第36話 清水三姫3
三姫たちが到着したのは、白い箱のような建物。
建物の壁は鏡面のように反射し、周囲の景色を写し込んでいる。
三姫たちが入り口の門前に無遠慮に自動車を止めると、門の前に立っていた守衛たちが近づいて来る。
彼らの仕事は、不審な車に引き返すように要求すること。
が、その車内に一人の関係者がいたことで、守衛たちは視線をそちらへ向ける。
「こちらの方は、貴方のお知り合いで?」
「ええ。ちょっと緊急で。門を開けてもらえる?」
「申請が出ておりませんが」
「お願い! 緊急なの! ニュースは見たでしょ?」
普段であれば、決して聞けない願い。
しかし、転生業界の会社に続々と警察の手が伸びていることは、守衛たちも知っていた。
つまり今は、緊急事態。
守衛たちの判断で、特別対応が許される。
守衛たちはしばらくひそひそと話し合った後、門を開けた。
教団の人間が積み重ねた信頼は、確かに活きていた。
「ありがとう」
開いた門からは、教団の自動車が続々と入っていく。
守衛たちは全ての自動車が入ったことを確認し、再び門を閉める。
自分たちの判断が、正しいことを願いながら。
「意外とあっさり入れたな」
「当然でしょ? そのために潜伏してたんだから。私の言うとおりに運転して」
建物の敷地内は、複数の建物と自動車が通るための私道によって構成されている。
建物の形はどれも統一されており、外から見ただけでは用途がわからない。
また、私道はあえて複数に分岐させ、てきとうに走らせただけでは目的地に到着できないよう工夫されている。
全ては、想定しない侵入者への対策。
しかし、教団側には建物の構造を知る人間がいる。
何度もここを訪れており、そんな工夫も意味を持たない。
教団の自動車は、あっさりと目的の場所へと辿り着いた。
「この建物には何度か来たことがあるけど、魂が保管されてる部屋まであったなんてねえ」
建物入り口のセンターにカードをかざすと、自動ドアはあっさりと開いた。
教団の人間は続々建物の中に入り、一人が誘導する形で奥へと進んでいく。
「ここよ」
建物の奥にある部屋には、円柱の形をした水槽がいくつも置かれていた。
水槽には水が満たされており、水の中には白い光の塊が一つ漂っていた。
「あ、魂」
白い光の正体を知っている三姫は、咄嗟に呟いた。
魂を見たことのない教団の人々の視線が三姫に集まり、すぐに周囲の水槽へと分散する。
「これが、人間の魂か」
「こんなにたくさん」
「どれだけの人間を犠牲にしてきたんだ」
無数の魂を前に、教団の人々は思い思いの感情を呟く。
中には呟くだけでは収まらず、水槽に両手を張り付けて、どこの誰かもわからない魂に向かって涙を流す者もいた。
「では、さっそく解放を」
リーダー格の言葉を受けた一人の信者が、部屋を見渡して、最も大きな機械の前へと急ぐ。
十を超えるディスプレイと同数のキーボードがラックの上に置かれており、ラックの裏では大量のサーバーがごうんごうんと唸っている。
サーバーからはケーブルがいくつも伸びており、部屋中の床を這っている。
一人の信者は真剣な表情でキーボードを叩きながら、ディスプレイを凝視する。
悪役令嬢の魂を解放するために必要な情報も、本来知る人間が分散されている。
生体認証、パスワード認証、カード認証、エトセトラ。
一人の裏切りでは、決して突破できない鉄壁の壁。
だが、教団の手中には、突破する方法がある。
ディスプレイに映る内容が変わると同時に、作業をする信者が入れ替わる。
それぞれが自身の手に入れた認証方法によって、鉄壁の壁を崩していく。
「これが、最後」
全ての認証を突破すると、ディスプレイには悪役令嬢の名前のリストがずらりと表示された。
そして、悪役令嬢の名前の隣には日本人の名前が併記されていた。
「これって?」
「おそらく、転生した人の名前ね」
教団の人々はディスプレイの前に集まって、表示されているリストを確認する。
誰が転生したか。
誰に転生したか。
どこへ転生したか。
管理番号の数は四桁を超え、いかに多くの人間が転生と言う被害にあったかがわかる。
「解放しよう」
リーダー格の言葉は、この場にいる全員の総意だった。
「もちろんです」
信者の一人がキーボードを叩き、操作を続ける。
画面は悪役令嬢のリストから、悪役令嬢の魂を操作する画面へと切り替わる。
その画面の中には、『全解放』と書かれたボタンもあった。
あと、たった一操作で、教団の夢は叶う。
自然と信者たちは目を閉じて、祈りを捧げていた。
「おお、神よ。どうか、迷える魂をお救い下さい」
そして待った。
世界の暗部――転生の崩壊を。
しかし、キーボードを叩く音が聞こえることはなかった。
代わりに、人間が一人、倒れる音が聞こえた。
「おい、どうした?」
目を開けたリーダー格の頭も、銃弾が貫いた。
リーダー格は目を大きく見開いて、銃弾の飛んできた方向に首を向け、そのまま床へと倒れ込んだ。
教団の人々は目を開け、倒れる二つの死体に驚き、銃弾の発砲主を見た。
最も驚いたのは、三姫だった。
「天馬……さん……?」
さて、転生業界の終わりの日を待ち望んでいたのは、果たして教団だけだったのか。
否、そんな訳はない。
転生業界に組織的に立てつく者がいる以上、個の力で立てつく者もいるのが当然だろう。
「清水さん、こんなところでなにやってるのかな?」
三度引かれた引き金。
三姫は咄嗟に横へと回避し、三姫の後ろに立っていた人間が三姫の代わりに凶弾に倒れた。




