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第01話 帰り道の異変

(……今日もめんどくさい一日だったなぁ……人付き合いも、騒がしいのも苦手だし、修学旅行なんて疲れるだけだ)


 そのように考えながら、篝は修学旅行の帰り道、バスの中で座りながら、窓の外に視線を向ける。

 バスの中は、修学旅行の帰りらしい浮ついた空気に包まれており、篝は興味がなさそうにしながらため息を吐く。

 早く帰って横になりたい、そのように思うようになっているぐらい、篝は高校生活に興味がなかったのである。


「ねぇ、(かがり)、さっき撮った写真見る?」


 楽しそうに、そして柔らかな声で話しかけたのは、双子の妹である(あかり)の姿だった。

 彼女の手にはスマホがあり、画面にはクラスメイトたちと一緒に撮った記念写真が映っている。

 楽しそうに笑う灯と、そしてめんどくさそうな顔をしながら視線をそらしている篝の姿が映し出されている。


「……別に」


 そっけなく答えた篝は、腕を組んで窓の外を眺める。ガラスに映る自分と妹の姿をぼんやりと見つめながら、深く息を吐いた。


「も~、篝はいつも冷たいんだから」

「そんなことより、シートベルトは?」

「そんな事って、相変わらずだなァ……ちゃんとしてるよっ!」


 灯はニコッと笑いながら、篝の腕にしがみつくように身を寄せた。

 昔から双子の姉にべったりな灯に対し、篝にとっては既にどうでも良くなっており、同時に慣れてしまっていた。

 灯は今後の事について話をする。


「ねえねえ、篝~、帰ったらまた一緒に映画観ようね!そうだなぁ……ホラー系にしようよ!最近サバイバルホラーハマってるんだよねぇ」

「……好きにしろ」


 篝は小さくため息をつきながらも、妹の髪をくしゃっと撫でた。

 本当は寝ていたいのだが、妹がそのように言っているのだから仕方がない。付き合ってやろうと思いながら静かに笑う。


 そんな事を考えていた次の瞬間、バスが突然、ガクンと揺れて止まったのだ。


「きゃっ……」

「……?」


 エンジンの唸る音がかすかに響いたが、それもすぐに途絶える。

 何が起きたのかわからない篝と灯だったが、灯は顔をあげながら、引率の担当の教師に声をかける。


「先生、どうしたんですか?」

「……わからない。運転手さん?」


 先生が前方の座席から身を乗り出す。運転手は何度かキーを回すが、エンジンはかかる気配がなかった。

 運転手は青ざめた顔をしながら口を開き、教師を見る。


「すまん、どうやら故障してしまったらしく……ちょっとお待ちください」


 運転手がハンドルを叩き、ため息をつく。生徒たちの間にざわめきが広がる。

 周りの生徒たちはざわめきながら話を始める。


「え、マジ?」

「こんな山奥で?」

「圏外じゃない?」


 生徒達が騒いでいる中、灯は最悪だと感じながら再度窓の外を覗き込んでみる。

 窓の外を覗き込むと、山道はどこまでも続き、木々が生い茂っている。電灯などなく、空は薄暗い灰色に染まっていた。

 このままだと夜になるだろうなと思いながら、呟く。


「……このままだと夜になって帰れないかもな」

「え、そんなぁ……篝とイチャイチャしようと思ったのにぃ」

「やめろ」


 冗談交じりでそのように答える灯に篝嫌そうな顔をしながら返事を返した。

 教師も同じような事を考えていたらしい。


「このままじゃ夜になってしまうな……」


 そのように呟きながら、教師が腕時計を見ながら、運転手と相談している。

 それから数分、生徒たちに向き直り、教師は話を始めた。


「仕方ない。歩いて町まで降りよう。道なりに進めば、どこかに人がいるはずだ」


 その言葉に、生徒たちが一斉に不満を口にする。

 普通だったら、不満を言うのは間違いない。

 周りが騒がしくなる。


「ええー!?」

「こんな山道歩くの!?」

「もう夕方なのに?」

「仕方ないだろう。みんな、荷物を持って降りろ」


 先生の一喝で仕方なく、生徒たちはしぶしぶバスを降りることになった。

 それぞれ生徒たちが荷物、貴重品などを持ちながら準備をしている最中、灯が笑うようにしながら篝を見る。


「篝、今更いうけどどうして修学旅行なのに竹刀持ってきたの?」

「だって、何かあった時に竹刀が振り回せるだろう」

「はいはい、剣道バカなんだから」


 普通修学旅行に竹刀を持ってくるバカはどこにもいないであろう。

 しかし、篝は修学旅行だと言うのに、竹刀を所持しながら観光名所とか回っていたのだった。

 特に自由行動をしていた際、新選組の所縁のある場所に行くと、目を輝かせるようにしながらいる姿を、灯は今でも忘れない。

 あんなに生き生きした篝を見たのは初めてだったからである。


 学校でも剣道部に所属している篝は全国大会で入賞するほどの実力の持ち主。

 幼い頃新選組の大河ドラマに憧れて、剣道部に入り、剣術を磨いてきた。

 まるで侍のように竹刀を持ち歩く彼女は、将来一体どのような人物になるのか、少しだけ期待してしまう灯だった。


 外はひんやりとした空気が漂っていた。地面には湿った落ち葉が敷き詰められ、靴が沈み込むような感覚がする。

 相変わらず生徒達からの不満など、聞こえてくる。

 灯は篝にべっとりとくっつくようにしながら歩き続けており、篝も灯に肩に手を置くようにしながら周りに視線を向け、歩き続けている。


 そして、歩き始めてしばらくすると――


「ねえ、なんか霧、濃くなってない?」


 生徒の一人が、静かに不安げに呟いた。

 気づけば、あたりは白い靄に包まれ、遠くの景色が霞んで見えなくなっていた。


「なんだこれ……」

「山だから霧が出やすいんじゃね?」


 軽口を叩く男子もいたが、その声にもどこか不安が滲んでいた。

 しかし、進めなければ、道はないし、戻ったところで故障したバスの中で過ごすことになるだけだ。

 進むしか、道はなかったのである。

 進めば進むほど、霧はますます濃くなり、やがて目の前すら見えなくなるほどになった。

 まるで生き物のように、霧がうねりながら足元を這っているかのように。


 そんな中、霧の合間にふと、黒ずんだ柱が浮かび上がった。


「……鳥居?」


 篝が静かに呟く。

 朱塗りだったはずのそれは、長い年月を経たせいか、黒ずみ、ところどころ朽ちていた。周囲には苔むした石灯籠が並び、鳥居の横には一つの石碑が建っている。

 篝は灯にその場に待ってもらうように声をかけ、石碑に近づき、目を細める。

 その石碑には、かすれた文字が刻まれていた。


 ――夜を迎えるな――


「『夜を迎えるな』?」


 ――ゾクッ


 篝が声に出した瞬間、誰かが寒気を感じたように身を震わせる。

 突然の寒気に、篝はあたりを見回したが、そこには人の気配もない。

 周りに居るのは、一緒に居た生徒たちと、教師、そして運転手だけだ。


「なにこれ……」

「気味悪っ」


 誰もが足を止め、先へ進むのを躊躇った。

 その時、一人の生徒が声を荒げる。


「先生、道が……!」


 叫び声に振り返ると、そこには何もなかった。

 間違いなく、先ほど道があったはずなのに、まるでかき消されたかのように、道がなくなっていたのである。

 バスのあった道が、霧に飲まれて消えている。


「嘘……戻れないの?」


 誰かが震える声で呟く。

 篝は、背後の霧をじっと見つめた。

 背筋に、氷のような冷たさが這い上がっていく。


(まずい……このままじゃ、帰れない、のか?)


 静寂が、辺りを包み込む。

 そして、遠くから、不気味な何かの気配が近づいてくるのを感じる。

 まるで誰かが、自分たちを見ているかのように。

読んでいただきまして、本当にありがとうございます。

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