第1話の3
「お化け屋敷に――行かない…か?」
父は突然そう言った。閉園間際、しかも父の方から。今日一回だって自分から言いだすこと無く、僕か妹の行きたいところばかり行っていたのに。
「お化け屋敷…」
僕が考える暇もなく、父は歩いて行ってしまった。
母に言わせれば
「あの人気まぐれだから」なんて微笑んでいたが、僕にしてみれば意外や意外。そんな父は始めて見た。お化け屋敷の前につき母が
「私たちはあっちのベンチに座ってるから」と言い背中に妹を背負ったまま行ってしまった。
ベンチなんてあったかな?
「じゃ入るか。」父は僕の腕を引きお化け屋敷に入って行った。
正直お化け屋敷は苦手だ。だから避けてぃたのもある。それは妹も同じだと思う。だからと言ってお化けが怖い訳ではない。暗闇が怖いのだ。
はっきり言ってここのお化け屋敷はあんな子供騙しのお化けでは子供も騙せないほどのクオリティだし。
当然わかっていて入ったのだからまったく怖くない。むしろ、虚しい感じもする。
しばらく奥に進むと父が話し掛けてきた。
「ゆーくんは怖くないのかな?パパはこういうの嫌いだな…」
がっちり僕の腕をつかんだ父が軽くそう言った。
「お父さん痛いよ!いくら怖いからってつかみすぎ!僕は怖くないよ!お父さん臆病だね。」ははっと軽い笑いを吐き父は腕をはなした。
「ゆーくん怖くないのか?じゃあ―――これならば?」
突き飛ばされた。
僕は後方に突き飛ばされた。
僕は思い切り後方に突き飛ばされた。
ドンッと何かにぶつかるかり重い音が辺りに響く。
「いたたたっ…父さん何すんだよ!」
僕は倒れたまま怒りの混じった声で前方にいる父を怒鳴り付けた。
父は
目の前に
いた。
いつの間にか僕の目の前で父が立っている。右手にキラリと何かが反射した。
「ごめんな…ゆーくん…でもわかって――――くれっ!」
父は倒れてる僕に容赦無く右手を振り下ろした。
口では謝ってはいるが、それは容赦ない。ためらいのない。躊躇も感じられないスピードで僕に襲い掛かった。
僕は倒れて態勢の整わないまま、そのまま右に倒れこみ紙一重で回避。
ドスッという鈍い音と共に父の右手はお化け屋敷の壁に刺さった。
刺さった先を見つめる僕。そう、刺さったのだ。
キラリと反射したもの。
それはナイフ――いや、それは包丁だった。