第9話:編入試験
――Side Yuuto Souga
鈴ちゃんが倒した盗賊を魔糸で縛り上げて、廃屋の片隅に転がしておく。
念のためにあっちゃんの能力の『悪夢』を使用。これで三日間は悪夢を見続けるので目を覚まさないはずだ……ついでに俺の影に質量を持たせて見張りをさせとく。
魔力を20%くらい影に持たせることで俺の2割程度の威力の魔法も使用可能……っと。よし、あっちゃんグッジョブ!
起きた時の精神状態を想像するとちょっと気の毒だけど……ま、いっか。
「んじゃ、よろしく」
「了承した」
影の俺は真面目な性格のようだ。ちょっと、面白い…。
ちなみに、姿形は俺の姿で色が黒一色。濃度で差がある位の、まっくろ黒助である。
「街に着いたら転移させるから」
俺の影を戻す際に、盗賊たちも一緒になって転移させるという寸法。
こんな人数運ぶのは嫌だからの措置である。そして、いざ、帰ろうとしたろところで…
【待って】
と、小さな女の子の声。
「ん?」
視線の先には鈴ちゃんと戦っていた奴が持ってた武器が地面に転がっている。
「……焼失ですか。炎姉様の所で生まれた割には可愛らしい声ですね」
どうやら、敵の持ってたエレメンツウエポンが喋っているらしい。
「妙だな…私にも声が聞こえる…」
鈴ちゃんがぼやく。エレメンツウエポンは通常はそのエレメンツウエポンと使い手が同調し、ある程度力を使いこなせなければ、その声を聞くことができないという。俺と精霊姫であるあっちゃん、妖狐のギンちゃんは例外。
同じエレメンツウエポンである旋武も聞こえるらしい。
そして呼び止めた用件を聞いてみると…
【焼も行く】
とのこと…
「何処に?」
俺の問いかけに焼失は無言。むぅ…ちょっと寂しい
「…ふふ、マスターを無視すなんて……消しましょう!」
あっちゃんの殺気を浴びても微動だにせず。まぁ、武器だかんね…
「ふむ…焼失とやら、誰に言っているのじゃ?」
ギンちゃんの問いにも無視。
怒るギンちゃんの頭を撫でつつ…残っている鈴ちゃんに視線を向ける。
「私に言っているのか?」
【…うん】
どうやら鈴ちゃんに言っていたらしい。
【焼は気がついたらあのおじちゃんのモノになってた。……あのおじちゃん好きじゃない。お姉ちゃんは好き、だから行く】
むぅ、補足すると……私は無理やりあの男に奪われました。逆らえなかった。でも、お姉ちゃんがあの男から助けてくれた。もうあの男は嫌だから連れてって…という所か……勝手な妄想が入っている気がするが、気にしてはいけない。なにより……
「な、なんていう鬼畜!!一発殴っとこ!」
「お供します!」
「我も行こうぞ」
連れ立って中に入り、リーダーの男に一発づつ攻撃を入れて戻ってくる。その間にも、話は進んでいたようで…
「いや、私には旋武が居るから……」
【連れてって】
「だから…」
平行線を行っているらしい。そこで旋武が…
【連れてってやれよ】
焼ちゃん陣営についた。
「せ、旋武?」
【今の戦い方じゃ限度があるだろ。その嬢ちゃんは火を扱える。使いこなせりゃ、この間みたいにスライムに遅れをとりはしないだろう…】
「だが!私には旋武がいる。その上、戦斧なんて使ったことが無い。やっぱり無理だ」
【だったら、街に着いたら別の器を用意すりゃいいだろ?】
と、旋武。
「そんなこと出来るのか?」
俺が疑問に思ったことを聞くと…
【あぁ、俺っち達は武器に魂が入ってる状態だからな。武器なんてもんは刃こぼれもするし…使っているうちに壊れてくる。だから、器は変えられんだよ】
とのこと…なるほど……
「あ、それともう一つ。契約したエレメンツウエポンのマスターをほいほいと変えちゃって良いの?」
「それに関しては問題ありません。そもそも、契約を必要とするのは精霊姫だけです。基本的にアーツとなるには条件はありません。ただ、エレメンツウエポンによっては力を与える代償を要求する者も居て、その場合には契約と言う形を取る者も居ますが」
補足として鈴ちゃんがアーツの事を説明する。なるほどねぇ。焼ちゃんは運悪くあの男が持ってしまったから……今まで苦労しただろうに……
「…もう一発殴ってこよ」
「お供します!」
「そうじゃの」
勇み足で再度殴りに行こうとするが…
「や、やめておけ!流石に死んでしまう!」
鈴ちゃんに止められた…ちぇ……
ギンちゃんに乗りあっという間に京に帰ってくる。う〜ん、ギンちゃんさまさまだ。よし、後で何かご褒美をあげよう。
そして、あっという間に依頼を片付けて目を丸くし驚いている酒場のマスターから報酬であるお金を貰い、茶髪君に会うために城に向かった。
「…早!?マジでもう稼いだん!?」
城には居なかったので門番に呼べと命令…(あっちゃんが)をして、やってきた茶髪君の第一声がそれだった。
「遅いですよ」
「んなこといっても。俺も学生なんだよ。これでも授業抜け出してきたんだぜ?後で弁解頼むよ?」
不機嫌なあっちゃんの毒舌に両手を合わせてそんな事を言う茶髪君。
「んじゃ、まぁ行くか」
それだけ言って歩き出す茶髪の後に続く俺達。
「とりあえず、金は集まったけどこれからどうするんだ?」
歩きながら質問する。
「あぁ、話は通してあるから直にでも編入試験だ」
「編入試験!?」
困ったな……実技関係はなんとかなるけど、頭を使ったものはどうにもならん。
頭が悪いわけではない、ただキャストである俺はこの世界の事を知らない。そんなもん出されたらお手上げである。
「キャストは本来試験免除で入れるんだが、援助断ったから一般入学と同じ条件だぞ?」
「……参考までに聞くが…試験内容は?」
「今回は華星も居るし、キャストだって事で実技試験……戦闘演習だと思う。ある程度の強さはこの世界で生きていくのに必要だからな。そういうのも学べる場所だし……本来はそれと筆記試験もあるんだけどな」
た…助かった……。その言葉に心底安心していると…
「でも、覚醒してないなら悠斗は厳しいかもなぁ……そこんとこどうなん?」
「覚醒?」
なんじゃそりゃ?
「覚醒って言うのはキャストなら誰もがするものさ。召喚対象っていうのは別に完全にランダムなわけじゃない。何か潜在的な能力を持っている奴とか…そういった奴らが召喚対象になる。例えば、超能力者とか…霊能力者とか」
あ、アハハ……俺、見事に合致してるじゃん!
「んで、普段は眠っているんだけど召喚されたのを気に一気にその能力が開花する。それを覚醒って言ってんだ。んで、どうだ?不思議な力とか使えるようになってないか?」
元から使えます!!ってのは拙いよなぁ……
「あ、ああ。それなら心当たりはあるな」
「そうか!じゃ、安心しな。試験はどうあれ、能力をある程度見せれば試験なんて通るからさ」
そう言って笑う茶髪君。まぁ、これで心配事は片付いたし、気楽に行く事にした。
「広いなぁ」
学園へと続く道……その巨大な門を潜って俺の感想が漏れた。
「こんなもんじゃねぇぜ。演習場もいくつかあるからな。あ、此処が正面入り口で庭みたいなもんだな。綺麗なもんだろ?」
確かに、中央に噴水がありまわりにベンチ。そして花畑がある……うむ、見事なり。
「訓練場は校舎裏だ。まぁ、今は授業とかしてるし、案内とかは編入してからだな。とりあえず事務室に行くぞ」
ロビーを抜けて少し行ったところに事務室があり、窓口に俺達は来ている。なんか大学みたいだ…。
「宗我悠斗さん、鈴嵐さんに杏さんですね。話は伺っております。本校に編入希望だとか……早速ですが、翌日の午後3時から試験の方がありますが、御都合はよろしいですか?合わないようでしたらまた日を改めますが……」
どうやら、茶髪とおっさんが手配してくれたらしく、いきなり編入試験の話になる。
別段、予定はないのでそれで了承した。
「んじゃ、明日またな。頑張れよ」
茶髪君とは門の入り口で別れる。別れ際に労いの言葉をかける茶髪君……結構良い奴かもしれない。
翌日、再び事務に訪れた俺達は案内され昨日茶髪君が言っていた訓練場と思わしき場所に通された。
訓練場は一言で言えばコロシアムみたいな場所だ。円状に広い武舞台となる空き地がドンとあり、その周りを壁が囲み、その上には観客席みたいに座れるように石が階段のようになっている。
そこで待っていたのは5人の男女。
「よぅ」
挨拶をしてきたのは、昨日労いの言葉をかけながら別れた茶髪君。実は暇なんだろうか?
とりあえず手を軽く挙げて挨拶を返すと、眼鏡をかけたいかにも…教師ザマス!といった感じの女の人が前に出てくる。着ている服はスーツ…この世界で初めて見た……
「待っていました。あなた達が本日の試験を受ける方ですね?」
一人ひとり名前を確認して行き、俺が名前を名乗ったところで……
「…宗我悠斗?」
後ろに控えていた、茶髪の隣の女性が反応する。
年は俺と同じくらいに見える。髪の色は黒髪、黒い瞳に目は若干、切れ目だが、それでも美人といえる顔立ち。スタイルはスレンダー…着ているのがTシャツにハーフパンツなのだが、一層細く見える。つか、腰細ぇ……胸は……鈴ちゃんの勝ち。よかったね!でも足綺麗だなぁ……
馬鹿な事を考えていると、それがバレたのかマジマジと俺の顔を見る女性。俺も負けじと見つめ返すが……やがて頬染めて俯いてしまった。よし!勝ったぞ!
そう思ったのもつかの間、その時の女性の表情が幼く見え…誰かと重なる…誰だ?
「……それでは試験の説明をします」
おっと、やべ。
今まで長々と校風がなんちゃらとか説明していたザマス先生(以後こう呼称)が試験の内容説明に入ったところで、考えることを止めた。うん、後にしよう…
「あなた方には一人づつ、こちらに居る在校生と模擬戦闘を行ってもらいます。勝敗は合否に関係ありません。ただ、そこで自分の力を示してください。それによって私とハインツ先生が合否の判断をします。」
「ハインツです。よろしく」
キラッと歯を光らせるのは、ウザい位のロンゲの茶髪男……元居た世界じゃ、ウーロン茶っていうんだっけ?ちなみに飲み物のほうの意味じゃない。
「では、あなた達と戦う在校生の説明をします。まずは……」
「おーーほっほっほ!!お久しぶりですわねぇ!筋肉馬鹿鈴嵐!」
途端に騒ぎ出したのは金髪縦ロールの女性。睫毛が長く、また可愛い顔立ちしてる…スタイルも悪くない……ただ、可哀想に
……おつむが逝ってしまっている…
「相変わらず騒がしいなリーデル」
呆れたように言う鈴ちゃん。さっきの縦ロールの言葉と良い、知り合いのようだ。
「ムキーーーー!!その態度!!よろしいですわ!私、不肖リーデル・ロデル・グレーデルが貴方のお相手をいたしますわ!」
長い名前だなぁ…とかデルが三つもついてる…。とか、突っ込むところが多いな。やべぇ、頭は逝ってるけど、この娘おもろいかも。
そして二人目は……
「めんどくさいけど俺が相手。もう、名乗ってるから自己紹介は良いよな?」
茶髪君だ…んで…
「どっちの?つっても、俺のか」
「だなぁ、女の子よりは戦いやすいからな」
んで、残った一人が……
「私の名前は水無月沙那。よろしくね」
さっきの女性……へぇ……沙那ちゃんねぇ……って、おい!
「マジ!?沙那ちゃん!?いや、そう言われると面影があるけど……いやぁ、ちょっと見ないうちに大きくなって……」
子供は成長するのが早いなぁ。異常な気もするけど……
「……まさか…ううん。だって、姿違うし……」
俺の言葉に困惑する沙那ちゃん。あ、そっか……
「あぁ、前会った時は姿違ったからねぇ。言ったでしょ?俺は……」
魔法使いだって。
言葉の代わりにまた、擬態をかけた姿に戻る。
「――っ!?」
んで、感動の再開!ってなる筈なのだが……あれ?
―ギリッ
なんで、そんな恨むような目で睨むのさ?
「……誠人」
「な、なんだ?」
底冷えするような沙那ちゃんの声に茶髪君もビビる…
「この男の相手、私がするからね?」
拒否は認めないと目で脅している。
「は、はい!!」
当然、ビビッた茶髪はそれを認めるのだった……
試験が始まる。訓練場の中央には鈴ちゃんと縦ロール。擬態を解いた俺はあっちゃんと懐にから顔を出したギンちゃんというメンバーで舞台を眺めている。
「して、主よ。何をしたのじゃ?」
沙那ちゃんのことだろう……
「さぁ?覚えがないんだよねぇ」
「そうですよね。ずっとマスターを見ていましたがあの娘とは接点はありませんでした」
「ふむ……じゃが、主よ」
「…分かってるよ……」
わざわざ反対側に陣取っている相手メンバー側から物凄い殺気が送られてくる。視力2.0あっても顔なんて良く見えないのに…
念のため視力を魔力で強化してみたが殺気の元は押して知るべし……
「本人に聞くしかないなぁ」
元々深く考えるという事はしない。疲れるしね。
そう考えを切り替えて、殺気に負けじと殺気を叩き込もうとするあっちゃんと諌めて、無視して鈴ちゃんの応援をする事にした
。
「ふふ、久しぶりですわねぇ。貴方とこうして向き合うのも……」
強化した聴力で音を拾う…縦ロールは不敵な笑みで方天画戟を構えている。鈴ちゃんといい…あんたらはどっかの武将か!?
「そうだな……2年前にお前が里を出て以来だな」
「ふん!あんな古臭い里に居る限り強くなんてなれませんわ!私が此処で身につけた力を見せ付けて差し上げます!」
「里への侮辱は許せん!!」
おぉ〜なにやらライバルって感じがする。バチバチと火花が散っている…っと、忘れてた。
「よいしょっと…」
脇に置いてあった焼ちゃんと掲げる。
「見えるー?」
【……うん】
昨日の今日では焼ちゃんを別の媒体にするのは間に合わなかった…だから、戦闘には使用せず俺に預けていたのだが、置いてある角度からは試合が見れないと思ったので手に持って見えるようにしたのだ。……前から疑問なのだが、どこが目の役割を果たしてるんだろう?
そんな事を考えていると……
「では、試験内容を確認します。私が戦闘続行不可能と判断した場合は即座に戦闘を中止します。それと相手が棄権した場合もそれに限ります。制限時間はありません…存分に力を振るいそれを私たちに見せてください。では……始めます!!」
中央脇にウーロン茶先生が控え、ザマス先生がそう告げて試合が始まった。
「先手必勝ですわ!!烈波!!」
【御意】
烈波と呼ばれた縦ロールの戟が振られる。するとそこから猛烈な強風が発生し鈴ちゃんを襲う。
「くっ!」
鈴ちゃんは身を屈めてその風に耐えるが、丁度鈴ちゃんの真後ろに当たる俺達の場所は、先生が結界を張っているらしく影響は無い。よかった、よかった。
「あれは風姉様の所の子ですね」
「ふふ…初めてまともな精霊を見たの」
「……どういう意味ですか?まだ思考が幼い焼失や色情の旋武は分かりますが、私のどこに不満が?まったく、目がどうにかしてるんじゃありませんか?」
「その口の悪さじゃな」
「……ふふ、良い度胸です。もう十分生きたでしょう?剥製にして差し上げます」
「ふん!おもしろい!」
まったく、こいつらは……
殺気立つギンちゃんとあっちゃんをペシッ、ペシッと叩く。
「あぅ!?」
「きゃん!?」
「喧嘩しないの」
涙目で無言の抗議をする二人を叱るが……
「何も叩くこと……銀、可哀想に……痛かったでしょう?」
「なんの…それよりもお主こそ…酷いことするのぉ」
こ、こいつら……結託しやがった!?
「はぁ……俺が悪かったよ。後でギンちゃんには毛繕いを……あっちゃんには子守唄を歌ってあげるから…それで許してくれ」
この二人に組まれた勝てない……俺の敗北宣言に二人は手を取り合って喜んでいる……おまえら、実は仲良しだろ!?
「おーっほっほっほ!!どうしたんですの!?」
甲高い縦ロールの笑い声に視線を戻すと、鈴ちゃんが防戦一方となっていた。
「切り裂きなさい!『烈迅』」
縦ロールが戟を振るうと、カマイタチが発生して鈴ちゃんを襲う。
鈴ちゃんは旋武でそのカマイタチを受け止めており、どうにか直撃は免れているが、攻撃のリーチが違いすぎる。反撃の手立てが無く防戦一方で、直撃はしないものの、所々に切り傷ができている。
「ほら、ほら!当たってしまいますわよ!」
悦に入った縦ロールが容赦なく攻撃を仕掛ける……そして、鈴ちゃんの取った手は……
「調子に…乗るなあぁああ!!」
「なっ!?」
は?
思いもよらぬ行動に誰もが驚愕する。俺も正直驚いた……対戦相手の縦ロールは俺の比じゃないだろう…
鈴ちゃんはあろう事か、旋武をぶん投げた。
しかも、相手の風の攻撃をついでに吹き飛ばすほどの勢いで……
完全に不意を付いた攻撃だったが、縦ロールもなかなかやる。
「くっ!!」
咄嗟に戟で受けようとするが、あまり接近戦は得意ではないのだろうか?もしくは、鈴ちゃんの攻撃力が桁外れだったのか?
そこら辺は分からないが、受け止めた戟は旋武の威力を殺しきれずに、旋武もろともすっ飛んだ。
自身は間一髪直撃を避けているが、冷や汗を掻いた事だろう。
「あ、相変わらず馬鹿力ですわね!!」
吼える縦ロール。その間に鈴ちゃんは距離を詰め…
「お前こそ、相変わらず非力だな!!」
縦ロールの顔を殴るつける。もちろんグーでだ。
旋武が離れた事で強化はされておらず、威力は高くは無いが、それでも殴られれば痛いだろう。しかも、顔だし……
「や、やりましたわね!!」
縦ロールの反撃。掌で鈴ちゃんのお腹を討つ。
「…ぐっ」
苦しそうな鈴ちゃん。ふむ、中国拳法の浸透系ってやつかな?内臓に直接ダメージを与えるのだろう。
「はぁああ!!」
「やぁああ!!」
……それから10分。今だ決着が付かず互いに顔を腫らしている…美人が台無しだ。
最初の方は、互いに拳法。鈴ちゃんは打撃で縦ロールを殴り、縦ロールは浸透系で執拗に内臓を狙っていた。まさに剛と柔の戦いである。
だが、後半になってくると、拳法は影を潜め……言っちゃなんだが、喧嘩にしか見えない。
狙いも最初はボディーブローから顔へのコンビネーションとかをお互いにやっていたが……
今となっては、引っ掻いたり、抓ってみたり……あ、縦ロールが腕に噛み付いた…
服も所々が破け、血に染まっている。そんな姿を見て……
「無様ですね……」
あっちゃんが眉を潜めて侮蔑の視線を送る。それとは対照的に……
【頑張って!】
焼ちゃんは一生懸命応援している。
俺としては忘れられているであろう旋武が不憫でならない……つか、止めてやんなよ、ザマス先生。
そして、決着は付いた。
互いに渾身の力を込めた一発が互いの顔に入る。
両方とも拳での一撃……そして、鈴ちゃんが崩れ落ちた……
「は、はぁ、はぁ……か、勝ちましたわ!わ、私の勝ちですわ!!」
カン、カン、カーン。試合終了〜勝者、縦ロール!。
勝因は俺の見る限り前半のダメージの蓄積の差だろうと思う……いやはや、凄い戦いだった。
勝ち誇っている縦ロールだが、もはや余力は残ってないんだろう。そのまま座り込んでしまった。
その姿を横目で見ながら俺は席を立ち、鈴ちゃんの所に向かった。
「ありゃりゃ……可愛い顔が台無しじゃない」
それに乙女の柔肌が傷だらけだ。嫁入り前にこれは拙いんじゃなかろうか?まぁ、よくよく見れば所々に小さな傷跡があるが、これは訓練の際にできたものだろう……じゃ、問題ないのかな?
気絶している鈴ちゃんの様子を見ていると……
「医療班が待機していますので、鈴嵐さんは大丈夫ですよ。すぐに治療を行いますから」
俺と同じく、やって来ていたザマス先生がそう言った。
「あ、いえ、結構です」
折角の申し出だが断っておこう。俺が治した方が早い。本来なら力を隠しときたいのだが、沙那ちゃんは知ってるからなぁ……意味が無いだろう。
そんな俺の態度を訝しげに見ていたが、突っ込まれる前に、鈴ちゃんを抱っこしてそそくさと逃げる。その際に、吹っ飛んだ旋武を回収。
「……マスター」
客席に戻ってくると、あっちゃんから物凄い迫力で睨まれる。はて?……あぁ、鈴ちゃんを抱っこしてるから嫉妬してるのか…
ちなみに抱っことはお姫様抱っこである。気絶している人間を一人で運ぶには一番楽だし、何より見栄えが良い。
ぶー垂れてるあっちゃんの頭を軽く撫でて、鈴ちゃんを座らせて、その顔に手を当て、治療を開始。
「……ほう、そのようなことも出来るとは……器用なものじゃの」
俺の魔力を変質させて、鈴ちゃんに送り込み自己治癒を促進し、補助する。暫くして、あら不思議。鈴ちゃんの顔の腫れが引き、元通り〜。
「こっちの傷跡は消さない方が良いかな」
先程の戦闘で付いた傷は跡形も無く消したが、元々あった物は消していない。何か意味がある…大事なものかもしれない……そう思ったからだ。
「では、次は私の番ですね」
治療を終え、一息ついているとあっちゃんがそう言った。
「だね。あっちゃん、きついのは分かってるけど……」
「はい。分かっています。私が闇の能力を使えるという事は隠します」
自分でも厳しい要求だと言うのは分かるが、バレたらあっちゃんの風当たりが強くなるかもしれない。最低でも学園でこの世界の知識をある程度つけるまでは我慢してもらわないと……
まぁ、それが終わったら。その必要は無くなる。居心地が良いなら学園に残るし、そうじゃなければ去る。それだけだ……
とはいえ、まずは学園に入るための試験だ。
「では、行ってきます」
「頑張ってね」
微笑を浮かべるあっちゃんに、俺はそうエールを送るのだった。
更新完了……。
最近スランプ気味です……なので、今年最後の更新になると思います。
ですので、来年もよろしくお願いします。
ではでは、最後にキャラクター紹介です。
name 銀
class 七尾の銀妖狐
personality
妖の中でも最上位に位置する存在でり、 その事もあってか自己中心的な考え方を し、弱肉強食を真理としている。
それゆえ、自分に勝った悠斗を主として いる。
古風なしゃべり方が特徴的。
ability
獣化・人化
炎術・雷術などの妖術
銀爪
銀狐七星