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悪役令嬢転生の作り方  作者: はの


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第21話 セブーナ・カシハラー2

 一日目。

 歩果はただ、セブーナを観察していた。

 歩果と弥太郎の意見が一致した点は、観察という行動。

 一致しなかったことは、観察する日数。

 

 歩果からすれば、弥太郎の三日三晩は長すぎた。

 人間の生活など、基本的には変わらない。

 学生は習い事や時間割が曜日ごとに違うが、その程度。

 社会人は打ちあわせの内容が日ごとに違うが、その程度。

 歩果は、人間の行動の傾向など、一日観察すれば十分推測できる自信があった。

 

 起床時間。

 祈祷時間。

 食事時間。

 入浴時間。

 睡眠時間。

 そして、それぞれの時間における護衛――もとい、信者たちの動き。

 

「わかりました」

 

 二日目にして、歩果は弥太郎の前で説明を始めた。

 

「睡眠の前後、食事の時間はなしです。あまりにも、護衛の数が多すぎます。入浴時間は服を脱いでいるので無防備に思えますが、それは調達対象もわかっているようで、武器を持った女たちを常に側につけています」

 

「ふんふん」

 

「よって、狙うならここ。祈祷時間です」

 

「一応、理由を聞こうか?」

 

「祈祷時間は、宗教を信仰してる人にとって最も大切な時間らしく、護衛たちも武器を持ちながらではありますが祈祷に参加しています。つまり、調達対象から意識が僅かにそれている。明確な隙です」

 

「なるほどねー」

 

「信仰を守ろうとする人たちが、信仰によって危機に陥る。なんとも、皮肉な話ではありますが、ね」

 

 見下すように笑う歩果に対し、弥太郎は顎をぼりぼりと書きながら、ただ歩果の話を否定も肯定もしなかった。

 

「どうでしょう?」

 

「何が?」

 

「たった一日で、ここまで調べられるんです。三日三晩観察するよりも、ずっと効率的だと思いませんか?」

 

「それは、結果を見て判断するよ。今の俺は、城之内さんに従うだけだから」

 

 熱烈にアピールする歩果に対し、弥太郎はどこまでも静かだ。

 驚き一つ見せない弥太郎の態度に、歩果は少々ムッとしながらも、すぐに感情を切り替えた。

 作戦ではなく、実績で驚かせてやろうと。

 

 本採用を目論む歩果にとっての最善は、サポーターである弥太郎の予想を飛び越えた結果を出し、弥太郎から大きな評価を得ることだ。

 

 歩果は弥太郎の表情から感情を伺うことをやめ、作戦の説明に戻った。

 

「祈祷時間は、一日二回。朝方と夕方。私たちが狙うのは、夕方です。一日中護衛をしてへとへとになった護衛たちを、一気に蹴散らします」

 

 歩果は、調達に際して選んだ軽機関銃を手に取り、布で奇麗に磨いていく。

 

「見ていてください。必ず、対象を仕留めてみせます」

 

 自信は、歩果の最大の武器である。

 彼女はそうして、複数の業種を渡り歩いてきた。

 

「……期待してるよ」

 

 弥太郎は、そんな歩果を、ただ見ていた。

 

 

 

 

 

 

「イワーバー。トジートジー」

 

「イワーバー。トジートジー」

 

「アケーアケー。マツーアケー」

 

「アケーアケー。マツーアケー」

 

 講堂の中ではセブーナが言葉を発した後、後追いするように信者たちが言葉を発する。

 唯一神アマデラを称える祈りの一文。

 

 セブーナは唯一神アマデラの像の前で両手を上げ、信者たちは離れた場所に立っている。

 この距離感が、セブーナと信者の、唯一神アマデラとの距離の違いだ。

 

 ただし、いつもと違うのは、セブーナの周囲に護衛が立っているということだ。

 普段であれば、決して信者を立たせぬ、唯一神アマデラの像と代弁者が立つためだけに作られた台。

 通称、祈りの台。

 現在は、唯一神アマデラから許可を賜った上で、護衛たちも立っている。

 護衛たちは皆武器を携帯しながらも、祈りの間は武器を下ろし、祈ることと声を出すことに集中している。

 

「二十。三十。四十……は、いないですね」

 

 講堂の天井には太い丸太が何本も走っており、丸太の上には三姫と弥太郎が立っていた。

 三姫は指を差して護衛の数を数え、予想よりも少ないことに笑みを浮かべる。

 祈りの台は、尊い場所。

 よって、台上に護衛がのぼることへの許可が出るにしても、人数を絞るだろうと歩果は予想し、見事に的中させていた。

 

「天馬先輩、私の言った通りでした」

 

「うんうん、そうだね」

 

「では、手筈通りにお願いします」

 

「わかってるよ」

 

 弥太郎は丸太を伝って移動し、所定の位置についたところで、歩果は時間停止の機械を起動した。

 世界が、灰色に染まる。

 祈りを捧げていた信者たちが動かなくなり、講堂に響いていた音が小さくなった。

 時間停止に巻き込まれなかった護衛たちは、台上の者ばかり。

 異変に気付いた護衛たちが武器を構えようとするも、それより速く、軽機関銃の銃弾が護衛たちを撃ち抜いた。

 一分で五百発を超える、高速の弾丸。

 護衛たちは次々と魂を奪われ、倒れていく。

 

「唯一神アマデラよ。我らをお守りください」

 

 祈りの台の上に、倒れた護衛たちが増えていく。

 しかし、セブーナは倒れない。

 唯一神アマデラの奇跡が働き、セブーナに向かう銃弾は面白いほどにセブーナの体にぶつかるのを避け、みすみす地面にめり込んでいた。

 

「ここまでは、予想通り」

 

 もっとも、セブーナが銃弾を防ぎきることも、歩果の想定内。

 歩果は軽機関銃を捨て、代わりに小型爆弾を一つ取り出し、唯一神アマデラの像に向かって投げた。

 

 セブーナに力を与えるのがアマデラであれば、弱点となるのもまたアマデラだ。

 

「アマデラ様!?」

 

 爆弾は、唯一神アマデラの像の眼前で大きな爆発を引き起こした。

 時間停止している以上、像が破壊されることはない。

 だが、当然セブーナは、そんなことを知らない。

 

 敬愛する神の像に爆発物が投げ込まれたことでセブーナは、驚き、焦り、意識が像への一点に向いた。

 

「よっと」

 

 そんなセブーナの行動が、合図である。

 弥太郎は天井の丸太から飛び降りて、意識が像に向いているセブーナを、頭部から両断した。

 弥太郎の剣の先に魂が一つひっついて、セブーナの体が祈りの台へと倒れた。

 

「調達、完了!」

 

 天井を這う丸太の上で、歩果は思わず拳を握った。

 業務の迅速な遂行。

 即ち、最も欲しい成果を手に入れた喜びで。

 

「違う!」

 

 だから、弥太郎が気づいたことに、歩果は気づけなかった。

 

 

 

「我を狙ったのは、汝らか?」

 

 

 

 弥太郎の剣先に漂っている魂の大きさが、通常の半分の大きさしかないことに。

 

「え?」

 

 唯一神アマデラが、セブーナの魂を二つに分けて、一つを影武者の体に、もう一つをセブーナの体に入れていたことに。

 影武者の体と本物の体――二人のセブーナを用意していたことに。

 

 セブーナの死は、代弁者の死。

 代弁者の死は、アマデラ神の言葉の喪失。

 アマデラは、そんな現実を許す気などなかった。

 

 セブーナは、爪に装着した鉄の付け爪で、歩果を背後から貫いた。

 

「ごふっ」

 

 血が噴き出し、体に力を入れることができなくなった歩果は、丸太の上で態勢を維持することもできなくなり、真っ逆さまに天井から床へと落ちた。

 落ちた拍子に両足の骨が折れ、ろっ骨が折れて、自身の体重で時間停止の機械をも破壊してしまった。

 

 時間が動き出す。

 色の付いた世界で、歩果は動き出した信者たちに囲まれた状態で、床にうずくまっていた。

 

(い、痛い……死ぬ……)

 

 周囲の信者たちは、突然現れた歩果を見て、なにが起こったのかもわからずざわつきながら祈りの台へ視線を向ける。

 そこにあったのは、倒れた護衛たちと剣で斬り殺されただろうセブーナの姿。

 

「セ、セブーナ様!?」

 

 代弁者の死を前に、信者たちの混乱が膨らみかける。

 

「案ずるな! 本物の我は、ここに生きておる!」

 

 が、セブーナは混乱を起こさせないよう、すぐに天井から叫んだ。

 二人のセブーナを前に信者たちはやはりうろたえていたが、セブーナは構わず声を張り上げた。

 

「そこに倒れている女と、祈りの台に立っている男をひっとらえよ! 我を殺そうとした、反信者だ!」

 

 何故なら、セブーナには自信があった。

 たとえどんな状況であろうと、自分の声は信者たちに正しく届くと。

 

 その自信は正しかった。

 信者たちはセブーナの声を信じ、床に倒れる歩果の両手両足を掴んで、逃げられない様に押さえつけた。

 

「痛い! 痛い痛い痛い!!」

 

 両足と肋骨の骨が折れた状態で押さえつけられれば、歩果に走る激痛の大きさは推して知るべし。

 痛みと恐怖に顔をゆがめた歩果が、助けを求めるように台の上に向く。

 

 

 

 台の上にいたはずの弥太郎は、いつも通りの冷静な表情で台から飛び降り、まっすぐ講堂の出口へと走っていた。

 

 歩果を一瞥することは、最後までなかった。

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