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第6話:銀狐

――Side Yuuto Souga


むぅ…視線が痛い。


国境を越え、大和へと入った俺達は『南城』という街に来ていたのだが…


すれ違う人すれ違う人が、俺の顔を見やがる。


それというのも俺は今、擬態を施していない。それは、あっちゃんと契約した時に


『マスターは今のお姿で堂々とお振る舞い下さい。下賎な者どもの視線如きで、その至高の美しさを隠匿してしまうのは勿体ありません。そもそも。人間というのは…以後、愚痴が続いたので省略』


と言われたのが発端だ。そもそも擬態をしていた最大の理由は元居た世界での追っての目を晦ますためである。また、この世界では擬態時の姿が追っ手の対象となっている。そう考え、ならいっかという事で、金髪の紫瞳で街を闊歩しているわけだ。


「…やっぱりうざいな」


手当たり次第に、何見てんだ!?あぁん!?と不良風に喧嘩でもうったろか?


そんな風に思いつつ、町並みを見回す。


クリアールとはまったく違う町並みで少々面くらう。完全にファンタジーのお城がある街ですね。って感じのクリアールとは違い。此処は元居た世界に似ている。


家屋は和風もあれば洋風の物もあるのだが、全てが木造。


そして、何より驚いたのが


「機関車?」


そう、線路があり、当然レールがあり、駅がある。そこには機関車がポッポーてな感じで走っているのである。


「あれは精霊機関車だ。精霊のエネルギーを利用して推進力を得ている」


ふむ、要するに蒸気機関車の石炭が精霊になりましたバージョンか


「私も乗るのは初めてだがな。これに乗れば首都である『京』まで一直線だ」


駅前の隅の方で立ち止まって、鈴ちゃんの説明を聞く。そして、さっきから不機嫌そうに機関車を見ているゴスロリ少女に視線を向けた


「どした?」


「いえ……機関車は確かに便利なものだと思いますが、その代償の事を考えていたのです」


「……それは、この汚染されつつあるマナの事だな」


「…流石です。お分かりになりましたか」


それはこの街に入った時に感じた違和感。元の世界で車の排気ガスによる空気汚染があるようにこの街ではマナが汚染されている。それは微弱だが確実に進んでいるもので放っておけば生物は死滅するだろう。


「大方、あの機関車に精霊の力を増幅するようなもんでもつけてるんだろうさ。あれだけのもんを動かすのには相当の力が必要だろうからな」


「はい…1下位精霊に100しかないエネルギーを1000にしようとすれば当然他のところに代償が出るでしょう」


「問題は肝心の作った奴らがこれに気がついていないって事だろうなぁ」


あっちゃんが言うには各属性の上位精霊がマナを取り込み、そこで生まれたエーテルが各属性の下位精霊となるらしい。なので精霊姫であるあっちゃんは当然、この異変に気がつき、また、マナを操れる魔法使いの血筋の俺も当然気がつく。


「愚かですね……自ら破滅の道を辿るなど…」


そこで説明を終え、だまって俺とあっちゃんのやり取りを聞いていた鈴ちゃんが口を開く


「…正直二人の話しは良く分からなかった…だが、この機関車が便利な代わりに自分達の首を絞めているという事はなんとなく分かった……どうにかならんのか?」


俺の能力を使えば、マナを正常に浄化することも可能だ……だがな


「鈴ちゃん、仮に俺がどうこうできたとしてもね、手を出す気は無いよ。自分の尻は自分で拭けってね」


「えぇ。自分達の業を他力本願で何とかしようなど……虫唾が走りますね」


あっちゃんも言い方は辛辣だが俺と同じ意見のようだ。


「…言われて見ればその通りだ。それに、この国の事情に私が口を出しても聞く耳もたないだろうからな…だが…」


「安心しなよ。後2,3年でどうこうなるっていう話じゃないしさ。馬鹿じゃなけりゃ対処法を見つけるでしょ。ってなわけで俺達は歩いていこう」


「はい。ほら、いきますよ」


あっちゃんが鈴ちゃんを急かし、その場を後にする…俺達は機関車には乗らずに徒歩で京を目差す。




南城で派手に余っていた金…といってもそれほど無かったが……を使いきり、食料など必要品を買って再び出発……したのだが……


「薄気味悪いな…」


鈴ちゃんがぼやく。若干声が震えてるし…


そう、俺達が入ったのは地元じゃ妖ノあやかしのもりと言うらしい。


通常、南城から京へ行くには機関車を使うか、森を迂回し街道を行くかのどちらかである。俺達はめんどいので森を突っ切ることにした。ちなみに言いだしっぺは俺。


【けけけ、鈴嵐はこう見えても乙女チックでな、お化けが怖いんだぜぇ】


先程は小難しい話で会話に入れなかった旋武が嬉々として喋る。退屈だったんだろうなぁ


「ば、馬鹿、怖くなど無い!」


声が震えてますよー?


「ふむ…鈴ちゃん、手でも繋ぐ?」


からかうような俺の提案は


―ギュ


若干ムッとなったあっちゃんが実行した


「あっちゃんも怖かったの?」


「違います!私は…た、ただ……マスターが…」


ごにょごにょと言葉を濁す。つまりは嫉妬したのだ。あぁ、可愛いなぁ♪


「よしよし。で、鈴ちゃんはどうするよ?って、もうめんどくさいからいいや」


「なっ!?」


右側にはあっちゃんがいるので空いている左手で半ば強引に鈴ちゃんの手を握る…旋武を振り回しているのに華奢でスベスベだ。大方、力の恩恵なのだろう


暫く、真っ赤になった鈴ちゃんの顔と剥れたあっちゃんの顔。そして、二人の手の感触を楽しみつつ、歩いていく…




しかし、それほど起たないうちに繋いでいた手は解かれ…


「はぁああ!!」


鈴ちゃんが旋武を振るう。


なるほど…妖ノ森ねぇ…


そう、その原因は襲ってくる化け物によるものだ。


河童みたいなの、一つ目の気味悪いガキ。トカゲみたいなのとか…ウザ!


中でも強敵なのが…


「くっ、まさかスライムとは!」


鈴ちゃんが舌を巻く。俺も驚きでいっぱいだ。


家にあったRPGでおなじみのモンスター最弱層のスライム。当然、あの愛らしい顔なんてもんは無くただの液体が集まったような物体なのだが…


これが、最弱なんてとんでもない。以外に強い。


旋武を振るうも、身体は液体で出来ているスライムはには効かない…。何度か振るううちに体の液体が飛び、徐々に小さくはなるのだが、すぐさま飛んだ水滴がくっ付き再生。


おそらく、コイツを倒すには一撃で消滅させないと駄目だろうな…


さらに、身体を構成しているのは普通の液体ではなく硫酸のような酸のようなもので、触れたものが溶ける。


分かりやすく言うなら、酸を薄い膜で覆った知性の低い生物…かな。


なので、相手の攻撃も自分の体から水鉄砲を数滴発射すると言った感じだ。


【マスター、どうして攻撃をしないのです?】


相手の攻撃を避けつつ、鈴ちゃんの雄姿を見ながら分析を行っているところに、エレメンツウエポンモード…(以後、武器あっちゃんと呼称)が話しかけてくる。


「いや…ここで手を出すのはルール違反な気がして…」


RPGで例えるならLVMAXの改造データ使用のキャラが全力でスライムを攻撃するみたいなもんだ。


あまりに大人気ない…大人じゃないけど…


【ですが…正直、あの小娘では勝ち目はありませんよ…】


そうだなぁ…ま、負けもしないだろうけど


鈴ちゃんは弱くは無いのだが、攻撃が物理攻撃に限られるため、通じない相手とは頗る相性が悪い。


スライムもそうだが、レイス…所謂悪霊タイプの相手とも相性は最悪だろう。


「丁度良い機会だから、あっちゃんの力を使ってみるよ」


小太刀を翳し、魔力を込めていく。


【あぁ♪…あ、あふぅ…ち、力が…あ…あ…あん♪】


……なんかあっちゃんが色っぽい声を上げているが…気持ち良いのだろうか?


とりあえず、気にしないで両手に小さな重力球を作り…


「鈴ちゃん、どいててー」


と、叫んでから、ポイポイっと投げる。


スライムに向かって飛んでいった二つの重量球がぶつかり小さな穴が出来る。


マイクロブラックホール。


その穴にスライムは吸い込まれ、やがて穴は消失。あら不思議、物体が消えましたーー。


それを見届け、手元で小太刀をクルクルと弄んだ後で納刀。


「勝利の醍醐味、決めポーズ!どうよあっちゃん?」


【素敵です…マスター】


「ありがと。あっちゃんの能力も素敵だよ」


あっちゃんの能力は影と重力を自由に操れるらしい。そして、極めつけは重力を利用したブラックホールの形成。


すっごいなぁ、あっちゃんは。


と、あっちゃんを褒め称えていると…


【さ、流石姫さん。とんでもねぇ力だ】


と、旋武の言葉に…あっちゃんはむっとし…人間verになると


「それは違います。私ではなく凄いのはマスターです」


と断言し、説明を始める。


「私たち、姫のエレメンツウエポンはその名の通り、『炎』『水』『緑』『風』『光』そして私の『闇』の六つの属性に分類されます。その他に全てのエレメンツウエポンがこの何れかの属性に属するでしょう」


【おれっちは緑だしな】


「えぇ。そして、先程あげたのはあくまで初歩。各属性ごとに極めればさらに上位の力を使えるようになります。つまり、各属性ごとに二つ属性があるという事です」


あっちゃんのもう一つの上位能力が重力だ。


闇属性の究極技はブラックホールを作ることが可能。そしてそのブラックホールを作る際に重力を利用するのだ。その関係から重力を自由自在に操れる。


「上位の属性を先程言った順から並べると、『熱』『液』『塵』『空』『星』そして『重』となります」


あっちゃんの説明だと上位属性は恐ろしく威力が高く、全てが一撃必殺であるらしい。


「そして、いきなりマスターは私の上位能力を使いました…最もこれは私との相性が抜群でラブラブという事もあるのでしょうが、マスター自身の膨大な魔力とセンスによるものが大きいでしょう」


「そんなに褒めるなよぉ。テレテレ」


照れ隠しにあっちゃんの髪を撫でる。まぁ、褒められて嬉しかったという感謝も篭っているが…


そして、あっちゃんの話しと先程の苦戦から、鈴ちゃんは…


「…まだまだ……修練が足りんな…私は」


と、項垂れたまま呟く…


「ええ。初歩の『緑』の能力のうち、身体能力の強化しか使っていないのですからまだまだです。マスターの足元にも及ばないどころか、比べるのも失礼です」


「あっちゃん…鬼だな」


死人に鞭を打つあっちゃん。どうやら、俺以外の会話対象に毒を吐くらしい。


俺の言葉を聞き、慌ててあっちゃんは…


「で、でもまぁ。あそこまで身体能力の強化という能力を極めるとは思っていませんでした。才能はありますよ」


と、フォローを入れた。


再び、歩みを開始する。


戦闘の結果、恐怖心は無くなりつつあり手は繋がれていない…ちょっとさみしい


「ところで、闇姫。前から聞きたかったのだが、他の姫とはどういう方々なんだ?」


歩いていると鈴ちゃんが会話を振る。それに対し…


「…そうですね……一言で言うなら…人格に問題のある…性格破綻者ですね」


「「………」」


そのあまりといえば、あまりの返答に俺と鈴ちゃんは固まる。


あっちゃんは続けて説明し、先程の言葉を補足していく


「長女である炎姉様は…筋肉隆々の熱血漢で、いるだけで暑苦しく、鬱陶しいです」


は?


「次女に当たる水姉様は、眼鏡をかけた知的な美人という容姿でプロポーションも抜群です。ですが…同性愛者の上にナルシスト……炎姉様とは犬猿の仲でいつも言い争っています」


ちょ、ちょっと…


「三女の風姉様も容姿に関しては穏やかな美人です。普段も物腰が柔らかい素晴らしい女性なのですが……癇癪もちで…時にヒステリックです」


い、イメージが…


「四女である緑姉様は…極度のぶりっ子の上、天然です。見ててしばき倒したくなります。容姿は美少女なので、それも合間ってさらに腹が立ちます」


も、もうやめてーー。あっちゃん!


「五女である光姫は、真に不本意かつ、遺憾なのですが…私の双子の姉というだけあって、容姿は瓜二つです。違いは髪の色と精神年齢です。あれはガキです。煩いです…おまけに馬鹿です。救いようがありません…」


「そして、最後は毒舌の闇姫という訳か……正直、イメージが崩れるな」


鈴ちゃんがため息を吐きながらいう。今までの事をちょっと根に持っているのだろう。


「誰が毒舌ですか!!そのままの事を正直に話しただけです。あなたの無力、無能もそのままでしたので言葉に出しただけです。真に心外です!気分を害しました」


むぅ…雰囲気が悪いな……俺はあっちゃんの頭を撫でて機嫌を取りつつ…


「それじゃ、所有者はどういう人なの?あっちゃんは知ってる?」


「申し訳ありません。他の愚図マスターにはまったく関心が無かったので存じていません。ですが、光姫と風姉様はまだ契約していません。行き遅れです…」


「そ、そう…」


ひっどいなぁ


「ですが、たとえどのような所有者を得ようともマスターには及びません!」


嬉々として、胸を張ってあっちゃんは断言する。


「ありがとね」


物凄く過大評価しているような気がするが…とりあえずお礼を言っておいた。




森の中を暫く歩いていると違和感に気がつく。


いつしか霧が濃くなり、鈴ちゃんの姿も見えない…


「マスター…」


「うん。結界だね」


それに、この巨大な力……どうやらボスキャラのようだ。



「存外冷静じゃの…もう少し狼狽すると思ったんじゃが……拍子抜けじゃ…」


そして、声が聞こえ…その途端に霧が晴れる。


視界には開けた木々に囲まれた場所で、巨大な岩が見える。


そして、目の前には白い着物を着た20前半くらいの年齢の女性が居た。


赤い瞳に、銀の長い髪。着物の隙間から胸の谷間が見えており、非常にセクシーだ…


そのことからダイナマイトばでぃの持ち主だという事が伺える。


だが、それよりもだ。その女性の特徴として一番目立つのは、銀の獣耳と同じく銀の7本の尻尾。


「して…強き者よ。我に何用じゃ?討つためにでも来たか?」


「いいや、用件なんてないさ。ただ、この先にある街に行きたいから森を通らせてもらっただけだ」


敵愾心を丸出しにしているあっちゃんを制して、女性の問いに簡潔に答える。


「くくく…面白いの……我の姿を見てそのような態度に出るとは…人間は異端を認めず、我の姿を見るなり斬りかかってくるというのに……」


「まぁ、俺もあんたと同じ側…異端サイドだしなぁ。それで、そっちこそ用件はなんなのさ?わざわざ俺だけ招待して…」


厄介ごとは嫌だなぁ…


「何、お主に興味があったのよ。長年、この森を守護しておって退屈しておってのぉ。遊び相手を探しておいたんじゃ…」


そう言うと、女性の周りに赤い魔力…いや、この場合妖力が纏わりつく。そして、あっちゃんも武器verになり、臨戦態勢になる。


「あのさぁ、意味も無く戦いたくないんだけど…俺、別に戦闘狂って訳じゃないしさぁ……」


「ふふ、なら我を満足させたら褒美をやろう」


褒美ねぇ…


あんまし気は乗らないけど…仕方ない……


「分かったよ。んじゃ、闇の姫に愛されし剣士。宗我悠斗…参る」


「妖ノ森の主にして…七尾の銀妖狐『ぎん』いざ、尋常に勝負」


互いに、最低限の礼儀である名乗りを上げて…地面を蹴った。




銀に数本の魔糸が絡むが…


「小賢しい!!」


纏っている妖気が意に介せず、そのまま突進し糸が切れる。


そして、そのまま右手振るう…赤く鋭い爪が襲い掛かるが…


悠斗が小太刀を振るう。


斬霧ざんむ


両手の小太刀での超高速の六連撃…それを片手で使う。


一瞬で三連撃を生み出し、一撃目で受け止め、二撃目で弾き飛ばし、三撃目で反撃に出た。


その反撃は銀の左手の爪で受け止められる。


「ふふ、楽しい。楽しいぞ!強きものよ!!」


「はぁ…」


興奮し、笑みを浮かべる銀に対して、悠斗の表情は優れない。


距離を取って向かいあう。そして…


「近距離は見事じゃが…遠距離はどうかの?」


銀の七本の尻尾がユラユラと動きはじめ、銀の毛並みは赤く、だんだん灼熱の色と変わり、辺りが歪んだように見える。


「…焔炎ほむら!」


そのまま七本の炎の尻尾が伸びてくる。上下左右…様々な方向から七本の炎が迫り来る…しかし……


軽く、本当になんでもないように悠斗は剣を振るう。それだけで、七本の炎は四散した…


「そ、そなた…一体何を!?」


一連の流れに銀は驚愕する。一本でもかなりの威力を誇る焔炎。それを最大出力である七本を放ったのだ。あたり一面を一瞬で火の海へと変える事も可能な技を造作もなく打ち破ったのだ。


悠斗を睨みつけるが、そこで銀は気がついた。


先程とは違い、悠斗からは在る物が生えていた。


それは翼。いや…翼に見える何か……


羽根で出来ているわけではない。ただ、赤く輝く粒子が翼の形に集まって見えるだけだ。


そして、その翼からは無数の赤い粒子が迸っている。


「『フレア』って、俺は呼んでるけどなぁ。俺の戦闘形態といった方が良いかな?これがないと、自分の力に耐えられないんだよ。貧弱なんでね」


勝ち誇るわけでもなく、苦笑いを浮かべ淡々と自分の力の説明をする。


「……弱点を教えてくれるとは…余裕じゃの?」


「というより、こうなったからには勝ち目無いよ」


「ほざけ!!」


舐められている……最強の妖魔の一角とも呼ばれたこの七尾の銀妖狐が…


怒りに身を任せ、己の最大級の術を構築する。


七本の焔の尾は収縮し一つの球に。そこに落雷が落ち、雷を纏う。


雷光焔塊らいこうほむらだま……」


炎の塊がバチバチと帯電する。一体、どれほどの威力を誇るのか?


いざ、その球を投げようとしたところで…


「お疲れさん…」


今度は刀を持っていないほうの…右手を軽く振る。


それだけ…たったそれだけで…銀の手に集まっていた力の奔流は跡形もなく消え去った。


「ば、馬鹿な……」


圧倒的…戦いにすらならない……


そして、ゆっくりと悠斗が闇姫の切っ先を銀へと向ける…


「くっ!?」


その瞬間、とてつもないGが加わり、蹲る銀。


身動きが取れない銀に歩み寄り、悠斗が手を伸ばしたところで銀は目を瞑る…


(殺される!?)


しかし…


「んぅ!?」


その手は銀の形の良い鼻を抓んでいた。


「俺の勝ちで良いよね」


そう言って、そのまま両手でふにふにとほっぺを突っつき始める悠斗。


即座に…


「マスターーー!!何をしているのですか!?」


人型に戻り闇姫が叫ぶ。その表情は面白く無さそうだ


そんな姿を見て、優しく闇姫の髪を撫でる悠斗。


もう既にフレアと言う赤き翼はその背には無い。


そこで、我に返った銀が口を開く


「…止めを刺さんのか?」


その言葉に、悠斗は不思議そうな顔をし…


「殺しちゃったら…褒美が貰えない」


と、言い切った。


「ふふ…くくく……あっはっは!!我の完敗じゃ!」


あまりにも簡潔で的を得た返答に銀は笑うのだった…




しばらくして、ギンちゃんは笑うのをやめ落ち着きを取り戻す。


「しかし…そなたの力は反則染みておる……」


「だから言ったじゃん。こうなった以上…勝ち目無いって。俺も疲れるからあんまり使いたくないんだけど…ギンちゃん強かったから……それよりも連れが居るから…ご褒美貰って早く行かないと」


「そうじゃったな……」


ちょっと、わくわくする。ご褒美ってなんだろ……


「なにやら嫌な予感がします」


あっちゃんが不意にそう漏らす。そして、ギンちゃんが手を差し出す


「手を…」


言われたので俺も手を差し出す。


だが、ギンちゃんの掌には何も無い……


「そのままじゃ…」


言われたのでそのままで待機する。やがて、ギンちゃんの体が白く発光し…光を放つ。


そして、光が晴れるとそこにはギンちゃんの姿は無く…代わりに


「小太刀?」


あっちゃんと同様で銀尽くめの…そして柄に紐みたいな装飾が七本施された小太刀が握られている。


【これが褒美じゃ……妖刀『銀狐七星』】


小太刀からギンちゃんの声がする。


「褒美って…」


【我じゃ。不服か?】


そう言われてもねぇ…どうしたものかと考えていると……


「そんなナマクラ。私が居ますのであなたは要りません」


【ほぉ…小娘。我と張り合うか?】


「張り合うも何も……相手にもなりません」


なにやら、火花が散っている。


【では、主にどちらにするか決めてもらうとしよう。もっとも、そんな貧相な身体では主を満足させる事などできんと思うがのぉ】


「年増より私の方がお肌がピチピチです」


……論点がおかしなことになっている。つか、あっちゃん。あーたも、長生きしてるでしょうに……


「あー、盛り上がってると所悪いんだけど…本来、俺は小太刀の二刀流……つまり二本必要なんだわさ」


その返答に互いが不服そうな顔をする…


【我だけでよいのに…】

「私だけで十分です…」


同時にそうぼやく。あんたら実は結構息合うでしょ?


「とりあえず、ギンちゃん。いいの?」


【もちろんじゃ。正直、退屈しておってのぉ。そなたを主とし、死する時まで仕えようぞ】


それじゃ、貰っとこう。ここで断ったんじゃ、何のために戦ったのかが分からないし…


何より俺は貰えるものは有益になる限り貰っとく主義だ。


「んじゃ、ヨロシクね。ギンちゃん」


【うむ…主よ】


こうして、新しく妖刀兼妖狐のギンちゃんが仲間に加わった。


「マスター行きますよ!!」


対照的にあっちゃんの機嫌は加速度的に悪くなっていった…


やれやれ……








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