探索のしかた
ザッザッザッ。
太陽は昇り終える直前、時間で言うなら十一時ぐらいだろうか。
男女四人が森の奥地へ進んでいく。
俺、日馬、沙月、三間の四人だ。
全員、木の水筒を持っている。
木の水筒にはそれぞれの名前と”黒”に丸が書いてある。
木の中身を橋田のナイフでくり抜き、水を入れたものだ。
フタは垂直に開ければ取れる親切設計だ。
ザッザッザッ。
「こっちっす。」
三間は右の獣道を指し、ずんずん進んでいく。
水筒の水は川の水を煮沸したものだ。
俺は蓋を開け、少し水を飲む。
カルキの味がなく、天然って感じがする。
他の人達は今日のご飯を取りに行っている。
「次は、こっちっす。」
また、三間は右を指さし、どんどん進んでいく。
かれこれ、二時間は歩いただろうか。
違う景色なのに同じ景色が流れるこの森。
皆、少し飽き始めているようだ。
ただただ、緑と茶色の世界を歩き続ける。
「ここを通ったっす。」
三間は右手側の道を指差す。
俺たちはその指示に従い歩き続ける。
木の根を避けるたび、少しずつズレていく方向感覚。
どんな遠回りをしても、目印なしにこの森で目的地につくのは不可能だ。
だから、無駄のように思える三間の道案内に従順についていく。
歩き、闊歩し、進む。
日が沈む直前、眼の前に建物が現れた。
石でできた塔。
三階建てぐらいで、最上部には窓がある。
扉は木の板が立てられているだけみたいだ。
日馬が扉をどかす。
中は、机と椅子、階段が螺旋状にあるだけだ。
俺は机に近づく。
机の上には、紙と羽に、インクがある。
紙には、人の名前や日付が書いてある。
沙月が横から覗き込む。
「三年前から止まっているね。」
日馬は壁に触れる。
「かなり古いな。六十年前ぐらいにできてそうだ。」
三間は階段を登り始める。
俺は三間に続き、階段を登る。
上には青く錆びた鐘と大きく開いた窓、机の上には下の机とと同じ物がある。
三間は窓の方により、俺は机の方に行く。
紙には、達筆でこう書かれていた。
「。すまき着に村の達私ばれす進直を対反の扉の塔のこ」
「『この塔の扉の反対を直進すれば私達の村に着きます。』か、かなり古い文字だな。」
「ヒャワィッ!」
俺は驚き、飛び上がる。
音もなく現れた、日馬が読む。
「急に脅かすなよ。」
俺は日馬に不満を言う。
日馬が俺の方を見る。
「すまない。足が勝手に音を消してた。」
「どこぞの暗殺者か!」
俺はそんな話をしつつ、紙をもう一度見る。
「ああ、反対か。」
「...気づいてなかったのか?」
「後一秒ありゃ気付いた。」
俺は話題を変えようと試みる。
「とりあえず、下に降りてこの紙に従ってみない?」
「そうだな。」
日馬は三間の方を向き、声を掛ける。
「三間。この紙に書かれていた村に行くぞ。」
三間は振り返らない。
「おい、どうしたんだ。」
日馬と俺は三間の方に駆け寄る。
俺は三間の方に手をかけ、三間の顔を見ようとする。
だが、できなかった。
三間の顔を見ようとした時、視界に巨大なものが映った。
窓の外にあり、遠く離れていてもわかる物。
黒く、ただ黒い、すべてを吸収する黒。
細長い四肢に、簡単に折れてしまいそうなほどの胴体、垂れ下がる髪でよく見えない頭。
…人間。
何故か頭に浮かんだ。
知ってたかのように、常識のように。
三間も日馬の顔も見れなかったけど、俺と同じ、開いた口も閉じず、血の気が引いた顔だったと思う。
その黒い巨大な人間は、少しずつ、少しずつ北に向かって進んでいく。
「あれは何だ。」
俺は呟く。
「知らない。ずっとあの調子だ。ただ歩いていってる。」
「どうする戻るか?」
俺は日馬に問う。
「いや、あの調子だとこちらに来るのに丸一日かかるだろう。」
日馬は階段に向かう。
「先に村に行き、調査を終わらせる。」
俺は三間を呼ぶ。
「おい、早く行くぞ。」
「ああ、わかったっす。」
俺と三間も階段を降りる。
下では日馬が沙月と話している。
「今から村に行く。」
「なにか見つかったの?」
「黒い化物がいた。歩きながら話すから着いてきて。」
日馬は、焦りながら素速く動き出す。
俺達は塔を出て、後ろ側に回り込んだ。
「ここから真っすぐ行けば良いんだよな。」
「あの紙が正しかったらな。」
俺達は村に向かって歩き出した。
ーーー
最初に見えてきたのは、木の壁だった。
細い円柱形に加工された木が、隙間なく並んでいた。
正面には小さい扉があった。
「おーい、誰かいませんか?」
俺が呼びかけてみるも、反応がない。
「誰かーいませんかー。」
もう一度呼びかけるも反応がない。
とりあえず、俺達は扉を通った。
壁の中は、木でできた家が点在していた。
俺は一つの家に近づいてみる。
壁に触れてみるも腐っている感じはしない。
虫にも食われておらず、まだ使えそうだった。
家の中に入ってみる。
床は一段高くなっており、靴を置く棚もある。
棚には草履が入っているが、こちらはボロボロだ。
俺は、靴を履いたまま中に上がる。
薄い布が敷かれているだけの布団があったり、食器を置く棚がある。
真ん中には、囲炉裏と縫われていた服がある。
服の近くには、糸と骨でできた針が落ちている。
俺は服を持ってみる。
服には棚上餅と書いてある。
俺は下を向いていた。
だから、通り過ぎる影に気づけた。
たった四本の細い影に。
俺は窓の外を見る。
そこには何もいない。
次に、俺は扉を見る。
やせ細った顔が俺を見ていた。
詳しく言うと、扉から長い首を通し、唯一白い顔を見せている。
俺が”それ”に気づき、声を上げるより速く。
メキメキッ!
家の壁が吹き飛ぶ。
「うっ!」
俺はわけも分からずしゃがむ。
体に当たる木の破片を感じながら前を見ると、”それ”はゆっくり立ち上がり、こちらに近づいてくる。
”それ”の体長は五メートルは優にあり、先程見た巨大なやつと酷似している。
ところどころひび割れている漆黒の皮膚に、オールバックのような髪型。
俺は後ろに逃げ出す。
”それ”は細長い手を振り上げ、
ビュンッ!
振り下ろす。
ドゴーン!
「うわ!」
俺は寸前に横に転がり、避ける。
俺は立ち上がりながら、周りを見る。
後ろの”それ”は両腕を開き、近づいてくる。
正面には村を囲う壁があり、左にある扉までには三十メートルある。
近いようで、遠い。
「はっ、はっ、はっ。」
”それ”が膝をつき、上体を落とし、両腕で俺を押しつぶそうとする直前。
俺は”それ”の足元に向かって走り出した。
頭真っ白の中、体が反射的に動き出した。
パァン!
後ろで大きな手を叩く音が空気を裂く。
”それ”は手を閉じたまま、俺を潰すために肘と足を閉じる。
徐々にだが素速く縮まる死の円。
俺は生きるために全力で走る。
俺は”それ”の肘より奥に抜け、左の扉に向かって駆け出す。
「うおぉおおぉお!」
全力で駆ける。
駆ける。
賭ける。
扉を開け、飛び出ようと前を向く。
緑と光溢れた森を見るために。
だが、そこには...
茶と影の巨岩があった。
書き溜めするかも