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第27話 エイジ・ハラル4

 異世界から加わる女神の力は、空間のひずみを広げ始め、転生協会の管理するシステムで異常として検知された。

 

 異常の検知は、時々起こるものだ。

 転移の機械を使用した場合は当然。

 機械を使用していない時でも、不規則に起こる。

 異常が起きる原因は判明していないが、仮説としてはプレートが衝突して地震が起きるように、世界と世界が衝突しているのではないかと言われている。

 

 ただし、今回検知された異常の大きさは、転移の機械と比べても不規則なものと比べても大きすぎた。

 検知メーターが左右に大きく振れ続け、過去最大の異常を観測した。

 

 協会の人々は、検知した異常の状態を詳細に調べ、悪役令嬢エイジ・ハラル調達の際に転移した時と重なる傾向を発見した。

 そして、直感した。

 エイジが何らかの方法を用いて、現代へ転移しようとしていると。

 

 異世界転移が実在する以上、その逆も可能であろうことは想像に難くない。

 

 最悪の場合を想定し、転生協会はエイジ調達の共同調達依頼に、緊急のステータスを付与した。

 即ち、強制共同調達依頼である。

 

 

 

「ちっ! よりによって、お前かよ」

 

「こっちのセリフだ」

 

 強制共同調達依頼によって召集されたのは三社。

 一社目が、元々エイジの調達を受注していた楽々転生サービス株式会社。

 翔太と夢美。

 二社目が、共同調達依頼を出していた悪役令嬢転生株式会社。

 弥太郎と三姫。

 三社目が、転生業界最大手である天下転生ホールディングス株式会社。

 天下てんか餓狼がろうやかた幸之助こうのすけ

 

 先日のいざこざもあり、弥太郎と翔太は互いを不愉快そうな目で睨み合った。

 その横では、夢美が深々と頭を下げ、三姫が頭を上げさせようと焦りながら手を振っていた。

 ライバル関係とはいえ、一度は同じ悪役令嬢の調達で、同じ空間を共有した仲だ。

 まったくの他人よりは、多少なりとも足並みがそろう。

 

「遊びに来てんなら帰れ、糞餓鬼ども」

 

 つまり、最大手の席に居座り続け、最大手というブランドを守り続けるために他社との接触を拒んでいる天下転生ホールディングス株式会社とは、足並みがそろっていないということだ。

 

「申し訳ない、です」

 

「……サーセン」

 

「ちっ!」

 

 餓狼の怒りを前に、弥太郎と翔太は素直に頭を下げた。

 餓狼は二人の後頭部を睨みつけ、社会人としての理性が、それ以上の沙汰を止めた。

 

 餓狼は天下転生ホールディングス株式会社創始者一族の一人。

 三十一歳とまだ若いが執行役員の席に座っており、その優秀さがうかがえる。

 もっとも、髪を金色に染め、ヴィジュアル系バンドを想起させるような濃い目のメイクからは、己の待遇への反骨精神、あるいは幼さが垣間見える。

 

「天下殿、まあまあ。ここは穏便に」

 

 そんな天下を子供のようにいさめるのが、相談役の幸之助である。

 会社創設時から、現代表取締役の右腕として働き、早めの退職をして今では相談役として時々会社に顔を出す五十九歳。

 餓狼のことも幼少期から気にかけており、身内以外で餓狼の手綱を握ることができる数少ない人物だ。

 

「わかっている!」

 

「さすがです、天下殿」

 

 餓狼は、幸之助からの諫めを受け流し、改めて他の四人へと向き直った。

 

 共同調達。

 その指揮権を担っているのは天下転生ホールディングス株式会社であり、全体の指揮権を持つのは餓狼だ。

 餓狼は視線を左右に動かし、四人が腑抜けていないことを改めて確認すると、強めの咳払いをした。

 

「さて。各々、任務は頭の中に入っているな? 調達対象の顔は、はっきり覚えているな? 俺たちは今から、悪役令嬢エイジ・ハラルの調達へ向かう」

 

 餓狼の言葉は、およそ会社員として相応しいものではなかった。

 弥太郎が嫌悪している翔太よりも、はるかに。

 だが、それは業界内で有名な話であり、この場の誰もが声を上げて指摘などしなかった。

 

 天下転生ホールディングス株式会社。

 一芸に秀でた人間を多く抱え、調達部門には調達できる能力以外の一切を求めない。

 故に、言葉使いがなっていない者も、遅刻ばかりする者も、社員として抱えている。

 特に、餓狼については年上だろうが年下だろうか敬語と言うものを使うことができず、多くの社外の人間を怒らせてきたことで有名だ。

 

 ここが書類を使った相談の場であれば、弥太郎も指摘の一つでもしたかもしれない。

 だが、最強と呼ばれる悪役令嬢を調達する今においては、言葉遣いに目を瞑ってでも必要な人材だ。

 

「調達自体は容易な作業だ。だが、問題が一つ。協会が空間のひずみを観測している。転移先で、調達対象が何かをしている可能性はある。その何かは、多少警戒しなければならん。後は、ハーレムルートを完成させている以上、調達対象の周りには金魚の糞どもが揃っている可能性が高いが……こっちはどうでもいいな」

 

 餓狼の言葉は、有無を言わさぬという圧力を含んでいた。。

 誰一人訂正のために口を挟むことはなく、場は餓狼の一方的な演説会場と化していた。

 

「本来なら金魚の糞は分断が最善だろうが、時間がない。そこで! 事前に連絡した通り、転移後調達対象を視認次第即時間停止! 多少糞が巻き込まれなくても構わん。お前たちには、時間停止に巻き込まれなかった糞の始末を任せる! 以上! 質問は?」

 

 言いたいことを言い終えた餓狼が辺りを見渡すと、夢美がピンを手を上げていた。

 

「よろしいですか?」

 

「言え!」

 

「事前の情報では、天下さんがお一人で調達対象と戦うことになっていましたが、本当に大丈夫でしょうか? 弊社からも一人、天下さんの支援に回しても」

 

「足手まといだ!」

 

 餓狼は額に青筋を立てて、先程よりも一回り大きな声で叫んだ。

 夢美は驚き、思わず一歩後ろに下がる。

 

「俺なら、お前ら四人全員を相手にしても余裕で勝てる! つまらねえ心配してんじゃねえ!」

 

「ほっほ。天下殿は、弊社の次期後継者候補として幼少の頃より調達の訓練をしております。年は若いですが、おそらく入社後に調達技術を学んだであろう皆様よりも、よほど修羅場を潜り抜けてきております。ご心配は無用です」

 

 餓狼の感情的な言葉をフォローするように、追って幸之助が言葉を添える。

 

 幼少の頃からということは、餓狼は既に調達経験が二十年以上。

 つまり、入社十年にも満たない弥太郎や翔太と比べても、倍以上の年数の差があるということだ。

 具体的な数字を出されては、弥太郎も翔太も、当然三姫も夢美も言い返せることはない。

 

「わかりました。余計な進言、失礼いたしました」

 

 話は、夢美が頭を下げることで終了した。

 

「おい! 誰が、後継者候補だ! 後継者は俺だ!」

 

「それは、天下社長が決めることです」

 

 もっとも、餓狼の興味は既に幸之助の言葉へと移っており、耳に届いた夢美の言葉も一瞬の音となって消えた。

 とっくに夢美への怒りも冷め、次の獲物へと噛みついている。

 謝罪を無視されたことに夢美の内心にほの暗い感情が生まれたが、社会的な立場や共同調達の関係性を考慮し、感情を言葉にすることなく飲み込んだ。

 

 同様に噛みつかれた幸之助はと言えば、餓狼の言葉など慣れた物。

 

「ところで天下殿」

 

「なんだ!」

 

「早く転移をしなければ、調達対象がこちらに来てしまうかもしれません」

 

「ああ、そうだったな! 急がねえと! では、他に質問がなければ行くぞ! 時間が惜しい!」

 

 穏やかであるがひょうひょうとした表情で、餓狼からの怒声をいなしてみせた。

 餓狼に、役割を思い出させるという手段で。

 

 餓狼は幸之助との会話さえ忘れ、工場の中へと向かう。

 その後ろを幸之助が歩き、幸之助は他の四人に軽く頭を下げる。

 

 さらにその後ろを、複雑な表情の翔太と夢美が付いていく。

 

 最後尾には、弥太郎と三姫。

 

「上手いねぇ」

 

 ぽつりとつぶやいた弥太郎の言葉に、三姫が反応を示し、歩きながら弥太郎の顔を覗き込む。

 

「何がですか?」

 

「ん? 人の操り方」

 

 弥太郎の視線の先には、幸之助の背中があった。

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