前半
家の鍵をあけ、中に入る。
私が小学校に入学したときから毎日繰り返している。
母は仕事。
看護師の仕事は大変で今日は夜勤だった。
父はいない。
その話は私と母の間ではタブーになっている。
中学から始めた塾に、毎日ある部活。
冬期間はストレスがたまるけれどもう少しで趣味であるサッカー観戦ができる。
まだ中学生だから家の近くのスタジアムでの試合しか見れないけど、
嫌なことや悲しいことを吹き飛ばしてくれる気がして、試合があるときはいつも行く。
今日はこれから塾に行かなきゃならないから母が夜勤に出る前に作ってくれたご飯を食べなければならない。
塾の準備もしなきゃならない。
母の負担を減らすためにお風呂を掃除して、洗濯物をたたんで、米を研いで。
やらなければならないことはたくさんある
だけれど、昨シーズン最終戦、彼から言われた言葉が離れない。
冬の間頭の隅の方に追いやっていたのに。
「同じ学校。もしかしたら部活も同じ。」
彼の娘さん、名前は確か玻弥ちゃん。
気まずいというかやりずらい。
副部長の立場からすると贔屓はできないし、かといって冷たくするのもためらわれる。
というかやりずらい原因は私の性格ゆえに。
二重人格と言われそうなくらいスタジアムにいるときと、普段が違うから。




