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破壊者(6)

「ヴァオリー1から4を放出」

 ヴァオル・ムルの艦底のスロットから子機四機が発進する。


 四機分の視覚情報も、額の操作円環(バーゲ)を介して知覚に流れこんでくる。ヴォイドは身体をリラックスさせ、実際の視覚と誤認しないような意識付けを行った。

 彼ら(・・)がいくら電子機器や信号との親和性が高いとはいえ、複数の映像を同時に認識するのには訓練がいる。少年は意識の中で周りに浮かべるようなイメージで四つを配して認識していた。


 全機の操作を意識上で行うのはさすがに無理がある。子機(ヴァオリー)には彼の動作パターンが詳細にプログラムされており、動作選択信号と現状のセンサー情報から自動で駆動するよう調整されている。

 ヴォイドはクリスタル接触端子(ヒューバ)に手を置いて体内インパルスを読ませつつ周囲を窺う。接近中だった一隻は彼の接近を察知してアームドスキンを放出。全部で十五機が確認できる。


(破壊するに留めるか)

 当面はそう判断する。

(ミザリーにあのような困った顔はさせたくないものだ。義に応えるなら彼女の意思を尊重しよう。あれはこの社会での生活の判断基準になる)

 自分の中で彼女の意味合いがはっきりはしないが、真摯な姿勢には応えたいと思っていた。


 ヴァイリー四機を加速させる。鈍重な敵性機に接近させると火器は使わずに対処させた。

 独自に発展したと思われる機動兵器は構造の改悪も見られる。ヴァオリーの打撃にひとたまりもなく頭部や四肢を刎ね飛ばされて戦闘不能になった。


(火器を使うまでもない)

 一分足らずで丸裸にした適性艦に迫る。

(こればかりは打撃では戦闘不能にできんな)

 子機にビーム兵器を使わせる。

(火器といっても、こんな攻撃力に乏しいものしか使えない。武器の技術拡散は危険に過ぎると僕もあれ(・・)も判断したからな。万一があってもいけない)

 砲門と推進機を破壊させたら撤収させる。


 取って返すと商船とヴァオル・ムルが後退してくるところだった。後方を押さえていた適性艦の破壊を探知したのだろう。


(ふむ、これで加減は要らんか)

 相手を刺激しても彼らがターゲットにはならない。


「ヴォイド、無事なの?」

 通信パネルが開く。

「なんという事はない」

「無理しないで。トゥルーバルはまだあんなにいるんだから」

「火器を使用しても法的、道理的に問題はないか?」

 判断を仰ぐ。

「もちろん。正当防衛になるし、宙賊対処法上も撃破が容認されているわ」

「容赦は不要だな。では、そのつもりで対しよう」

「避難できる距離が取れたら戻って」

 彼女は身を案じてくる。


(相手次第だな。手を引かさねばなるまい)

 本来の目的だ。


「警告する」

 軍事用の共通回線に向けて発する。

「ただちに転進して後退せよ。戦闘に及ぶようであれば今後は無警告で破壊する」


 火器の心許なさに不安を覚えつつも警告を行った。


   ◇      ◇      ◇


「ミザリー様、お気付きになられましたか?」

 ジビレが深刻な面持ちで問いかけてくる。

「なにを?」

「ヴァオロンです。あれは本当にアームドスキンなのでしょうか?」

「わたくしにはそう見えたのだけれど、パイロットのあなたから見ておかしな点があったの?」


 専属護衛の彼女には自身の考えが告げてある。ヴォイドを協定者という前提で扱うというもの。

 人類において『協定者』という存在には大きな意味がある。多くの技術が遺産としてもたらされている以上、先史人類は現文明を遥かに超越した物質文明を築いていたのは自明の理。その先史文明遺産の最たるものが『ゼムナの遺志』と呼ばれる人工知性である。

 その『ゼムナの遺志』が選んだ人間が『協定者』。歴史に大きな影響を与える改革者であり、先史文明の技術が伝えられる窓口でもある。半ば神格化して扱われる『ゼムナの遺志』のパートナーである彼ら彼女らは一般的に正義の使者として持て囃される。極めて特別な存在だ。


「ヴォイドがそうであるなら、ヴァオロンは協定機。人知を超えた性能を有していても不思議ではなくてよ?」

 ミザリーはそう認識している。

「飛躍的な進歩技術が用いられているとすれば納得ができるのです。あの高性能な機体も、搭載できるほど小型化された超空間(フレニオン)通信システムも」

「制御できる彼もさすがのひと言だけど」

「ただ、それだけでは説明できない隔絶を感じました。見ましたでしょう? ヴォイドはフィットバー(操縦桿)さえ使っていなかったんです」


 というか、フィットバーそのものがコクピットには無かったとジビレは主張する。少年がいつも身に帯びている頭の円環がσ(シグマ)・ルーンの働きをするにしても、普通はそれだけではアームドスキンの操縦など不可能だというのだ。


「足元にペダルもありませんでした。彼はヴァオロンの制御、いえ今はヴァオリー四機を含めた五機分の操縦をあの円環ひとつで行っているのです」

 驚きを超えて恐怖を感じたかのようにジビレは自分の身体を抱く。

「普通の人間にそんなことが可能なのでしょうか?」

「訓練の結果と呼ぶにはあまりに現行技術とかけ離れてるっていうのね?」

「はい。深く関わると危険な気がしてならないんです」

 彼女の忠誠心を感じる。

「わたくしは素人なので実感できません。お願い、助けてくださる?」

「適う限りは」


 ミザリー自身はもう後戻りなどできないと考えていた。

次回 「寡兵で挑むとは良い度胸だ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難うございます。 サ○コミュでの思念操縦?
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