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その4

「……という夢を見てね。それがもうリアルで生々しいの何のって、や~もう寝起きの気分が最悪だったよ」

あはははは。

最悪という割には爽やかな笑顔で笑う目の前の魔王に、どうしたものかと、まだ10歳になったばかりのルディアスはため息をついた。


どういうリアクションをしろというのだ、全く。

自分はそんなに酷いこと――大切な友人を『魔王』だから、『勇者と魔女の息子』としてあっさりと殺すようなこと――をするような人間だと、ケイオスには認識されているのだろうか。やりきれないこと、この上ない。

しかし、部分的には無い話では無さそうだと思ってしまうところは否定できない。

魔族と人の時間の感覚は違う。それは歴然とした事実だ。

今後もしかしたら、ケイオスは何年も来ないかも知れない。そうして自分もケイオスも、お互いの存在は忘れずとも気にすることなく生きていく。おそらくは自分の方が先に亡くなり、その後の長い生を、ケイオスはたった一人で生きていく――いつかはルディアスのことも忘れて。

そう思うと、少し寂しい気もする。

と、そこである一つの可能性に思い至る。

もしかしたら、夢の中の自分はそうなることを阻止するためにケイオスを殺しに行ったのかも知れない、と。


「長く生きることは、必ずしも良いことばかりではないわ」

ぽつりと母が呟いた、あれはいつだったか。ルディアスが物心ついてすぐ、母の親しかった友人が亡くなったときのことだったと思う。

かなりご高齢で亡くなったその人が母と知り合ったのは、その人がまだ子供の頃だったらしい。その頃から今に至るまで、長寿エルフである母は何一つ老いることも無く、こうしてその人を見送った。

いや、その人だけでは無いだろう。もう何十年も(下手したら何百年も?)前から何人も何十人も、見送り続ける。

それはもちろん、これからも。

下手をすれば夫であるルイエだけでなく、息子のルディアスすらも見送るのかも知れない。

そうして自分は一人きりで、長い時間を延々と生き続ける。いつ果てるとも知れない生を。


ケイオス一人が寂しく生き残ることを防ぐため、つまりはケイオスのために夢の中の自分はケイオスを殺しに行ったのだとしたら。

いや、それは流石に無いか。そこまで思い入れるほどに、自分はケイオスという魔族のことを、まだよく知らない。

それに結局のところ夢の中の自分は自分では無く、ケイオスの『頭の中身の投影』なのだから、何を考えているのかなんて分かりっこ無い。

だから夢の中の自分が何故ケイオスを殺そうとしたのかを知りたいのなら、それを考えなければならないのはケイオス自身だ。


だが一人で長いときを生き続けなければならないというのは、どれほどのことなのだろう――


ケイオスはそんなルディアスの頭の中を知ってか知らずか、こう笑った。

「正直な話ボクは、まぁあそこで殺されても悪くないかなと思った」

夢の中でも、自分のすべきことはした。だから、もう終わらせてもいいかな~と思ったのだと。

長い時間を一人で生きていくのは、結構大変なのだと。

「こう見えて、ボクは人間の年齢にするとかなり高齢なんだよ。魔族の王としては、まだまだ未熟だけどね」

通常の魔族にしたって人間よりは多少は長く生きるが、自分と同じだけ長く生きる存在はいない。やがては自分も一人取り残される……魔女のように。

でもね、とケイオスは続けた。

「たとえたった一人になったとしても、長い時の中でキミたちのことを忘れてしまうとしても、生きる意味そのものが無かったとしても、出来ればボクは寿命が来るまでずっとずっと生きていきたいと思ってるよ。キミのお母さんのようにね」

キミのお母さんは本当に強い人なんだよ。もうボクの何倍もの時間を、たった一人で生きてる。

笑うケイオスの言葉に、今はまだ理解できないこともありつつも、ルディアスは遠い空の下にいる母のことを誇りに想い、目の前の友人の抱えるものへ想いを馳せた。

何か自分に出来ることは無いのか、幼い頭に思案を巡らせながら。


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