暑い朝
三題噺もどき―はっぴゃくきゅうじゅうなな。
「……」
ブブ、ブブ、と何かが頭の上で震えている。
ゆっくりと浮上してくる意識に追随するように、脳内BGMの音量が大きくなってくる。
今日は何かのCMの曲だろうか。聞き馴染みはあるが曲名と言うのは分からない。
「……」
ぼんやりとした視界に映るのは、私の机、の椅子、の背中。
やけに暑いと思えば、腕の中に鯨が居た。
夏用の涼しいやつのはずなのに、熱を与えてどうするんだろうか。
「……」
まぁ、それを言うと、この敷布団も、掛け布団も。
夏用の冷たくてさらさらとしているはずなのに、熱がこもって暑くて仕方ない。
何事にも寿命があるのは分かっているが、それにしても暑い。
というかこれ、買った時から涼しいと思ったことがない気がする。企業努力に文句を言う立場ではないが、嘘つきだといいたくなるのも仕方ないと思う。
「……」
少し離れた位置では、こちらを向いていない扇風機が回っている。
小さなモーター音を鳴らしながら、首振りをすることなく、同じ個所だけに風を送っている。
直接風が来ると、気持ちが悪いのでわざと外しているのだ。あの撫でられるような感覚が少し苦手なもので。
「……」
いつまでも止まらずに震え続けている頭上の物をとめようと、手を動かす。
ついでに横を向いていた体を、仰向けに戻す。
見慣れた天井が、窓の隙間から差し込む光で明るくなっていた。
今日はいいお天気なのだろうか……それはそれでムシムシとするから嫌なんだけど。
「……、」
動いたことにより、なにか、太ももに違和感を覚えた。
何だろうと、頭だけを持ち上げれば、掛け布団が絡まっているようだった。
割と寝相はいい方だと思うのだけど、暑くて暴れたんだろうか。
酷いと目が覚めることもあるので、寝るときの環境設定というのは気にしたいものだが、そううまくいくモノでもない。
「……」
もう解くのも面倒だが、そのままでいると暑いので、もぞもぞと足を動かして何とか外しながら、震えていたスマホを目の前に引っ張る。
画面には今の時間と、スライドで止めるような表示がされている。
「……」
時間を見ることもなく、その振動だけを止めて、またスマホを元の位置に戻す。
ぼうっと天井を見上げていると、徐々にまた眠気が襲ってくる。
汗をかいてべたべたで気持ち悪いのに、早く起きて準備をしないといけないのに。
徐々に瞼は落ちようと。
このまま、布団と同化してしまうくらいに、深い眠りにでも落ちるのかと思うくらいに、睡魔は勢いよく襲ってくる。
「……」
それとは反対に、なぜか思考は冴えていく。
考えることはいつも同じことばかりで。
ぐるぐると思考だけが巡っていく。
「……」
どれもこれも、過去の後悔ばかりで。
あの時、この時、ああすればこうすれば。
そんなことばかりで。
「……」
どうしてだろう、なぜだろう。
何で、どうして、なんで。
―いないんだろう。
「――起きなさいよー!!」
「……、」
眠気と思考をかき消すように、リビングから声が聞こえる。
私よりきっと、辛い思いをしているはずの母の声。
それでも毎日変わらずこうして起こしてくれたり、弁当を作ってくれたり、家の事をすべてこなしてくれる母の声。
「……」
起きなくては。
ずっとこうしてまどろんでいたい気もするが、それだとすぐに二階へと母が上がってくる。
今日は遅番だと言っていたから時間に余裕はあるだろうけど、まぁ、昇ったり降りたりも大変だろう。
「……ふぁ」
あくびを漏らしながら、身体を起し、ベッドから降りる。
スマホの時間を見れば、丁度いい時間だった。
今日もまた、あの子がいる、学校に行く。
お題:嘘つき・太もも・同化




