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第11話 逃走の果てに


「篝、早く!」


 結城の声は切羽詰まっていた。焦燥とともに、篝を引っ張る手に力がこもる。

 篝はその手を必死に握りしめながら、遠ざかっていく灯の姿を見つめた。


「灯……」


 その声は、かすかな囁きに過ぎなかった。

 篝の体は結城に引かれ、足を止めることすら許されない。


 助けることも、手を伸ばすこともできない。

 無力感と絶望が胸を締めつける。


 ――一方で、影月はその光景を静かに見つめ、わずかに目を細めた。


「……ふん」


 忌々しげな舌打ちが響く。


 冷徹な視線が、篝と結城に向けられた。

 そこには、篝が他の男に引かれて逃げようとすることへの怒りと、冷ややかな嘲笑が浮かんでいた。


 しかし、影月の感情はそれだけでは終わらない。


 篝を必死に守ろうとする結城の姿が、彼の胸をさらに苛立たせた。

 どれほど守ろうとしようとも、そんなものは無意味なのに。


 篝は俺のものなのに、なぜこいつが触れている?


 篝の手を引くたびに、影月の中で嫉妬と憤怒が膨れ上がる。

 まるで、それを噛み潰すかのように、影月は小さく息を吐いた。


「……俺のモノになる女を、他の男が引っ張るなど」


 唇がわずかに震え、低く冷たい怒りがにじむ。


「篝は、俺だけのモノだ」


 その感情が、顔を険しくし、鋭く光る目に現れる。

 結城が篝を連れ去ろうとするたび、影月の怒りは静かに、だが確実に膨らんでいった。


「逃げるがいい、篝――」


 影月の声は静かで、確信に満ちていた。


「お前はすぐに、俺の手の中に戻ってくる」


 まるで運命を語るかのように。


 一方、結城は必死に篝の手を引いた。

 このままでは殺される。それは確信だった。


(それに……あの黒髪の男は何なんだ!?どうして篝に――)


 たった一日、二日で何があった?

 篝の知らない顔に、結城は不安を覚える。


「篝!今は生き延びることが先決だ!!わかるな!」

「……ッ」

「篝!」


 結城の声が冷静に響くが、篝は答えられなかった。

 篝の頭の中には、結城ではなく――灯の姿があった。

 なぜ? どうして彼女は行ってしまったのか?

 どうにかして助ける方法はないのか。 

 そんなことを考えながら、篝は結城に引かれるままに走った。


 そのとき、遠くで生徒たちの悲鳴が響く。


 篝の体が硬直する。


(みんな……!)


 そして、灯の顔が、フラッシュバックのように脳裏をよぎった。


「灯を……!」


 篝は思わず振り返る。

 しかし、結城が強く手を引いた。


「篝!」


 結城の声は、鋭く、確かなものだった。


(今は――逃げるしかない……)


 篝は奥歯を噛みしめ、再び走る。

 

   ▽


 何とか森の奥へ逃げ込んだ。


 息は荒く、止まらない。

 まるで影のように蠢く村人たちの姿に、篝と結城の二人は恐怖を覚えた。

 まだ逃げなければ、絶対に追ってくる。

 結城は再び篝の手を取る。


「篝、もう少し先に――」

「けど、灯が……」

「今は逃げることが――」


「――どこへ逃げるつもりだ、ん?」


 背後から、静かな声が響いた。

 篝は振り向こうとする。

 だが、結城がその動きを止める。

 そして、影月の前に立ちふさがるようにして篝を守った。

 影月の目が、苛立ちに細められる。


「篝――俺のモノだと言うのに、他の男と逃げるなんて許さないぞ」


 冷たい笑みが、篝に向けられる。


「逃げるつもりなら、俺を殺さないと逃げられないぞ?」


 その言葉には、篝を手に入れるためなら何でもするという狂気が宿っていた。

 結城は汗をにじませる。

 篝を見た。

 いつもと違う、沈んだ顔。

 それが目の前の男のせいなのか、それとも消えてしまった灯のせいなのか――だが、それを考える時間すら、影月は与えなかった。


 次の瞬間。

 影月の足が閃く。


「……ッ!?」


 結城の体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。


「ぐっ……!」

「蓮ッ!」


 篝の声が悲鳴のように響く。

 結城は苦しげに地面を押し、立ち上がろうとする。

 しかし、影月は冷たい視線を向けたまま、彼を見下ろした。


「篝、お前はどこへ行こうと俺のモノだ」


 影月が囁く。

 篝の心を鋭く刺す、狂気を孕んだ声。

 篝は結城に手を伸ばし、逃げようとする。

 だが、体が動かない。

 ――怖い。

 影月がゆっくりと歩み寄る。


「お前は俺のモノだ、篝」


 手が伸ばされる。


 まずい――


 その瞬間。


「篝、行け!」


 結城が影月の足にしがみつく。


「蓮……!」


 篝が結城の名を呼ぶ間もなく――

 影月の足が、無慈悲に振り下ろされた。


「ぐっ……!」


 結城の体が地面を転がる。

 影月は、篝へと視線を戻した。


「逃がさない」


 低く囁かれる、その言葉は。

 まるで、すでに決まった運命を告げるかのようだった。



読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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