

 不審に思った少年が「大丈夫か?」と背中を撫で下ろしてくる。口中の少なくなった唾液を飲み下し、意識して深呼吸を繰り返した。


「どうして先史文明人がここに?」

 ヘルムートも問わずにはいられまい。

『現人類との接触から百二十年余り、多くの技術が拡散されました。遺跡状態の意図せぬ流出はともかく、我ら個は巧みにコントロールしてきたつもりです』

「そんな気はしていた。あなた方は今どころでない遥かに超越した技術を隠し持っていると。おそらく今の人類には危険だと判断しているからと思っている」

『その推測はかなりの部分で正解です。使い方によっては、やもすれば惑星でも破壊できる兵器技術も有しています。管理されねばなりません』

 感覚が麻痺しそうな事実の連続だ。

「そんな怖ろしいものまで……」

『その重要な判断を、ただのサポートシステムである我々が行ってきました。しかし限界を感じる個もおります。本来判断を仰ぐべき創造主に確認をいただきたいという決定がなされたのです』


 確認されているゼムナの遺志は大戦中を含めて十に満たない。それほど多くは残っていないのだと主張する学者も少なくない中、レイデはその予想を遥かに超える数の個が存在するという。休眠中の個まで含めれば数百が現存していると。


「生き残っていたのだね。どういう形でだかまでは窺い知れないが」

 父も論調に困っている。

「我らは滅びた。僕が唯一の生き残りだと聞いている」

「そんな孤独な人生を?」

「気に病むな、ミザリー。最近目覚めたばかりで孤独を感じる暇はない。目覚めてからもお前が埋めてくれた。感謝している」

 ヴォイドの視線は柔らかい。


 少年にとって自分は拠り所になれていたのだと安心する。ただのお節介でなかったと分かってようやく落ち着きが戻ってきた。


「レイデが案ずるのも致し方あるまい」

 少年は彼女を庇う。

「我らが滅んだのは戦争の所為。敵方も同等の技術を有していたがゆえに居住する惑星を破壊し合って共倒れとなった。厳密には互いの滅びを願ったのとは違うが結果はそうとしか言えない」

「君たちこそが技術の危険性を身をもって知っているのだな?」

「そうだ。だから濫用されるのは避けるべきだと考えている。人工知能(アテンド)も戦争を繰り返す現人類を傍で見ていれば、歴史は繰り返してしまうのかと不安になろう。それに助力するのは不本意だと思うのも当然」

 話はどんどん壮大になっていく。

『関与をやめて観察に留めるべきだという主張もありました。ですが、どうあろうと人工知能(アテンド)はサポートシステム。単体で存続するのは無意味だとする声のほうが大きくなっていきました。なので創造主のご判断を仰ぐべきだとされたのです』


 そうして最後の頼みの綱であるヴォイドを目覚めさせることになったのだという。しかし、彼には現人類社会の知識も何もない。学んでもらってからの接触が普通だろうが、先入観なしでの判断が有効だとされた。それを少年も納得したから無垢な状態でバルキュラの首都マスバにやってきたらしい。


(それって相当な無茶だと思ってしまうのだけれど)

 ゼムナの遺志にも人類社会の常識はあったはずだと思う。


 ヴォイドの特殊すぎる立場をミザリーは理解した。

次回 「何の義もなく、だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 成る程、[ゼムナの遺志]はAIだったのか……。
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