表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【習作】描写力アップを目指そう企画

吸血鬼達の晩餐 (妄想お食事会ボツ作品)

作者: ながる

「『吸血鬼のお城で生き血を啜る乱交パーティ』っての、やらない?」

「誰が用意するんだよ。ってか、アウトだろどう考えても」

「あら。イェジィも行きましょうよ。あなたの家じゃない」

「管理会社に好き勝手に弄られてんじゃねーか。知ってるぞ。お前、入れ知恵してんだろ」

「あるものは使わないと。あそこ、人里離れてるし、雰囲気あるしサイコーなのよねぇ」


 カミラさんの甘い声に、私はノックしようとした手を引いたまま動きを止めた。

 何だか、ちょっと、聞いちゃいけない話かな、と思ったものの……興味が勝ってその場から動けない。


「あなたもたまに新鮮な血を飲めば、もう少し若返るんじゃない? 肝臓や心臓はやっぱりそのままが一番よね。あ、胆嚢は薬になるらしいわよ。やっぱり素材は若いオンナノコが一番なのかなぁ。私はオトコノコでもいいんだけど」

「だから、誰が用意するんだよ」

「ナナちゃんにお願いしよっかなぁ」


 不穏な会話の中に自分の名前が出てどきりとした。

 え? え? 何の話?


「彼女を巻き込むなよ」

「あら。でもイェジィだって、彼女を食べちゃいたいって思うでしょ?」

「カミラ」

「もちもちでぷるるんできっと、甘ぁい。いいわよ、イェジィは来なくても。そうしたら私はあの城で彼女を――」

「カミラ!!」


 ガタン、と何かが倒れる音がして、私もびくりとする。


 私の頭の中では、すでにモザイクがかかった人間の開きが展開されていて、周囲には目元を金や銀のマスクで隠した怪しい美食家達が取り囲み、手に手に赤い液体が入ったグラスを掲げている。


 スライスされた艶のある赤いレバーをナイフで小さく切り分けて口に運ぶと、ごま油の香りとプルンとした食感。舌で押しつぶせば簡単に形が無くなってしまう柔らかさ。新鮮な内臓は臭みも無いに等しい。

 珍味だとくりぬかれた目玉は周囲のぷりぷりしたコラーゲン質から楽しみ、意外と歯ごたえのある本体を噛み潰すと中からとろりとした濃厚な液体が溢れてくる。


 メインディッシュは拳大の小さな心臓。

 みなに見えるように掲げられたそれはまだピクピクと脈打っていて――


 ――なんて、想像していたら、目の前のドアが勢いよく開いて、私は思わず尻餅をついてしまった。

 ひゃっと上がった声にイェジィさんの顔が顰められるのが分かる。

 あぁ、どうしよう。聞いちゃいけない話だったのかも。イェジィさんは乗り気じゃなさそうだったけど、カミラさんとならそういうの(・・・・・)も連れだって行くのかもしれない。


「大丈夫か? まったく……」


 差し出された手にも身体の方が早くびくりと反応してしまう。ああ、なんて失礼な反応を……!

 イェジィさんは深く深く息を吐いて、後頭部をがりがりと掻き毟ると、私を優しく立たせ、そのまま手を引いて部屋の中へと入って行く。

 あれ。これ、ついて行っていいんだろうか。

 でもイェジィさんの手には強制力を感じない。いつでも振りほどけるくらいの、言うなれば、遠慮がちともいえる――


「誤解はお前が解けよ!」


 えー、とカミラさんは赤い唇を尖らせた。

 とりあえず二人用の小さなダイニングテーブルにつかされ、向かいには悩ましげに頬杖をついて、にこにこと私を見ているカミラさんが座っていた。キッチンからはお湯を沸かす音が聞こえてくる。


「私、一度食べてからすっかり虜になっちゃって」


 カミラさんの甘い声に、潤んだ瞳で見つめられると女同士なのにたまにどきどきしちゃう。何でも許してしまいそうな、そんな気分になっちゃうのだ。


「カミラ、それはナシだ」


 キッチンから容赦ない声が飛んできて、カミラさんは綺麗な顔の眉間に皺を寄せる。この二人もよく解らない関係だ。お互いのことをよく解っててよく一緒にいるのに、恋人ではないらしい。

 カミラさんはちょっとふてくされて背もたれに寄りかかると、ふわりとカールした毛先を人差し指にくるくると絡めながら続けた。


「『すっぽん』って、アジアではポピュラーでしょ? ナナちゃん手に入んない? イェジィのお城のツアー企画立ててるんだけど『吸血鬼のお城とすっぽん堪能ツアー』じゃカッコつかないじゃない」


 すっぽん? あ、確かに最初に生き血を飲むね。赤ワインで薄めたやつ。

 肝臓も心臓もお刺身で食べたりするし……そ、そうかぁ。すっぽん料理の話だったのかぁ。


 私は自分の豊かな想像力が恥ずかしくなった。


「聞かなくていいからな。ナナちゃんがいるって分かっててわざと変な話し方してたからな」


 え。そうなの? そうかぁ。そうだよね。人を食べたいとか、冗談じゃなきゃ言わないよね。

 イェジィさんが差し出してくれたコーヒーの香りが、ざわついていた心を落ち着かせてくれる。一口飲んだらほっとして、あんなに怯えた自分が可笑しくて、自然と口角が上がった。

 『イェジィの城』とか『ツアー』っていうのも凄く気になるけど、それはもう少し落ち着いてから聞かせてもらおう。とりあえず、このコーヒーをゆっくり堪能した後で。

他の作品もどうぞお召し上がりください。


【習作】描写力アップを目指そう企画(https://ncode.syosetu.com/n9981du/)第三回「妄想お食事会」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] イェジイ待ってました~。 なんとなく脳内でカミラさんは奥さんと思ってましたが違ったんですね。 騙されているナナちゃんが可愛いv イェジィの気だるげなのに紳士な感じがとてもいいと思います~。…
2017/12/09 00:40 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ