第14話 血月の使者
「……」
少しだけの休息――もうすぐ朝日が昇る時間だ。
宮守が言うには、昼間には彼らは襲ってこないらしい。
「……本当、漫画とかでよく見る感じ。吸血鬼って昼はダメなんだ」
ハハっと笑うようにしながら、篝は自分の手を見つめる。
手を伸ばせばきっと、灯を助けることができたのかもしれない。
どうしてあの時、灯の手を放してしまったのだろうかと、何度も考えてしまう。
一緒にいたはずの双子の片割れが、今はいない。
どんな思いをしているのか、どんな気持ちなのか――篝にはわからない。
「……灯」
どのようにして彼女を救い出さなければ、そのように感じながら、唇を噛みしめた時だった。
背後に何の前触れもなく、冷ややかな声が響いた。
「どうしたのお姉さん。そんな顔して?」
突然響き渡った声に、篝が振り向くと、そこには白髪の髪をした吸血鬼、紅月が立っていた。
その姿は穏やかな表情だが、瞳には篝の心の中にある焦りを見透かすような冷徹さが漂っている。
「お前…どうしてここに?」
「灯のことでしょう?今、どうなっているか話してあげようと思って」
「え……ッ」
紅月は一歩踏み込んで、篝の前に立った。
篝は息を呑み、紅月の言葉を待つ。
紅月は無駄に言葉を並べることなく、冷静に、しかしどこか楽しげに話し始めた。
「灯は、ただ選ばれたわけじゃないよ。灯との出会いは、ある意味『運命』だった」
「うんめい……?」
紅月の目は篝を見据え、言葉を続ける。
「あの血は、僕たちの一族にとって、非常に重要なものなんだ。あの娘も……そしてお姉さんも例外じゃない。」
篝はその言葉に耳を傾け、心の中で反応を覚える。
灯がどれだけ望まない形で『花嫁』にされたのか、そして彼女がどういう立場に立たされているのか、少しずつ理解し始めていた。
「灯がどんな状態であろうと、もう戻れないよ。だって、彼女はすでに精神が崩壊しかけているから」
「なっ……」
「宮守から聞かなかった?この『花嫁』のこと……彼女たちがどうなったか?」
紅月はフフっと笑い、篝を見た後、冷淡に言い放った。
『彼らに捧げられた女性たちは、もはや死者のようなものだった。双子の力で魂を奪われ、意思を失った。何もかも支配されて、村は次第に『血月村』と呼ばれるようになった。』
(……確か、宮守さんはそんなことを言ってた)
もし、それが本当ならば、灯はあの時の灯ではないということ。
『篝お姉ちゃん』
笑顔でそのように言ってくれた彼女の姿がないということになる。
篝の心はざわつく。
灯が双子に支配されているという言葉に、ただ静かに怒りを覚え、思わず紅月を睨みつけた。
紅月は篝の反応に気づいたのか、静かに続けた。
「でも、覚えておいてほしい。彼女が選ばれた理由、そしてお姉さんがなぜここにいるのか。それを理解する日が来る」
「……どういう意味?」
篝は紅月の言葉の意味が理解できない。
その意味を理解するのに頭がついていかない。
紅月は静かに篝を見つめ、そして笑った。
「――君は、本当の自分自身の『運命』を知らないの?」
そのように言いながら、紅月は笑っていた。
どこか楽しく、子供のように。