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連弾のオリハルコン  作者: 常日頃無一文
第2章:不立文字飛鳥
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モノローグ:死体奏者

 何時までも止む気配のない雨のせいで、ボクのお友達はどんどんと崩れていく。灰色の肌がグズグズと水を吸っていき、ブヨブヨと腫れていく。やがて限界を迎えた頃合いに肉が滴り、そして真っ白な骨が覗いてくる。

 腐っているのだから、こんな強い雨に打たれたらひとたまりもない――。

 そういう常識をボクが学べるのはもう少し先のこと。だからそのとき、ボクは動かぬ友人の崩壊を見せられて、ほんの少しだけ驚いた。


「――――」


 でもそれだけ。

 雨を含めば土は緩くなるし、朽木も重くなって自分に耐えられなくなる。するとそれらは、形を楽な姿に変えていく。崩れるとはそういうことだから。

 そしてボクの友達も、つまりはそういうものの類なのだろうから、枯木といった崩れやすいものと一緒に、ここに捨てられたのだろう。そんな風に理解した。だから驚いたのは、本当にほんの少しだけ。

 雨は止まない。

 悲鳴も止まない。

 次々と周りに、新しい友達が降ってくる。 

 焼け野原の熱に焦がされて、フィナンセルの空は雨曇のそれよりもどす黒い。空があんなにも分厚い雲に覆われたのは、生まれてはじめてのこと。

 焼け爛れた大地に向かい合うのが辛くて、見てられなくて、空が慈悲の涙をこぼしてきた。

 そういう都合のいい考えを持てるようになるのは、青い髪のお兄さんに拾われる、もっともっと、ずっと先のこと。


「あら、戦利品というべきなのかしら?」


 黒い空を遮る、白の仮面。

 このぬかるみを、まるでレッドカーペットの階段を降りてくるお姫様みたいに歩んでくる女の人。もちろん、この喩えだって今だからこそ言えること。

「――へぇ。(レナコーン)で捌けばそれなりにはなるかしらね」

 うっとりと笑うその人は、ボクの姿形を値踏みする。


「お嬢ちゃん、幾つ?」

「お父さんは生きてる? お母さんは生きてる?」

「言葉は話せる?」

「ああ、何もかもが完璧ね。――いらっしゃい?」


 差し伸ばすその手は月明かりよりも綺麗で、けれどもどうしてか、飢えた狼よりも恐ろしかった。

 だからボクは、お友達にお願いした。

 すすり泣くように、あるいは含み笑いをするように。

 ――たすけて。

 と。

 けれどもそれに、女の人は笑う。

 誰だって逃げ出した、お友達の応援に、女の人は目を細めて笑う。


「お嬢ちゃん、死体奏法(おもしろいこと)できるのね?」


 そしてボクは、本当なら誰もが最初に経験するはずの感情を、ここで手に入れる。崩れるのではなく壊れるということを理解する。そう、お友達が壊されていく。綺麗に綺麗に、壊されていく。女の人が優雅に手を踊らせれば、お友達の頭がトロリと零れていく。

 まるで三日月みたいな煌めきが、時折女の人の手を飾る。

 その度にボクのお友達は、あまりにあっさり土へと壊れていく。


「ふふ、人売り人買い人攫いはね、死体奏者(ネクロマンサー)でさえ命を投げ売って誓う神様に祝福されたお守りを、いつも持っているものなの」


 死神(リーパー)

 女の人はそう、教えてくれた。

 言葉でもって。

 光景でもって。

 そして。

 山のようにいたお友達が。

 山のようなただの土に壊れたころ。

 再度女の人は手を差し伸べてきた。


「自分の足で来たければ、これが最後よ。嫌なら今度は、あなたを『連れて』行かずに『持って』行くことになるわね」


 あまりに怖くて足が動かないということはあるけれど、あまりに怖くて足が動くということもあると、その時ボクは、自分の身体に教えられた。


「そう、言葉は分からなくても、伝わるみたいね」


 ボクがその手をとった時に、三日月みたいに笑う女の人。


「恐怖って」


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