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足を踏み込んで、間もなくだった。俺は邪悪な心霊達に囲まれているのに気付いた。3~5体くらいだろうか。いや、もっと沢山だ。ゴンゴンッとかパチンッというようなラップ音が聞こえてくる。だが恐怖は無い。むしろ面白い、この現象を自分の聴覚に焼き付けておこう。と、そのときだった。心霊の気配が一歩近づいた。「ほうほう、心霊の数は8体、少々手こずるかもな」俺のその独り言が廃墟内へと響き渡る。回りの景色は月明かりと手元の懐中電灯だけで照らしているからして、殆ど見えていなかった訳であるが、俺の第六感の開花とともに心霊の姿を捉えることができた。と、突然その中の一体の心霊がコチラへ向かって来るではないか。「……た…………すけ………てぇえ」俺はその声を聞いた瞬間に本気で助けてやろうと思った。多分、現世で辛い思いをしたのだろう。その悔しさ心残りがこいつを自縛している。俺は再びそいつの心の真の平安を願った。すると安らかな目になって消滅(成仏)してゆくのであった。
残りは7体、俺は次々とそいつラを成仏させることができた。何の苦も無く、ただ黙々と徐霊を済ませていく俺はやはり木戸くんの言う通り神のように崇高な存在かもしらん。と、少々の自惚れがわき出てくる。友達にこの俺の姿を見られたら、何と答えようか。「何故なら、俺が神だから」と木戸くんの真似でもしようか。と、考えていたその時だ。俺の手元の懐中電灯が人の顔を写し出した。俺はビックリ仰天の声をあげた。何故なら、その人の顔は幽霊ナンゾではなく、生きた人間であったからだ。
……見覚えのある顔立ち……木戸くんだった。
「やあやあ。よくきたね、誠くん」
「ああ、木戸くん」
「現実世界で会うのは二度目だね」
「うん。そうだった」
「誠くん。もう君は此処に住み着くものを尽く成仏させることができる実力を手に入れた。合格だよ」
見ると、手元の霊力測定器は9000を超えていた。それは詰まるところ木戸くんを超えたという証拠だった。
「で、ところで、だ。ここで最終試験に取りかかろう。実は俺もね、小さいときからこの最強の力を手にいれるために、師匠によくやられた修行だよ」
「えっ。木戸くんに師匠が?」
「ああ。その道のプロに教えを乞わずして、俺のこの力は手に入らない」
「なるほど」
「で、明日の午後、俺と出会った記憶をすべて消すことにする」
「なっ!俺の記憶を?」
「ああ、そして、あの最強の力の記憶無しにして、悪霊と戦い、勝つことができたら、ホントに合格だよ」
「それは、無謀じゃないか」
「俺もね。何百回と繰り返し、やっとこれだよ」
「何百回も。ひょっとしたら俺も、記憶を君に消されているだけで、この会話を君と無限に……」
「いいや、そんなことは無いね。無限ループは絶対に避けなくてはならない」
「もし、失敗したら……」
「能力が無くなるという心配はしなくていい。今のままだ」
「なら、よかった。じゃあ頼もうかね」
「そうか、じゃあ」
木戸くんがそういった瞬間に俺は気を失った。
目が覚めると、俺はどこか知らない廃墟にいた。記憶がない。確か俺は親水公園を散歩している間に悪霊と出会い、失神させられてしまったのではないか。ならばあの親水公園か、病院にいるハズではないか。ここは一体どこだろう。
そうだ。あれからナニかいろいろ大事な出来事が起こった気がする。最近疲れていたんだ。この場所に散歩に行って、悪霊と出会う夢を見ていたのかも知れない。
一応、電車で家に帰る必要がある。と、言った具合な事を考え電車に乗った。
今日は何日だ?何曜日だ?まあ、分からないのは何時ものことか。そうしている間に、何故か急に親水公園に寄りたくなった訳である。悪霊は夢だったのか。
……あれは曇天の日の夕暮れ時の親水公園での出来事だった。