暴君系幼馴染は暴言が激しすぎるけど、普通に俺にはノーダメージです
俺、影中仁には幼馴染がいる。
学園で暴君とか言われてる生徒会長の幼馴染、日山陽毬。
陽毬は、そりゃあもう絶世の美少女、雰囲気としては可愛い系。ふわっふわの明るい茶色の髪、笑顔はぱっと日差しがさしたように華やか。立てばアイドル座れば暴君、歩く姿は権力者様である。
髪型はきゅっと結い上げたポニーテール。髪質がふわふわなので後ろから見るとちょっとポメラニアンみたいだ。かわいい。
まんまるい茶色の瞳は自信満々。身長149cmとかいうミニマムな背丈でありながら胸はそこそこ大きい。さぞかしモテるだろうと思われるし、実際モテる。普通にモテる。
そんな美少女だったら彼氏はいるのが普通だろう。
実際いる。
俺だよ。うん。
弁当を二人分持って中庭に行くと、日当たりのいい所で陽毬が座って白い足を伸ばしていた。青空の下、緑あふれる中庭のベンチで彼氏と彼女が弁当。字面だけ並べ立てたらこれぞ青春って感じだなと思う。実際はただ、幼馴染同士がガキの頃と変わらず一緒に飯食ってるだけなんだけど。
陽毬がこっちに気付いて眉を上げる。ぶんっ、とふわふわポニーテールが尻尾みたいに揺れた。
「遅いわよ、仁!」
「………あー、すまん」
「何してたのよ!?あたしを放っといて!」
何してたっけ……。hibiitter見て、タイムライン眺めて、あとなんか……あっ、そうだ。
「猫動画見てたわ」
「はあ!?一人だけ猫動画見てたっていうの!?あたしにも教えなさいよ、かわいい動画見つけてあたしにMINEしないってどういうこと?」
理不尽。
「あとから見せてやるから……」
「その時あたしにMINEしなかったことに腹立ててるのよ、このバカ、あんぽんたん!」
理不尽その2。
にしてもあんぽんたんって罵り文句久々に聞いたな。
はいはい、と俺は雑に対応した。陽毬のこの傍若無人で攻撃的なのはいつもの事だ。俺自身は基本テンションの低い半眼の男なので、テンション高く反論したりするのが苦手なのである。
そうして俺がだらだらしている事が気に入らなかったのか、陽毬はわざわざ立ち上がり、ミニマムな体のきゅっとくびれた腰に手を当てて怒った。
「まあ動画なんてどうでもいいわ。あのね、あたしが言いたいのはね、仁!このあたしを五分も待たせるなんてどういうつもりってことよ!」
「………」
「ちょっと仁、スマホばっか見て聞いてる?」
「……お、犬かわいい」
「話を聞けーー!!!」
「はいはい」
幼馴染だ。生まれた時から一緒なので、こういうのにまともに取り合うのはアホだよなーというのを分かっているのである。
陽毬は機嫌が悪い時にはとことん機嫌が悪い。機嫌が悪いのを基本的に隠さないので、怒っている時の暴君様には近寄るなと専らの評判である。
陽毬の方は、オレが基本ぼーっとしていてマイペースなのを分かっているはずなのに、こうして定期的にきゃんきゃん言ってくるので不思議だ。なんだろう、怒るの趣味なのかな。
「とにかくっ!」
陽毬は、ぺしん!と俺の胸を叩いた。
うん。多分頭を叩きたかったんだろうな……身長が届いてないからこうなったんだな……。
陽毬149cm、俺184cmである。届かないよなあ。
「……頭下げた方がいいか?」
「いっ、いらないわよ!」
陽毬はもう一度腰に手を当てて偉そうなポーズをした。
「いい?仁。今日あんたが遅刻したことであんたといられる時間が五分も減っちゃったじゃないこの馬鹿!アホ!五分よ?五分あんたと一緒にあたしがいたら何ができたと思う?
お弁当だってあーんできたかもしれないし、ハグとか膝枕とかできたに違いないでしょ!?なんでそこで猫動画で五分潰しちゃうの!猫とあたしどっちが大事なの!?」
「猫」
「死にさらせーーー!!!!」
「お前は俺のこと好きなの」
「好きで悪かったわねーーー!!!あんたはあたしの事好きでしょ!?」
「うん」
「………」
急に照れるじゃん。
これが、俺がこの暴言満載の幼馴染に冷たくしたり突き放したりしたくならない理由だ。
好意、めっっっっちゃわかりやすい。ツンツンデレデレデレデレデレぐらいじゃないかな。
こいつ本当に俺のこと好きだなあ。としみじみしてしまった。
暴言吐きがちな幼馴染だが、日山陽毬はこういう女である。
俺のことが大好きで、一緒にいられないと怒って、駄々をこねて、最終的にめっちゃこうやってデレてくる。小さい頃から延々とこういう感じなので、俺は鈍感系主人公にはなれなかった。さらばハーレムルート。すまない、俺は陽毬一筋で行く。
「膝枕はまた今度家でやろうな」
「ふんっ。当たり前じゃない、五分もあたしとあんたが一緒にいられる時間を減らしておいて、ハグもあーんもできなかったじゃない、仁のばか!そろそろ昼休み終わるわよ!」
「はいはい……お、今日の卵焼き美味くできたなあ」
「話を聞けーーーー!!!」
毛を逆立てんばかりに怒る陽毬。
ふわふわの髪の毛はポメラニアンみたいだし、きゃんきゃん鳴いてるのもポメラニアンみたいだ。
「で、なんだっけ?えーっと、ハグが、なんだって?」
「仁聞いてなかったの!?だから、五分あったらハグとかあーんができたでしょ、って!」
そうだったか?そうだったかも。
俺は黙って弁当箱を開けた。モテない系男子に結構な要求をしてくれる、と思う。けどまあ、あーんとかハグぐらいならやるか、子供の時からちらほらやってるし。
家族みたいなもんだ。保育園の時にプールで裸も見たし、なんなら一緒に風呂にも入ったし。その頃はなーんも意識してなかったから、今となるとちょっと気まずい思い出ではあるけど。
ひょい、とミニマムボディを持ち上げて膝に乗せてやる。陽毬が小さく悲鳴をあげたが、そっと抱き上げただろ、我慢してほしい。
弁当箱の中にある、美味しそうなケチャップの香り香るミートボール。
箸で摘んで陽毬の口に押し込んで、直後に目を白黒させている彼女をぎゅっとハグすると、沈黙が落ちた。
顔を覗き込む。俯いて恥ずかしがっているが、口の端が嬉しそうににやけている。
我が幼馴染ながら、ちょろい……。
「ミートボール美味いか」
「むぐっ……お、おいしいわよ。あんたの手作りなんだからおいしくないわけないじゃない
あんたが作ったものならまずくても食べるわよ普通に」
なんだその殺し文句は。
「そ、れは、よかった……」
「まあ普通にまずいとは言うと思うけど」
「言うのかよ」
基本的に鉄面皮の俺、ちょっとときめいてしまった。
ミートボールを食べ終わった陽毬は物足りなさそうに顔をあげた。
「もうちょっと、なんかないの」
「なんかって何」
「あーんしなさいよって事よ!さっさとやりなさい!」
命令形なんだけど、ねだってること普通に可愛くて困るよな。
俺は自分の弁当箱から卵焼きを箸で摘んで、陽毬に食わせてやった。
「……ありがと」
上目遣い。大変あざとい。よい。
彼女は俺の卵焼きをもぐもぐとしながら、ちっちゃい体を俺の膝の上に収めているので多分居心地は悪くないのだろう。ふわふわのポニーテールが風に揺れている。
暴言も激しいし愛も激しい幼馴染だが、別にそれでもいいじゃないかと思ったりする。
相手が自分を好きで、自分も相手を好きなら、それでいいじゃないか。
「あっ、そうだ、すかぽんたん」
「いきなり罵倒するなよ……、で、うん?」
「明日はデートよ。五分一緒にいられなかった分を、五時間一緒にいて取り返すわよ」
「お前時々激重いカノジョみたいになるよな」
「うるさい、うるさーーい!」
「膝の上で暴れるなって」
陽毬はこてんと俺の肩に頭をくっつけて上向いてくる。昔は陽毬の方が背が高かったのになあ、いつの間にこんなに小さくなって。
いや、俺がでかいだけだけど。
「いい?とにかく、一分でも遅れたらあたしの家のリムジンが迎えにいくからね。あっ、明日がだめなら予定が空いてる時を教えてくれればその日がデートよ、いいわね!」
お嬢様、突然家のリムジンを持ち出さないでほしい。
しかし、ぱっと太陽みたいに笑って、にっと八重歯を見せる陽毬は普通にかわいい。
俺はちょっと笑って、陽毬の頭を撫でてやる。
流行してるので幼馴染系ざまあを……って筆を取ったけどそういう才能がなかった。特にすれ違わないし普通に両思いです、ハッピー!多分このあと普通にデートしたり、いちゃいちゃして結婚するんじゃないですかね。気が向いたら連載にする……かもしれませんが、現代恋愛書いたことがないので拙かったら申し訳ないです!書く前から謝っておくスタイル。
ここまでお読みいただきありがとうございました!