表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ボクは宇宙戦隊員?

作者: 堀川 忍

 朝からクマゼミが大合唱していた。まだ眠いのに、ボクは目覚めてしまった。いつもなら起こされるまで眠っているのに‥夏休みになって何日かたっていた。先生から出された大量の宿題が机の上に積まれているのを見て、ボクはため息をついた。

「ま、とりあえず‥とりあえず、今日はいいか」

 ボクはベッドから出て、服を着替えた。それから朝ごはんを食べにキッチンに行くと、テーブルの上に食事の用意とママのメモがあった。

「今日もスイミングスクールの夏季講習だから、がんばってね! お昼は冷蔵庫の中にお弁当が入っているから食べてね。‥サツキ」

 いつもママは自分のことを名前で書くんだ。ボクは食パンのトーストを口にほおばりながら、「ママなんだから、ママって書けばいいのに‥」と思った。それから「どうでもいいや」と思って時計を見た。七時五十分。

ボクはスイミングスクールの始まる時間が九時半なのを思い出して、朝のテレビを見ながら食事をすませ、顔を洗って準備をした。夏休みの朝のテレビは子ども向けの昔のアニメなんかをやっていた。ボクはそのアニメに特別興味があったわけでもなかった。でも見るともなしに見ていたら、いつの間にか時刻が八時から九時に近づいていて、ボクは慌てて半ズボンとTシャツに着替え水着とキャップとゴーグルをバッグに入れて、玄関先に置いてある自転車でスイミングスクールへ行った。

 ボクがスイミングスクールに着いたのは、九時二十分。いつもの奥のロッカーで着替えをすませてプールサイドに行くとみんなは体操を始めたところだった。ボクも体操に参加してそれから軽くウォーミングアップのために水に入って身体を水に慣れさせるようにゆっくりクロールで泳いだ。水泳は嫌いではなかったが、あまり好きでもない。

「何かスポーツでもすれば?」ってママが言うから、適当に選んだだけだった。身体が水に慣れてきた頃、コーチが全員を集めて泳力別にチームに分かれて練習が始まった。今日は背泳ぎとバタフライの練習だった。

やがて二時間の練習が終わって全員で整理体操をしていた時、不意にボクは後ろから誰かに呼ばれたような気がした。

「そこの君!」

「えっ?」振り返ったけど、誰もいなかった。すると担当のコーチがボクに声をかけた。

「悟、どうしたんだ?」

「いえ、誰かに呼ばれたような気がして‥」

「誰もいないじゃないか。休みボケにはまだ早いぞ!」

 みんながドッと笑ったので、ボクは頭をポリポリかいて苦笑いした。‥でも、本当に誰かに呼ばれた気がしたんだけどな。


 練習が終わって、後は着替えて帰るだけだった。ボクは特に予定がなかったので、ゆっくりとシャワーを浴びてロッカールームに向かったんだ。みんなはもうとっくに家に帰ったらしく、ロッカールームにはボクだけだった。ボクはのろのろと奥のロッカーの前に行き、ロッカーを開けた。

「はっ?」

 ボクは驚いて素っ頓狂な声を上げた。だって、そこにはボクの半ズボンもTシャツもなくて、見たこともない変な服(のようなもの?)が入っていたからだ。

「何これ?」慌ててロッカーを閉めた。

 ボクは一瞬、ロッカーを間違えたのかと思って他のロッカーを見回してみたけど、鍵がかかっているから間違えようがないと思ったんだ。ボクは辺りに誰もいないことを確かめてから「それ」をロッカーから出してみたんだ。「それ」はまるで宇宙服のような‥違うな、まるでテレビの戦隊シリーズのヒーローたちが着ているような、○○レンジャーのような赤い服だった。

「まさか、これを着てデパートの屋上でショーでもやれって?」

 ボクは独り言のように呟いた。低学年なら大喜びってところだろうけど、ボクはもう六年生だ。戦隊シリーズなんて‥いや、見たぞ。そうだ、今朝のテレビでやっていたアニメの後で、確か戦隊シリーズのヒーローが悪役の怪人と戦っていたっけ‥

「まさか、これを着てボクも悪役と戦えってか?」

 ボクは自分が悪い夢でも見ているのかと思って、ぼんやりと立っていると、また後ろから声が聞こえてきた。

「そこの君?」

「えっ?」

 振り返ったボクの後ろには、ロッカーの中のと同じような変な服を着た、

ボクと同じぐらいの女の子が立っていたんだ。

「君は‥誰?」

「私?‥私はコノピ。よろしくね」

「コノピ? 変わった名前だね」

「貴方の名前は?」

「悟‥土屋悟だよ」

「サトル? 変な名前ね」

「真似すんなよ」

 コノピと名乗った女の子はクククルゥと不思議な笑い方をした。もしかしたら日本人じゃないのかなと思った。すると、その女の子はボクの心の声が聞こえたかのように、変なことを話した。

「地球人って不思議な生き物ね」

「チキュウジン?」

「そうよ。‥貴方、地球人なんでしょう?」

「地球人って、当たり前だろう! まるで君が宇宙人みたいじゃないか!」

「確かに貴方たちから見たら私は『宇宙人』ってことになるわね。‥正確に言うとゴメス星人なんだけどね」

「ゴメス星人?」

多分夢だと思うんだけど、コノピという女の子?は、自分が「ゴメス星人?」だと言うんだ。しかも戦隊ものの服を着て‥

「不自然かしら?」

「不自然だよ。‥第一、その服装がおかしいよ」

「そうかしら? 私に言わせれば、貴方たち地球人の服の方がおかしいわ」

コノピという少女は、またクククルゥと笑った。ボクは、なんだか腹が立ってきた。

「君がゴメス星人だと言うなら、どうやって地球までやってきたって言うんだい?」

「船に乗って来たの。貴方たち地球人がUFOとか宇宙船と呼んでいるものよ」

「先生が言っていたよ。『宇宙人なんて存在しない』って‥」

「じゃぁ、先生が『明日、地球は滅亡する』って言ったら、貴方は信じるの?」

「そんなの‥ 無茶苦茶だよ!」

するとコノピは、急に思い出したようにボクを見て顔を少し赤らめながらうつむいて呟くように言った。

「‥どうでもいいから、服を着れば?」

ボクは自分がまだ水着姿だったということを思い出した。だが、ロッカーには、あの変な戦隊もののスーツしか入っていない。

「でも‥ ボクの服がないよ」

「服なら、ロッカーの中に入っているでしょう?」

「あれを着るの?」

「そう。‥そして私と一緒に来て欲しいの。」

ボクはロッカーから服を出したけど、‥どう見ても小さい。

「これ小さいよ」

「大丈夫よ。伸縮自在‥伸び縮みが自由にできるから‥」

 パンツだけはボクのものだったので、ボクはコノピに隠れて「それ」を着てみた。確かにコノピが言う通り、赤いその服はボクにぴったりだった。最後にヘルメットみたいなマスクを着けると、鏡に映ったボクは戦隊もののヒーローそのものだった。マスクの中にはスピーカーのようなものが装着されているらしくて、いきなり変な声が聞こえてきた。

「あ~あっ、あ~ 聞こえまっかぁ?」

「な、なんだぁ?」

「ワテは、このスーツに装着されている人工知能みたいなもんでんがなぁ、まぁよろしゅうたのんますわ」

「どうでもいいけど、何故大阪弁なの?」

「人工知能の設定ミスでっしゃろう。まぁええでんがなぁ‥」

するとコノピが割り込んできた。

「品のない人工知能ねぇ‥ でも案外悟とは、相性がいいかも。クククルゥ‥」

「君の、その笑い方の方が品がないよ」

「あら、そうかしら?」

コノピがぷんと口をとがらせた。すると人工知能が笑った。

「がはは! ほんまでんな。コノピはん、やっぱ品ちゅうもんが大事でっせ!」

「うるさいなぁ、人工知能のくせに、なまいきね!」

 コノピと人工知能がケンカを始めたので、仕方なくボクが間に入った。

「まぁまぁ二人とも仲良くしようよ‥ あれっ? 二人って言うのは変かなぁ?」

「ほんまでんな。コノピはんは、ゴメス星人やし、ワテかて人工知能やから人間やおまへんし‥」

「ごちゃごちゃ言っていないで、さっさと悟に我々がこの星へ来た理由とミッションを説明してあげなさい!」

 コノピが上官らしく厳しい声で言った。人工知能はしぶしぶ説明を始めた。それは、言葉ではなく、映像のようなもので長いのか一瞬だったのかボクには分からなかった。それが事実なのかどうかも含めて‥


地球から光の速さで何億年(何億光年って言うらしい)も離れた所にゴメス星という星があって、高度な科学技術を持っていたらしいけど、ある日突然に近くにあったクモンマ星人から戦争をしかけられたんだって。ゴメス星人たちは、戦争というおろかな戦いを何百年も前にやめていたので、戦うと言うことを忘れていたらしい。クモンマ星人からの攻撃に対して反撃することができなかったらしい。古いデータから戦闘用のスーツは再現することはできたけれど、それを着て戦える人がいない。仕方なく戦士を探していたら、遠く離れた「地球」という星を発見したらしく、「地球人」に代わりに戦ってもらおう、ということになったらしいんだ。

「ほんで、あんさんにゴメス星人代表の戦士になってもらいたいっちゅうわけでんがなぁ」

「なぜボクなの?」

「なんで、でっかぁ?」

「戦うなら、本当の軍隊の人に頼めばいいじゃか」

「それはでんなぁ‥」

「貴方じゃなきゃダメだからよ」

コノピがイラつくように口をはさんだ。

「もしも本当の軍人に頼んだとしたら、どうなると思う?」

「多分、クモンマ星人に勝つと思うよ」

「そうよね。でも、負けたクモンマ星人は、もっと強くなってまたやって来るに決まっているわ。戦争はエスカレートするばかりでしょう?」

「それはそうだけど‥」

「地球に来る前に、地球の歴史を調べたの」

「それで?」

「戦争や戦いの連続だったでしょう。でも、日本人は戦争をしないって憲法で決めたわ」

「確かに、修学旅行でヒロシマの平和資料館に行ったけど‥」

「だけど今の日本は、また昔に戻ろうという動きがあるのも事実よ」

「分からないよ。ボクに戦士として何をしてほしいの?」

「教えてあげてほしいの。戦いは無意味だって」

「クモンマ星人に?」

「そうよ」

「じゃぁ、なんで戦闘用の服なんか用意したの?」

「それは、貴方を守るためよ。クモンマ星人は戦いにきているんだから‥」

「‥でも、そんな遠い星になんて行けないよ。いつ帰って来られるか分からないし‥」

「それなら大丈夫よ。時間の世界を変えてしまえばいいから‥」

「タイムマシンみたいに?」

「‥まぁ、そういうことね」


結局ボクはコノピと一緒にゴメス星に行くことになった。どうしてそうなったのか、今になって考えてもはっきりした理由は分からない。成り行きとしか答えようがない。

コノピと大阪弁の人工知能の説明によると、ゴメス星人たちはすぐれた科学技術で時間と空間の世界を自由にあつかうことに成功していて、タイムスリップと瞬間移動ができるんだって。‥だから、どんなに遠くの地球にも簡単に来ることができるらしいんだ。

ボクはコノピに案内されて、スイミングスクールの近くにあった宇宙船?に乗った。でもそれは、見た目には宇宙船というより、ちょっと変わった自動車のようなものだった。

「これで行くの?」

「地球時間で一時間もかからないもの‥UFOみたいな旧型の船とは違うのよ」

運転席のコノピに言われて、ボクは助手席に座った。車と違うのは、ハンドルが無くて、パソコンのような小さなタッチパネルがあるだけだった。コノピがタッチパネルをさわっていると宇宙船はヒューンと静かに音を立てて、ゆっくりと動き始めた。車と違ってフワッと浮かんだんだ。そして、あっという間に空高く飛んで雲の間をぬけていった。

「地球を見てみる?」

「‥うん」

何もかもが初めての経験だったので(当然だよね)、ボクはどう答えればいいのか分からなかった。窓の外にはテレビで見たような地球が見えていた。ボクは一瞬、自分が夢を見ているんじゃないのかと思ったけど、右ひざを手でたたいたら痛かったので、現実なんだと思った。地球は確かに青くてきれいだった。するとコノピがボクに世間話でもするように話しかけてきた。

「地球って青くてきれいよね」

「うん‥」

「でも、この瞬間にも地球のどこかで戦争や戦いが起きているのも事実なのよねぇ‥」

「そうだね‥」

「同じ地球人なのにね。‥バカみたいだわ」

やがて、見たことないような大きな月を横切った時に、コノピは宇宙船の速度を上げ始めた。

「そろそろ時空間移動をするから、念のためにシートベルトをしめておいてね」

コノピがそう言ったので、ボクはシートベルトをしめて、ジクウカンイドウ(?)というものにそなえた。多分コノピが話していたタイムスリップと瞬間移動のようなものなんだろうなと思った。やがて宇宙船は、さらにスピードを上げていき、船自体が光に包まれるように思えたんだけど、その速さについていけなくて、ボクは気を失ってしまったんだった。


次にボクが目を覚ました時に、ボクはコノピが話していたことが全部本当のことなんだと思ってしまった。そこには、ボクが今まで見たこともないような宇宙空間が広がっていたからだ。太陽のようにまぶしくない赤く光った星から少し離れたところにいくつかの小さな惑星が並んで周回していてボクらの住んでいる太陽系とはまったく違っていた。ボクが目をぱちぱちとさせて不思議な光景を見ていると、大阪弁の人工知能がゴメス星の説明をテレパシーのように瞬間的にしてくれた。

ゴメス星も、かつては地球のような発展の仕方をしていたらしいんだ。様々な理由で毎日のように戦争や戦いがあったけど、大人たちがあまりに意味のない争いに明けくれていることに、嫌気がしたケイヤという少年科学者がゴメス世界を統括していたコンピューターシステムに侵入して、それまでの大人世界を破壊して、子ども世界に変えてしまったらしいんだ。ケイヤは、二十歳になった大人を完全に無力化し、戦争のない画期的な世界を作った。ゴメス星では二十歳になるとみんな急速に能が老化し、何も考えられなくなり、社会から引退しなければいけない。その代りに、それまで争いの犠牲になっていた子どもが政治の中心になり、何でも話し合いで解決する社会に変えてしまったらしいんだ。ケイヤの「子ども革命」によってゴメス星は長らく争いのない平和な世界になった‥ ところが、平和な世界になったはずなのに、ある日突然にクモンマ星人からの一方的な攻撃が始まったらしいんだ。ゴメス星人たちは、何度も話し合いの使者を送ったけど、クモンマ星人は相手にしなかった。

「だから、ボクが選ばれたってわけ?」

「そういうことでんがなぁ」

「どうやって、説得するの? ボクには、ゴメス星の言葉も、クモンマ星の言葉も話せないのに‥」

「心で話すんでんがなぁ‥」

「心で話す?」

「‥つまり、私と同じように心で話すのよ」

コノピは、船を操作しながらボクの方を見ながら話しかけてきた。‥いや、彼女はボクを見つめるだけで、口は開けていなかった。ボクが彼女の声だと思っていたのは、実は間違いでテレパシーのように話しかけていただけだということが分かった。‥だからボクも心で話しかけてみた。

「‥こんなふうに?」

「そういうことよ」

コノピは、優しい目で答えた。‥なるほど、そういうことだったんだ。ボクはすべて納得した。始めっから言葉なんてなかったんだ。「気持ちが通じ合えば言葉なんていらない」って言うもんね。

ゴメス星に着陸する前にフロントガラスがいきなり巨大なテレビの画面のように変わり、映像が見えてきた。大きな目の、いかにも怪人らしい羽根の生えた宇宙人が自由に空を飛びコノピのような子どもたちを相手に手に持った槍で襲っていた。多分、子どもたちを襲っているのがクモンマ星人なんだろうとボクは思った。ボクはクモンマ星人を見て何かに似ているなと思った。何だっけ‥?

「あれがクモンマ星人の戦闘兵士よ」

「‥うん。確かあれは‥」

「何?」

ボクは不意に昨年秋の自然体験学習を思い出した。あの時、郊外にあった自然体験施設で、ボクたちはスズメバチの大群に襲われたっけ‥

「スズメバチだ!」

「スズメバチ?」

「スズメバチにそっくりなんだ。クモンマ星人‥」

「一つだけ、お願いがあるの‥」

「何だい?」

「戦ってもいいけど、殺さないでほしいの‥」

「クモンマ星人を?」

「ええ」

「どうして?」

「クモンマ星人にも家族がいるはずよ。殺されたら必ず憎しみが生まれ、やがて新たな戦いの火種になるわ」

「だから、殺さずに戦えって言うのかい?」

「難しいかもしれないけど‥」

ボクは目を閉じて考えた。「誰も殺さないで、戦いを終わらせる‥」そんなことがボクにできるんだろうか? しかも、ここは地球から遠く離れていて、相手はスズメバチのような戦闘兵士だ。バットを持たないで「ホームランを打て」って言っているようなもんだ。


「一つだけ、質問してもいい?」

ボクはコノピを見て、まじめな声で(心で)話しかけた。

「何?」

「なぜクモンマ星人はゴメス星に攻めてきたの?」

「分からないわ。‥でも、もしかしたら‥」

「もしかしたら?」

「いいえ、何でもないわ」

コノピは、一瞬顔を曇らせた。何か秘密があるのかなと思ったけど、ボクは何も言わなかった。「それより‥」とコノピは画面のクモンマ星人たちを指さして言った。

「‥クモンマ星人の頭にアンテナのようなものが二本あるでしょう?」

「そうだね。まるでスズメバチの触覚のようだね」

「あのアンテナのようなものを一本だけぬけばいいの。クモンマ星人たちは戦闘能力を失ってしまい戦うことも、自由に空を飛ぶこともできなくなるわ」

「死なないの? クモンマ星人は‥」

「二本ともぬいちゃダメだけど、一本だけなら大丈夫よ。アンテナは一年間ぐらいで再生するから‥」

「まるでトカゲだね」

「髪の毛が二本だけ進化したと思えばいいの」

コノピはそう言うと、画面を消した。それから「行くわよ」と言い、船をゴメス星にある彼女たちの秘密基地のような場所へ着陸させた。基地は海の底にあって、着陸すると彼女のようなゴメス星人が何人か出迎えてくれた。‥ただ服装が違っていてパジャマのような感じだった。ボクは宇宙ステーションのような建物に案内された。その中にいた一人の少年がボクに話しかけてきた。

「ゴメス星にようこそ。ボクはゴメス星本部のネイヤです」

もちろん彼も口を開けない。つまりテレパシーで話すので、ボクもそれに答えて挨拶をした。

「こんにちは‥」

「ここへ来た。理由や目的は、コノピさんからすでにお聞きと思いますけど‥」

「はい。だいたいのことは‥」

「では、よろしくお願いします。‥それで、君に預けておきたいものがあるんです」

「ボクに預けるもの?」

ボクがそう言うと、ネイヤと名乗った少年は、部屋の奥からボールペンのような形をした物を持ってきた。

「‥これは?」

「昔の資料から再現した武器のようなものです」

ネイヤがボールペンのようなものの後ろのボタンを押すと、それがまるで刀のようなものに巨大化して輝きだした。ボクが驚いていると、ネイヤは「プチチチィ」と笑い、元のボールペンのようなものに戻してから、ボクにそれを渡してくれた。

「超次元ソードと言います。我々の最終兵器です」

「最終兵器?」

「はい。これさえあれば、どんなものでも破壊することが可能です。壊そうと思えば、このゴメス星はもちろん、宇宙全体だって一瞬に破壊できます。」

「ど、どうしてそんな恐ろしい物をボクなんかに預けるんですか?」

「君に賭けることにしたからです。我々の未来を‥」

「ネイヤ。それは‥悟にすれば重荷になるわ!」

コノピがボクとネイヤの間に入って叫んだ。コノピが泣いているのが分かった。

「コノピ、君も全員協議会にいたんだろう?」

「確かにいたわ。そして、賛成したのも事実よ。‥でも、我々ゴメス星の 未来を地球人の悟に決めてもらうなんて無茶よ! 悟は、まだ子どもなの よ!」

「ボクだって子どもだ! コノピ、もういい。君とは後で議論しよう。‥とにかく」

ネイヤはコノピを避けるようにボクの前に来て、低い声で言った。

「君も見ただろう? 太陽系の太陽にあたる、ポロロン星を‥」

「あぁ、あの赤い星?」

「星として寿命なんだ。近いうちにあの星は消滅するだろう‥」

「だったら、他の星へ移住すればいいんだ」

「確かに‥ それも一つの選択肢だ。‥でも、我々の調査では、地球型の惑星には、下等生物を含めると何らかの生命体が存在していることが分かったんだ」

「なるほど‥」

「たとえ、アメーバのような生命体であっても、我々が移住すれば、我々は征服者になってしまう。‥革命の始祖ケイヤはそれを良しとするんだろうか?」

「だったらここで死ぬのを待つの?」

「分からないんだ。クモンマ星人たちに征服されるべきか、戦って他の惑星に移住すべきなのか‥」

「それでボクが決めるの?」

「あぁ、全員協議会で決めたんだ。客観的に判断してもらうことに‥」

「なるほど‥」

「純粋な心で決めて欲しいんだ。君に‥ボクたちの未来を‥」

「‥分かった。やってみるよ」

ボクが右手を差し出すと、ネイヤが同じように右手を出して握手をした。それまで黙って二人の話しを聞いていたコノピも涙でぬれた目を輝かせながら、大きく頷いた。それからネイヤにお願いするように言った。

「私も、悟と一緒に行ってもいい?」

「一緒にって、だって君は‥」

と、ネイヤが言いかけて口を閉ざした。

「ゴメス星人の私は、戦わないわ。‥ただ、悟をフォローしてあげたいだけなの‥お邪魔かしら?」

と、コノピがボクを見て少しいじわるそうに言ったが、ボクは首を横に振った。ネイヤは、少し戸惑ったような顔をしたけど、仕方ないとでも言いたげに、頷いた。


こうして、ボクの宇宙戦争が始まった。ボクとコノピは、これも復元された小型の戦闘用機に乗って基地から出動することになった。昔のゴメス星人たちは、相当な技術を持っていたらしい。ボクはコックピットでため息をついた。

コノピは、戦闘機の操作で忙しそうだったので、ボクは人工知能に話しかけてみた。

「君のこと名前をまだ聞いてなかったね。なんて呼べばいいんだい?」

「ワテでっかぁ?」‥そうでんなぁ、人工知能のジンちゃんでよろしいですわ」

「じゃぁ、ジンちゃん。ボクに備わっている武器みたいなものを説明してくれる?」

「よろしおま。あんさんの着てはるスーツは、どんな条件にも対応できるようになってまんねん。深海の水圧にも、宇宙空間でも平気でんねん」

「すごいんだね」

「地球人が言う『たとえ火の中水の中』っちゅうやつですわ。ほんで、多少の武器の攻撃にも耐えられまんねん」

「完璧なんだね」

「‥ただし、クモンマ星人の槍にはダメージを受けまんねん。三回撃たれたら、ディエンドでおます」

「つまり死ぬってことだね? ‥他にはないの?」

「へい。ベルトのところにある青いボタンを押すと身体のサイズを自由に変更できまんねん」

「自由自在って?」

「一ミクロンから数百メートルまで、自分の大きさを自在に変化させることができまんねん」

「飛んだりすることもできるの?」

「へい。青いボタンのとなりの黄色いボタンを押すと重力を自在に操れるので空中を自由に移動することも可能だす」

「武器みたいなものはないの?」

「おますけど‥あんさん右利きでっか?」

「左利きだけど‥ それが関係あるの?」

「そうでっか。‥ほな、左のズボンのポケット辺りを軽く叩いてみなはれ」

ボクが言われた通りに叩くと光線銃のようなものが握られていた。

「これって銃だね?」

「さいだす。右側のレバーで光線の強さを自由に選べまんねん。一番手前やったら、相手は気絶する程度ですみまっけど、奥まで押したら百人ぐらいを一気に殺せる強い光線が発射されますわ‥」

「すごいんだね」

「後、左手で右側の腰辺りを軽く叩くと、レーザーソード‥まぁ、刀のようなもんが出て、クモンマ星人の槍をかわすことができますわ」

「まさに完全装備だね?」

「さいなぁ ‥あっ、一つ忘れてましたわ。‥ベルトの赤いボタンを押すと自分以外の時間を一時的に止めることができまんねん。ただし十分間に一回だけ、止められるのも一分間だけですけどな?」

「へぇ‥そんな便利なものまであるんだ!」

「しかも、あんさんの腕力、及び脚力‥更に視力及び五感も十倍になってますわ」

「まるでスーパーマンだね」

「‥つまり、あんさんは宇宙最強の戦士っちゅうわけですわ!」

ボクが人工知能のジンちゃん説明してもらっている間に、コノピは戦闘機の操作方法を理解したようだった。かなり時間がたっているのに、大人たちが治めていたゴメス星には、かなり高度な科学技術があったらしい。

「‥まったく恐ろしいわ! こんなのが空を自由に飛んでいる世界なんて想像したくもないわ。これも最終兵器の一つね‥」

「そんなにすごいの? これ‥」

「地球だったら、一時間もあれば征服することが不可能じゃないわ」

「核ミサイルでも発射できるの?」

「核ミサイルだなんて、そんな原始的な武器じゃないわ」

「核ミサイルより、すごい武器って‥」

「人間にとって絶対に必要なもの‥例えば酸素という元素を地球から一瞬にして無くすことができたとしたら?」

「あっという間に人類は全滅だね」

「破壊することなく、相手のもっとも必要なものを奪うことでダメージを与える‥ それがゴメス星人の大人たちの戦い方だったようね」

「なんて残酷な‥」

「ケイヤが革命を起こした理由が分かるでしょう?」

「何故君が『クモンマ星人を殺さないで』と頼んだのかも含めて、理解したような気がするよ」

「そう‥ じゃぁ、発進してもいい?」

コノピがボクの顔を見て言った。ボクは大きく頷きコノピとハイタッチした。

「では、発進します。‥目標、クモンマ星人軍団!」

コノピはそう言うと戦闘機のスタート画面を押したんだった。


戦闘機は静かに基地から出て、海の中をマグロのようにを進み、やがて浮上して空に飛び出した。陸地の上を飛ぶと地上には無数のゴメス星の大人たちの死体が広がっていた。そして、すぐにクモンマ星人たちと出会った。クモンマ星人の一人がボクたちを発見して、一直線に羽根をばたつかせて飛んできた。ボクは外に出て空中に浮かびながら、戦闘機を守るようにクモンマ星人の前に立ちはだかった。ボクは心で叫んだ。

「争いをやめろ! ボクは君たちを殺しに来たんじゃない!」

でも、クモンマ星人は何も言わずに持っていた槍で向かってきたので、ボクは右側のレーザーソードを出して槍を交わした。ボクは素早く相手の背後に回って、頭にあるアンテナの一本をぬいた。すると相手はとたんに戦意を失い、地上に落ちて行った。家でシュミレーションゲームをよくしていたので「意外に簡単だな」とボクは思った。やがて二人目、三人目と戦っているうちに、相手を倒すことがゲーム感覚になってきた。戦意を失ったクモンマ星人たちは墜落する戦闘機のように地上に落ちて眠っているようだった。

陸に降り西へ歩いて行くと山があって、その向こう側にクモンマ星人たちの部隊のようなものがあった。ボクはクモンマ星人たちの様子を調べるために身体を一ミリほどに小さくして、彼らに気づかれないように、偵察に行くことにしたんだ。

「大丈夫?」

「大丈夫だ。ここに隠れていて。何かあったら、すぐに連絡してね?」

「分かったわ」

戦闘機を湖の底に沈めてからボクは虫のように飛んで、クモンマ星人の部隊の近くに行ったけど、誰にも気づかれなかった。彼らは、まるで戦意のないゴメス星人の大人たちを襲っているばかりで、全然反撃してこないことが不思議らしかった。‥やがて東の方から連絡が入ってきて、何人かの兵士がアンテナを抜かれて倒されていることが分かると部隊の幹部たちが相談して部隊の半分を東の海岸近くに集結させることを決めたらしいんだ。ボクは一瞬迷ったけれど、残った部隊をやっつけることにした。ボクは湖の底の戦闘機に戻り、コノピに偵察の報告と作戦を話した。

「まるで本当の戦士みたいね」

「頼んだのは、そっちだろう?」

「それは、確かにそうだけど‥」

「何が言いたいの?」

「お願い。無理しないで!」

「分かったよ。心配すんなって」

ボクは夜になるのを待って、山にある部隊に近づいて姿を元のサイズに戻して、見張りの兵士から順に倒していった。まさか残っていた自分たちが攻撃されると思っていなかったのか、気づいた兵士たちは混乱してボクの攻撃に対して、あっけなく全滅させられてしまった。

「‥さて、残りの部隊が戻ってきて、どうすればいい?」

ボクは自分に問いかけた。「多分、あれは本隊の一部だろう。もし全部隊員が集結してくれば、ボク一人で戦えるんだろうか‥?」一瞬、超次元ソードを思ったが、ボクは頭を激しく振った。

「あれを使ったら、この世の最後だ」

ボクは無数のクモンマ星人軍団を想像した。それと同時にずっと感じていた、よく分からないけど何かモヤモヤしたものを‥ ボクは目の前の気を失ってしまったクモンマ星人たちを見ながら、さっきまで幹部が座っていた椅子に腰かけて休んだ。すでに百人ほどのクモンマ星人を倒していたので、とりあえず残りの半数を相手にしなければいけない。ボクは不意に「いいアイデア」を思いついた。ボクはジンちゃんに話しかけた。

「ジンちゃん。ボクが小さくなっても力や能力は変わらないよね?」

「へぇ。変わりまへんで。‥ちなみに、あんさんの疲れは右手首を軽く握ると、どんなに疲れても元のパワーが復活しまっせ」

ジンちゃんの言う通り右手首を軽く握ると、不思議と今までの疲れがウソのように消えていった。

「ありがとう!」

「やめてぇな。お礼やなんて‥照れまんがなぁ‥」

「いや、本当に嬉しく思っているよ」

ボクは自分の作戦通りにやればいいんだと思った。しかもどんなに疲れてもすぐにとれることが分かったので、相手が何人いようと平気だ。たとえ相手がどんなに強くても、どんなに数が多くても‥ ボクには負ける気がしなかった。

「‥でも、待てよ」

と、ボクは思った。ボクは何のために、誰のために戦っているんだろう?

そう思った瞬間から、ボクの頭の中に様々な疑問が芽生えてきた。戦いをやめさせるために戦うなんて変じゃないのか? ゴメス星にゴメス星の正義があるとしたら、理由は分からないけど、クモンマ星にはクモンマ星人の正義があるはずだ。一方的にネイヤやコノピの話しを聞いて戦うことに決めたけど、殺してこそいないが、目の前に広がった百人近くのクモンマ星人の倒れた姿を見ていると、言いようのない悲しみがボクを襲ってきた。急に大きな不安に包まれてしまった。ボクは一度戦闘機に戻って考えてみることにした。


「どうしたの、大丈夫?」

戦闘機に戻ったボクを見て、コノピが心配そうに言った。

「分からなくなったんだ」

「何が?」

「ボクは何のために、誰のために戦っているのか‥」

ボクがコノピの目をじっと見つめた。コノピは静かに目を閉じた。

「このままボクがクモンマ星人を全滅させたとしても、クモンマ星人たち  は、きっともっともっと強くなって、またいつの日か攻めて来るよ。それじゃ同じじゃないのかな?」

「そうかもしれないわね‥」

「クモンマ星人たちにもきっと理由があるはずなんだ」

「それは‥」

「相手が攻めてきたからって、それに対して戦っているんじゃ、ケイヤの目指した革命の意図に反するんじゃないのかい?」

「確かにそうよね。‥それで、どうするの? もう地球に帰る?」

コノピは涙を流しながらボクに聞いた。ボクはうつむいて首を振った。

「私のせいで、ごめんなさい‥」

「君のせいじゃないよ」

「いいえ、この戦いは、私の‥私のせいなのよ‥」

ボクは何かが分かったような気がした。

「もういいよ! 君のせいだと言うのなら、ボクは君のために戦うよ」

ボクはギュっとコノピの手を握った。

「悟、私は‥」

「行ってくる‥」そう言いボクはコノピの涙を手で拭いてあげた。

「お願い。必ず生きて、帰ってきて‥」

ボクはゆっくりうなずき、再び外に出て、湖のほとりに立った。多分、もう東に行っていた部隊も戻っているころだろうと思った。ボクは、ある決心をして、西の山のクモンマ星人たちの基地へ向かった。


基地に着くと残っていた部隊が全滅していたのでクモンマ星人たちは驚いたように戦闘態勢をとっていた。ボクはかねてからの作戦通りに身体をハエのように小さくして見張りをしていた兵士に近づいて光線銃で相手を次々に気絶させていった。ただ、ボクは相手の兵士のアンテナは抜かなかった。面白いように墜落していくクモンマ星人たちは、すっかり焦ってしまって、部隊の隊長らしい人に連絡しに行った。

しばらくすると部隊長らしい兵士が護衛の兵士を伴ってやってきたので、ボクも本来の姿に戻って部隊長らしい人物の前に立った。

「私の部隊をここまで痛めつけたのは、君かね?」

どうやら、この部隊長らしい兵士には、話が通じそうだと思った。

「はい」

「たった一人で?」

「はい」

「たいしたものだ‥」

部隊長らしい兵士は苦々しい笑いで、吐き出すように言った。ボクは自分の作戦に自信はなかったけれど、スキを見せないように立っていた。

「やがて我がクモンマ星の全部隊員がここに集結するように連絡した。何万の兵士を相手に、どう戦う?」

部隊長らしい兵士が自信満々に笑った。

「ボクは戦うために、来たんじゃありません」

「じゃぁ、何のためにここへ?」

「戦いをやめさせるためです」

「クモンマ部隊員全員を前に?」

「はい」

「ゆるしをこうつもりか?」

「いいえ」

「では、どうするつもりじゃな?」

「みんなが集まったら、話します」

「話す前に、壊してやろうか?」

部隊長が右手を上げると二、三人の兵士が一斉にボクに向ってきた。ボクは左手の光線銃で、一気に兵士を気絶させた。

「チクショウ‥!」部隊長が苦虫をかむように言った。

「ムダですよ」ボクは、心を決めていたので余裕で部隊長に対した。

「我がクモンマ星の精鋭部隊なのに、情けない‥」

「‥アンドロイド‥だからじゃないですか?」

部隊長が驚いた顔で、ボクを見た。

「な、何をバカな‥」

「それも、ゴメス星のより相当に下等なロボット‥」

「知っていたのか?」

「いいえ、なんとなくそう思っただけですよ‥」

「何故そう思ったんだ?」

「話しが通じないこと‥つまり人工知能のような心を持っていない証拠です。それに反応が微妙に遅いこと。それに‥」

「それに?」

「さっき、貴方は『壊してやろうか?』と言いましたよね? ‥人間だったら『殺す』と言う言葉を選んでいたはずです。百人の兵士に対して、クモンマ星人はせいぜい一人か二人‥だとしたら、実際に本当のクモンマ星人たちは、全員で百人程度と思いますが‥いかがです? そして、その少なさがこの星に攻めてきた理由と関係があるんじゃないですか?」

さすがに本当のことを言われてしまったようで、部隊長は黙ってしまった。‥最初はデタタメを言ったつもりだったのにね。

「答えたくないなら、それでもいいです。‥でも、ゴメス星の人たちは、少なくとも貴方たちよりも進化していますよ」

「我々は、違うんだ‥」

部隊長は、少し悲しげに呟いた。


やがてゴメス星に散らばっていたクモンマ星人の軍団が集結してきた。ボクはその数の多さに戸惑ったけど、ほとんどがアンドロイドなんだと自分に言い聞かせて自分を落ち着かせた。

「少し時間をくれ。本隊長に話して来る」

そう言うと、部隊長はボクの前から飛んで行った。それからしばらくして、部隊長は本隊長らしい兵士や他の部隊長らしい兵士の何人かと一緒にボクの前にきた。

「君がゴメス星人の兵士かね?」

本隊長らしい人物が穏やかな声で話しかけてきた。

「いいえ、ボクはゴメス星人ではありません」

「ゴメス星人ではないのかね?」

「はい。ボクは地球人です」

「地球? ‥あの太陽系の?」

「はい」

「何故、地球人がゴメス星で我々と戦うんじゃ?」

ボクは、今までのいきさつを簡単に説明した。本隊長らしい兵士は「フムフム」とボクの話しを聞いている。そうやってボクが説明していた時、急に後ろの方で何か騒がしい音がした。ボクの様子を木陰に隠れて見ていたコノピがクモンマ星のアンドロイド兵士に見つかってしまったらしいんだ。「コノピ!」ボクは息をのんだ。何千、何万というアンドロイド兵士たちがコノピに向かって飛び始めた。

でも、次の瞬間にボクはベルトの赤いボタンを押して時間を止めると素早くコノピの背後に行って、コノピを羽交い絞めにした。再び時間が動き出すとそれまでコノピに向かっていたアンドロイド兵士たちもクモンマ星人たちも、驚いたように動きを止めた。‥しばらくの静けさの後にボクは叫んだ。

「君たちが探していたのは、この子なんじゃないのか?」

アンドロイド兵士たちは、明らかに動揺し、後ずさりをした。ボクは胸 のポケットに入れていた超次元ソードを出してコノピの首に突き刺せるようにして、もう一度叫んだ。

「この子‥いや、このクモンマ星人がどういう人なのかボクは知らない。でも、君たちがこの意味のない戦いをやめないって言うのなら、この子

を殺して、ボクも死ぬ‥それでもいいのかい?」

「悟‥知っていたの?」

「あんな言い方をすれば、誰にだって分かっちゃうよ」

「いつ気づいたの?」

「基地で君とネイヤが話している時かな?」

「意外と鋭いのね‥」

ボクが一瞬油断をしたスキを見て背後から、兵士が一人ボクの背中に槍を突き刺した。ボクは死にこそしないけれど、かなりのダメージを受けた。ボクがコノピと一緒にゆっくりと落下して行くのを見て、クモンマ星の本隊長らしい兵士がボクを突き刺した兵士に光線を当てて殺した。兵士は紙切れのように消えてしまった。

「愚か者めが‥」

本隊長は、明らかに怒っていた。どうやらボクの言ったことが間違ってはいなかったらしい。コノピに向けた超次元ソードを持つ手に力が入らなくなりかけた時、コノピがボクにささやくように言った。

「大丈夫?」

「‥す、すまない。右手首を軽く握ってくれないか‥」

「分かった‥これでいい?」

コノピがボクの右手首を軽く握ってくれたおかげで、まるでコノピの生命力がボクに移っていくようにボクは回復していった。ボクはコノピと一緒に元いた場所まで浮上して、本隊長たちと対した。

「クモンマ星には、この子が必要なんでしょう?」

「私から説明するわ‥」

コノピが言った。コノピが生まれたクモンマ星は、女性が極端に少なく、女性として生まれれば「女王蜂」のように結婚してひたすらに子どもを産むことになるのが通例だった。コノピも妹が一人いたけれど、自分が将来は女王になるのが自分の運命だと思っていた。「でも‥」コノピがある日、宇宙旅行をしていた時にゴメス星でネイヤ少年と出会ったのだ。コノピもネイヤも互いに好きなり、離れられない仲になってしまったらしいんだ。旅行を終えてクモンマ星に戻ったコノピは、ネイヤ少年のことを忘れられないので、女王である母親のキノピに相談した。キノピは、最初は反対していたが、コノピの熱意に負けて妹のカノピに王位を譲って自分は自由の身になった。そして、コノピはゴメス星人として生きることにしたらしいんだ。コノピは、ゴメス星に移り、ゴメス星人となるために簡単な手術を受けて、ゴメス星人になったということらしいんだ。

「じゃが、クモンマ星に最大の危機が起こったんじゃ」

そこで、クモンマ星人の本隊長が口を開いた。

「何があったんですか?」

「カノピ様が亡くなられたんじゃ」

「えっ、カノピが死んだの?」

「はい‥ 女王になられたカノピ様の宮殿が流星の直撃を受けられて‥」

「あの、頑丈な宮殿が?」

「はい。想定外の巨大な隕石だったもので‥」

「そうだったの‥」

コノピが悲しみにくれた声で言った。女王のいなくなったクモンマ星では、子どもが生まれることは決してない。このままだと星そのものが絶滅するのを待つばかりだ。そんなことは、ボクにだって想像できる。そして、だからコノピを取り戻すためにゴメス星を攻撃してきた理由も‥ しかもアンドロイド兵士を投入した理由も‥ クモンマ星人そのものが少なくなってしまったからだ。

クモンマ星人の本隊長や部隊長たちは、かぶっていたヘルメットを外してコノピにひれふした。みんな大人で、本隊長らしい人は老人と言ってもいいぐらいだった。

「コノピ様、お願いします。どうか我々の星、クモンマ星に帰ってきてください!」

コノピは、答えに困ってしまったようにボクを見た。

「‥私は、私はどうすればいいの?」

ボクは、答えに困って人工知能のジンちゃんに聞いてみた。

「ジンちゃんなら、どうする?」

「そうでんなぁ‥ A+B=Cってとこちゃいまっか?」

「えぇっ? ‥あぁ、なるほどA+B=Cか!」

「えぇっ、なんか分かりましたか? 単にボケただけやのに‥」

「いや、君は最高の人工知能だよ!」

「ほんまかいな?」

ボクはコノピの肩に両手をあてた。

「帰るんだ。クモンマ星に!」

コノピが驚いたようにボクを見た。クモンマ星人たちも喜ぶ顔をした。

「ただし、君だけじゃない。ネイヤも一緒に!」

「ネイヤも一緒に?」

「ネイヤだけじゃない。このゴメス星のみんなも一緒に!」

それを聞いてコノピの目が輝いた。

「移住するってこと?」

「そうさ! やがて滅亡するゴメス星Aと、子どもが生まれないクモンマ星Bを合わせると、新しい世界Cが生まれるんだ!」

「あっ、だからA+B=Cなのね!」

コノピがボクに抱きついた。同時にクモンマ星の部隊長たちが歓声をあげた。本隊長の老人も微笑み大きく頷いた。ボクは少し恥ずかしくなって、頭をポリポリかいていた。


‥こうして、ボクの宇宙戦争は終わった。クモンマ星人たちはアンドロイド兵士を連れてクモンマ星に帰って行き、ボクたちも海の底の基地に戻った。コノピが少し興奮していたので、ボクが代わりにネイヤに今までのことを報告し、クモンマ星への移住を提案した。

「ありがとう。‥でも、クモンマ星への移住には全員協議会で決める必要があるんだ。君にも出席してもらいたいんだけど‥」

「ボクなら、かまわないよ」

ボクは全員協議会に出席することを約束した。‥でも、ボクの心の中にあった、あのモヤモヤした気分はまだ消えていなかった。ボクがゴメス星に来てから、ずっと感じていたモヤモヤした気分‥ ボクはそれが何なのかまだはっきりと見えていなかった。歯がゆく思ったけど、客室に案内された部屋の中でもずっと考えていた。

「何か変なんだ。‥どこかが間違っている。‥一体何が違うんだろう?」

ボクは、この星に来てからのことを一つずつ思い出してみた。けれど、どうしても分からなかった。‥でも、ボクが感じたモヤモヤというか不自然さを消すことができなかった。やがて迎えが来て、ボクは大広間に案内された。そこには大勢のゴメス星の子どもたちが集まっていた。広間には大きなディスプレイがいくつもあって、各地域の子どもたちが映っていた。全員が会場に入らないからなんだろう。全員協議会が始まるらしい。ボクが席に着くとネイヤが開会の挨拶をした。

「まず、始めに地球から来た悟さんのおかげで、クモンマ星人たちの攻撃 が終わったことに感謝の気持ちを確認してもらいたいんです」

ボクはネイヤに立ち上がるように頼まれ、立ち上がって頭を下げた。会

場内の子どもたちやディスプレイに映っていた子どもたち全員が大きな拍手でボクを讃えてくれた。ボクが座ると会が始まり、ネイヤが経過を報告し、それからクモンマ星への移住を提案した。

「それぞれに意見があると思うので、よく考えてから発言してください。このゴメス星の未来を決める重要な会議ですから、みんなの意思を出してもらいたいんです」

様々な賛成や反対の意見が出された。賛成意見は、ゴメス星の未来をクモンマの未来に託すためで、反対意見は、故郷であるゴメス星と運命を共にすべきだというものだった。どちらかというと賛成意見が多かった。

「ボクたちゴメス星の子どもたちに未来を求めるべきだ!」

と、誰かが叫ぶと大きな拍手が起こった。ディスプレイに映っていた子どもたちから、「ゴメス星の子どもたちに未来を!」と掛け声が何度も繰り返された。会場内でも同じような掛け声が起こった。ボクはその時、ボクの中にあった「モヤモヤ」の意味が見えてきたような気がして立ち上がった。

「あの‥、ちょっといいですかぁ?」

一瞬の間があって、ネイヤが全員に静まるように合図した。この星の子どもたち全員が黙ってボクの方を見た。

「‥本当に子どもたちだけでいいんですか?」

「ええっ?」

みんなは、一瞬ボクの言っていることの意味が分からないようにしていた。ネイヤがもう一度ボクの言っていることの意味を聞いた。

「どういうことなのかな?」

「君たちがこの基地にいる間に、地上ではたくさんの大人たちがクモンマ星人に殺されていたよ」

「何が言いたいんですか?」

「子どもたちの未来って何ですか?‥子どもの未来は大人なんじゃないんですか?」

「確かに、その通りですが、‥でも大人たちは‥」

「だから、君たちは考える力を奪ったんでしょう?」

「‥‥」

「考えることができなくなった人間は、ドレイやペットと同じじゃないですか?」

「‥じゃぁ、君はケイヤの『子ども革命』が、間違っていたと言いたいんですか?」

「いいえ、間違っていたとは思っていません。ただ‥」

「ただ‥?」

「ケイヤさんのやろうとしたことは、大人たちをのけ者にすることではなくて、一緒に生きることを目指していたんじゃないのかなって、思ったんです」

「共に生きろって‥?」

「ええ‥」

ネイヤは、しばらくの間黙っていた。何か考えているみたいだった。やがて何か小さな声で呟いた。

「何?‥なんて言ったの?」

 コノピがネイヤに聞いた。しばらく考えていたネイヤが顔を上げて、思い出すように言った。

「ケイヤのメッセージ‥」

「ケイヤの‥メッセージ?」

「あぁ、まだ子どもだったケイヤが革命を起こして、自分が『大人』になる直前までに写されたビデオメッセージが発見されたんだ。極秘扱いで、一部の幹部にしか知らされていないけど‥」

「どういう映像だったの?」

「ケイヤにとって未来の‥つまり我々かもしれない未来の子どもたちへのメッセージなんだ」

ネイヤがテーブルの上のパネルを操作すると、全員協議会の会場に3Dのケイヤが現れた。革命を宣言する場面などの後、「大人」になる直前の最後のメッセージをケイヤが未来の子どもたちへ語り始めた。

「今このメッセージを聞いている、未来の子どもたちよ。私の最後のメッセージをしっかりと聞いて欲しい。私は自分が『大人』になることは恐れたりはしない。戦争の無意味さを君たちと共に素直に受け入れたい。‥大人たちの愚かな考えが『子どもたち』に有害であったことも事実だった。だが諸君、その前に考えて欲しい。悪いことは絶対に良くない。‥そう考えることは、間違っていない。誰だって必ず大人になる。だが、大人になるということは子どもじゃなくなるということなのだろうか?‥一部の大人たちの愚かな考えのために、我々は本来もっとも大切なものを失ってしまったのではないだろうか?‥考えて欲しい。私の起こした革命が、本当に完璧なものだったのか‥ すべての大人たちを排除することが本当に正しかったのか‥ これが私からの宿題だと思って欲しい。答えを出すのは、君たち自身なのだから‥」

 ケイヤのメッセージを聞いて、会場内はしんと静まった。みんなが自分に問いかけるように黙って考えていた。しばらくして、ディスプレイに映っていた一人の少女が呟くように言った。

「一部の大人たちの愚かな考え‥か‥」

「大人の中にも戦争に反対する人がいたのかなぁ‥?」

「考えることを奪うことは、ドレイやペットと同じことか‥」

「ボクたちは間違っていたのかなぁ‥?」

みんなは、自分の問題として意見を言うようになった。みんな真剣に他の子どもたちの意見を聞き、自分の考えを言う。全員協議会にふさわしい活発な意見交換ができていた。

ボクは、そっと会議場を出た。後は、ゴメス星人の問題として、ゴメス星人たちが話し合えばいいんだ。地球人のボクの出番は、もうないと思ったんだ。ボクは長い廊下を歩き、サロンのような場所に行きソファーのようなイスに腰かけてふっと息をついた。そして、今までのことをあれこれと思い出してみた。本当にいろんなことがあった。コノピとの出会いのシーン、時空間移動の体験。自分がまさか宇宙戦隊員として、戦うことになるなんて驚きの連続だった。スズメバチのようなクモンマ星人との戦いにしろ、ゴメス星の全員協議会で、あんなことを言うなんて、まるでそれらのシーンがテレビのコマーシャルのように流れていった。学校だったら絶対にありえないことだもの‥ ボクは臆病な性格ではないけど、目立ちたがりでもない。普通の小学六年生だ。「ヒーロー」だなんて言葉から、一番遠いところにいると思っていた。それなのに、今のボクは「ヒーロー」そのものになってしまっている。

ボクは静かにソファーに深く座り直し目を閉じた。頭の中を様々な画像がかけて行ったが、いつの間にかそのまま眠ってしまったらしい。


「‥悟?」

コノピの声でボクは目覚めた。コノピはボクの隣に座ってボクの顔をのぞきこんでいた。

「‥全員協議会はもう終わったの?」

「うん。とてもいい会議だったわ」

「どんなふうに決まったの?」

コノピが会議の様子を詳しく話してくれた。みんな自分たち子どもと大人のことを自分たちの問題として考え、今後のことについてそれぞれの立場から発言した。ネイヤも幹部の人間としてでなく、個人的な意見を言った。そして協議会の結論として‥

「私たちは、『一人占め』や『差別』というような悪意を無くし、大人たちにも『幸福追求』などの考える能力を与えることにしたの。もちろん、私たち子どもにもね?」

「うん。素敵だね」

「クモンマ星の大人たちにも、同じことを提案するつもりよ」

「うん。きっと分かってもらえると思うよ」

「ねえ、悟も一緒に行かない? クモンマ星へ‥」

「‥いや、ボクは地球に帰らなきゃ」

「ダメなの?」

「地球からも戦争というものを無くすために‥」

「あぁ、そうよね‥」

 コノピは、ちょっとさみしそうな顔をした。そこに少し遅れてネイヤが急ぎ足でやってきた。

「ごめんね。議事録をまとめるのに時間がかかっちゃった」

ネイヤがコノピの隣に立つと、コノピがネイヤの肩で泣き出した。ボクが地球に帰ることを話すと、ネイヤはコノピの涙の意味を理解したらしく、コノピをさとすようにコノピに話した。

「悟君には地球人として、やらなきゃいけないことがあるんだ」

「うん。頭の中では分かっているんだけど‥」

「君には悟君を地球に送るっていう大切な仕事があるんだろう?」

「はい」

コノピは涙をふいて笑顔になった。ボクはネイヤとかたい握手をした。

「またいつの日にか会おう!」

「うん。戦争のない平和な地球で‥」

「何億光年、離れていてもずっと友だちだよ」

ボクはコノピと一緒に車のような宇宙船の置いているところに行き、乗り込んで地球に帰る準備をした。コノピは、黙ったままでタッチパネルを操作していた。船は静かに発進しゴメス星を離れて行った。やがて、消滅するポロロン星を見ていると、いきなり時空間移動を始めた。この時は、気を失うこともなく、異次元空間の飛行もしっかりと覚えておきたいと思っていた。‥やがて見覚えのある太陽系の姿が目の前に広がってきた。ボクの星、地球に近づいてきた。船は静かに最初に地球に置いてあった川原に停めた。ボクがコノピを見ると、彼女もボクの方へ顔を向けた。

「‥あの日でいい?」

「どういうこと?」

「時間の設定を決めなきゃいけないでしょう?」

「‥よく分からないから、君にまかせるよ」

「そう‥ 分かった」

コノピはさみしそうにパネルを操作した。それから、ボクを抱きしめて呟くように言った。

「貴方に会えて良かったわ。‥でも、会わない方が幸せだったかも‥」

「どういうこと?」

「こういうことよ‥」

 と、いきなりコノピがボクにキスをした。けれど、次の瞬間にまぶしい光がボクたちを包み、何かに引っ張られるようにボクは気を失ってしまったのだった。


 スイミングの練習を終えてボクはロッカールームに向かって歩いていた。他のみんなは何か予定があるらしくて、ボク一人が最後のようだった。‥ボクはロッカールームで誰かに呼ばれたような気がした。けれど、誰もそこにはいなかった。ボクは自分のロッカーを開ける時、一瞬迷ったけれど、それを開けて自分の服に着替えた。ふと、ロッカーの奥に見覚えのない、赤いスカーフのようなものが置いてあるのに気がついた。

「何だこれ?」

ボクはその赤いスカーフのようなものをどこかで見たことがあると思った。今朝アニメの後でやっていた戦隊シリーズのヒーローが首にまいて敵の怪人と戦っている‥ あのヒーローのスカーフと同じだった。

「まさかこれを首にまいて、敵と戦えってか?」

その瞬間、ボクは大切な何かを思い出したような気がした。それは、言葉ではなく、テレビのコマーシャルのように、映像が次々と現れては消えてゆくようなものだった。「思い出」と言うより、「空想」に近いとボクは思った。赤く輝く星‥スズメバチのような兵士たちとの戦い。そして、ボクを見守るような少女の瞳‥

 でも、次の瞬間には現実に戻っていた。何故か夏休みの宿題の一つ、先月の修学旅行で行った広島のことをまとめる新聞作りを仕上げなければいけないような気がして、赤いスカーフをズボンのポケットに入れてスイミングスクールを出て、自転車で家路を走り出したのだった。

もちろん、そんなボクを建物の影から一人の少女が何も言わないで、ボクが見えなくなっても手を振って見送っていたことに気がつかないままに‥


                (おしまい)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ