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第09話 鐘の音が響く夜


 鐘が鳴り響く。

 突然現れた、人型の者たちが同じように声を出している。


 周りにいた生徒たちも、教師も、運転手も、結城も、そして篝も動けない。

 灯を抱きかかえるようにしながら、息を呑んだ。

 篝が、宮守に問いかける。


「……選ばれたって、どういうこと?」

「影月に印をつけられたであろう、その娘は。」

「あの、変な模様みたいなやつ?」

「そう。それこそ、証だ。ただの生贄じゃない。『花嫁』だ……この鐘は、『花嫁』が現れた時になる音だ。」

「……『花嫁』に選ばれた灯は、どうなるんだ?」

「……」


 篝の言葉に、宮守は何も言わない。

 ただ静かに、視線を逸らすようにしながら呟いた。


「……私の娘も、『花嫁』に選ばれ、奴らに連れて行かれ、帰ってこなかった。」

「え……」


 唇を噛みしめるようにしながらそのように答える宮守に、篝は目を見開いた。

 そして次にその言葉を出そうとした時だった。


 村人たちが一斉に動き始めたので、篝はそれ以上のことを宮守に聞けなかった。

 足が震え、胸の中で不安が膨れ上がる。

 その不気味な静けさの中、ただ一つ、明確なものがあった。

 灯を抱えているその腕に、力が入りすぎて血が滲むような感覚さえ覚える。


 すると突然、村人たちの動きがぴたりと止まり、広場が静まり返った。

 篝の心臓が早鐘のように打ち始めたその瞬間――。


「さぁ、花嫁を迎える時間だ……そう思わないか、篝?」


 その声は、風に乗って、まるで空気そのものが囁くように篝に響いた。

 振り向くことができない。

 なぜなら、その声はどこからともなく聞こえてきたからだ。

 それでも、確かにその言葉は篝に届いていた。


 その声を発した者の姿は見えない。

 だが、その言葉が意味するものは、篝にはわかっていた――灯が、あの無意識のままで、何かの儀式の「花嫁」に選ばれたということを。


 村人たちの目が再び、篝と灯に向けられる。

 無表情で、無感情で、まるで命令を待つ兵士のように動かない。

 その冷たい目が篝に突き刺さり、彼女の心は凍りつくような恐怖に包まれた。


「花嫁を迎える時間だ。」


 その言葉が、広場に響き渡る。篝はその音に背筋を凍らせながらも、灯を強く抱きしめた。

 何かが、もうすぐ起きる――その予感が胸を突き刺す。


 そして、あの声が再び篝の耳に届く。


「花嫁を迎える時間だろう? さぁ、どうする? 篝。」


 その声が、明らかに篝を挑発するように響き、彼女の足は動かない。

 何もかもが、儀式の一部であるかのように感じられ、篝の身体がその力に引き寄せられていく。


「……花嫁って灯のことか?」


 篝は無意識に口にしていた。


「『花嫁』?ああ、そうだ。」


 ゆっくりと、その声の主がやっと姿を現した。

 黒い衣装をまとい、冷たく、無表情で立っている影月の姿が、広場の端に現れる。

 その後ろには紅月も立っていた。二人は互いに目を合わせ、篝に視線を送る。


「どうして……どうして灯なんだ?」


 篝の声は震えていた。彼女は灯をしっかりと抱きしめるが、恐怖と疑念が胸の中で渦巻いていた。

 影月は一歩前に出て、その冷たい目で篝を見つめながら、静かに答える。


「さぁ、どうしてだと思う?」


 その答えに、篝は何も言えなかった。

 彼女は答えを求めていたのに、その言葉が意味するものは、もう十分に理解していた。

 しかし、納得できなかった。


「なぁ、紅月。」


 影月がその声で紅月に呼びかける。

 紅月はゆっくりと目を開け、影月と篝を交互に見つめた後、微笑みを浮かべながら答える。


「そうだね、どうしてだろうね、影月。」


 その言葉に、篝は心の中で何かが崩れ落ちるのを感じた。二人の冷徹な笑み、そして無感情な視線が、彼女に重くのしかかる。


「灯が選ばれたのは、彼女が私たちにとって最もふさわしい存在だからだ。」

「ふさわしいって……」

「そう、ふさわしいんだよ、お姉さん。ねぇ、影月」

「ああ、確かに灯は花嫁だ。」

「そう、僕の花嫁だよ、お姉さん……でも、影月の花嫁は違うみたいだよ。」


 紅月が微笑みを浮かべて言う。その言葉には、何とも言えない意味深さが込められていた。


「本来ならば、一緒に分け与えるのが基本なんだけど。」

「わけ、与える?」

「そう、分け与える。二人で一つだったんだけどね……けど、今回は本当に気に入っちゃったみたいだね、影月。」


 その言葉を受けて、影月は静かに頷き、そして篝に向かって低く囁くように言った。


「ああ、そうだな紅月。花嫁はもう一人いた方がいいな、そう思わないか篝?」


 篝はその言葉に反応して身体が震え、思わず後ずさる。その背後には灯が無意識のままで、篝の手のひらにしっかりと抱えられている。


「ッ……」


 篝の胸が激しく高鳴り、口をつぐんだまま、言葉を失った。心の中で怒りと恐怖が交錯する。

 影月と紅月の視線が一斉に篝に向けられ、その目には冷徹さと楽しみが混じり合った不気味な輝きが宿っている。篝の心はじわじわと締め付けられ、身体が固まってしまった。


「さぁ、篝。」


 影月がさらにその歩みを進め、紅月も続いて彼の側に立つ。


「君もその場に加わり、私たちと共にこの花嫁を迎えよう。全てはこの村の決まりだ。」


 篝はその言葉に反応することなく、ただ震えながら灯を抱きしめる。

このままその手を取ってしまったら、自分自身も、そして灯の運命も決まってしまう。


 影月の冷たい声が、篝の耳に響き渡る。


「お前にも印をつけてあげよう」


 影月はゆっくりと近づき、その目は篝の目をじっと見つめていた。


「俺のモノだと言う印を」


 篝は恐怖と疑念に震え、何も言えずにその場に立ち尽くしていた。

 灯を抱えた腕が重く、もう一度、前に進むことができる気がしなかった。


「愛してやろう、永遠に」


 影月は篝に向かって静かに告げる。その声には、どこか冷徹な響きがあり、まるで篝を支配しようとするかのようだ。

 紅月がその後ろでにやりと笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「前の花嫁以上に、お前のことを最後まで、永遠に愛してやろう。」


 篝は息を呑み、背筋を凍らせるような感覚が広がった。

 影月が何を意味しているのか、理解できないわけではない。


「さぁ、おいで、俺の篝」

「い……ッ」


 いやだ、という言葉が口から出せない。

 否定してしまったら、どんな運命が自分たちに待っているのだろうか?

 彼女の心など無視するかのように、影月は一歩を踏み出す。

 その目には、もはや恐れではなく、支配と所有の欲望が色濃く宿っている。

 その言葉に篝の心はざわつく。

 彼がその名を呼んだ瞬間、全てが変わってしまうような気がした。

 どんなに逃げようとしても、どこに行こうとも、彼の手のひらからは逃げられないのだと、篝は無意識に感じ取っていた。


「俺のものになれ、篝。」


 影月は篝の目をしっかりと見つめ、そのまま歩み寄る。


「お前は、もう逃げられない。」


 その声に、篝の全身に冷たい汗が流れる。

 灯を抱きしめたその腕が、もはや動かせなくなったような気がした。

 紅月もその場に歩み寄り、篝に向かって優しく微笑みながら言う。


「俺たちと一緒に、この村を支配してみようよ。お姉さんが僕たちに加われば、全てがうまくいくかもしれないよ?」

「どうする、篝?」


 影月の声が再び響く。

 静かに笑う目の前の男に対し、篝は恐怖で動けないままだった。



読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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