リラクゼーション『魔王の館』
「ココ……だろうなぁ」
会社の先輩に紹介されたマッサージ店は、紛れもなく変な店だった。
まるでゲームに出てくる魔王城を彷彿とさせる見た目、そして名前が『リラクゼーション 魔王の館』。その見た目と名前で入ることが少し躊躇われたが、先輩いわく「マジでヤベェ効き目だから!」との事。
仕方なくマッサージ店の扉を開けることに。
「やく来たな愚かな人間共め! リラクゼーション魔王の館へようこそ。御予約の方でしょうか?」
「え、あ、はい。90分全身コースを予約してた坂崎です」
二本の角を生やした受付の女性が、ニッコリと笑ってやってきた。どうやらそういうコンセプトのお店の様である。商売とは言え大変だなぁ。
「勇者サカザキ様ですね? 当館は初めてですか?」
「あ、はい」
「では御説明から入らせて頂きますね!」
受付の女性は嬉しそうにカウンターの下から三つ折りのリーフレットを取り出すと、開いて見せてくれた。
「当館は魔王様の形態に合わせて喜怒哀楽の四つのコースがございます」
……ん? 形態? 喜怒哀楽?
「まずは喜びの第一形態でございます。こちらは標準的な高ステータスから繰り出される全体攻撃魔法と防御力を無視した『揉み』と『ほぐし』の二回攻撃が特徴となっております」
嬉しそうに説明をする受付嬢だが、聞いているこちらは少し恥ずかしい。
どうやら俺は魔王を討伐しに来た勇者の設定になっているらしい。まあ、せっかく来たからしばらく付き合うとするか。
「続きまして、怒りの第二形態では全キャラ一の圧倒的攻撃力で、その巨体から繰り出される『新獣神爆裂拳』は、ありとあらゆるコリを粉砕致しますよ」
コリと言うか俺が粉砕されそうだが大丈夫か?
あと技名が厨二病臭い。
「哀しみの第三形態となりますと、状態異常技を連発され苦戦を強いられます。特に狭窄症、椎間板ヘルニア、脊椎すべり症にかかりますと全滅は免れません」
「なんか腰に恨みでもあるんすか?」
「楽の第四形態が最終形態になります。こちら魔王様の発狂モードになりまして、それまでの攻撃を全て放ってきます。しかしHPが低めに設定されておりますので、余力を全て注ぎ込んだ短期決戦をおすすめ致します」
「そ、そうですか……」
説明が終わるとリーフレットを閉じ、奥に見える台へと促された。
「……グォ……オオオ……」
「あ、どうやら魔王様がお目覚めになられましたよ?」
パーテーションの奥から、いかにもな格好をした魔王らしき人物が現れた。
「オロカナ ニンゲンヨ…… ワレノ ネムリヲ サマタゲタノハ オマエラカ……」
「え、ああ──」
チラッと受付嬢に目をやると、パチっとウインクをされた。どうやら『やれ』と言う事らしい。
「──私がやりました」
自首かよ。とセルフ突っ込みを入れたくなる。
「魔王様が封印されて早8時間! その眠りを妨げた者は残らず死を賜るがいい! さあ魔王様! この罪深い人間共をあの世へ送ってあげて下さい!」
普通、百年とか千年とか言いません?
それでも8時間って結構寝てる方だな。
「スグニ ラクニ シテヤルゾ……!!」
「あ、お願いします」
台にうつ伏せ、穴に顔を埋めると、俺はあっという間に眠くなった…………。
「──で? どうだった?」
「それがですね」
喫煙所で一緒になった先輩は、スッキリした顔の俺を見てすぐに笑ってみせた。
「最初は訳わからなかったんですけど、途中の『コノスガタヲ ミセタノハ ジュウジカンブリダゾ……!!』で笑ってしまいまして」
「よくそこまで持ったな。俺は最初から笑いっぱなしだったぞ」
「でも腕は確かなんで、また行きたいと思います。めなんでも18ターン以内に倒すと記念品が貰えるみたいで」
「ハマって何よりだ」
「縛りプレイとか色々セリフが変わるみたいなんで楽しみッス。ただ……」
「ん?」
「真獣神爆裂拳で肩死んだ時、所持金半分持っていかれたんスよね…………」