面接の仕方
俺は椅子に座っていた。
「あなたの名前をお聞かせください。」
ドスの利いた声が聞こえる。
眼の前には男が座っている。
俺の周りは机と空いている椅子に囲まれていた。
俺は状況が飲み込めないまま、質問に答える。
「私の名前は、宮巳楓生です。」
俺は答えながら周りを見る。
四方は白い壁に囲まれ、後ろにはスーツを着た人達が座っている。
「はい、履歴書を拝見しました。」
改めて、眼の前の男の顔を見る。
目や鼻、顔の部品が際立っていて、威圧的に感じる。
男が言う。
「では、この履歴書にあります”キジバトの鳴き真似”の実演お願いします。」
「はい?」
俺は豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔になる。
「顔芸はいいので、声真似をお願いします。」
「私は面接を受けに来たのですが...」
そうだ、俺は地元で一番大きい会社の面接に...
「履歴書に書いてあるのが本当なのか調べるのも面接官の仕事です。」
男は至って真面目に命令する。
「わかりました。」
俺は会社の命令と諦める。
俺は手を広げ、鳴き始める。
「ドゥッドゥドゥッドゥドゥー。ドゥッドゥドゥッドゥドゥー。ドゥッドゥ。」
(完璧。約二年、キジバトの鳴き声をいつでも聞くために練習したかいがあった。)
俺は自信満々で面接官の顔を見る。
男の顔は微動だにしていなかった。
朗笑も苦笑もなにもないただの真顔。
「ありがとうございました。では次に、」
「待ってください。」
俺は次に進もうとする男を止める。
「私は今、人間としての尊厳を踏みにじらたように感じたのですが。」
「あなたは一つ勘違いをしている。」
男は言う。
「昨今、動画や漫画など質の高い娯楽がある中で、動物の声真似ぐらいで、笑いが取れるわけ無いでしょう。」
「うぐっ。」
その言葉は俺の二年に突き刺さる。
「どこでもそのネタをできずに、おもしろくないと言われなかった可哀想なボッチさん。」
「ぐはっ。」
その言葉は俺の人生に突き刺さる。
「そんなんだから、誰とも親友になれないんですよ。」
「そこまで言わなくていいだろ!!」
ーーー
緑と青のコントラストが見える。
「夢か...」
(夢というより過去の記憶か。)
俺は床のシーツを見る。
草を敷いた布団。
背中にちょくちょく突き刺さる石がいいアクセントだ。
思い出すは、昨日の自己紹介。
滑り、慰められた格好悪い自分。
「死ね死ね死ね...」
俺は昨日の自分を殺し、起き上がる。
「ふぅ。最高の朝だな。」
俺は焚き火の方に向かう。
「おはよう。」
日馬が俺に挨拶する。
「おはよう。」
俺は挨拶し返す。
「今日はどうするんだ。」
俺は日馬に聞く。
「今日は昨日、三間と佐藤さんが見つけた建物に行く。」
「何かあればいいな。」
「ああそうだな。」
ザッザッザッ。
森の奥から誰かが来る音がする。
「おはよう。」
俺は影に向かって挨拶する。
「おはようございます。」
木依が挨拶を返す。
「宮巳さんも朝早いんですね。」
「そうだな、なんか嫌な夢を見てしまったからかな。」
「どんな夢ですか?」
木依は詳しく聞く。
「動物の鳴き真似は万物に受けない夢さ。」
「へ〜。動物の鳴き真似が得意なんですか。何の動物が得意なんですか。」
「キジバトかな。」
俺は木依に答える。
すると、日馬が言う。
「じゃあ、やって見せてくれ。」
「いや、俺の話聞いてた?」
「受けるか、受けないか、やってみないとわからんだろう。」
日馬は優しい目で俺を見る。
「しょうがないな。」
俺は立ち上がる。
あの面接から約二年、動画を見、田舎に聞きに行ったあの二年。
進化した特技から持ちネタへと。
(やってみせる。やってやる。)
俺は精錬された動きで手を広げる。
バッサ、バッサと田舎の空を飛んでいたキジバトを思い出して。
「ドゥッドゥドゥッドゥドゥー。ドゥッドゥドゥッドゥドゥー。ドゥッドゥ。」
森の静寂を突き破るように、俺のキジバトが鳴き渡る。
二年の執念と孤独が詰まった、魂の鳴き声だった。
「...。」
「...。」
二人は静かな視線を向ける。
俺は怒声を響かせる。
「もういいよ!お前ら!そうやって俺を笑い者にするんだ!」
「うるさい鳥出わね。」
木々の隙間から黒井が現れる。
「どこに行ってたんだ。」
日馬が聞くと黒井が答える。
「顔を洗いに行ってたのよ。」
「あ。私も行きたかったです。」
木依が頬をふくらませる
「そう。沙月さんを誘えばいいわ。」
「私、嫌われている!?」
木依が驚く。
「嫌いじゃないわ。偏見よ。」
「見た目の問題!?」
「いえ、生理的と言うべきかしら。」
黒井がバッサリ切り捨てる。
「改善の余地なし!?」
木依は手で顔を覆い、俯く。
「うう。嫌われちゃいました。」
「かわいそうね。ええ、とってもかわいそうだわ。」
黒井は木依から日馬に視線を向ける。
「今日はどこに行くのかしら。」
「...三間と佐藤さんが見つけた建物までだ。」
「そう。何かいるものある。」
日馬は含みのある目を向けるが、黒井は無視する。
「水を入れる容器が欲しい。作れるか?」
「いいわ。黒ちゃん印の水筒は素晴らしいわよ。」
黒井は水筒の材料を探しに、森の奥に消えた。
日馬は深い傷を負った俺と木依を見て言う。
「朝ごはんの準備するから、早く動いてくれ。」
俺と木依は同時にわめく。
「俺に」
「私に」
『優しくして!』
キジバトのの鳴き声は良いよね。