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連弾のオリハルコン  作者: 常日頃無一文
第2章:不立文字飛鳥
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第4話:ネクロマンス(後編2)

 歪に湾曲した月が照らす、濃霧に包まれた丘陵地。XXは地下墓地(カタコンベ)に通じる風穴の前で足を止め、『フっ』と笑いを一つ漏らした。

 彼の眼が据えるのは黒よりも深い無明の空洞。何人ものギルドが消息を絶ったという魔窟の境界。そんな不吉な死者の国の中心地。

 それを前にして、意識せぬまま指が腰の銃把に触れてしまった――そんな自分に彼は苦笑したのだ。


「俺はもう死んだ――か。こりゃ撤回だな」


 己は既に死んでいる――喪失感に任せて、ノヴァには飾らず言ったつもりなのに、なんと見当はずれを言ったものだろうか。圧倒的な死の香りを前にし、否が応でも己は生者であると強要される。

 不死者アンデッド死生者ノーライフ生死者(リビングデッド)。さしあたって中に潜むのはその辺りか。暗がりに抱かれた彼らが妬み、狂うのは生者の持つ命という眩しさだけ。彼らは失ったその白さに耐え切れなくて、堪え切れなくて、その光に手を伸ばし、そして握り潰すのだ。

 命あっての物種。

 そんなものさえ亡くした死者にとって、生者の抱えた事情など取るに足らず、瑣末に過ぎず、故にどのような喪失がXXにあったにせよ、彼らがXXを仲間(しにん)と認めることはない。失った姉、許嫁。死者がそんなものを斟酌(しんしゃく)し、XXを同胞とする道理がどこにある。


「馬鹿か、俺は」


 つまらぬ迷いは瓦解した。一時的だろうが、今はそれで良い。では地下墓地の何を恐れて俺は武装する。駆動銃にかかった指に目をやる。

 俺が恐れているのは救いを求めるように襲い来る彼らの手。

 俺が武装しているのはその手を鉛とオリハルコンで穿つため。

 なぜなら俺は、彼らが妬み、そして眼をくらます生者だから。

 XXは自答した。

 目前に開いた闇より、死者の冷気と丘陵の夜気を溶かした重い風が、泣き笑いのような音を立てて流れ出ていく。それはもうすすり泣きや含み笑いといった隠れ潜ますような音色ではない。刹那の先には襲いかかる、その怒りや哀しみを堪えようとして堪え切れない者が、口を抑えた末に漏らす悲痛な悪意である。しかしながら、東岸から吹き上がってくるはずの海風が、どのように巡り巡ってこの風穴にたどり着き、そして最西のここより吐き出されるようになったのだろうか。

 XXは憶測を払うように首を左右に振ってから、そして静かに闇に足を踏み入れていった。


 闇に入って数歩。踏みしめる感触は一転する。

 これまでは湿り気を帯びた、重く粘るような土を靴底に感じていたが、いまは軽く乾いた貝を踏むように、ブーツのカカトが細々とした破砕音を立て始めた。

 ――骨か。

 XXはそして、壁面に燭台を見つけて傍による。

 蝋はなかったが、ティーカップ型の台は琥珀色の油に満たされていた。香りからするに、高価なプライムトードーのものだ。火種があれば灯りが取れそうである。彼はそう理解して、腰のベルトから、先ほどガンスミスより投げて寄越された駆動銃を抜いた。 そして弾倉を抜いてから銃の撃鉄を燭台に寄せ、引鉄を絞る。

 カチン。

 金属音が一つ。ポっという音を立てて燭台に橙色の火が灯った。これまで闇に眼が慣れていただけに、こんな僅かな灯りでも目がくらむ。そして眼を眇めつつも照らされた辺りを見渡した時、XXは息を呑んだ。


「――壮観だな」


 地下墓地――カタコンベ。

 洞窟内の造りは壁や仕切りが幾つも配され、さながら迷路のようになっている。

 その合間に挟まれてうねるように曲がる道は緩やかな下りとなっており、その名に相応しよう地下へと続いている。

 行く先は暗く見えない。

 根底につくと言われても、笑えぬだけの深さがありそうだ。

 そして洞窟内の壁も床も、天井も、全てが褐色の骨で出来ている。

 壁は頭蓋骨を石垣のようにして組まれている。300や400では効かぬ数である。

 壁の隅や角には人間一体の骨が丸々支えるように使われている。まるで見張り番のような立ち位置である。

 天井を支える支柱は、手か足の骨を幾つも束ねて造られており、概ねそれらしい形を保っていた。

 これではまるで、遺体は洞窟に埋葬されているというより、埋没している。洞窟そのものとなっている。

 地下墓地――カタコンベ。

 ここは洞窟に遺体を安置する場所ではなかった。ここは、遺体で洞窟を作った場所だったのだ。

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