肉の取り方
森の奥地、夕日の光は木々に遮られ、暗い闇に包まれていた。
焚き火の光を中心に、九人の男女が集まっていた。
俺が口を開く。
「で、お前たちは誰なんだ?」
俺は急に現れた二人に聞く。
軽薄そうな少年が言う。
「僕っすか。僕は三間っす。最強のラッキーボーイっす。」
小さめなおばさんが言う。
「私は佐藤晶子。あなた達は誰なのよ。」
佐藤は逆に問いかける。
「彼は宮巳楓生。その隣の女性が黒井白奈。そして、拘束されている女性が橋田菜乃味だ。」
日馬はそう答え、肉に木で作られた棒を刺していく。
沙月が聞く。
「どうしてこんなに遅かったの?」
「いや〜、佐藤さんがどんどん奥に進んでいっちゃって。そしたら、なんか建造物があったんですよ。それを探索してたら〜」
「ねぇ。」
三間が答えていると、橋田が遮る。
「ここに建造物があったの?」
「そうなのよ。すぐに帰ろうと思ったんだけど、奥で物音がしたから、中に入っていったのよ〜。」
佐藤が答え、続ける。
「結局誰もいなくて、風のだと思うんだけど。」
「他に建物は見えなかったのか?」
「見えなかったっす。そもそも、建物つっても、見張り塔みたいな塔だったんで、その奥に建物があるかも知んないっす。」
「そうなんですね〜。明日、またみんなで探索しに行きましょう。」
三間が俺の質問に答え、続けて木依が明日の提案をする。
「そうだな。そこに誰かがいるかも知れないし、ここがどこかわかるかもしれない。」
日馬はすべての肉に棒を通し終え、地面に刺して焚き火に並べていった。
「そういえば、この肉を忘れず持ってきたなぁ。」
俺は日馬に問う。
「俺は、鹿を狩っている。」
黒井が答える。
「ふぅ、今日はつかれたわ。ご褒美が欲しいかしら。」
黒井の言葉を沙月がすかさず反論する。
「あなたは何もしていないでしょう。私はたくさん山菜を採ってきたわ。」
佐藤が反応する。
「私は山菜も取って、建造物も見つけたわ。」
「見つけたのは僕っす。だって、佐藤さんは僕に指示するだけだったじゃないすか。」
三間は佐藤の言葉を正す。
「ねぇ、私だけ拘束されているのよ。当然、私でしょう。」
「ん?何の話ですか〜?ただ捕まっている人間は黙っていてください。」
橋田の戯言を木依は聞き流す。
「ダオさんと橋田は除外するとして...今日は一番頑張った人が食べるべきでしょ。」
沙月がそう言うと、
「誰が頑張ったなら俺だな。だからこれは俺がもらう。」
そう言って、日馬は焚き火に近づく。
そして、かがみこんがり焼けた肉を手に取った。
「ねぇ、あなたは確かに強靭の肉体を持っているわ。しかし、私でも逆らうことはできる。」
黒井はそう言い放ち、走り出す。
「くッ。」
日馬は黒井の走りを見て、肉を高く掲げる。
しかし、黒井はそれを予知していたように、高く飛ぶ。
「ダァッ!」
すれ違いざまに、肉に棒を刺し、日馬から肉を奪い取る。
日馬は驚いたように振り返り、両手を広げて構え、にじり寄る。
黒井もそれに反応し、日馬に注意が向く。
「もらい。」
沙月黒井の後ろから現れ、素速く肉を掠め取る。
三間は黒井と沙月の間に入ろうと走る。
沙月はそのままかぶりつこうとすると、黒井は肉の棒を下に叩く。
肉が落ちるそのコンマに、
「危ないッ!!」
走っていた三間が追いつく。
三間は肉を拾い、そのまま暗い闇に走り去ろうとする。
ゴンッ。
まるで柱とぶつかったかのように三間は吹き飛ぶ。
三間の前には日馬がいた。
日馬は三間から肉を奪い距離を取る。
俺は、日馬の後ろから肉を狙う。
だが同じ手には引っかからないように、日馬は後ろにも注意を向ける。
だが、俺、三間、黒井は同時に三方向から攻撃を仕掛けた。
「フンッ!」
日馬は豪腕を振るい、俺と三間を退がる。
だが、黒井はくぐり抜け接近する。
日馬は再び肉を高く掲げた。
黒井もまた跳ぶ。
しかし、今回は日馬は素速く肉を下げて回避する。
黒井は止まれず、肉の横を通り抜けていく。
日馬はそれを確認し、肉を食べようとした。
日馬は終わったと思ったはずだ。
沙月は動かないし、宮巳も三間も遠く、沙月は動かない。
例え、どんなに武術の達人だろうと不意打ちには叶わない。
日馬は、焚き火の方を見る。
(一、二、三人?)
その人影は俺や黒井より静かに、そして力強く肉を奪った。
そして、日馬の服を掴み、
俺たちに投げる。
「うわっ。」
「あぶっ。」
俺たちは日馬を受け止め、地面に崩れる。
「大丈夫!」
沙月が近づいてくる。
その間、肉を奪ったダオさんは一口で食べきる。
そうして、その肉を争う戦いは終わった。
ーーー
肉をもう一度二つに切って、分配をダオさんに頼んだ。
「何であの時構えたんだ?」
日馬は俺に聞く。
「いつだ?」
「ほら、橋田が何かになるとき。」
「構えろって言ったじゃんか。」
「逃げるために構えろと言ったつもりなのに、構えだして驚いたんだよ。」
俺は肉をかむ。
「だって、二人とも戦いそうだったし。」
「逃げようとか言ってたから、てっきり逃げるかと。」
「俺だって男だ。仲間が逃げるなら逃げるし、戦うなら戦う。」
「そうか...」
日馬そういい、肉を食べる。
「どうしたんだ?結構普通だと思うんだが?」
「...俺が高校生の時、一緒に帰っていた友達がいた。」
日馬は語りだす。
「そいつは、別に悪いやつではないし、友達思いで、俺とよく遊んでくれていた。」
「ある日、不良にあったんだ。二人の不良、時代錯誤で幼稚な、そいつらは一人の中学生を脅して、金を奪おうとしていた。」
「これは、偶然で、唐突で、予測不可能だったが、俺は中学生を助けようと二人の不良に向かっていった。」
「しかし、友達は驚いて動けず、すぐに逃げ出してしまった。」
「俺が二人の不良を倒した後、すぐ警察が来て、友達からの通報があったと聞いた。」
「ただ、そんなことがあったんだ。」
日馬の語りが終わったようだ。
「そうか...」
俺は静かにうなずいた。
すると、黒井が割り込んできた。
「その友達は、ヒーローになる覚悟がなかったのね。」
「何?」
日馬は聞き返す。
「ヒーローって自分のことも、外聞も、法律も全部後回しで動ける人なの。」
黒井は立ち上がる。
「その友達は考えすぎちゃったのね。もうそろそろ寝るわ。寝床に案内してくださる。」
「...ああ。」
日馬は立ち上がり、寝床に案内する。
とはいえ、ちょっとだけでこぼこしてない地面だが。
「じゃあ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
そう言って、黒井は寝た。
日馬は俺の隣に戻ってき、俺に聞く。
「なぁ、黒井はいつもあんな感じなのか?」
「いや、わからない。俺もまだあって短いからな。」
「そうか。不思議なやつだな。」
日馬は空を見る。
空にあるなにかに聞くように。
「ヒーローか....」
「良かったな。ヒーロー。」
「...俺は戦隊派だ。」
「仮面ライダーのほうがかっこいいだろ。一人で全員やっつけるんだぜ。」
「いや、みんなで力を合わせ、倒していくのがいいんじゃあないか。」
夜は更けていく。
二人の他愛もない、何も残らない会話は続いていく。
会話が下手