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第03話 夜の警告

 村の老人――宮守(みやもり)に連れられ、生徒たちは木造の古びた宿へと案内される。

 宿の外観は煤けた木材に覆われ、今にも崩れそうな屋根がどっしりとした影を落としている。

 扉を開くと、湿った空気が肌にまとわりつくように流れ込んできた。

 長い廊下には、古い畳の匂いと、どこか生乾きのような臭いが混ざっている。

 壁にかけられた和紙の掛け軸は色褪せ、天井の梁には蜘蛛の巣が絡みついていた。

 提灯が灯る薄暗い空間が、妙に静かで、生徒たちは誰一人として軽口を叩こうとはしなかった。


「今夜はここで休め」


 宮守が低い声でそう言った。

 生徒たちは安堵したように息をつくが、彼はそのまま続ける。


「……ただし、夜になったら決して外へ出るな」


 その一言に、空気が凍りついた。


 冗談ではない。

 宮守の表情には、一切の迷いがない。


「絶対に、だ」


 再度念を押すように、ゆっくりとした口調で言われると、生徒たちは顔を見合わせた。

 しかし、その理由を尋ねようとする者はいなかった。

 宮守の瞳に浮かぶ警告の色が、何よりも雄弁に『聞かない方がいい』と語っていた。

 篝はそんな宮守を静かに見つめる。


(やっぱり……この村、おかしい)


 篝は、胸の奥で確信を深める。

 霧の中を歩いていた時から、ずっと漠然とした違和感があった。

 今も、それは拭えない。

 この村全体を包む重苦しさ、息苦しいほどの静けさ――

 ここだけ時間の流れが歪んでいるような感覚さえあった。


 しかし――


「おいおい、なんだよそれ。まるで化け物でも出るみたいな言い方じゃねえか」


 鼻で笑ったのは、クラスメイトであり、ムードメーカーの相楽悠馬(さがらゆうま)だった。

 冗談だろう、と言う言葉を投げかけてみるのだが、宮守は何も答えない。

 ただ、険しい顔のまま、生徒たちを見渡し、踵を返すと、足早に宿を出て行ってしまった。


「……」


 篝は彼の背中を見送りながら、重くなる胸の内を押さえ込む。


(私たちは……本当にこのまま、ここにいていいのだろうか?)


 そんな事を考えつつ、篝は窓に目を向け、静かに息を吐いた。



 ▽



「お姉ちゃんと同じ部屋なんて、すっごく嬉しい!」


 宿の一室で、灯がにこにこと笑いながら、布団を並べる。

 しかし、畳の感触は湿っていて、どこか冷たい。

 障子の外には、月明かりすら届かない暗闇が広がっている。

 風が吹くと、わずかに揺れる障子の隙間から、ひゅう、と冷たい空気が流れ込んできた。

 微かに震えながらも、恐怖より今は灯の傍に居たいと願う。


「……私も、灯と一緒なら安心できる」


 篝は静かにそう言って、灯の隣に腰を下ろした。


「ねえ、篝、手を繋いで寝てもいい?」

「……全く、子供じゃないんだから」


 苦笑しながらも、灯の手を軽く握ると、彼女は満足そうに目を細めた。


 それでも、篝の胸には不安が残ってしまう。

 なにせ、夜の静けさが、あまりにも不気味だった。

 同時に、篝は宮守が言っていた言葉がまだ頭の中にあったのである。

 村の人々の気配はなく、まるでここが廃村であるかのような静寂が広がっている。


(……なにかが、いる)


 ぼんやりとした直感。


 それが何なのか、篝にはわからなかった。

 しかし、そのように感じてしまう。

 宮守の警告は、決してただの迷信ではないはずだ。

 そのように思いながらも時間だが過ぎていく。


 それから、夜が更けた頃。


 宿の廊下は、しんと静まり返っており、奥の部屋からは、生徒たちの寝息が微かに聞こえてくる。

 しかし、篝は眠れずにいた。

 その代わり、双子の妹である灯は修学旅行で疲れたのか、それともここに来るまで歩き疲れたのか、眠っている様子が見られた。


 相変わらず、篝は遠くから、かすかに何かの気配を感じてしまったため、眠れない。


 ――ざわ……ざわ……


 風ではない。

 人の声のようなものが、どこかから聞こえてくる。

 そんな時、突然相楽が篝が起きている事に気づき、声をかけた。


「なあ、つまんなくね? せっかくこんなヤバそうな村に来たんだし、ちょっと探検しようぜ」


 不意に、低い囁きが響いた。

 篝が顔を上げると、相楽悠馬が興味深げにニヤリと笑っていた。


「だってさ、こんなホラー映画に出てきそうな宿、ただ寝るだけなんてもったいねえだろ?」


 その言葉に、起きてきた数人の生徒が声をかける。


「……でも……」

「じいさん、ただビビらせてるだけじゃね? どうせ何もねえって」


 相楽の言葉に、生徒たちは顔を見合わせる。

 宮守の警告が頭をよぎるが、静まり返った宿の中で、退屈が徐々に生徒たちを支配しつつあった。


「……私はやめたほうがいいと思う」


 忠告のように、篝が低い声で言うと、相楽はからかうように眉を上げた。


「なんだよ、篝。怖いのか?」

「……そうじゃない。ただ、嫌な感じがする」

「へえ? お前、霊感ある系?」

「……そういうのじゃない」


 篝は真剣な目で悠馬を見返す。


「宮守は本気だった。ただの迷信で言っていたわけじゃない……少なくとも、私は忠告を守るよ。灯に何かあったら大変だ」

「相変わらずお前は妹優先なんだな……ふーん、ま、そんなこと言っててもつまんねえしな。俺は行くぜ」

「おい、相楽ッ……」


 名前を呼んだが、無駄だった。

 相楽は軽く手を振ると、意気揚々と部屋を出て行った。


「……!」


 篝は反射的に立ち上がろうとするが、袖を掴まれる。


「お姉ちゃん……行かないで」


 寝ぼけているのかわからない、灯の声。

 灯のか細い声。

 篝は唇を噛む。


(……仕方ない、今は様子を見るしかない)


 障子の向こうに、相楽の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、篝はじっと外の闇を見つめた。


 ――そして、その静寂の中で、何かが動いたような気がした。


 遠く、相楽が歩いていった方角から――

 湿った夜気に混じり、微かに、何かの気配が揺らいでいた。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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