別視点・森深き エルフの里で 定食屋(予定)
アスク視点となります。
俺は、 アスクィード=リヴィアル=トワイト。
大まかに2800歳のエルフ族。魔法騎士として、世界を廻った時もあったが、何の意味も見出せず村に戻った。
長寿とされる我々は、森を管理する役目がある。世界を廻り、行く先々の森の管理者に会い、世界を少し調整する。森が無事なら、生き物は滅んでも、永い時をかければ、世界は再生出来るから。
長寿なので、基本、暇だ。
エルフが興味を持つのは、魔力の高さ故か、魔法具や、術式、魔法に関する事ばかりだったり、新しい何か見たことない何か。
他は、生命維持さえ出来れば、無頓着。
ある日、森の見回りで、俺は、黒い人間の子供を拾った。と言うか、矢で射った。
その時を思い出すと、今でも激しい後悔の念が渦巻く。吐き気すら覚える。過去の俺を逆に射ちたい。
最初は、黒髪を見て、ブラックエルフだと思った。不可思議な服装で、白い袋をぶら下げて、迷い子か?と、思ったが、ここは、エルフの領地。
不法侵入は、斬首だが、まだ子供だ。威嚇で追い払おうと、分かりやすく気配を隠さず、矢を射った。避けるか、掠めるかと思いきや、見事命中?!
まぁ、当たっても、直ぐに治癒するだろうと、痛みに呻いている子供を領地外へ放って来ようと近付いた。呻き声で、仲間か魔物が、寄ってきたら、大変だ。無益な殺生は、森が好まない。その口を手で塞いだ。
感じた、強烈な違和感。
まず、匂いが違う。嗅いだことの無い、不思議な匂い。そして、それは、人間だった。
チーズとミルクを混ぜた、白く滑らかな肌。黒い髪に潤んだ黒い瞳。何より、耳が人族の特徴と一致。頭は、大混乱だ。
何故?人に黒は無い筈だ。しかもこの森に?森がざわめいた。森が、木々が、この人間を気にかけている?あり得ない!
急いで連れ帰り、治癒魔法をかけたが効かない。慌てて、薬で、処置をする。
長に報告し、俺の処分は、人の子の回復を待ってからとなった。森が気にかける存在に、弱者を命の危険に晒したのは、大罪だ。甘んじて受けよう。
それよりも、あの子供が心配だ。痛々しい左腕の、矢傷。頬が涙で濡れ、青ざめている。申し訳なくて、倒れそうだ。何度も、治癒魔法をかけるが、やはり回復しない。涙を指で、拭き取る。触れると柔い肌。俺は、何という事を…。後悔の念で押し潰されそうだ。
長と、村の重役達と話し合いをするが、最近、人族が、召喚に手を出している情報がある。馬鹿な事を。目覚めてみないことには分からないが、それで連れて来られた異世界人では?と臆測する。
俺は、何度目か分からない訪室をし、ドアを開けた。
あの子が、起きている!良かった。手を伸ばし、痛みを聞こうとしたら、胸抉られるほど拒絶された。
父母を求め泣く姿が、胸潰れるほど痛んだ。
敵意はないと、ソッと近寄るが、まるで、即死させられなかった獲物が、死の恐怖に怯えているような…あ、俺、矢で射った。
起きた姿に、歓喜し、完全に忘れていたが、この子からしたら、俺は、狩る者だ。
落ち込んでいたら、突然ベッドから降り、ドアへ走り出した。思わず怪我している方を掴んでしまった。痛みを訴え、離す。
が、…ドアが大分重いようで、んがーっ!と言いながら、ゆっくり開いていく。助けたいが、近寄ったら怖がられる。
左腕も使い出して、傷が開いた!
やっと、開けられて部屋の外へ出たら、力無く座り込んだ。長に話し掛けられているが、今は、左腕を治療しなければ。掴まえて、抱え込むと、何と小さな身体。うっかり堪能しそうになったが、凄い拒絶され、もう、心折れそうだ。
仲間に、茶化されるが、あしらう元気も出ない…。
長をセンニン様と呼び、側を離れない。思わず、長を睨んだ。ソレハ、オレガミツケタノニ…。
その子は、やはり違う世界から呼ばれてしまったようだ。涙がずっと流れている。止めてやりたい。
一通り話し終わり、断罪の時間だ。左腕一本だったが、軽い方だ。あの子に治癒もかけられない魔法も、魔力も要らない。魔封環で、生涯封じられても文句は言えないくらいだ。
いざ、執行という時、あの子が、飛び出してくる。何してる?!信じられない事に、減刑を申し出た!しかも、矢で射った俺を側に置くという。傷など、何て事はない!と、腕を振り回し、また、傷が開いてる。森の意思を汲み取る長の命令は、絶対だ。にも関わらず、あの子は、俺を庇った。
あっさり了承した、長に何か感じ入るものがあるが、あの子の側にいられるなら、願ったり叶ったりだ。
住み良い家を建て、この子の生活を管理しなければと、思っていた。
昔、妹を俺の不注意で死なせてしまった。妹のようには、絶対しない。必ず、守る。
この世界を知らない。人は、脆く直ぐ死ぬ。魔法すら効かないのであれば尚更。
異世界の調味料は、見たこと無いものが入ってる。少量なら大丈夫だが、念のため廃棄。
身体に影響しそうなものは、排除した。血で汚れた元の服も、廃棄。血液など、病の温床だ。
泣いて、俺を責めるが、いつかは分かる筈だ。
そっと様子を見に行ったが、床でバッグを大事そうに抱え、泣いて寝てしまっている。
俺に、触れられたく無いだろうと、毛布をかけ、潰れていたバッグを机に置いておく。
目を覚ましたあの子が、俺を呼ぶ。何事かと思ったが、バッグも廃棄されたと思ったようだ。何でもかんでも捨てないぞ。
そして、突然、人の国へ行くと言い出した。やはり、同胞が良いのだろうか…思わず、止めていたら、いきなり倒れた。熱がある。倒れるまで気付かなかった。俺は…俺は、こんなに小さな子供の体調管理すら出来ないのか…。
慌てて、仲間に助けを請う。余程、情けない顔をしていたのだろう、事情を聞いてきた。
説明し終えると、一人には懇々と諭された。一人は、凄く説教された。俺のしてきた事を振り返ると、軽く死にたくなってくる。悪魔の所業だ。
だから、彼女は、あんなにも俺を拒絶したのか…陰でちょっと泣いた。妹の死以来だ。涙なんて。
もう一人の仲間も、風呂で、彼女に説明してくれ、助けてくれた。ありがたい。ただ、長湯させて、熱が上がったのはいただけないが。
彼女と話し合い、互いの誤解を解くことが出来た。
故郷に置いてきたものが大き過ぎて、潰れそうなのに、前を見ようとしている彼女が、とても強く、しなやかで、俺の前で泣くまいと意地を張る姿が、美しかった。俺は、未だに妹の死を引きずり、親に会いに行けてないのに。自分の女々しさが、露になって、恥じ入った。
助けてくれた奴らには、後で礼をしなくては。
そこからは、彼女を大人として接する事にした。本気で嫌がることはしない。以前より、話をするよう心掛けた。何故子供だと思ったのか、考えは、しっかりしてるし、態度も大人の女性だ。
だが、故郷を思って泣くことは、止められない。
孤月(もの寂しく見える月)の日に、彼女は、飛び出して行ってしまった。
玄関の音がして、気になって部屋を尋ねると、もぬけの殻だった。靴も置き去り。慌てて、跡を追うが、見付からない。焦った。幼精(幼い精霊)の原で、気配を感知し、全力で駆ける。
そこで、彼女が、空に向かって、哭いている。
帰りたい、帰せと。余りに悲痛な慟哭に、胸が詰まる。と、同時に、仄暗い感情が湧く。カエシタクナイ。
名を呼び、こちらを向いた彼女は、とても美しく、こんな状況なのに、その涙を口に含みたかった。
身体全てで哭く彼女を抱き締めて、思う。
ホシイ。これが欲しい。この世界を違えて、俺の前に堕ちてきたこの生き物が、欲しい。
むしろ、俺の為に、堕ちてきたんだとさえ思う。
だから、俺は、彼女に囁く。
「俺がいる。ずっと。(だから、ずっと傍にいて)」
折角、腕にいる眠ってしまった彼女を離したくなくて、同じベッドで眠る。目を離すといなくなってしまいそうで、眠れず抱き締め続けた。
劣情が湧くが、今は、まだその時ではない。
だが、必ず手に入れる。
頬を濡らす涙を舐め取り、少しだけ、顔の傷を舐める。口の中も、怪我してるかもしれないと、言い訳をして、舌を差し込み、堪能するまで味わったのは、内緒。
目覚めた彼女に、治療と称して、身体中を舐め回す。関係ない所まで、相当時間をかけて、味わう。が、彼女は、本当に全て治療だと思っている。
何でそんなに、信頼出来るんだ…どんな生活をしたら、そんなに他者を疑わず生きられるのか、不思議で仕方ない。
むしろ、少しくらい疑って欲しい。
ちょっとだけ、罪悪感もあるが、全幅の信頼を寄せられるのは、優越を感じる。
捨ててしまった服の代わりに贈った宝石や、服に、感謝されたが、醤油を贈ってこんなに喜ばれるとは思わなかった…。故郷の味とは言え、普通は、きらびやかな方だと思うのに。
でも、贈って良かった。喜ぶ姿は、純粋に嬉しい。彼女の故郷の物をもっと再現させようと、頭で計画する。
彼女が、俺に堕ちたら、共に永い時を生きられるよう、魔具も制作中だ。
こんなにも、楽しい日々が来るなんて!
長が、俺達の状況確認に来た。
顔を見たとき、やられたと思ったが、まぁ、彼女と一緒にさせてくれるのは、感謝しようと思う。癪だけど。
人族の動向に、気を付けろと言われる。
絶対、彼女は、渡さない。
呼び出した所に、圧力でもかけるかな。
目下の悩みは、例え寿命8000年使っても、彼女に、俺の想いが届かないのでは?と、感じるほど、彼女が鈍い事だ。
とある日の攻防。
「アキ、髪上げるのは、駄目だ」
「食品を扱うので、髪は、キッチリ結ばないといけないんですよ?」
「項見ると、したくなる」
そう言うと、アスクさんは、首の後ろに顔を寄せ…ペロリと舐めました。
「ぎゃあ!…良いですか?アスクさん。以前から申し上げているように、そういうことは、軽々しくしてはいけないと…(本当に、もう!エルフのパーソナルスペースの狭さや、スキンシップ過多には、困ったものだわ)」
「うん、うん(手強すぎる…)」