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閑話 師団長の長い長い横恋慕(3)

 これはあくまでも予想だが、今回の婚約破棄騒動、裏で動いているのは議会の人間だ。

 大方、クリスティアナ様に次ぐ王妃様の二番目の弟子であるグレンフェル嬢を陥れ、王妃様の責任を問おうとでも思ったのだろう。正直言って短絡的すぎるとしか思えないのだが、違っていても多分それと同程度の、浅すぎる理由からだと推測できる。件の令嬢も議会からの差し金である可能性が高い。


 王妃様にとって、今回の結末は完全に予想通りであり、同時に最高の結果となっただろう。

 何故ならセドリック様が公衆の面前でやらかしたことで、お相手の令嬢を堂々と問い詰めることができ、その上で自らの名で堂々と手を打つことができる。加えて()()()()()()()()()()()グレンフェル嬢の境遇も動かせる。しかもお膳立ては向こうがしてくれたので、後はそれにタダ乗りするだけだ。

 最早独壇場である。



「王妃様もとんでもないですよね」

「合理主義且つ効率主義だからな、あの人は。これを機にいろいろ仕掛けるつもりだろう」

「こっちとしてはグレンフェル嬢を堂々と使えて有り難いですけどね。彼女自身としても研究に専念できて良いでしょう」

「情が湧いていたら違ったかもしれないが、あれではな」


 俺の指示を受けて退室した部下を見送り、クライド様と溜息を吐く。

 我が国の第二王子であるセドリック様は、十八歳ではあるものの両親や兄に比べたらまだまだ子供というか、夢見がちで直情傾向なところがある。さらに幼い頃からグレンフェル嬢という優秀すぎる婚約者までいるため、妙なところで意地を張って物事を抱え込んでしまう悪癖がある。

 王妃様のことだから今回の仕置きはそれなりに厳しくなる筈だ。それを活かせるかどうかは本人次第である。


「あちらには研究成果を渡せば充分だろう」

「でしょうねえ。婚約者としての至らなさは議会側が散々追求してくれるでしょうし。そういえば、東棟の方たちは大丈夫でしょうか」

「嬉々として資料の準備をしているらしい。仕事が早くて何よりだ」


 どうせ身分を気にしないあの研究棟の人たちのことだ、数少ない若手女子であるグレンフェル嬢を本格的に引き込めるなら一肌もふた肌も脱ぐつもりなのだろう。前回訪問した際も、学部長が「人も予算も足りない」と嘆いていた。


「というか、前から思っていたんですが」

「どうした?」

「グレンフェル嬢のことを、随分割り切っているのだなあと」

「……何が言いたい?」


 怪訝そうな顔をするクライド様を見て、ああやっぱり自覚がないんだなあと改めて思う。


「俺はともかく、クライド様は何年も前から彼女と親しいですよね? 今回のって、言い方は悪いですけど、あの子を利用してるわけじゃないですか。しかも、勝手に踊らせて、双方に落ち度があるように見せかけて」

「良心の呵責は無いのか……ということか」

「そこまでは言いませんけどね。俺も同罪ですし」


 たかが貴族のご令嬢の企てである。今回の騒動に至るまでの一連の出来事については、普段彼女と関わりがある我らが第二師団も当然ながら把握していた。

 しかし、俺たちは学園内のことであることを理由に表立ってグレンフェル嬢を庇うことはなく、セドリック様を誑かした件の令嬢のやることなすことを放置した。結果グレンフェル嬢が落ち込んでいても、()()()()()()()()()()()()()()()と気にしないふりをした。

 セドリック様のことを扱き下ろしておいて、俺たちも大概酷いことをしている。


「勿論、彼女には酷なことをさせたと思っている。悪意に晒され続けるのは誰だって堪えるだろう。それに、イザベラ様はいつも手駒に課す荷が重い」

「流石経験者は語りますねえ」

「それが二代も続いていればこうもなる」

「まあ、俺はついていくだけですから」

「そうも言っていられないぞ。直に次の動きがあるだろう、イザベラ様がグレンフェル嬢をそのまま放っておくわけがない」


 王妃様は恐らく議会の要望通りに婚約を破棄するだろう。しかし当然ながら、それは次の一手の為だからだ。


「あの子がもう少し凡庸であったなら、……いや、これは失礼な発言だな」


 そう言って、クライド様は自嘲の笑みを浮かべた。

 彼のことだ、全てが終わった後でグレンフェル嬢にちゃんと謝罪するだろう。しかし、謝罪の際のグレンフェル嬢の様子も想像できてしまうからまた複雑だ。

 本当に、彼女は()()()()()子なのだ。



 そして俺の読み通り、二日後——王妃様から沙汰が言い渡されたその翌日、クライド様はグレンフェル嬢の元を訪問した。

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