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第二話:異世界へようこそ

――Side Yuuto Souga



「……はぁ〜、これからどうすっかな…」


人知れずため息を吐く…


狭く暗い空間に居るという事もあいまって気分がめいっていく…


だが…問題はそこじゃない……


やっと、悪質変態異常な精神と思考を持つ両親から解放され、ようやく人並みに…普通に生活できると思ったのに……その希望は一ヶ月と持たなかったのだ…


挙句の果てには牢屋の中


「…はぁ〜〜。なんか…どうでもよくなって来た…」




さて、何故このような状況になってしまったのか?ちょっと時間を遡ってみよう…




〜〜回想〜〜


猛烈に嫌な予感がした…


沙那ちゃん下に書かれていたのは間違えなく何らかの魔術を行使するための魔法陣だった……


光が収まり、ゆっくりと辺りを見回す…


……黒いフードを被った男…かどうかは分からないが、とにかくそんな奴らに囲まれていて…リーダー格なのだろう。眼鏡を掛けた金髪の優男がにこやかに両手を広げ…


「ようこそ!わが国へ…私の名はミハ…「…ダボがぁああーーーー!!」グフ!?、な、何を…グッ!?ガッ!?グヘッ!?」


「お前か!お前がこんな事を…ふざけんな!!俺の平穏を返せ!!死ね!朽ちろ!!」


理性が飛んでいた…元凶と思わしき、男に拳打の嵐を見舞わせる。周りがどよめき…「ミハイル様ーーー!!」とかほざいているが知ったことか!


俺は暴れるだけ暴れて…


「くそ、こら、暴れるな!」


「ぐるぅぅ!がるるぅぅうぅ!!Gugagagaa!!」


「ひっ…?」


「ひるむな!突っ込めええ!!」


取り押さえられ牢屋に入れられたのだ…



「はぁ…」


暫くして落ち着いたのだが…自分の行動の軽率さにあきれ果てる。


あの状況では大人しく情報を収集した後に行動を起こすべきだった…ましてや、お偉いさんらしき奴をボコってしまったのだ…


それに…一緒に飛ばされた筈の沙那ちゃんが居ない……どこか別の場所に飛ばされたのか…また、無事だったのか……


ともかく、俺は母さんから学んだ知識を総動員して状況を整理する事にした。


まず、あの魔方陣…あれは間違いなく使い魔召喚などに用いられる物だ…前に母さんがやったのを見たことがある。


多少のアレンジを加えているのだが、基本的な形は同じだったし、魔力の種類が酷似しているのが何よりの証拠だ。


魔力の種類というのは例えるのなら色のようなもの…赤なら攻撃、白なら治療、召喚なら紫といった感じになる。もっとも色なんて見えないんだが、感覚的にそういう感じなのだ…


で、今回のケースは紫。召喚の可能性が高いという事だ…とはいえ…


「まいったな…」


正直お手上げである。召喚された場合、送還をすれば基の世界に戻れるのだが、召喚と違って、送還は比べようも無いくらい難しい術なのだ…


召喚はいうなれば、ランダムにそこらを歩いている人間を引っ張って来るようなもの……それに対し、送還は広大な迷路の中、何重にも頑丈な鍵がかかった沢山のドア中から一つだけある自分の部屋に戻るようなもの。当然、場所は分からない。


ま、分かりずらい例えで恐縮だが、ようはすっごく難しいって事だけ理解してくれればいい。


さらに言えば、あの母さんですら偶然の産物で生み出した技術。異世界への転移。その応用が送還である。


魔女界とは違い、書物や資料も無い…。まさに不可能、お手上げである。


「はぁ〜…これからどうすっかな……」


そんな経緯から冒頭に至る。



「沙那ちゃんは無事かな…」


場所か、それとも時間軸か…いずれにせよ。召喚の過程で離れ離れになってしまった。まぁ、とりあえずだ…


「出るか」


状況整理もしたし、何時までも此処にいるわけには行かない。


とりあえず、牢の壁を触ってみる。


対魔術用防護壁……生半可な魔術じゃびくともしない壁だ。まぁ、でかい術なら関係ないが、脱獄するのに目立つのはよろしくない上に、今の俺はそんな大それた術が使えない。


「…あの手で行くか……」


あまり気はすすまないが、この際仕方が無い……。


俺はゆっくり目を瞑り…作戦を実行した。


「ぐっ!?ぐああああ!!痛い…痛いぃぃ!!」


「な、なんだ!?お、おいどうした!?」


俺のうめき声に反応し、慌てて見張りをしていた男が鍵を開けて入ってきて、俺に蹲る声を掛ける。それを見計らって


「ごめんさい」


「なっ!?もが!?む〜む〜」


痛がる振りをやめ、ガシッと口を押さえて声を出せないようにして…


「てい」


首筋に手刀を落し、意識を刈り取った…。



一番スマートな脱獄方法。だけど、人の良心に漬け込んでるので、物凄い罪悪感に苛まれるのだが…


いきなり召喚した奴らの仲間だし…おあいこさ


強引にそう結論付けつつ、倒した男の持ち物を探る…


「えっと…財布と……鍵と……う〜ん、やっぱ地図とかは持ってないか…」


逃げるなら色々と必要だ。さしあたってはこの世界のお金だろう…。泥棒なんてしたくないけど…いきなり召喚…以下略


財布と鍵をそっと、自分の懐にしまいつつ…


「えっと…あとは……あ、服が目立つな……それにちょっと寒いし…」


倒れた男が着ている黒いフード付きのローブを拝借。


……いきなし…以下略


だんだんこの言い訳もきつくなって来たと思いつつも、多分、風邪を引くくらいで住むだろう、けど、念のために、牢屋内にあった毛布を掛けてあげて…よし、OK


自己満足に過ぎないような気がそこはかとなくするが……気にしないようにしよう。


そう自己完結して、ローブを着込んで、俺は牢屋を後にした。



さてさて…出たのはいいんだが…


牢屋から出て周りを見回す。それほど広くは無いと思うが、どこに何があるか分からない上、他の看守と鉢合わせしてしまう可能性がある…。


スッと目を閉じて周囲の気配を探ってみた…


ん?誰か居るな…


人の気配を感じたのは、俺が居た牢屋の三つ隣の牢屋。


これは…好都合か?牢屋に居るという事は俺と同じ囚われた人である可能性が高く、また何も聞かずに暴れて牢屋に放り込まれた俺よりもこの世界の事について詳しいはずだ。


だが、物凄い凶悪で危ない奴が囚われているという可能性もある。とりあえず…


見てから判断することにし、そっと気配を消して移動し、そのまま牢屋の中を覗き込んで…


「……っ!?」


息を呑んだ。


牢屋の硬く無骨な壁に寄りかかるようにして目を閉じていたのは…一人の女性。


長い黒髪と整った容姿が月明かりに照らされて、美を強調している。そして…


スリットの入った黒いチャイナ服と抜群のプロポーションが見事にマッチングしており、思わず見惚れてしまった…


って、何故にチャイナ服!?


心の中でツッコミをいれたのだが…


「…誰だ?」


「あ…」


俺のツッコミに反応したかのように女性が目を開け、俺の目を見ながら聞いてくた。


瞳の色も黒。見事なまでに黒尽くしだな…とか思ってる場合じゃなくて…


「…とりあえず、話しは後。今は…」


ガチャっとさっき奪った鍵で錠を開ける。うん、盗ってきといてよかった。


「ここから出よう。俺もキミと同じく囚われてた者だし、利害は一致してる」


相手に警戒心を与えないために出来る限りの笑みを浮かべる。


「〜〜っ!?あ、ああ……そ、そうだな」


「? どうかした?具合でも悪いとか?なら、おぶる位は…「け、結構だ!」…そ、そう?けど、あまり大きな声は出さないでね、仮にも脱走するんだし、俺ら」


す、すまない…と恐縮しつつ、女性が早足で俺の元にやってくる。


歩き方で分かる…この人……武人だ。しかも達人クラス…。隙とかないし、静かだし。これなら気配を消して動くことも出来るだろう。


「じゃ、行こうか」


「あ、ま、待ってくれないか。その…囚われる時に盗られた物を取り戻したいんだ……この状況でいう事じゃないが、大切な物なんだ。駄目なようなら一人で先に逃げてくれ」


「いいよ。置いて行くのも目覚めが悪いし、二人なら効率がいいし、探そう」


それに、出来ればもう少し必需品を獲得しておきたい。願わくば、地図とこの世界のことが分かるような書物と…後は水と食料と言ったところか……


「…すまない……世話をかけるな」


「いいよ。というか、喋っている暇があったら動こう」


今は深夜といった所か……夜明けまでには此処を出ないとややこしくなる。


「で、探しものって何?」


「…青龍偃月刀という槍のような武器だ」


珍しい得物を使うんだな…


「じゃ、まず詰め所に行こう。宛ても無く探しても効率悪いし、誰かに聞いた方が確実だしね」


少々気が引ける、強引な手段をとるわけだが…しかたないよな……



その言葉に女性も頷き、その方針で行動を開始する事にした。






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