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破壊者(5)

(跳んだ……?)

 ミザリーは自分の感覚に自信が持てなかった。


 経験がある感覚とも少し違う。ジャンプグリッドを跳んだとき、宇宙が柔らかい粘土になったように感じた。似ているといえば似ているが全体に薄い。

 ただ、見ていた星の景色が数舜後には変化しているという点で酷似している。だから超光速跳躍をしたのだと理解したのだ。


「ヴォイド、この船はジャンプグリッドを使わなくても超光速航行ができるの?」

「ジャンプグリッド? ああ、ワームホールリープのことか。あれは省エネルギー航行に用いるもので任意の場所には移動できない。利便性で劣るではないか」

 そこまで言って瞬きをする。

「そうか。現人類は空間跳躍航法を知らないんだったな」

「そんなものは発明されていないわ。遺跡としても見つかっていないもの」

「時空に作用する機構はデリケートだ。あまりに長期に放置されると砂鉄になってしまうだろうな」

 内容がとんでもなさ過ぎて理解が追いつかない。


 マスコミに囲まれるのを回避するために、非常用の地下通路を利用して少年とジビレの三人で邸宅を出たところまでは普通。とある倉庫の中に、ベッドに格納されたアームドスキン『ヴァオロン』が置いてあったのには苦笑を禁じえない。


 彼の駆る機体で衛星軌道まで上がるとそこには全長が200mほどの戦闘艇が待っていた。流麗な曲線を描く楔のようなフォルムを持つ艇は全体が紫色。名前は『ヴァオル・ムル』らしい。


 ほとんど何も無い操縦室らしき場所に案内されるまでも驚きの連続。軌道を離れて少ししたところで少年に「少し騒がしいぞ」と言われ、何事かと構えていたら窓外が虹色を帯びる。艇を取りまく透過性の光の帯がうねる様子を眺めていたら急に跳躍した。


「あの光の球体がワームホールを作るのですか?」

 ジビレも不可解な現象に戸惑っている。

「時空穿孔する必要などない。直接時空境界に突入するだけだ。だから強い重力場を発生させて賑やかせてしまう」

「騒がしいといったのはそういう意味ですか。人間は重力場を知覚できませんよ」

「然り。検知装置抜きでは無理だな。お前の操作円環(バーゲ)にも転送してやろう」

 女性護衛がうめく。

「かなり派手なノイズが発生してしまうということですか」

「時空境界面を揺らすからだ。それが重力場になって波紋のように広がっていく。さっきの虹色の光は艦体を時空震から保護するものだ。いい名前がついていたと聞いたな。確か『フィールドドライブ』というらしい」

「私にはそんな常識はありません」


 ジビレも呆れ気味。矢継ぎ早に非常識な技術を見せつけられれば食傷気味になって驚くのも馬鹿らしくなってくる。


「呑気に構えてもいられんな」

 ヴォイドが外を示す。

「いくら国家機関にヴァオロンやこのヴァオル・ムルのデータを警備企業に属するものとして偽装登録してあっても、あ奴らは見逃してはくれまい」

「それで警戒網に引っ掛からなかったわけね。え、あ奴らって?」

「これはデータベースにあった宙賊のものであろう?」


 2D投映パネルが一つ立ち上がる。遥か彼方に反射光を瞬かせているだけの何かが拡大されると戦艦であると判明する。更にズームし、長剣とライフルの交差するエンブレムが映しだされた。


「トゥルーバル!」

 相当数の艦影に鳥肌が立つ。

「こっちは何だ? ブンデンサー号。商船か」

「襲われてるの?」

「正確にいうと襲われそうになっているところですか」

 ジビレは冷静に分析する。

「単なる賊行為ではなさそうです。遭遇したので私掠しようとしているのでしょう。つまり、このトゥルーバル艦隊は別の目的があると?」

「そうだろう。怪しげな艦隊が動いているから来たのだからな」

「そのためにヴォイドはここへ?」

 少年の意図をミザリーはようやく理解する。

「何と言おうと間違いなく我欲で武力を用いる者だ。ミザリーも此奴ら相手なら文句はあるまい?」

「ええ、今は理由なんかどうでもいいから、あの商船を救助してあげて。軍に連絡して救援を請わないと」

「それには及ばん。僕が行ってくる」

 少年は踵を返す。


(え? 一人で対処しようって言うの? 何隻いるか分からないっていうのに?)

 いきなりのことに引き留めようにも言葉が出なかった。


「ミザリー様、ここでは私たちにできることがありません」

 操作卓らしき物は存在するが操作法など分かるわけもない。

「少年に任せましょう。肝が据わっていますし冷静です。退き時も知らない愚か者だとは思えません」

「でも、何かしなければ……」

 見回していると別のパネルが自動的に立ちあがって接続を表示する。

「お宅らは何なんだ。登録は警備企業のものになってるが武装してるんなら助けてくれ」

「あ、商船の方ですか?」


 相手は髭面の壮年。青ざめた表情には疲労の色が濃く漂っている。


「おいおい、お嬢ちゃん。そいつは宇宙に出る格好じゃないぞ。大丈夫なのか?」

 ミザリーはただの外出着である。ジビレも似たようなもの。

「事情があって詳しくは言えません。でも、救護はしますので今のうちに逃げてください」

「そうは言っても後ろにも一隻いて逃げられないんだって」

 重力場レーダーはもう一隻の存在も示している。


 困っていると窓外にヴァオロンが現れ、後方を示して飛び去っていった。

次回 「あれは本当にアームドスキンなのでしょうか?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……おや? テイストが少し変わってきた?
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