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ゼムナ戦記  過去からの裁定者  作者: 八波草三郎
第二話

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15/63

破壊者(1)

 少年は行方をくらましたりはしなかった。事件の対応に追われて政庁から離れられなくなった父ヘルムートを残して帰宅したミザリーの前に現れる。


「動くな」

 抜いてはいないものの、ホルスターに手をかけたままのジビレが彼女の前に出て告げる。

「あの紫のアームドスキンの関係者だと認めますか? 認めるのなら投降しなさい」

「認めよう。が、投降はしない。危険視するならばこのまま去ろう。無言で去るのは不義理だと思って顔を見せただけだ」

「逃亡はさせません。拘束します」

 女性護衛は摺り足で接近を試みる。


 それを制止したのはミザリー。ジビレが腰の後ろに回した手を押さえてハンドレーザーを抜けなくした。それを見たヴォイドは目礼をして背中を向ける。


「待って!」

 追い縋った彼女は後ろから抱き締める。

「君はこの小さな背中に何を背負っているの?」

「言っても詮無いことだ」

「教えてくれないと分からないわ。だって、わたくしは君のことを何も知らないんだもの」

 立ち止まってはいても背中は拒絶を表している。

「これは社会に反する行為だぞ」

「それは二の次でいいの。むしろ君の動機のほうが重要なの」


 レース中の事件、グレードの高いメインレースだけに全土に中継されていた。途中で打ち切られていたが、ことの顛末を求める声は大きい。

 マスコミはこぞって中継された時点までの映像を分析し、推測を並べ立てている。一番分かりやすいトゥルーバルの新型機という主張から、もしや他国の尖兵ではないかというコメント。果ては、どこかの軍需メーカーが罰則覚悟のうえで投入した試験機かもしれないという突飛な予想までがあふれている。


 興行・遊技を所管する遊興庁は急遽の会見を開いて大臣自らが当面のアタックレースの中止を発表した。それでマスコミは収まらない。ローカルネットの反響を背に、事実の公表を迫っていた。


「なぜ僕にこだわる?」

 ミザリーの内心が読めないのだろう。

「家の責任とか立場とか、そんなもので君を留めたいのではないのよ。あの出会いをわたくしはただの偶然だとは思ってないの」

「…………」

 少年は無言で振り向く。その瞳には驚きの色があった。

「義に応えよう。去りはしないと約束する」

「君のことを教えて。わたくしたちは分かり合えるはず」


 ヴォイドの手が彼女の腕を振りほどく。しかし、彼の背中から伝わる体温にはもう拒絶の感情はないような感じがした。


「仲良しなのね。夕食にしましょう」

「あ、はい、母様」


 何も知らない母のテレーゼが空気を和ませた。


   ◇      ◇      ◇


 ジビレから連絡を受けたヘルムートからミザリーのところへ通信が入る。忙しいだろうに、矢も楯もたまらずといった感じだ。


「ヴォイドが帰ってきたそうだな」

「ええ、別れを告げるつもりだったようですが引き留めました」

「でかした、娘よ。私はしばらく帰れそうにない。本当は彼の真意を問い質したいところだが、政庁を離れれば責務放棄だと叩かれてしまうだろう」

 全ての出入り口でマスコミが張っているという。

「可能なかぎりの情報を引き出してくれ。少年のことは軽々に公表はできん。事件の真相は解明されるわけもないでは、帰るに帰れんのだ」

「お察しいたします。頑張ってはみますけど、あの子は自身に関しては固く口を閉ざしたままなので時間がかかると思いますけど」

「すまんが頼む。私は表向きの脅威に対処する軍の編成と、うるさい遊興相を黙らせたりと忙しい」


 現場がアタックレースだけあって、軍務庁も深く関わっている。ましてや父は現場に居合わせて指揮も執っていたのだ。遊興大臣のヌワサン・ポトマック氏はさぞやヘルムートに絡んできているだろう。


「できるだけはしてみるつもりです。でも、最終的には父様のご判断を仰がねばならないと思いますので」

 彼女の分を超えていると感じている。

「周りを説き伏せて戻れるようにする。彼を繋いでおいてくれ」

「はい、説得は続けます」

「マスコミがあまりにせっつくので政府が決断した。あと三十分で現場の映像の全容が公表される。余計に騒がしくなるだけだと思うが首相が折れててしまったのだ」

 あの惨劇の様子がメディアに流されるらしい。

「出入りには気をつけなさい。おそらくそちらにもマスコミが張りつくだろう」

「そうですわね」


 すでに邸宅の上空にはプローブカメラが張りついているし、夜だというのに門扉の前にも人影が見える。身軽には動けなくなりそうだ。


「こちらはご心配なく。万一の時は警察の方が対応してくださるでしょう」

 フェルメロス家には警務部の詰所があって常に警官が二人は詰めている。

「彼らもあまり無茶はできん。限度を超えるようなときは言ってきなさい。手を回そう」

「分かりました。では、わたくしはヴォイドを誘って発表される映像を観ることにいたします。リアクションから何か引き出せるかもしれませんので」

「名案だ。任せる。朗報を期待しているぞ」

 そうは言われても、聞き出した内容如何ではさらに父を困らせることになる可能性も捨てきれない。


 通話を終えたミザリーは少年を誘うために席を立った。

次回 「あのヴァオロンに僕が乗っている」

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