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気づくと、どこか明るい、畳の部屋に居た。一瞬、混乱が起こる。
「此処は、どこだろう」いや、思いつく節は全くない。確か、俺は、変なオバケに気絶してしまったのではないか。「アイツは、いったいなんだったんだよ」
それならば、あの親水公園か、もしくは、病院に運ばれているハズではないか?
この畳の部屋は、何処なんだ?
まだ新しい、緑色の涼しげな畳の横のさらに奥に、仏壇がある。何処かの民家であるようだ。俺は立ち上がった。そして、障子を開いた。
……朝だった。俺はビックリ仰天して思わず「エッ!」と声を上げた。
朝になるまで気を失っていたのか? 学校は? 動揺してウロウロと動き回る。
「とにかく、外に出て、ここがドコなのか確認をしなければ」
俺はそう独り言を呟いて出口に、向かう。
襖に向かおうと足を一歩踏み出したその時だった。
ガラリ、といきなり扉が開いた。立っていたのは俺と同い年くらいの少年だ。
彼は、特に驚く様子も無く、俺の目の前に座った。
「いやあ。申し訳ないね。ついうっかり。呼び寄せてしまったよ」
「……はあ」
「えーと。高校一年。十五歳。壱年誠くん。だっけ?」
彼はなぜだか、ニコニコしながら問いかけた。
「……何故に、俺のプロフィールを」
「まあまあ。この世界では普通だよ。俺の能力でもある」
「……この世界?」
「くっくっく。そうだね。ここに来る人達はまだ何も知らないんだったね」
俺はギョッとした。もしかすると俺は死んでしまったのではないか。
此処は死後の世界なのではないか?と、不安に駆られた。
「俺は、死んでしまったのか」
「……いや、そういう事ではない。少し、説明が必要だね」
彼は熱心に、状況を説明した。まるで最速のマシンガンのようなスピードで俺に語りかけた。俺は食いつくようにして、彼の話に耳を傾けたのであった。
「つまるところ、君は死んでしまっているのでは無い!意識はコチラの世界へ来ているかもしれないが肉体は気を失ったままアノ場所へ留まっている。ではこの世界はドコか?という疑問が残るだろう。ズバリここは異世界だ!」
「異世界? とは何でしょう?」
「君は今まで、三次元世界にいたはずだ。縦、横、立体に時間軸を加えた世界だ。だけれどもこの世界は時間が存在しない」
「……時間が止まっているのですか?」
「……いや、止まっているのではなく、時間という概念そのものが無い世界なんだよ」
彼の話し方には少しはかりクセがあった。はなしの語尾に抑揚をつけ、まるで演説をしているかのようだ。
「……夢を見ている。といった方が理解しやすいかもしれない。無論、君と話をしている俺は異世界の住人なのではないかと見当をつけているかも知れないが、実は俺も壱年くんと同じ人間だ。君が気を失っているところとは別の場所に実際の肉体がある。つまり、君と僕とは同じ共通の夢を見ているということだ」
「ナルホド」
俺はマヌケな声を発した。
「で、君がこの世界に来た理由として、先ず俺たちから、謝らなくてはならない……申し訳なかった」
「何故に、謝るのですか?」
「それは、君を失神に追い遣ったあのオバケは普段なら、俺が戦ってちゃんと消滅させなければならなかったんだけど。実は戦いの最中に取り逃がしてしまってね」
「……戦っているんですか?イツモあの怖いオバケと」
「ああ。そうだよ遊びでね」
「それで、取り逃がしてしまったオバケが俺を襲って……」
「そういう訳だ」
「なるほど、ヤット状況が飲み込めてきた」
「で、この世界に呼んだ理由なんだけど、お詫びとしてね。チョッとどんなに強力な悪霊でも一撃で倒せる必殺ワザをきみに伝授してね。覚えて帰ってもらいたい」
「……お詫びに? どんな悪霊でも一撃必殺のワザ? それはどんなものなんですか?」
「俺の名前は木戸龍之介君と同級生だ。よろしく」
彼は話の途中、唐突に自己紹介を始めた。
「どうも、宜しく」