賽子コロコロ
目の前にはただ賽が置いてあった。
私は死んだはずだ。そこだけははっきりと覚えている。トラックに轢かれたか子供を守るため通り魔の凶刃に倒れたか、ただただ高いとこから飛び降りる自死を選んだか定かではないが、これだけは確かだ、私は死んだはずだ。
ここは何処だろうか?死んだにしては天国とも地獄とも言えそうにない、広く明るい場所だ。はたまた現世で私は幽霊になったのだろうか?それにしては足もしっかりあり、頭も痛む。ここは何処だろうか?
「おめでとう、君はついている!さぁそこのサイコロを振ってくれたまえ。もし私が望む目を出せたら所謂チート能力をプレゼントそして異世界に転生だ!さぁサイコロを振りたまえよ!」
怖気が走った。異世界に転生出来ると言うことについてではない。声が恐ろしいのだ。その声は始めは幼子のようであり年老いた老人のような声であった。混ざりあっていたその声は次第に1つの声に落ち着いた。そう私の大嫌いなあいつの声に。お前は誰だ!怒りに任せて言いたかったが声がでない。
「声がでないことが不思議かい?当たり前じゃないか、死人に口無しとはよく言ったものじゃないか。これでも一応君たちの言うところの神みたいなものだからね、君の考えてることくらいわかるさ。全であり個。全能であり無能。0であり1。有形にして無形。此処にいるのかと言われれば何処にでもいる。そんな僕が言っているのだ。サイコロを振りたまえ、さぁ早く!」
訳のわからない言葉を並べられて頭痛が酷くなってきた。次第に増していくその痛みに耐えながら、私は賽を振ることしかできなかった。そしてこの痛みから解放されることも理解していた。
賽の目は6
「あぁなんてタイミングの悪い。もう少し早くその目を出せたら君は合格だったのに、今はもう変わってしまったのだよ。チャンスを掴むこともできない君にはほとほと失望した。まぁ諦めて来世を楽しみたまえよ。」
薄れ行く意識のなか最後に見た景色は不気味に笑うその顔と剥げた後頭部だけだった…
私は目を覚ました。ここは何処だろう。私は誰だ?
ただ目の前にはサイコロが置いてある。