第2話の5
「それで僕に何をしろと言うのですか?」
僕は当然のように質問した。いくら襲われたからと言って、ここに来る理由にもならないし、話を聞かせる必要もない。今回の依頼に対して僕は監視の対象であったかも不明だが、それなのにやっぱりここまで話す理由にはならない。
て事は――考えられる事は―――
「ご名答。」
汲凪さんは以前見たことのある、善くも悪くも見える微笑を返してきた。
「ちょっと手伝って欲しいんだわ。一様、お前の家族の事なんだからな。ま、無理にとはいわねーけどな。」
父は警察、母と妹は行方不明。僕に一人でどう生活しろと言うのか。話を聞かせたのはその為か…
お前は1人だ。家族もいなくて生きていけるのか?暮らしていけるのか?
「ま、もちろん手伝ってくれるなら、生活の保証ぐらいはしてやるぜ?お姉さん優しいからな〜。――で?どうするよ?」
やはり確信犯か…汲凪さんは何故か嬉しそうにしている。
「僕が断ると思いますか?」
「いいや」
「でしょうね…」
僕はふぅーて溜め息をつき、ワンテンポ置いてから
「――わかりましたよ。手伝います。ちゃんと面倒見てくださいよね。」
「嫌だ」
「――は?」
「だから俺は面倒見るのは嫌だと言っている。めんどくせー事は好きじゃねぇんだよなー。俺の代わりに頼んどいたよ。」
さっきよりも悪意に満ちた顔だった。
ハメられた――のか?
「香ー!いるんだろー?」
すると炒瑛菜さんが入った反対の扉が開き一人の女の子が立っていた。
「はーい!汲凪姉さん。呼びました?」
身長は僕ぐらい、黒髪でショートカット。ピンクのワンピースが良く似合っていた。歳も僕と同じぐらいだろうか?
「おう!香、今日もまた可愛い服着てんな。こいつが例の…あれだ。」
「ん?あ、あぁぁぁ!そいつですか!こんなひ弱そうなので平気ですかねぇ?」心配になってきました。
本人を目の前に『ひ弱』と言える性格はどうにかしてるとしか思えない。しかも『例の』って何だ?ま、僕の事だろうと言うのは想像つくが。
「キミキミ。これから私と二人で過ごしてもらうわね。そういう約束になってるから。ぶつくさ言わずについてきなさいよ!貴方、弱そうだから心配だけど私がしっかり調教してあげるわ!」
「調教ですか……」
これからの生活を心配していたが余計に心配になった。てっきり汲凪さんと過ごす事になるだろうと思っていたが、まさかこんな娘とだなんて……いったい汲凪さんは何を考えているのだろうか。
「ま、そういう事だ。香と一緒に生活をしてもらう。もちろん二人だ。理由は後で香に聞いてくれ。めんどい。文句あっか?」
「あっても聞いてくれませんよね?―――ありませんよ。」
「よし!じゃ、俺は仕事が残ってるからそっちを片付けるとするか!」
「どこか行くんですか?」
「あぁ、まだ仕事があってな。人気者は忙しいんだよ。後の事は香に任せな。」 話し終えるとソファーから立ち入口の方へ歩きだした。
全く心配なんてしてない雰囲気を見ると、この香という女の子を相当信用しているのだろうか。
汲凪さんは扉の前まで歩いてクルッと半回転し僕の方にむかって、
「香に変なことすんなよ。ま、それも無理だろうけどな」
と言い残し姿は見えなくなった。
「いってらっしゃーい!汲凪姉さーん!」
香は元気いっぱい、不自然に見送った。