第10話 灯の選択
灯の体が無意識のうちに引き寄せられるように、儀式の中心へと力が働いていく。
彼女はその感覚に、ふと目を覚ます。
しかし、意識はまだはっきりしない。頭がぼんやりとして、体は動かない。
「灯……!」
篝はその姿を見て、無力感に襲われながらも、何とか灯を助けようと手を伸ばす。
しかし、灯は反応しない。
すると紅月の声が聞こえ、彼は灯に手を伸ばす。
「灯、僕のところにおいで。」
その言葉が灯の耳に届くと、彼女の体が一瞬止まり、そして、次の瞬間には意識が戻った。
まるで霧が晴れたように、彼女の目に意志が宿る。
灯はその瞬間、儀式に引き寄せられようとする自分の体を感じ、恐怖に駆られる。
だが、同時に何かが彼女を強く引っ張り、意識がはっきりと戻る。
「篝……ごめんね。」
灯の口から、無意識に漏れたその言葉は、篝の心を深く傷つけた。
「……灯?」
篝が灯の名を呼ぶ。
しかし、灯は篝の声に反応しなかった。
まるで自分の知らない灯が、そこに存在しているかのように見えてしまったのである。
『篝お姉ちゃん!』
笑顔で返事をしてくれる、自分の片割れの姿ではなかった。
それでもなお、篝は声を上げる。
「灯ッ!」
篝は叫ぶが、その声は届かない。
灯はもう、篝を振り返ることなく、紅月の手のひらを取る。
紅月の手を取った灯は、そのまま祭壇へと向かい、二人の姿はまるで霧のように、 徐々に消えていった。
篝はその姿を見つめ、何もできずにただ手を伸ばして叫ぶ。
「あ、ああ……灯! 灯ィッ!」
その叫びと同時に、結城蓮が篝の手をしっかりと握りしめ、力強く引っ張る。
「篝! 逃げるぞ!」
篝はその声に反応し、必死に振り返るが、震える声で言った。
「けど、灯が……灯がッ!」
「早く!」
結城は冷静に篝を引き寄せ、二人はその場を離れようとする。
しかし、足を踏み出した瞬間、影月がその前に立ち塞がった。
「逃がすと思うか?」
影月の声は冷徹で、篝の心に重くのしかかる。
そのまま影月は静かに言葉を発する。
「さあ、儀式の続きをしよう。」
影月は冷徹な声でそう告げると、指を静かに鳴らす。
その音が響くと、村人たちがまるで待ち構えていたかのように一斉に動き出す。
影月の目が冷たく光り、その背後で村人たちが血に飢えた獣のように動き出す。その目は生徒たちを捕らえ、殺意を宿している。
「祭壇を真っ赤に染めるのは、お前たちの血だ。」
影月の言葉が響き渡ると、村人たちがそれぞれに持っていた武器を一斉に掲げる。
手にしたのは鋭利な刃物、斧、槍。生者を切り裂くための武器が、今や死者に使われるために手に取られた。
そして、血に染まることを知らぬ無情な手が、それらを一斉に生徒たちへ向けて突きつけた。
祭壇が近づくにつれ、恐怖に震える生徒たちの叫び声が次々に響き渡る。
その声はかすかに、また次第に大きくなっていき、混乱と絶望が広がる。
だが、誰もが逃げることはできない。
彼らの足元には、生徒たちを目指して動き出した村人たちの足音が、徐々に迫ってきている。
生徒たちは必死で後退し、走り出すが、次々に村人たちに追い詰められていく。
悲鳴があちこちから上がり、血が地面に染み込んでいく。
そして、儀式の場である祭壇が、再び死者たちの血で満たされる。
血の匂いが空気を支配し、祭壇は不気味なほど赤く染まっていく。
影月はその光景を満足げに見つめ、冷笑を浮かべながら、改めて言葉を発する。
「さあ、楽しませてもらうぞ。」
その目には、犠牲者たちの絶望と命を無残に奪うことへの快楽が映し出されている。
結城はとにかく彼女をこの場から離れさせなければならないと思い、篝の手を強く引き、必死に走り続けていた。
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