第2話の2
僕は言われるがままに病室を後にし追い掛けた。階段を下り出入口付近まで行くとさっきの女性がバイクに股がっていた。
あの格好から予想はできたが、さすがに体のバランス的にもでか過ぎるバイクである。
僕が立ち止まり呆気にとられていると、向こうから手招きをして僕を呼んでいた。急いで駆け寄った。
「自己紹介がまだだったな?俺の名前は
癒梨 汲凪
25歳独身、よろしく!」 腕をビッと振り、親指を立て、軽くウインクをして親近感を持たせたいらしいが、僕は
「は、はぁ…」と気のない返事しか返せなかった。
「取りあえず後ろに乗れ。話は帰ってから聞かせてやるよ。親父さんの事とかな…」
親父…父親…。僕を殺そうとした父親……
うつむき、少し考え中の僕にヘルメットを渡し、軽快にアクセルを吹かしている。その音は近所迷惑、騒音公害とでも言おうか、ハッキリ言って騒がしい。
僕は行くべきか、行かないべきか、ハッキリした回答を出せないままだったが、突き出されたヘルメットをしっかり被り、バイクの後に乗り込み、掴まるところを探してしたら
「僕ぅ?恥ずかしがらずに俺に掴まりな。お姉さんは軟らかいぞぉ」
と謎の台詞を吐いたので素直に掴まる事にした。
「ん、――軟らかい…」
「よし!しっかり掴まっとけよ!―――じゃいくぞ!」
強烈なホイールスピンをかまし、バイクは走りだした。こんな狭い道でどんだけ飛ばすんだよと言わんばかりのスピードで走りだした。明らかに無謀と言ってもいいぐらいのスピードで走りだした。
――――僕は落ちた。
バイクは停止しヘルメットのシールドを開け汲凪さんは笑っていた。
「あははははっ、だから言ったじゃねぇか!しっかり掴まってろよって?死んじゃうぞ?それとも自殺志願者なのか?あははっ!」」 僕は服の汚れを払い、怒りの表情を見せながら無言でバイクの後に戻り、力一杯、力の限り抱き締めた。
「ぐぇぇ!痛い!痛い!ごめんごめん、今度は安全運転で行くから!ごめんな!」
その後は安全運転とは言いがたいが僕を気にしてくれているのは分かるぐらいのスピードで路地を抜け、大通りをひた走り、また路地を走り、僕の知らない場所をひたすら走り、そしていかにも怪しい雰囲気の雑居ビルの前で停止した。「ふぅ、到着ぅ。このビルの三階が俺の事務所だから先に上がっててくれ!バイク置いたらすぐ行くよ」
目的地に到着したらしい。ビルを見上げる僕。とりあえず、こんな所で見上げていても仕方ないので、言われた通り三階に行くことにした。
このビルは七階建てのビルなのだが、エレベーターが設置されていなかった。その為に三階は階段。強制労働を強いられる事となった。
『癒梨探偵事務所』
三階までたどり着き、ドアのガラスに書かれていた文字だ。
「探偵………」
僕は探偵と言うものをよくは知らないが、何だかカッコいい感じはする。
ドアノブに手をかけ左に半回転。そして軽く、恐る恐る押してみた。
「開かない…」
何度もガチャガチャやっても開かない。
「ふぁ〜い。今開けま〜す!」
中からやる気の感じられない声がし、ドアが開いた。と同時に吹き飛んだ。
――引き戸だったようだ。
「大丈夫ですかぁ?すいませぇんんん…怪我は無いですかぁぁ?」
「大丈夫です。」と適当にあしらい、顔を上げると目の前にいたのは汲凪さんだった。