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第08話 村からの脱出

 篝が意識のない灯を連れてきて寝かせた次の日の朝。


 運転手と教師は、村の外れにある小道にひっそりと佇んでいた。

 周囲は暗闇に包まれ、辺りは静まり返っている。


「どうしても出口が見つからないのですか?」


 運転手が低い声で、焦りを隠せないように尋ねた。


「まだ見つかっていない。村の中を歩いてみたが、どこへ行っても中心に戻ってしまう。」


 教師の声には、怒りと恐怖が交錯していた。


「だが、もう限界だ。警察を呼ぶためにも、今すぐに村を出る方法を探さなければ。」


 運転手はうなずき、額の汗を拭った。


「でも、この村はおかしいですよ……出口が消えているかのようだ。」

「まるで、村に閉じ込められているようだ。」


 教師の目には覚悟の色が宿っていた。


「生徒たちにどう説明すればいいのか分からないが、今は無事にみんなを連れて出なければ。」


「そうですね……」


 運転手と教師は簡単にその会話を終え、動き出した。

 教師は残りの生徒たちを集めるために動き、運転手は一人その場に残り、村の出口を見守る。

 生徒たちが集まり始め、彼らは互いに不安そうな表情を浮かべながらも、教師の言葉に耳を傾ける。

 教師が皆を見渡し、声を上げた。


「これから、村を出る。しっかりと俺についてきてほしい。いいな?」


 生徒たちはしばらく黙って教師を見つめていたが、やがてそれぞれが頷き、動き始めた。

 その中で、篝は灯を抱きしめながら他の生徒たちと共に歩き出す。

 結城が声をかけるまで、篝はただ足元を見つめて無言のままだった。


 篝は灯を抱きしめたまま、無意識に歩みを進める。

 しかし、それよりも重要なのは、灯が目を覚まさないこと。

 心配と恐怖が交錯し、篝の足取りはどんどん重くなる。


「篝、しっかり。」

「……れん


 結城が何度目かの呼びかけでようやく篝の意識を引き戻した。

 彼の眼差しは、篝の不安そうな顔をじっと見つめていた。

 結城の目には、無言の励ましが込められている。


「出口に向かっているんだよね?」


 と、結城が穏やかな声で続ける。

 篝は一瞬立ち止まり、ふと灯の顔を見下ろす。彼女は依然として動かず、意識のないままだ。

 それでも、篝は力強く頷く。


「……この村から出なければ」

「その通り……でも無理はしないで。篝が倒れたら、誰が灯を守る?」


 結城は静かに篝の目を見つめ、何かを気遣うように言葉を続ける。


「君が気にしすぎるのは分かる。でも、仲間もいる。みんなで力を合わせてこの村を出よう。その、俺も一緒に居るから……」


 篝は無言で頷き、再び灯をしっかりと抱きかかえた。

 結城が少し後ろから、彼を支えるように歩みを進める。


「みんなが助け合っている限り、ここから出ることはできる。絶対に。」

「……ありがとう、蓮」

「え、お、お礼……あ、うん、どういたしまして」


 結城のその言葉が、篝に少しだけ力を与えたかのように感じた。


 この村に来て同じ道を歩いているはずなのに、出口が全く見つからない。

 まるで、同じ場所を何度も歩いているかのように、昼だったはずなのに、もうすぐ夜を迎えようとしている。

 何度も何度も同じ道を歩き――教師と運転手、また生徒たちは不安に駆られる。

 必死に道を探しても、どこを歩いても村の中心に戻ってきてしまう。

 家々が並んでいる通り、同じ景色の広がる広場、まるで時が止まったような錯覚を覚える。


「なんだ、これ……」


 一人の生徒が喘ぎながら呟く。


「ここから出られないのか?」


 ともう一人が恐る恐る言う。


 篝は冷静を保とうとしたが、胸の中に広がる焦燥感を抑えることができなかった。

 心の中で、何度も出口を探して歩き続ける。

 しかし、目の前には見覚えのある風景が繰り返されるばかり。


「どうなっている……?」


 篝は顔を歪め、隣に立っていた宮守に問いかける。


「村は、お前たちを逃がさない」


 次の瞬間、篝の背後に現れた宮守に驚き、思わず顔を引きつらせてしまった。

 そして、宮守の言葉に篝は疑問を抱く。


「逃がさないってどういう……」


 問いかけようとしたその時だった。

 遠くから、鐘の音が響き渡ったのだ。


「……鐘?」


 どこでこのような音が鳴っているのかわからない。

 しかし、不気味さを感じさせる。

 篝は眉をひそめる。

 音が鳴り続ける。

 しばらくして、その音が村中に響き渡った。


「花嫁を迎える時間だ。」


 その声が、空気に重く響いた。

 篝は足を止め、寒気を感じた。

 鐘の音はさらに大きく、耳を突き刺すように鳴り響いていった。


 生徒たちの間に、不安と恐怖が広がる。

 目の前の広場に、突然、村人たちが現れた。

 まるで、どこからともなく湧き出るように、静かに、しかし一斉に集まってきたのだ。


 その姿は異常だった。

 普段、見かけないような顔ばかりが並び、目はどこか遠くを見つめているように虚ろで、表情は硬直していた。

 その動きはまるで操られているかのようで、まったく無駄がない。


「……な、なに……?」


 篝はその異様な光景に目を見開く。


 村人たちは何の前触れもなく、一斉に「花嫁を迎える時間だ」と同じ言葉を口にした。

 まるで儀式を行うかのような統制の取れた動きで、近づいてくるその姿は、篝に強烈な不安を抱かせた。


「逃げろ!」


 誰かがそのように叫んだ。

 しかし、その声はどこか虚しく響いた。

 逃げる道などないことを、篝は深く理解していた。

 篝は宮守を振り返り、その瞳を見つめた。


「私たちをどうするつもりなんだ?」


 篝の言葉に対し、宮守の目には、もはや迷いは見当たらなかった。

 冷徹でありながら、どこか達観した様子で答える。


「村はお前たちを逃がさないと言っただろう。お前も、もうすぐその意味を理解することになる。そして――」


 その言葉に、篝は心の底から不安を覚えた。


 その夜、空が暗くなると共に、村の広場に灯りがともり始めた。村人たちの静かな歌声が風に乗って聞こえ、篝の心はますます引き込まれていく。


「――花嫁を迎える時間だ。」


 村人たちが同じ言葉を繰り返しながら、篝たちに近づいてくる。

 その動きは遅く、まるで舞踏のように幻想的でありながら、不気味な雰囲気を放っていた。


 篝は覚悟を決めた。もう逃げることはできない。生徒たちはその場で何かをするしかない。

 だが、彼女がどうしても避けられない予感があった。

 これは、単なる村の儀式ではない。


 宮守は最後に、篝の後ろで意識を失っている灯を指さし、答えた。


「彼女《灯》は奴らの『花嫁いけにえ』に選ばれたのだ」

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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