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第12話 悪役令嬢スリーミー・フラメンコと護衛フォース3

 悪役令嬢スリーミー・フラメンコ。

 彼女は、未来で自分に向けられた視界を一瞬だけ見ることができる。

 故に、超小型ドローンを通して見た自分の姿という視界から、容易にドローンの位置を見破った。

 弥太郎の視線を通して見た剣先という視界から、容易に弥太郎がフォースのどこを狙っているかを見破った。

 

 未来の視線さえ覗いてしまえば、相手がどう動くかの逆算など容易い。

 

「お嬢様のお手を煩わせるわけには」

 

「何を言ってるのよ。貴方じゃ対処できないでしょう?」

 

 まるで戦友のようにフォースの隣に立ったスリーミーの瞳に、一瞬だけ三姫の未来の視界が映る。

 即ち、四つのドローンが映し出す四つの映像が。

 映像にはスリーミーとフォースを四方から映されており、スリーミーはドローンの位置情報と同時に、すぐさまドローンがスリーミーを目掛けて飛んでくることもないと知ることができた。

 

 スリーミーは剣を軽く振って、剣先の向きによってフォースへドローンの飛んでいる場所を伝える。

 

「こういうのは、私の方が得意なのよ」

 

 フォースは、スリーミーの剣が指した先すべてにドローンが浮かんでいることに気づくと、大きなため息をついた。

 フォースにも、護衛としてのプライドはある。

 護衛対象であるスリーミーを戦場に置くなど、プライドがへし折れる行為だ。

 だが、プライドがへし折れたとしても、スリーミーを守れる確率が上がるなら実行する覚悟もあった。

 最大のプライドは、スリーミーを生かすこと。

 

 現時点、スリーミーとフォースの共闘が、最もスリーミーの勝率を上げることができた。

 

「わかりました。ですが、浮かぶ球だけを相手にしてくださいね」

 

「もちろん。あっちの男は、貴方に任せるわ。フォース」

 

「御意に」

 

 二人の役割は成った。

 フォースは弥太郎へ向かって立ち、フォースの背後にスリーミーが立った。

 

 弥太郎がフォースを見れば、おのずとスリーミーが視界に入ってしまう位置。

 スリーミーが視界に入れば、弥太郎の視界はスリーミーに覗かれる。

 そこは、スリーミーの能力が最も生かされる特等席。

 

 

 

「天馬さん。あの悪役令嬢、ドローンの位置を補足してます」

 

「俺の攻撃も、読まれてるらしい。未来予知の類かと思ってたんだけど、ドローンの位置を補足されてるってなると、どうやらそれだけじゃないらしいな」

 

「……ずるすぎます」

 

 三姫はスリーミーを睨みつけた。

 自分たちが持たない能力を持って戦闘を有利に進めていることに、その不公平さに、納得がいかなかった。

 が、弥太郎は三姫を諭すように口を開いた。

 

「この仕事を続ける限り、こんなことは何回でも起こるよ。いちいち目くじら立ててちゃ駄目」

 

「天馬さん。でも」

 

「俺たちだって、時間を止める機械とか、剣で斬れないスーツとか、色々使ってるんだ。お互い様さ」

 

「それは、私たちの能力じゃなくて道具の力じゃないですか」

 

「能力も道具も同じだよ。あちらさんからすれば、どっちも未知の力なんだから」

 

 弥太郎は痛む肘をさすりながら、フォースを見る。

 一切の油断を感じさせない構え。

 ここまでの接触で、一対一の真っ向勝負であれば弥太郎がフォースに勝てないのは自明であった。

 

「清水さん、さっきみたいにドローンでかく乱できる?」

 

「できます!」

 

 故に、弥太郎は三姫を頼った。

 フォース同様、弥太郎にも上司としてのプライドはある。

 同行者である三姫を戦力にカウントするなど、プライドがへし折れる行為だ。

 だが、プライドがへし折れたとしても、調達の業務を達成するためなら部下に頼る覚悟もあった。

 最大のプライドは、業務を完遂すること。

 

「俺の我儘に付き合わせちまうが、一回だけ頼む」

 

「はい! って、ん? わがまま?」

 

 弥太郎は全身の凝りをほぐすために深呼吸をし、剣を握り直した。

 

「来るわ」

 

 そして、スリーミーが呟いた後、フォースへ向かって駆け出した。

 

「来るか」

 

 フォースが迎え撃つために剣を強く握った瞬間、弥太郎の背後にドローンが四台が集まり、花火のように四方へと分かれて飛んだ。

 

「同時に操れるのは、四つまでみたいね」

 

 ただし、ドローンの位置は、もちろんスリーミーに捕捉されている。

 

 三姫は、二台を先行させて、フォースの右手と左足を狙う。

 対しフォースは、近づいてくるドローンに一切気を散らせることなく、弥太郎の動きだけを見ていた。

 スリーミーが対処すると言った以上、それを信じるのがフォースの仕事だ。

 

「単純ね」

 

 スリーミーはフォースの後を追って走り、フォースに近づくドローンを二連続で突き刺し、その動きを止めた。

 剣に串刺しされて串団子のような状態となったドローンは、ほどなく監視する機能を失った。

 

「……っ!」

 

「下手ね。私なら、もっと上手く操れるわ」

 

 スリーミーは剣を振り、剣に突き刺さっていたドローンを地面へ捨て転がした。

 ドローンが地面に落ちると、弥太郎とフォースの剣が衝突した。

 

「……っぐ! 重いな、ちくしょお!」

 

「玉遊びの小細工ごときでは、私を止めることなどできないぞ」

 

 真っ当な衝突。

 であれば、結末は変わらない。

 フォースが弥太郎を押し返すという、面白みのない真っ当な結末が訪れる。

 

「ぐあっ!?」

 

「終わらせよう。お嬢様に、無茶をさせたくはないのでな」

 

 弥太郎の剣が地面に落ち、フォースは弥太郎の手に届かない様に剣を蹴り飛ばした。

 そして、無防備に尻もちをつく弥太郎に止めを刺すため、駆け出した。

 

「あっけないわね」

 

 弥太郎を助けようと動くドローンも、スリーミーが次々と斬り捨てる。

 スリーミーは勝利を確信して満足げな笑みを浮かべ、フォースと弥太郎を見た。

 

 

 

 そして、未来を見た。

 

 

 

「フォース!! 正面よ!! 躱して!!」

 

 フォースが死ぬ未来を。

 

 圧倒的優位な状況下だと認識しているフォースは、スリーミーの叫んだ言葉から、何を躱せばいいのか判断できなかった。

 だが、スリーミーの言葉への絶対的な信頼感から、フォースへ向かって走るのをやめ、すぐに左右へ跳べるように体を制御した。

 何かの飛び道具だろうと予測し、回避と剣での叩き落し、両面で警戒を強めた。

 

 フォースの予想は、正しい。

 弥太郎が選択したのは、飛び道具だ。

 

「ああ、終わらせよう」

 

 だが、正しかろうが回避できないものもある。

 

 弥太郎が取り出したのは、一丁の拳銃。

 銃口をフォースに向け、感情なく引き金を引いた。

 弥太郎の一連の動きは、フォースには全て見えていた。

 見えていたが、躱せなかった。

 

 フォースの見慣れた飛び道具、矢の速度は時速二百キロメートル。

 対し、銃弾の速度は時速百二十九万六千キロメートル。

 フォースにとって、予測できない速度。

 

 銃弾はあっけなくフォースの額を貫いて、その魂をかっさらった。

 

「フォース!?」

 

 現実に再現された未来を前に、スリーミーは焦った表情で倒れたフォースの元へと駆け寄った。

 瞳から光を失ったフォースの体を何度も揺らし、何度も名前を呼ぶ。

 

「嫌! フォース! 起きて! 嫌よ!! 私を一人にしないで!!」

 

 スリーミーは、生まれながらに家族から恐れられた。

 相手の視界を覗けるという特異な能力を、悪魔の瞳と呼ばれて恐れられた。

 そんな中で、能力を知ってなお自分を恐れなかったフォースの存在が、スリーミーの支えとなった。

 

「嫌あああああ!!」

 

 スリーミーは叫び続けた。

 自分に銃口が向けられる未来を見ても、叫び続けた。

 自分が撃たれる未来を見ても、叫び続けた。

 

「悪いね。ほんと」

 

「……悪魔」

 

 スリーミーの呟きを遮るように、発砲音が響く。

 スリーミーはフォースの体にかぶさるように倒れ、瞳から光を失った。

 スリーミーの近くの地面には銃弾がめり込まれ、銃弾にはスリーミーの魂である白い光が灯っていた。

 

 静寂を取り戻した戦場で、三姫は弥太郎へと近づいた。

 三姫の表情は、納得がいかないという感情を隠す気がなかった。

 弥太郎の言った『わがまま』という言葉の意味を、理解したから。

 

 弥太郎は、近づいてくる三姫から、ふいっと目を逸らした。

 

「天馬さん」

 

「ん?」

 

「拳銃でも魂採れるなら、剣より拳銃の方が効率よくないですか?」

 

 尤もな指摘を前に、弥太郎はごまかすように咳をする。

 

 調達業務に携わる社員の中で、最も人気がある武器は銃だ。

 理由は単純に、扱いやすいからだ。

 特に、銃と同じくらい速い武器を持ち合わせないことが多い異世界においては、攻撃の手段さえ予想をさせない無類の強さを発揮する。

 そして、最も人気がない武器は剣だ。

 理由は単純に、剣と魔法を子供の頃から扱ってきた異世界の人間に対して、同じ剣で戦うのはあまりにも不利だからだ。

 

「まあ、そうなんだけどさ」

 

「はい」

 

「魂を奪う以上、なんつーか。こっちもせめて対等な場に立つのが、誠意っつーかなんつーか」

 

「誠意で死んだら、元も子もないじゃないですか!」

 

「……ごもっともで」

 

 最も人気がないにもかかわらず弥太郎が剣を使用するのは、完全な自己満足だ。

 大量生産品よりも手作りに温かみを感じるように、銃という手軽な方法よりも剣という苦労のかかる手段を使うことが、弥太郎にとっての美学だった。

 即ち、命を扱う狩る側として、狩られる側に敬意を示す美学。

 

 困ったように笑う弥太郎を、三姫は呆れた顔で見つめた。

 

「まあ、無事に仕事終わりましたからいいですけど。銃が使えるんでしたら、私にも銃を使わせてください」

 

「ええー。いいじゃん、剣で」

 

「さすがに効率が悪いです」

 

 二度と触れ合うことのできないスリーミーとフォースの前で、弥太郎と三姫は互いの手を握り、調達達成と互いの健闘を称えた。

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