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第37話 天馬弥太郎

「天馬さんこそ……どうし」

 

 三姫は、驚いた表情で弥太郎へと問いかけるが、途中で言葉を止めた。

 そして、すぐに弥太郎の持つ銃口の軌道から逃げた。

 

 銃声が響く。

 信者の一人が倒れる。

 

 弥太郎の手は一切の戸惑いなく、あまりにも滑らかに動き続けていた。

 本来、人が人を殺す時、躊躇いがあってしかるべきだ。

 殺人と言うのは、それほどに重い。

 

 しかし、弥太郎は違う。

 転生業務に携わり続けた結果、彼の日常には他人の魂を奪うという行為があった。

 魂を奪うと命を奪う、そこには大きな隔たりがあれど、さしたる違いなどない。

 どちらも、相手を二度と目覚めさせなくするのだから。

 

 リーダー格亡き今、信者たちの統率は乱れ始める。

 

「武器! 武器を持っている者は……ぎゃあっ!?」

 

 教団の強みは、戦闘から情報収集まで、多彩な人材がいることだ。

 逆を言えば、戦闘に特化した集団ではない。

 

 強引に死地を押し付けられえれば、統率を持って対応することが難しく。一方的な殺戮を受けるだけだった。

 

「弾切れか」

 

 弥太郎は、手に持っていた銃を捨て、すぐに次の銃を取り出して発砲を続ける。

 人情も感情も捨て、縁日で射的でも楽しむように、ただただ撃ち続ける。

 

「……また弾切れか」

 

 カチンカチンと、空砲を鳴らし、弥太郎は二丁目の銃も投げ捨てる。

 使用後の銃を放置するなど、後日警察に見つけてくれと言っているようなものである。

 警察が転生業界に牙をむいている今、慎重な弥太郎にしてはあまりにも不用意な行動。

 

 だが、弥太郎には気にする素振りがない。

 まるで、捕まることをいとわない、あるいは捕まらない自信があるように。

 

 銃の代わりにナイフを取り出し、サーバーに向かって歩き始めた。

 床に転がる死体も踏みつけて、血の水溜りも踏みつけて。

 

「ようやくだ」

 

 ただ、目的の場所へ向かって歩く。

 

「何をする気ですか、天馬さん?」

 

 が、そこへ三姫が立ちふさがる。

 生きているのは、三姫一人。

 他の信者は全員撃ち殺された。

 

 三姫の声に弥太郎は立ち止まり、今まで見たことのないような冷酷な目で三姫を見た。

 

「清水さん、そこどいてもらえるかな?」

 

 丁寧な言葉とは裏腹に、手に持ったナイフは三姫に向けられている。

 弥太郎の言葉がお願いではなく脅迫であることは、誰の目にも明らかだった。

 

 三姫は、弥太郎の動きに注意しながら、深く深く思考する。

 もしも弥太郎が三姫と同じ、つまり悪役令嬢の魂を解放して転生した人間を現代へ戻すことを目的とするのであれば、即席で手を組むことは可能だ。

 もちろん、教団の信者と言う仲間を殺されたことに対して思うところがないわけではないが、三姫にとって最も優先すべきことは妹を現実に戻すことだった。

 

 故に、三姫は質問した。

 願うように。

 

「天馬さん、貴方はどうしてここへ来たんですか?」

 

「ずいぶん、抽象的な質問だね」

 

「質問を変えます。貴方は、今から何をする気ですか?」

 

 弥太郎はディスプレイに映る内容を確認した後、三姫に視線を戻して答える。

 

「転生をする」

 

「転生?」

 

 弥太郎の回答は、三姫と真逆のものだった。

 そもそも、転生業界にいる人間であれば、転生の権利を購入するルートが存在していることを知っている。

 相応の地位と相応の財力が必要にはなるが、弥太郎の立場でもらえる収入であれば、節約を繰り返せば定年までには手が届くだろう額だ。

 

 弥太郎が再び歩き始めたので、三姫もまた咄嗟にナイフを取り出して弥太郎へ突きつけた。

 

「転生だけなら、権利を買えばいいだけじゃないですか」

 

「そうだね。いつかは買えるだろうね」

 

「なら、何故わざわざここへ?」

 

 弥太郎がナイフを躊躇いなく振るい、三姫はそれをナイフで迎え撃つ。

 ナイフ同士の衝突音が響き、三姫の手がビリビリと痺れる。

 純粋な腕力では、弥太郎の方が上だ。

 

「通常の方法じゃあ、転生先は選べないんだ」

 

「転生先?」

 

「オークションで落とせるのは、転生する権利だけだからね」

 

 弥太郎は、ナイフから手を離す。

 弥太郎のナイフを押し込んでいた三姫は、急に障害がなくなったことで力が前のめりになり、前方に体勢を崩す。

 その腹部を、弥太郎の蹴りが襲う。

 

「が……!?」

 

 三姫は後ろに倒れ、あまりの痛みにナイフを落とす。

 弥太郎は、三姫が落としたナイフを空中で広い、そのまま倒れる三姫へと近づく。

 

「清水さん、ぼくと君たちは似ている。互いに、転生によって可能性を奪われた者同士」

 

「なら……どうして……」

 

「でも、ぼくは転生して彼女のいる場所へ行きたいんだ。君たちが魂を解放なんてしたら、彼女の魂まで戻ってきてしまうからね。……もう、とっくに体なんてないのに」

 

 弥太郎は、歩く。

 三姫に向かって。

 サーバーに向かって。

 ただ、目的を果たすために。

 

 降ってきた幸運を拾うために。

 

「わ、わた……しは……」

 

 三姫の荒い呼吸から、三姫の望みがこぼれ出る。

 妹を取り戻したいという、自身の希望が。

 

 だが、弥太郎にそれを最後まで聞く義理もない。

 

「じゃあね、清水さん。ここまで認証を突破してくれたこと、感謝してるけどね」

 

 弥太郎の投げたナイフは、三姫の体に深々と突き刺さった。

 

 鮮血が噴き出す。

 そのまま三姫は、意識を手放した。

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