第1話の2
僕は父と母と妹で週末、遊園地に出掛けた。三歳下の妹のミカンが父にワガママを言い続けようやく叶った家族旅行。
父は小さいながらも建設会社の社長という立場もあって、週末でも仕事ばかり。中々家族で旅行という行事にありつけない家族だが、さすがに妹のしつこさには父も参ったらしい。
父がおれた。
かといって僕が楽しみだったかと言えば別の話で正直どうでもよかった。
たしかに久しぶりというのもあってか、少々浮かれ気味だったが、どうにも人ごみには慣れない。
大衆に巻き込まれた時の自分の存在の小ささ。騒音、雑音。すれ違いに僕を見下げる他人たち。早く大人になりたいと思う時でもあった。
とまあ、そんな事を言いつつも僕も一緒に来て楽しんでいるのだからまだまだ子供でもいいとも思ってたりもする。
それに比べれば、いや比べるのが間違っているのだろうが父は疲れたような表情を浮かべていた。折角の休みにこんな場所にいたらそりゃ疲れるし、今後の仕事の事なんかを考えて憂鬱にでもなってるんだろうぐらいにしか思っていなかった。
いや、そんな事すらも思ってもいなかったかもしれない。
遊園地を隈無くって程でも無いが、ほどほど歩き回って、乗りまくって、食べまくって、遊びまくった。
そろそろ閉園時間を向えようとする頃には妹はすでに母親の背中にしがみついていた。と言うより疲れはてて寝てしまっようだ。
口をむにゃむにゃさせながら呟いている。さっき食べたクレープの夢でも見ているのだろうか――。
「フニュ…ミカンのクレープゥゥ……」
そのようだった。
「 」
ん?あれ?何か聞こえたような気がしたけど――妹は寝てるし、寝言にしては―――気のせいか?
キョロキョロと辺りを見渡すが誰もいない。
少し後ろを歩いてる父親、僕の横で妹をおぶってる母以外は。「 …か?」
今度こそ聞こえた。後ろから、父の方から、父から聞こえた。
僕は歩く足を止め父の方に体を向けた。
父は下を向き、自分の足元を見るよう、ぶつぶつと呟きながらにして歩いていた。そして歩いてきた。
「あ、危ないよ父さん!ぶつかる寸前じゃないか。てか、ぶつかってるよ…」
父はすまんすまんと適当に謝り、急に止まるなと僕のせいにしてきた。その顔は疲れ切っていた。さすがに歳なのだろうか?疲れ切っていた―――。と、この時は思っていた。