破壊者(4)
報道の熱狂は続いている。発表された映像を用いた分析も進み、謎の紫のアームドスキンも注目を浴びる。興味の対象は主に脅威の性能であり、その正体は簡単な予想が述べられるに留まっていた。
バルキュラ市民の強い者への憧れを熟知した報道がそういう方向に持っていっているようだ。
そもそも捜査対象なので滅多なことが言えないのも事実。警察は懸命な捜査を行っているが何一つ情報が明らかになっていない。
ヴァオロンやヴァオリーの登録情報などどこにもないのだから難航もするだろう。どんな町工場で組んだアームドスキンでも登録が義務付けられている現状、そこから辿れないのは闇社会に属するかトゥルーバルということになる。
「そんな感じで母様が説得してくれたからヴォイドがアタックレースを襲撃する心配はもうありません」
合間に連絡をしてきた父に報告する。
「それは助かった。テレーゼには私から礼を言っておこう。お前もよく頑張ってくれた。偉いな」
「いえ、そんな。彼に関わった責任はわたくしにありますので」
「怖ろしくなって放りだしてもおかしくはない。誇りに思うぞ」
ヘルムートの賞賛がこそばゆい。
「それと父様……」
「なんだね?」
ミザリーの瞳が揺れたことで理解してくれたのだろう。通話パネルの隅に暗号のかかった秘匿モードに変わった旨が表示される。父の操作だ。
「ヴォイドはおそらく……、協定者です」
迷いはあったが推測を口にする。
「根拠は?」
「彼の使用している機体もアームドスキンです。そう匂わせる発言がありました。それに彼の見せる執着もアームドスキン技術に通じているからこそと思えます」
「筋は通っているな」
ヘルムートも考えこむ。
「そのうえで現行の技術より遥かに高度な技術が用いられていると思えるのです。わたくしもそちらには明るくはないのですが、ヴァオロンのような機体が他で使用されているという情報がありません」
協定者が関わった近年の紛争記録にも目を通した。どれも現行技術とは隔絶した飛躍的な技術が用いられているが、ヴァオリーのような無人機が使用された記録はない。
「公表はされていないが、軍部の分析でも無人機でなければ説明がつかないという結論が導かれている。一部では動作パターンの解析も進めているらしい」
が、極めて複雑にプログラムされていると判断されて対処には時間がかかると言ってきたそうだ。
「少年から引き出してくれた情報で私も納得した。だが、それを軍部に伝えるのは時期尚早だろうな」
「できれば。ヴォイドを実験対象にしたくはありません」
「無論だ。人道的な配慮もある。それ以上に相手が協定者ならばただの暴挙でしかない。下手をすれば国を揺るがす」
父の統括的な判断に感心する。
「当面はわたくしが関わっていきたく思います。父様の身体が空くまでは」
「ああ、何ら新情報がない現状、過熱気味だった者も少し冷めてきている。あまり時間は必要ないと思うが頼むぞ」
「はい」
家族を案じる言葉を最後に通話パネルは閉じられた。ヘルムートも慌ただしい時間を過ごしているようだ。
不穏な発言をしたヴォイドがまた何かをすれば、また父の拘束は長引いてしまうだろう。何事もなければいいと願っていたミザリーの希望は天に届かないらしい。
「少し家を空けるが心配するな」
少年がそんなことを言ってきたからだ。
「どこへ行くの?」
「思わしくない動きがある。償いを兼ねて動こうと思う」
「無理しなくていいのよ。父様が帰って相談してからでも」
彼女的には引き留めたい。
「後手になるのは面白くない。今のうちに手を打っておく」
「何なのか分からない。でも……、わたくしも行きます」
逡巡はしたが申し出る。
ヴォイドは少し意外だと感じたような顔で了承した。
◇ ◇ ◇
ブンデンザー号は命からがら逃げだしてきた。
やっと他星系から母星のあるオスリカ星系まで帰ってきたというのに、両星系を繋ぐワームホールの出口であるジャンプグリッドから程ないところで戦闘艦艇と遭遇する。
軍関連や民間軍事会社のそれなら問題なかったのに、よりによって相手は長剣とライフルが交差したエンブレムを掲げていた。宙賊トゥルーバルである。
停船を要求してきた宙賊に、虎の子の護衛アームドスキン二機を発進させて対応させたが向こうは戦闘艇。十五機もの敵を相手に二機では全く歯が立たない。牽制しながら全速で逃げだすのが精一杯だった。
「船長、この反応、艦隊だよなぁ」
重力場レーダーには相当数の艦艇が展開しているのが確認できる。
「さっきの連中もそのまま追ってきてるってことはバルキュラ軍じゃ無いってことだろ?」
「ああ、もう終わりさ」
「せめて女だけでも逃がしてやりたかったなぁ。このまま捕まったらどんなことになるのやら」
船員が泣きそうな顔をしている。
「全員にハンドレーザーを持たせてやれ。どう使うかは任せるって言ってな」
「この世は無情だなぁ」
船員は天を仰ぐ。
「ぅおい! これ以上何が起こるってんだよ!」
「どうした?」
「見てくれよ、このレーダーの反応」
重力場レーダーが大きく乱れている。割と近傍だ。息を飲んでいると、視界内の宇宙に光が灯り拡大していく。そして、虹色の光球の中心に影が現れたかと思うと光は薄れて消えた。そこには鋭角な艦首を持つ紫の戦闘艇が浮いていた。
「何だってんだよ!」
船長は諸手を上げて降参の姿勢をとった。
次回 (跳んだ……?)




