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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

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17/63

破壊者(3)

 国営放送では状況が進行し、応援にきたアームドスキンも次々とヴァオリーという機体に戦闘不能にされていく。この辺りはミザリーも現場で見ていた。

 改めてみると納得する。速度が比較にならないのだ。無人機だからこその機動だと分かっていれば理解が及ぶが、現場のアームドスキンはさぞかし戸惑ったことだろう。


 そして、ヴォイドが宣言する。


「人類よ、省みるがいい。人を模したもの(ヒュノス)は貴様らの我欲を満たす玩具ではない。過ぎた道具は身を滅ぼすと知れ」


 当時は冷静ではいられなかった彼女も、繰り返し聞くと多くの疑問がわいてきた。


(ヒュノス?)

 少年はアームドスキンをそう呼ぶ。

(まるで、この人型機動兵器を知っているみたい。彼が乗っているのは別系統で発達した機体かと思っていたけど違うのかしら?)

 聞いた限りはそう思えてしまう。


「あらあら、怒っちゃったのね、ヴォイド」

 母のテレーゼが柔らかな困り顔をしている。

「あなたにはアームドスキンを玩具にしているように見えちゃった?」

「兵器に分類される物だ。戦闘に用いるのはいい。しかし、競技とは銘打っているがこれは遊戯であろう?」

「そうね。命懸けで戦っているのではないわね」

 母はおっとりと答えている。

「誰かや誰かの財や権利を守るわけではない。何らかの大義があるわけではない。賭け事の的にしているだけではないか」

「間違ってはいないわねぇ。でも、それだけでもないわねぇ」

「む? 説明を求める」


 テレーゼのひと言で空気が変わる。これだけはミザリーにも真似ができない。母の偉大さを痛感するとき。


「こう思ってみない?」

 母は少年の前髪を撫でおろしている。

「アタックレースに出ている選手たちも頑張っているのよ。もちろん賞金で生活している人もいるから勝てないと意味ないわ。儲からないと家族を養っていけないもの」

「むぅ、確かにそうだ。が、糧を得る術はそれだけではない」

「スポーツと同じでしょう? アームドスキンが好きで、それを職業をしたいと思っても変ではなくない?」

 真摯に耳を傾けていたヴォイドは大きく頷いた。

「理解できる」

「宙士レーサーもそう。家族や大切な人に豊かな暮らしをさせて喜んでもらいたかったりするでしょう。それに、万一の時はその技能で市民を守ってくださるの」

「訓練の一環でもあるのか。知らなかった」


 少年は渋面になる。想像が及ばなかったのが悔しいようだ。ミザリーもそれを教えなかったのを詫びた。


「だが、賭けに興じているのはその限りではない」

 彼はテレーゼから納得できる答えを得ようとしている。

「スタンドには大勢の人がいたわね。みんなアタックレースのファン。でも、レースの時だけよ。普段は一生懸命働いている人。ひと時の息抜きに夢中になれる対象が欲しいだけ」

「うむぅ……」

「ほら、この前の週末だって非番の人たちが賭けていたけど、彼らだって普段は護衛の仕事に頑張ってくれているもの。それは君も目にしているでしょ?」

 彼女も母の論調を後押しする。


 ヴォイドは考えこむ。自分が物事の一面だけを見て評価を下していたのに気付いたのだろう。思い入れが深ければ陥りがちな思考ではある。


「丸っきり間違っているのではないの」

 良いことばかり言うのは卑怯だろう。

「賭け事は賭け事。必要以上に熱狂してしまって身を持ちくずす人はいる。でも、それは自業自得。そんな人が政府の救済措置の対象になったりはしない。ちゃんと罰を受けるから。君が思い悩んだりしなくていいの」

「……何なのだろう?」 

「なあに?」

 少年の顔が悲しげに歪む。

「お前たち人類にとってアームドスキンは扱いづらいものか? 重たすぎる道具なのか?」

「いいえ」

 それだけは迷わず答えられる。


 ミザリーなりの持論がある。その思いを伝えなくてはいけない。でなければ後悔してしまうだろうと感じた。


「不安に思うかもしれないわ」

 少年の膝に手を置く。

「人類の歴史にも目を通したのよね? 本当に大きな戦争ばかりでとても見ていられないと思ったのかも」

「うむ、お世辞にも平和的とは言えんな」

「この国も含めた三星連盟大戦もそう。最近だって、ザナスト動乱にアルミナ紛争、ゼムナ革命と大規模な戦争が絶えないの」

 とても擁護はできない。

「でも、人類にアームドスキンがあって良かったと思うの。この便利な機械が戦場の主役になってからの民間人の死者は飛躍的に減ってる。そうでなければ、わたくしたちは滅亡していたかもしれないと思うわ」

「そう思ってくれるか?」

「もちろん街中だってアームドスキンはいっぱい働いてくれているの。建設業や治安維持を中心にね」


 ようやくヴォイドの顔から憂いが消える。彼女の訴えが心へと届いたのならば喜ばしい。この実直すぎる少年の頑なな心を言葉で抱き締められたのなら。


「僕は道化だな」

 口元に自嘲が浮かぶ。

「償いはせねばなるまい。詫びてどうにかなるものでもあるまいが」

「今はいいわ。危険がないと分かれば、きっと父様が何とかしてくださるから」

「そうよ。あなたが思い悩まずとも、大人に任せておけばいいの」

 テレーゼも反省しきりの少年を宥める。

「では僕にできることで償おうではないか」


 危うげな発言にミザリーはどきりとした。

次回 「ヴォイドはおそらく……」

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