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三題噺もどき5

暑い朝

作者: 狐彪
掲載日:2026/07/01

三題噺もどき―はっぴゃくきゅうじゅうなな。

 




「……」

 ブブ、ブブ、と何かが頭の上で震えている。

 ゆっくりと浮上してくる意識に追随するように、脳内BGMの音量が大きくなってくる。

 今日は何かのCMの曲だろうか。聞き馴染みはあるが曲名と言うのは分からない。

「……」

 ぼんやりとした視界に映るのは、私の机、の椅子、の背中。

 やけに暑いと思えば、腕の中に鯨が居た。

 夏用の涼しいやつのはずなのに、熱を与えてどうするんだろうか。

「……」

 まぁ、それを言うと、この敷布団も、掛け布団も。

 夏用の冷たくてさらさらとしているはずなのに、熱がこもって暑くて仕方ない。

 何事にも寿命があるのは分かっているが、それにしても暑い。

 というかこれ、買った時から涼しいと思ったことがない気がする。企業努力に文句を言う立場ではないが、嘘つきだといいたくなるのも仕方ないと思う。

「……」

 少し離れた位置では、こちらを向いていない扇風機が回っている。

 小さなモーター音を鳴らしながら、首振りをすることなく、同じ個所だけに風を送っている。

 直接風が来ると、気持ちが悪いのでわざと外しているのだ。あの撫でられるような感覚が少し苦手なもので。

「……」

 いつまでも止まらずに震え続けている頭上の物をとめようと、手を動かす。

 ついでに横を向いていた体を、仰向けに戻す。

 見慣れた天井が、窓の隙間から差し込む光で明るくなっていた。

 今日はいいお天気なのだろうか……それはそれでムシムシとするから嫌なんだけど。

「……、」

 動いたことにより、なにか、太ももに違和感を覚えた。

 何だろうと、頭だけを持ち上げれば、掛け布団が絡まっているようだった。

 割と寝相はいい方だと思うのだけど、暑くて暴れたんだろうか。

 酷いと目が覚めることもあるので、寝るときの環境設定というのは気にしたいものだが、そううまくいくモノでもない。

「……」

 もう解くのも面倒だが、そのままでいると暑いので、もぞもぞと足を動かして何とか外しながら、震えていたスマホを目の前に引っ張る。

 画面には今の時間と、スライドで止めるような表示がされている。

「……」

 時間を見ることもなく、その振動だけを止めて、またスマホを元の位置に戻す。

 ぼうっと天井を見上げていると、徐々にまた眠気が襲ってくる。

 汗をかいてべたべたで気持ち悪いのに、早く起きて準備をしないといけないのに。

 徐々に瞼は落ちようと。

 このまま、布団と同化してしまうくらいに、深い眠りにでも落ちるのかと思うくらいに、睡魔は勢いよく襲ってくる。

「……」

 それとは反対に、なぜか思考は冴えていく。

 考えることはいつも同じことばかりで。

 ぐるぐると思考だけが巡っていく。

「……」

 どれもこれも、過去の後悔ばかりで。

 あの時、この時、ああすればこうすれば。

 そんなことばかりで。

「……」

 どうしてだろう、なぜだろう。

 何で、どうして、なんで。

 ―いないんだろう。

「――起きなさいよー!!」

「……、」

 眠気と思考をかき消すように、リビングから声が聞こえる。

 私よりきっと、辛い思いをしているはずの母の声。

 それでも毎日変わらずこうして起こしてくれたり、弁当を作ってくれたり、家の事をすべてこなしてくれる母の声。

「……」

 起きなくては。

 ずっとこうしてまどろんでいたい気もするが、それだとすぐに二階へと母が上がってくる。

 今日は遅番だと言っていたから時間に余裕はあるだろうけど、まぁ、昇ったり降りたりも大変だろう。

「……ふぁ」

 あくびを漏らしながら、身体を起し、ベッドから降りる。

 スマホの時間を見れば、丁度いい時間だった。

 今日もまた、あの子がいる、学校に行く。











 お題:嘘つき・太もも・同化

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