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第一章 自分自身を証明するモノ



視界いっぱいに広がる野道。その果てに存在する街に向けて、業者を営む男が操作する馬車は、すでに二日をかけて進み続けていた。

所々で釘がほつれかけ、形でとどめている木材が腐りかけの馬車を操る男の地元は、発展しているとは言えない。しかし、男とその彼が馬車に乗せる乗客たちが向かう街はこの王国の首都に次ぐほどの都市、と称されるほどのものだ。

街は『スタンダード』と街の住民が総じて呼んでいて、本来は違う名であったそうだが今となっては忘れ去られた。

スタンダードは、監視塔に囲まれる形で築かれており、なんとも首都に次ぐ都市であるから『魔王軍』に狙われる可能性があるからと、市長が積極的に開発に取り組んだそうだ。ただ、『魔王軍』の幹部、またはそれに近い地位に次ぐものは、噂によればその者一人で国の軍隊を軽くいなすほどの実力があるそうだ。国は、決してそのようなことはないと否定しているが。

そしてスタンダードは、明るい光のような発展と共に『影』を生み出してしまった。

元々から、スタンダードの住民は『戦闘職』に就く者ばかりであったという。『戦闘職』は本来安定しない職として嫌われていた職の一つであったが、それが本格的な魔王軍との全面戦争になると各都市からの『戦闘職』の需要により街は発展。だが、『戦闘職』となることで発揮される身体力、《能力》、それらに価値を見出し、悪用するものも現れたそうだ。

――そうこうと業者が思いにふけている間に、馬車は街の石壁に寄り添うようにして設備された乗馬所に到着した。

「お客様―、到着いたしましたー」

乗車している乗客に声を掛けながら、彼らを乗せていた荷台の鍵を外し、その扉を開放する。

――その時、業者の視界、その右端に異様な姿をした男の姿が霞めて見えた。

弾かれたように思わず業者は、歳のせいで周りのシワで固まった両目をその男に向ける。

まるで自分自身を隠すかのように身に纏う、白いロングコートが特徴的な青年だった。

トレードマークとも言えるロングコートの他に、銀に輝く髪に被せている白い帽子と僅かな手荷物だけを背負い、ただ一人石壁に囲まれた街唯一の入門口に向かっている。

――そこで、業者は青年のことを思い出した。

「お、おいあんた! 2日前にフクーメの方にいなかったか⁉」

「――」

ジロリと、神秘的な黄緑色の輝きを微かに煌めかせた瞳を業者に向ける青年。それを受けて、自然と業者の男は後退っていた。

フクーメ、とは業者の故郷の名だ。確か馬車を走らせる前にその姿を見ていたのだ。

馬車にタダ乗りしたのか――そんな考えが一瞬業者の頭を横切ったが、それは先程荷台に回り込み、荷台に2日間座り込んでいた乗客の姿を確認した自身の行動によって否定された。

「まさかあんた‥‥自分の足でここまで来たのか⁉」

「‥‥‥」

自分の足で故郷フクーメからこの街まで歩いたという人物なんて、聞いたことがない。愕然としながらも見つめることをやめない業者に、男は見つめ返すように――否、睨み返すようにその眼光を鋭く煌めかせた。

そして、固く閉ざされていた口を、刃に裂かれた木面のように開く。

「聞いてみれば、それなりにここに来る回数が多そうだな?」

「え……」

「――聞きたいことがある。この街で、『人に秘められた力を解放させることを得意とする女』がいるそうなんだが……そいつがどんな性格してるか、知ってるか?」

――物語は、過去に戻る。



「――ですから、今すぐにでもこの街の防衛を固めるべきなのです! これまでの『奴ら』の軍勢を考えれば、この街にある戦力では一時間も持ちません!」

白蓮(はくれん)君。それはこの街に奴ら……『魔王軍』がこの街に来ればの話だろう? 確かにこの街の軍備は薄い。君の言い分も分かる。――だが、奴らの狙いはこの国の都市だ。こんな田舎町に用のひとつ、あるわけがないいい」

街に迫る危機を伝える、色の抜けた長髪を一つにまとめて青い着流しを纏う少女、赤奈の説得を、エクステンションテーブルにふんぞり返る市長が安心させるかのような穏やかな声で応えると共に聞き流した。

そんな市長の何気ない態度と心持に、白蓮は顔を歪めながらも説得を続けようとする。だが、市長の次の言葉が彼女の言葉を遮った。

「君はこの国でも数えられるほどしかない実力者だ。――仮に軍勢が来ようとも、人間として魔法を使いこなせる君の拉致か、雑兵を食料調達のための軽い軍勢だろう。……少なくとも、《幹部》が来るような街ではないわ」

 そう市長は自嘲ぎみに言い切って見せたのだった。それは同時に、侮辱であるように白蓮は思った。


山に囲まれる形で設立されたこの街、フクーメ。

 夕日が登る街の一角にある崖、その上に建てられたのは古びた道場。おぼつかない足取りで帰宅した白蓮は、いつもであれば訓練を積む自らの弟子の姿を見届ける。だが、その足を道場に向けることもなく、その隣にある小屋としかいえないほどの小さな自宅にたどり着いた。

 扉を開いてみれば、床いっぱいに散らばるのは『報告書』――これまでに、魔王軍がこの国に与えた被害とその地域について書き留められたものだ。

 『報告書』には一つの『修正』がある、というのは今朝気が付いたことだ。それは、『王国側にとって必要以外の物は載せられていない』というものだ。『報告書』には主に襲撃の内容とその被害、そして撃破に至った要因が乗せられているだけだ。――だが、彼女は有力者であるが故に数々の戦場に運ばれたからこそ知っている。

「奴らは小さな街を拠点としてから都市に襲撃をかけている。おそらくは身を隠して大規模な襲撃の準備を行うためか……この国はなぜそんな重大なことを隠している……⁉」

 いわば『法則』とも言えるものを単独で見つけ出した白蓮。しかし、それを信じるものはこの街にはいない。市長の言った言葉が頭の中を横切る。

「この街を奴らが拠点とするのなら、狙われるのはスタンダードか……ラべスタントに協力を求めるか!」

壁に掛けてあった自身の愛刀を手に取った白蓮は、迷いのない足取りで小屋を飛び出し、崖からすべるように走り降りる。夕日に照らされ、風に吹かれる白髪を風に棚引かせる。

 空気を裂くその足さばきで向かうのは街を囲む石壁――唯一の、この街の出入り口だ。

白蓮が持つ『速さ』の『ステータス』の高さもあって石壁はもう目前だ。

 街を出れば、ここから友人がいる街、スタンダードにたどり着くのは半日もかからない。仮に『法則』が正しくて、その軍勢が首都を狙うために構成されたものであるのなら、間違いなく《幹部》がいる。ならば少なくともラべスタントだけでなく、彼女の友人にも――

 ――その瞬間、炎の柱が街の一角を消し飛ばした。

 爆炎の突然の発生、市場の崩壊。それらを目にして衝撃に意識をのめり込まれた白蓮が我に返った瞬間にはすでに遅かった。膨れ上がった爆炎が、町の一角をえぐり取ったのだ。そこで理解する。それは、予想してあったことではあった。――だが、今ここで起こることまでは予想にできなかった。否、予想したくなかったと言えるだろう。

 ――魔王軍の襲撃。東の山奥から、軍勢が街に入り込んでくるのが見えた。

事態を予測できたことは喜ばしいことだが、そのための準備ができていなければ意味がない。スタンダードから友人たちを呼び出して、この街に戻ってくるには丸一日はかかる。――白蓮という存在もなくなればこの街は三十分も持たないだろう。 

《幹部》がいるかどうかで勝率は大きく変わる。否、《幹部》がいることは確定に等しい。だが、それでもやるべきことは決まった。――市民の救護だ。

街の入門口に向けていた足先を街の大通りに向け、白蓮は己の体を疾風に乗せた。魔王軍の軍勢が、この街の守備隊と大通りで激突している。だが、遠目からも分かるほどに敵の軍勢が守備隊をのめり込むように蹂躙している。目前となる守備隊の全滅を阻止すべく、白蓮はその足取りを速める。


 ――そんな白蓮の姿を、古びた書物に目を通していた白い影が、街の図書館のガラス越しに見届けていた。



「なんだって魔王様はあたしにこんな古臭い街の攻略をさせるのよぉ‼」

「メリーサ。お前は自分の立場を弁えて行動しろ」

連鎖的に爆発が巻き起こり、獄炎が存在していた建物を包み込む中で、複数の兵士を自身の周りに置かせ、彫りが深い長身の男と肩を並べる紫の長髪とエルフ特有の尖った耳が特徴的な女、メリーサ。思ったことを垂れ流しにこぼし、自ら発生させた獄炎、否、『爆炎』が包み込む建物、否、街全体に目を向ける。侮蔑が籠る瞳からは、まるで自分には不釣り合いな場所だとでも言いたげに見える。その瞳が、また別の方向に向けられる。

そこでは、街の大通りに残っては戦闘に入る街の兵団の姿があった。そんな彼らの足元には、確かに彼らの仲間であったモノも転がってはいるが、そんな彼らに目を向ける彼女が仕向けた兵士の屍の方が圧倒的に多い。

この街の守備隊はたいしたものではない。魔王軍の兵士二、三人がいればこの街の攻略は済まされるだろう。だが、その守備隊とは一線を画す実力を持った、白髪の『侍』――白髪をツインテールにし、青色の着流しを着た女性――白蓮が一人で魔王軍の進軍を食い止めていた。。

白蓮が振るう刀が一度に、その周囲を囲んでいた敵の体を切り捨てるのは勿論、そこからでる『風』を利用した更なる切断技、刃先から発生させた炎の絶壁には、魔法を使いこなすものとして、鍛錬者として見るものがあると言わんばかりに男はうなずいていた。だが、その隣で癇癪を起こすメリーサにとってはただイラつく要因でしかない。

「あーッ‼ あたしをここに送り込んだ魔王様もそうだけど、あんな女も、あんな女にやられるあんたらもむかつくのよぉ‼」

 身勝手で幼稚な態度を取るメリーサは、陣形を取っていた自身の配下の兵士を強引におしのけて、真正面から赤髪の侍と対峙する。ただし、その瞬間は白蓮が渾身の力を使って一気に敵の戦力を削り取った状態であり、その両手に爛々と輝く爆炎を作り出すメリーサが次に繰り出すであろう攻撃には即座に対応できない。――魔法の酷使、『境界の崩壊』を放つ気だ。

「白蓮様‼」

それでもすぐさま体勢を整えて刀を構えようとする赤奈を心配する声が上がる。他人よりも、今は自分の身を心配してほしいなと赤奈は苦笑交じりに思った。――だが、今は自分にも言えてしまうか、とも。

『境界の崩壊』を引き起こすの魔法を相殺できる技は勿論、自分自身を削ることとなる『境界の崩壊』を起こさずに同威力の攻撃を放つことはできない。。死か、一部の肉体の消滅か――覚悟を決めた白蓮の手元に力が籠る。

瞬間。白閃が空気を裂いた。

「――⁉」

直後、辺りに轟いたのは丸太のような太さの足を持つ人影の蹴りを真正面から受けて、後ろに弾き飛ばされたメリーサの鎖骨が軋む音と、その直撃から出る爆発音であった。――その爆発音に遅れて、メリーサの手元を離れた光線が白蓮の首筋を掠めるように通り過ぎ、背後にあった三階建ての家屋を粉砕した。家屋の内側から溢れるように膨らんだ爆炎が、白蓮の背中を炙る。そして――

「うぎゃあぁあああああああ⁉」

予想だにしなかった乱入と攻撃。まともな対処もできなかったメリーサは、衝撃の勢いのままに大地をえぐりながら転げる、しかし、その彼女と肩を並べていた男が即座に背後に回り、無造作に受け止めたことでさらなる被害は免れた。だが、メリーサは受け止めてくれたことへの感謝もなしに、またも癇癪を起し始めた。――その目の先には、唖然とする白蓮の前に降り立つ白い人影があった。

「……見るのも嫌になってくるガキだな」

「――君は?」

メリーサの胸部に蹴りを叩き込み、それによって偶発的に生み出された白煙に身を包むのは、白いロングコートを長身に纏う、銀色の髪をした男だ。軽蔑の意を込めた言葉を、長く吸い込んだ息と共に吐き捨てた男の背を目にしながら、体勢を立て直した白蓮が男の隣に並んだ。

「君は初めて見るが……君は『戦闘職』なのか? 味方だと思ってもいいのか?」

「……それが、『仲間』というものか?」

「――?」

意味ありげに呟いた男の言葉に白蓮は意味が分からず眉に皺を寄せるが、すぐに心を整えてそのが目を向ける先――再び爆炎を作り出すメリーサを見据えた。

「あんたなんなのよ……あんたなんなのよぉお‼」

「うるせぇ」

 たった一言。ぼそっと呟いた男の罵声が、メリーサの癇癪を止めた。

 何を言われたのか分からないと言いたげに、否、まるで理解できておらず、目を見開いているメリーサの前で白いコートを風に棚引かせる男は、その手に持っていた古びた書籍を、これ見よがしに持ち上げた。――それがこの街にある図書館に置かれた武伝書であることを赤奈は思い出した。

「時間と余裕がねぇんだ。こんな古臭い街でも、なにか情報を得られるかもしれないからな。それを、お前らは邪魔しやがった」

「――うっさいのよぉおおおおおおおおお‼」

 冷たくあしらう男を睨みつけて、メリーサは奮い立たせた気持ちを表すかのようにその両手から膨れ上がらせた爆炎を辺り一帯にばら撒く。狙いも定まっていないせいで彼女率いる軍勢の一部がその爆炎に巻き込まれるが、今のメリーサがそれを気にしていられていない程激怒しているのは明白だった。

不安から白蓮は男の顔を横から見上げた。そこで、ふと我に返る。

「君の名を聞いておきたい。戦闘の時、呼びかけることもできないからな。私は白蓮、穂倉ほくら白蓮ほくらだ」

「――川尻春野(かわじりはるの)春野。少し前に『戦闘職』になったばかりだ。よろしく」


軽口のつもりでそう問いかけに応えたのだろう。だが、それに反応したのは白蓮はでも街の兵団でもない、癇癪を起すメリーサだ。

「『戦闘職』になったばかりですって⁉ なのにあたしを蹴っ飛ばすだなんて……‼ なめてんじゃないわよこのヒヨッコ‼」

「うるせぇよガキ。お前みたいな女、分からせるに限るな。『《能力》なし』で、ぶっ殺すぞ」

 敵の最高戦力だと思われるメリーサ。その彼女を相手取るだけにとどまらず、自身の力を最大限に引き出す《能力》を使わない――、

ただの挑発か、それとも本当か。いずれにせよ、メリーサが食って掛かることには変わりないだろう。

「とっとと死になさいよぁおおお‼」

空気が蒸し焼かれ、捻じ曲がるような音が発生した直後、メリーサが両手を突き出し、その内に生み出された爆炎が火柱となって春野の元に突き進む。――まるで、子供が投げつける小石を見るかのように、春野の表情が揺らぐことはなかった。

「――しィ‼」

腰を捻り、その勢いで左足を振り上げた春野は、加速し続け目前にまで迫った火柱を踵蹴りで威力を殺し、粉砕した。街を溶かす獄炎が、いともたやすく。

辺りには、霞のようにまだ炎の名残はありながらも、それで視界が遮られることはない。メリーサの姿を捉えた春野は、彼女が再びその小さな両手の内に爆炎を生み出しているのが見えた。放たれるのは次の瞬間。

 踵蹴りを放ったことで生まれた勢いを利用して、体全体を振り回した春野はメリーサからは十メートルはあろう距離があるにも関わらず手刀を形作った右腕を振るう。――風が発生した。

「――ぁ、ああああああああ⁉」

 その生み出された風が質量と更なる速度を持ち、大通りに丁寧に敷き詰められていたタイルをも切り裂く刃となって、メリーサの右肩を切り捨てたのだ。

 その光景を見て、白蓮は驚愕する。敵とはいえ女性の腕を春野が容赦もなく切り捨て、表情の一つ変えないこともそうだが、彼が使用した魔法が白蓮の視線を釘付けにした。

 春野は『少し前に『戦闘職』になった』と言っていた。だとすればどこかの街の市役所の役人か、彼を『戦闘職』にさせた者が魔法の使い方や一覧を伝授したのか。ならば使用できることの納得だ。だが、だとしても『戦闘職』でさえ扱いこなすことが困難な魔法を、それも早々に『あの属性』を使いこなすとは――

 ――『風属性』の魔法。その応用から生み出されたものに『切断魔法』というものがある。赤奈が利用する『風魔法』とは異なり、物体の浮遊や風力、音波の制御は行えず、ただ相手を切断することに特化させた魔法である。だが、その制御を行える者は少ない。『厚さ』が明確になっていない風を刃として使うためにはその構成を保っていられるための精神力や手間が、元の風魔法と比べて必要となるのだ。それを春野は、即座に使用できるほどに扱えている――。

「――ぁあああ‼ なんでなんでなんであたしの腕をぉおおおお‼ あんたたちぃ、早くあいつをなんとかしなさいよぉ‼」

肩の傷口を手で押さえても、鮮血は滝のようにこぼれている。信じられなないと言いたげに、大粒の涙と鼻水をこぼすメリーサの癇癪がより一層見るに堪えないものとなり、具体性のない命令を部下に下す。それにメリーサの部下たちは促される形で、それぞれ手にしていた武器の矛先を春野に向けて突貫する。

「助力は必要か⁉」

「自分のしたいことに集中をしろ」

負傷した街の兵士を庇う立ち回りで魔王軍の兵士に立ち向かう白蓮は、一斉に数十体の兵力が春野に向けられたのを見て言葉を投げかけるが、春野はぶっきらぼうに提案を投げ返した。

握りしめた拳、その内側から橙色の輝きが溢れ出す。輝き――魔法は、実力者である赤奈だけでなく、この場にいる『戦闘職』ならば誰でも目にしており、知り得たものであった。

 ――破壊魔法。『戦闘職』であり、最低限の魔力があれば誰しも習得ができるという、魔法の中でも異例な存在だ。しかし、破壊魔法は好まれたものではない。『戦闘職』であれば習得できるというメリットを持つ一方、その使用にかかる魔力は他の魔法と比べると莫大で、しかもその膨大な使用量に反して威力は期待外れとも言えるようなものしか発生しないのだ。――そして、『境界の崩壊』を引き起こす可能性がある。

 『境界の崩壊』は、主に魔法や《能力》を酷使することで発生するものでいわば逃れることのできない世界の理、代償のようなものだ。これまでに確認された症状としては、《能力》もしくは《特性》の損失。肉体の欠損および別の部位の発生。死および『次元の裂け目』と呼ばれる別時空への穴の発生。

それらを恐れて、『戦闘職』はより『境界の崩壊』が起こりやすい破壊魔法を使うことは勿論、魔法を使う際にも最新の注意を行っている。

 ――だというのに今、春野はそれを駆使して、矛先を向けてくる魔王軍の兵士たちを文字通り打ち砕いている。

 最初に纏っていた拳に加えて、拳だけでは対処が間に合わない状況となってからはその長く太い足にも橙色に輝くオーラ状の破壊魔法を宿し、蹴りを繰り出す。『戦闘職』になりたてだと言ってはいたがその戦闘技術、魔法の扱いはまさしく手練れのそれ。

 特筆すべきは嵐を思わせる多彩な攻撃の連打。単に打撃や魔法を繰り返すのではなく、彼が他に取得していたと思われる武術の数々が惜しみなく放たれている。それを見る白蓮が知り得るだけのものでもその武術の種類は四を超えている。敵が敵なのだ。彼も油断できぬ相手だからと理解しているからだろう。敵に攻撃のスキを与えない立ち回りを行っている。

あれほどの技術と経験を持っていながらもこれまでに一度も彼の存在、その実力、それどころかその噂すら耳にしたことはない、と春野の奮闘ぶりを目にする白蓮は感嘆すると共に疑問に思った。

 この街の有力者として君臨する白蓮含めて、スタンダードにいる同じく実力者の友人たちと同等かそれ以上の力を持つと思われる春野。この街に攻め込んできた魔王軍の雑兵の数が、数えられるほどのものでしかならなくなったのは、わずか十数秒のことだった。

そうなると、その春野と白蓮に兵士を差し向けてきたメリーサと視線が合うのは必然的。

春野の鋭く尖った眼差しが、メリーサを思わず後ずらせていた。その今自分がした行動に、我に返った彼女自身が信じられないといった様子で、自分の残った左手を確かめるように見つめていた。――そして、その事実から目を背けようと言わんばかりに春野を睨み返して、さっきよりも格段に熱と輝きを増した爆炎を宿した左手を突き出した。

それに春野は、彼女とは違って先に右手を突き出し、見せつけるようにその内側に宿していた橙色の輝きを溢れさせた。

 その正体を知る者たち――メリーサは勝利を確信し、白蓮に庇われる街の兵士たちは敗北を覚る。なぜ、そんな技しか覚えていないのかと――だが、春野とわずかな時間ながらも共闘した白蓮は、その『技』が彼にとってはメリーサにとどめを刺せるほどの代物であると確信じた。

「――破壊光線」

 昂った感情に応じるように、メリーサが放った爆炎はこれまでの物を凌駕するほどの威力が秘められている。それに真正面から向き合い、魔力を込めた右腕を突き出す構えを取った春野から放たれたのは、橙色の輝きを発する波状の光線――最も『境界の崩壊』を起こす魔法として恐れられ、破壊魔法を扱う『戦闘職』でさえも使用されない破壊魔法、破壊光線を撃ち放ったのだ。

 輝きと輝きがぶつかり合い、直後、町全体に重い振動が伝わり、そのぶつかり合う輝きの中心から辺りに激しく火花が散り舞う。その被害から逃れようと街の兵士や魔王軍の兵士が我先にと逃げ惑う中で、自身の腕を盾に顔を守る白蓮は見た――驚愕にその顔を歪ませるメリーサを。

「――‼」

 耳をつんざく爆発がメリーサの悲鳴を掻き消し、輝きが膨れ、迫る。無論、それをメリーサが受け入れるはずもないが春野が許すはずもない――爆炎が、文字通り押し砕かれた。

 腕を切り落とされ、すでに瀕死の状態に追い込まれていたメリーサの姿が波状の輝きの内に吞まれ、一瞬、影として残っていたその体も散り散りに粉砕された。勝利を確信させ、同時に敗北を覚らせた彼の一撃が勝負を決めた――が、

「――ふん」

メリーサを打ち破り、そのまま一直線に突き進む波状の光線。その軌道の先にいた魔王軍の生き残り――これまでのメリーサと春野たちの戦いを見届けていた男が、蚊を払いのけると言わんばかりに右手を振るっただけで、いともたやすく光線を掻き消したのだ。真正面から受け止めた男の手の甲は、傷もその跡も見つからない。

「――」

白蓮の加勢に入っただけでなく、攻め込んできた魔王軍の兵士の大部分を掻き消し、それどころか指揮官的な立場だと思われるメリーサを春野は撃破したのだ。この街の住民からすれば予想外の出来事でありまさしく快挙。喜ばしい事態だ――とは、今までこの戦闘に関与しなかった男が卸さなかった。

勝負の決着をつけた春野の光線を打ち砕いたあの男――彼こそが最も警戒すべきであり、死力をつくして撃退すべき存在であったのだ。

どうなのかと白蓮は春野に目を向けるが、隣で拳を固めて構える春野が浮かべる表情は渋い。きっと、目の前に立つ男の危険性を感じ取っているのだろう。万事休すかと白蓮は目尻に皺を寄せて、刀を握る手から僅か、力が抜けていた。――だが、

「――撤退させてもらうとしよう」

「――な」

免れることはできないと思われた、この街の命運を掛けた戦闘が、敵から終結を告げられたのだ。予想だにしなかった事態に、春野は訝しげに眉間に皺を寄せ、白蓮は唖然とした声を漏らした。それは運よく生き残った魔王軍の雑兵たちも同じだったようで、ざわざわとした様子で味方の男に目を向ける。

「今、これ以上余計な犠牲を出さなくとも、貴様らが復興でもしている間にこちらも整えばいい。――もっとも男。貴様の実力は奇妙で読みにくい。この街に興味をなくすのを待つとしよう」

 そう言いたいことを言い残して、男は光線によってえぐり取られた地面、そこに転がっていたメリーサの屍――一掴みの肉塊としか言えなくなったそれを手に取り、最後に春野を見据えた。どこか、物惜しみをするような感情をその瞳に宿し、

「――貴様は、ゼット様と気が合いそうだな」

 そう言い残し、男は自身とその周りを囲む魔王軍の雑兵を、そのかざした掌から生み出した霧で包み込む。一手遅れる形で、赤奈が刀を振るうて霧を裂く。

 ――やはりというべきか、魔法軍はすでに消え失せていた。



「そうだ、国都から騎士団の要請をしろ! 復興は『安全』を確保してからでいい‼」

「市長! 市民から、『この街は対策を怠っていたのか』と疑問の声が――」

「行っていてはいたが、予想よりも早かった――そうとでも返していろ! それと、『彼』だ‼ 我々も、国都でも存在が知られていない『彼』の身柄の確保を最優先だ‼」

「……なにが、予想よりも早かった、だ」

聞こえてくる市長の怒声のような命令とその対応に追われる彼の部下の声。それらを執務室の扉越しに耳にしていた白蓮が吐き捨てる。

 説得を無視したからこのような事態となった、それが理由で怒っているわけではない。確かに、仮にあの時説得を受け入れたとしてもすぐに部隊が整えられたわけではなかっただろう。それは、白蓮も十分理解している。

 だが、市長はまるで最初から自分は向き合っていたとでも豪語するかのように平然と市民に対し嘘をつくだけにとどまらず、嘘を吐くように自分の部下にも強要する。

 このような事態を受けて、真に向き合ってくれるようになったか――

「期待した私が、馬鹿だったか……」

わずか、刃を覗かせていた刀を鞘に納めて、白蓮は扉が閉められた執務室に背を向けて歩き出した。

 やるせなさのせいか、足にうまく力が入らない。先ほど、市長から命令を受けた部下たちが足早に廊下を走る中で、時折白蓮は壁にもたれかかりながらその足で出入り口に向かう。

「――春野」

ふと、彼――川尻春野のことが白蓮の頭の中を横切った。

魔王軍が消えたと共に、住民の安全を確認しにと赤奈が街に配備されていた兵団に命を下した時にはすでに彼は姿を消していた。

 市長含め、この街の住民は白蓮を除いたら彼の名前すら知らない。だが、春野が確かな実力者であることが知られている。市長の言葉を聞く限り、国都にすら彼の存在は知られていない。先の市長の命令――『川尻春野の身柄確保』は、市長が春野の存在を王国の騎士団に知らされる前にこの街の軍事目的用の兵器として利用することか――、

「……今、春野はどこに」

 まるで、友を案じるかのような声で呟き、行くべき場所が定まったかのように白蓮は走り出した。彼は、そうされるべき人間ではないのだと、そう決めつけて。

 実際は、彼とは知人としての関係でしかなく、彼が今いる場所なんて分からないのに――。


 街は、メリーサが放った爆炎の跡が酷く残されたままであり、同時に市長がこれ見よがしに配置したのであろう、鎧を被った兵士の姿と、『彼』の存在を求めて走り回る役員の姿が異様に目立っていた。

魔王軍の襲撃に対し市長は十分な対策を練っていなかった、ということを薄々察している街の市民は、でくの坊のように立ち尽くす兵士たちに対し嫌味と軽蔑を込めた視線を向けている。

市民と行政との間に亀裂が生まれている。それは由々しき事態だが、その現状を目にした白蓮は春野の捜索を優先した。

 できることならいち早く彼の存在を追い求めたいが、仮に走ろうものなら周囲から注目を集め、役員に勘付かれるかもしれない。だが同時に、白蓮含めてこの街の役員が想定する事態――彼が、この街から出る確率も高くなる。手がかりがない以上、時間の許す限り街中を見て回りたいのだが――、

『時間と余裕がねぇんだ。こんな古臭い街でも、なにか情報を得られるかもしれないからな。だからお前らは邪魔だ』

「――!」

 その時、メリーサに対して春野がこれ見よがしに、この街の図書館に置かれている書籍を見せつけたことを思い出した。


――想定できる居場所が必然的に絞られ、早足に図書館に向かった白蓮が、人気のない書庫の中で埃を被る本棚の上に腰かけた春野を見つけ出すのにはさほど時間がかかることはなかった。

「……君に話がある。春野」

「……?」

視線を送っていたが、声を掛けられたことで初めて白蓮の存在に気付いたそうだ。春野は目を通していた専門書から、股下から見上げてくる白蓮に視線を移した。赤奈の姿を視認すると、春野は嫌なものを見たとでも言わんばかりに眉に皺を刻んだ。

「この街の言いなりになるつもりはない」

「――っ、市長の考えを、勘付いていたのか?」

 白蓮の問いかけに春野は肩をすくめたが、『身柄確保』について勘付いているのは間違いないだろう。ならば何故未だこの街に身を置いているのか――何を、探し求めている。

「私は彼らの言いなりになるつもりはない。それは君と同じだ。だからこそ知りたい。君は何を探し求めている?」

「――」

 問いかけを受けて彼は白蓮に、感情を剥き出しにした瞳を見せる。

 困惑の感情が秘められていた。どう答えるべきかと、純粋無垢な子供の問いかけを受けた大人のような表情を浮かべている。そして春野は棚の上に腰かけたまま、何かを探し求めるかのように、顎に拳を当てて考え込む。

 そして、『答え』にたどり着いたらしい春野は、白蓮を見つめ返して『新たな問い』を重ねる形で答えた。


「――お前は、別の世界の存在と、『転移』を信じるか?」


 春野の問いかけの意味が分からず、彼から説明を受けた白蓮は頭を痛めたかのように俯く。当然のことかと春野が落胆する中で、白蓮は重々しく口を開いた。

「正直、理解しかねることもある。だが、それが本当ならすべてが繋がるな」

「……信じるのか。正直、驚いたぞ」

「君は良くも悪くも、君はよく感情が出る。とてもではないが、嘘をついているようには到底見えない」

「……まだ二回しか会ってないくせに、よくもまぁそんな分かり切ったかのような口ができるな」

心底軽蔑したとでも言いたげに、失望の声を漏らす春野。だが、白蓮は苦笑を浮かべて受け止めた。――少なくとも、話が通じ、分かり合える人物ではあると。

「……だが」

「あ?」

「まだ、肝心な話を聞けていない」 

目力を込めた白蓮の問いを受けて、春野は怪訝そうに眉に皺を刻んだが、次の瞬間には納得気に頷いた。

「――二つだ。この街に来た理由は」

そう言って、春野はピースを形作った右手を白蓮に向ける。そして、人差し指を折る。

「『転移』した時、俺はニュートレードとかいう街にいた。何が起こったと考えてる暇もなかったぜ。襲い掛かってきた盗人を返り討ちにしていろいろ吐かせて、俺は『戦闘職』になることができた……だがどういうことか、俺の《能力》が『不完全』な状態で発現しやがった」

「――《能力》の不完全な発現だと?」

《能力》と《特性》は、『戦闘職』となった者ならば底上げされた身体能力――《ステータス》と共に必ず付与されるものだ。『ステータス』とは、その者の実力を表明化したもので、『破壊力』・『スピード』・『スタミナ』・『知力』・『攻撃距離』・『魔力』・『精神力』・『耐久力』・『防御力』・『体力』の十の項目が存在する。《能力》と《特性》は自分自身の発現と言われていて、その者に最もふさわしい力が《能力》ということだ。いかにその者が成長しており、己の精神が強固であるかで《能力》の強弱も分かれるという。

《特性》は、《能力》とは異なる別の力。主に相手に負荷を与えるもの、自分自身に負荷をかけることで《能力》の底上げを行うもの、一度きりのものがある。

――『戦闘職』が必ず持ち合わせるものが不完全な状態で発現したという事例はこれまでにはない。

「……君の話は本当に信じられないことばかりだ。だが、今は信じるとしよう」

「だったら最後だ」

話の決着を急かすように春野は強い口調で白蓮に呼び掛け、残りの中指を折った。

――だが、語り始めた春野から出る口調は、自分自身に困惑するように弱弱しいものだったのだ。

「どうも俺は、『仲間』のことを大切にしていたらしい」


「……らしい、とは?」

「説明不足だったな。『転移』したせいか、記憶が曖昧なんだ。俺」

「君と会話をしている限りは、自分自身の人格をはっきりと理解しているそうだが?」

「深堀すれば、『転移』する前の話だ。自分の名前だとか生まれた場所は覚えている。なぜ俺は『転移』することになったのか、過去に何をしていたのか――」

「……覚えている限りでは、君は過去では『仲間』を大切にしていた、か」

「どうもそういうことらしい」

お手上げだ、とでも言いたげに春野は両手を掲げる。

「これ以上言うことはない。記憶のことだとかお前が聞きたくても、俺は答えることはできねぇだろうよ」

「……そうか、つまり君が求めているのは」

「国都にもなかった、《能力》を完全に解放させる方法。そんで失った記憶。――もし、『仲間』を大切にすることに意味があるなら、力は必要だ。こんな『世界』だからな」

 そう結論を言い、春野は最後にまたため息をつく。


「……とは言ったが、この街にも求めるものはなさそうだな」

カビが生えた一つの書籍を読み切り、春野はそっと本棚の上に読み終えた本を置いたのだった。


白蓮が立ち去った後、街の役人から身を隠しながらも春野はついにこの書庫にあるすべての本を読み切ったのだ。だが、そこに達成感は生まれなかった。感じたのは、失望だけ。

――仮に《能力》の全てを解放できたのなら、自分は新たな人生を無事に進めることができるのだろうか。

言わば今は、次の人生に備えるための準備期間のようなもの。『記憶』が曖昧なこの状況でも、確かに手応えに近い感覚で残っている、『仲間』を大切にしていた『記憶』とも言えない何か。

《能力》を完全に解放できたとしても、それが『記憶』を取り戻すことに繋がるだなと、それはただの願望に過ぎない。だが、そうでも思っていなければ、今――人生にあるべき感情を出せない現状を耐えることなんてできない。

「……」

 ふと、何気ないように春野は懐――コートの内にあるポケットの中を弄り、それを取り出した。

 自分が、どういった経緯でこの『世界』に足を運ぶこととなったのかは分からない。でも、数少ない手持ちとしてあったのがそれ――スーツを着た、痩せ気味の男の姿をとらえた一枚の写真と小型の録音機。

 録音機のスイッチを押してみても、流れるのは会話だと思われる雑音。なぜ『仲間』を作っていたのか、なぜ大切にしていたのか、転移の時自分はなにをしていたのか分からないが、年代は覚えている。この録音機は小型ながらも当時は相当のスペックを持っていた。この時だけ、録音ができていなかったとは考えにくい。――考えられるのは、誰かがこの『会話』を掻き消したか。

 この街を立ち去る前に、春野は写真に写るその男と見つめ合っていたのだった。


夕日が沈み始めた時刻。白蓮は街の図書館を後にし、自宅へと歩き進んでいた。

これからどうするのか、最後にそれだけでも聞いておきたかったがあの次の瞬間、街の役員が図書館に入り込んできたのだ。役員が書庫に飛び込んできた瞬間には、白蓮の元から春野は姿を消していた。おそらく物陰にでも隠れたのだろう。春野はいなかったかと役員から問い詰められたが、いなかったと貫き通したら諦めて帰っていった。

「悲しい目をした、青年だったな」

ぽつりと、そんな感想がこぼれた。

 今日はとことん気持ちが落ち込むな、と白蓮は嘆息をつきながら家路を急いだ。弟子に任せていたが、先日の襲撃で傷を負った者もいる。寝る間も惜しんで手当をしてくれた弟子の代わりを行うとしよう――。

「――⁉」

直後、街一帯の轟いたのは、街の一角が内側から打ち砕かれる崩落の轟音。


「早く逃げろってぇ!」「早くあいつをどうにかしろよ!」「わ、わたしのお母さんがぁ! お母さん‼」

『――』

大地から姿を現し、駆け付けた街の兵士の斬撃を彼らの体もろとも叩き潰すのは、山を体現したかのような土の巨人であった。

その頭部に埋め込まれたⅬ字の魔法石から魔法陣を展開し、輝きを放射。街の建造物を叩き潰す剛腕に加わって、我先にと逃げ惑う街の住民や兵士たちを輝きの中に消し飛ばす。その威力、その姿を見て誰かが叫んだ。

「こ、《古代陛忌こだいへいき》だぁ!」

 ――《古代陛忌》。

 いつから生み出されたのか、誰によって生み出されたのかそれらの記録が存在せず、ただ、はるか昔からこの世界に所かまわず出現することから王国はそれらを『災害』として扱っている。『災害』として扱っていることから分かるように、《陛忌》が現れて、被害が抑えられたといった結果は残せていない。感情を見せず、ただ世界にあるものを破壊する様は誰かに操られているよう。それらを生み出した存在を『陛下』、と王国は称している。その存在の名と、忌み嫌われる恐怖性から《陛忌》の名が与えられたのだ。

 そして、ただいまフクーメを壊滅に追いやろうとするこの《陛忌》、アルカナサンドと言われるこの存在は世界各地で封印されている自立型《陛忌》であり、ただの雑兵に過ぎないのだ。

「――しぃ‼」

 魔王軍の襲撃に即座な対応ができず、統制の取れた軍隊として街に置かれた兵団も、自分の役目を放棄して逃げ惑っている。

ならば自分が背負いきるしかないと、白蓮は住民らを叩き潰そうとしたアルカナサンドの剛腕を真正面から切り放った斬撃で受け止めた。だが、あくまで威力を相殺したに過ぎない。余ったもう一つの剛腕が赤奈の体を狙う。

受け止めたアルカナサンドの右腕を足場にし、身を翻すことで赤奈は発生した暴風に吹き飛ばされるだけに済む。地を転がった先で刀を歩道に突き立てることで体勢を立て直し、赤奈はこちらに突貫してくるアルカナサンドを睨みつけた。

炎瀑布えんばくふ‼」

歩道に突き立てた愛刀を通して、体内の魔力を地中に展開。直後、大地をえぐり取るように生え伸びた三十を超える炎のランスがアルカナサンドの土の体を囲む形で拘束する。

足は勿論、あの剛腕も動かせない。――だが、頭部の魔鉱石が残されていた。

「――ぶ」

身を捻り、直撃を避ける。だが、L字に放たれた橙色の光線は赤奈の脇腹をえぐり取り、地に突き立てていた刀を半ばでへし折ったのだ。

 肉は勿論、その奥に隠された内臓までもがえぐられたことでなすすべなく赤奈はその場に倒れ込んだ。急速に虚ろになっていく視界には、自身を囲む炎柱を振るった拳で払うアルカナサンドの姿が――、

「――悪いな。遅れた」

直後、まるで金属板を全力でたたき割ったかのような轟音が街一帯に響き渡り――春野の前蹴りを頭部に受けたアルカナサンドが大通りをえぐるように倒れ込んだ。

衝突の衝撃を和らげるために宙に身を躍らせた人影――春野は、倒れ込みながらも彼の登場に顔を上げていた白蓮のすぐ横に降り立つ。

露わになっている赤奈の腹部の状態を確認し、春野はコートの内側に持ち込んでいた包帯で傷口を塞ぎ、即席の応急処置を済ませる。これ以上のことは、できない

『――』

 起き上がったアルカナサンドの轟く咆哮が、それ以上の治療を許さなかったからだ。

 白蓮の処置を、臆病な住民の誰かがしてくれることを願うように春野は横になる白蓮に一瞥を向けて、踏み込んだ足から発生させた爆風を背に、アルカナサンドの懐に飛び込んだ。

「シ――ッ」

 突貫してくるアルカナサンド。その左手を、春野は腕を振り払って生み出した斬撃で切り捨てる。が、アルカナサンドは大通り――えぐり取られたことで露わになった大地に腕の切り傷を擦り付けることで左手を修復して見せたのだ。

 荒れ果てた大通りが戦場となっている以上、斬撃では効果がない。そう判断したのか春野は、固めた拳から放つ打撃を打ち込む始める。

斬撃を刻み込んだその数瞬後には春野はアルカナサンドの胸元に入り込んでおり、修復した腕を振り上げた瞬間には春野の拳が《陛忌》の胸倉に打ち込まれた。

 が、地面を上から殴りつけたように傷がつくことも、衝撃が発生することもない。拳を打ち込んだことで春野の動きが停止した。頑丈な大地の拳が春野の頭蓋を――

「――破壊光線」

 砕く直前、胸倉に叩きつけられたままの拳を通じて、橙色の輝きが《陛忌》の巨体を押し飛ばす。が、アルカナサンドの咆哮が辺りに轟くと共に振り上げられた両方の剛腕が輝きを叩き割った。

 数メートルを間に置いた状態で、春野とアルカナサンドの対峙は展開される。

――アルカナサンドの頭部に輝きが灯ったと同時に、春野が新たな技を披露した。

「《根絶乃協奏曲イレイスコーラス》」

 呪文を紡いだその瞬間に彼の辺りに浮かび上がるのは二十を超える、黄緑色の輝きで構成され、渦を巻く刃。それらが一斉に春野の元から飛び離れ、直後、四方八方から《陛忌》の巨躯を切り刻んだ。

 大地で構成された体なため刃が《陛忌》に与えるダメージ自体は未知数だが、体勢と、その耐久性を崩している。――巨躯の胸元にヒビが刻まれたその瞬間、春野は自身の胸元の前でクロスさせていた両腕を突きだした。

「――来いよ、《極み》」

 ――天から降り注ぐように大地に突き刺さったのは、黄金に輝く一本の《大剣》。――『極』の一字が柄の上に刻まれた一筋の剣だった。

「――あれが、春野きみの《能力》か」

 崖上から来てくれた弟子に腹部の傷を任せながら白蓮は、黄金の鱗粉を発する《大剣》に目を奪われていた。腹部の激痛をも忘れるほどに。

 直感で理解する。《大剣》から溢れ取る春野の魔力――自分自身の象徴と言われる《能力》であることを。そしてなぜ『不完全』であるのか――『極』の周りに刻み込まれた八つの結晶クリスタル。そこには、あるべき『色』が込められていなかったのだ。

「……」

 春野が、大地に突き刺さった《大剣》を引き抜く。同時に彼の頭上に発現したのは、『タイマー』。

 一分三十秒と表示されたその『タイマー』がどのような効力をもたらすのか、それを見届ける白蓮たちは知らない。だが、それが彼にとって良くない効果をもたらすというのは、険しくなる春野の顔色から見て取れる。

『――』

 《陛忌》が咆哮を上げながら春野の元に突貫してくる。道路から露わになった大地を踏みしめるたびに、先の刃に切り刻まれた体が修復していく。

 両手に黄金の《大剣》を握りしめ、腰だめに構えて春野は迎え撃つ。

 ――巨躯の懐に視界を埋められた瞬間、春野は《大剣》を振り上げた。

 残り、一分。

「ぬぁあ‼」

 斬撃というよりも、打撃に近い一撃が《巨躯》のひび割れた胸元に叩き込まれ、辺り一帯に暴風が吹き荒れる。直後、まるで音を叩き割ったかのような轟音と共に《陛忌》の体が上空に吹き飛んだ。

 三メートルはあろう巨体が強風に靡かれる紙切れのように吹き飛んでいく。その身を追うために、春野も足の裏から発生させた衝撃波を足場に空に舞う。

吹き飛ぶアルカナサンドの頭上に瞬く間に追いつき、自身の右肩から振り下ろした《大剣》を《陛忌》の頭部に叩きつけた。直後、街の一角に噴煙が上がる。

見下ろす先、分離する形で下半身と右腕を失ったアルカナサンドが春野に向けて頭部の結晶から光線を放とうとしている。

残り三十秒。残り一撃。春野は右手に握りしめる《大剣》の『極』のクリスタルに手を当てた。――《大剣》の刃身に、銀色の集中線と、色のない八つの集中線が集まる。

「《根絶乃皇帝乃大剣カイザーイレイスカリバー》ァ――ッ‼」

 刃全体を包むようにして集まった輝き――アルカナサンドの頭部を指す刃先に集中し、一直線の光となって放たれた。

破裂するかのように放たれた橙色の光線と、雨水のように輝く銀色の光線。互いに相殺し合い、削り合うように光線同士がぶつかり合う。一歩の引けも取らない光線の衝突に街全体が輝きに晒される。光線同士がぶつかり合うことで摩擦が生まれ、威力の余波が街の一角をえぐる。

――次の瞬間、互いに輝きの尾が尽き、光線が消滅した。――そして生まれる一瞬の隙。

「ぬぅアァアアアアアア――‼」

雷撃を思わせる速度、轟きをもって春野がアルカナサンドの元に急降下する。その意図が分かり、《陛忌》が再び光線を放とうとするが先の一瞬がそれを許さない。

 白銀の輝きを纏った《大剣》が春野の両手に握りしめられ、振り下ろされた刃先が《陛忌》の頭部に刻み込まれた鉱石を叩き割った。

『――!』

 光線を放つ間も、あがく間もない。一瞬にしてアルカナサンドの巨体が膨れ上がり、粉砕。幾重にも重なる轟きを込めた爆炎を噴き上げた。肌を焦がす熱を纏った風が吹き荒れ、誰しもが自身の顔を両腕で隠した。

「……春野」

白蓮がぽつりと漏らす。やがて爆炎が穏やかさを見せて、辺りの爆煙を風に流す。

そこにあったのは、大通りをえぐり取り底を未だ爆炎で見せぬ大穴。――その大穴を呆然と見つめる白蓮たちの目の前に、春野が握りしめた《大剣》の矢先と右膝を路上に当てる形で荒々しく降り立った。同時に、彼の頭上にあったタイマーが時間を告げる。――直後、手にしていた《大剣》が霧のように消え失せ、長く息を吐き捨てた春野が力なく両膝をつく。春野から猛々しく発せられていた魔力が夢のように消え失せた。そこで、ここまでの彼の戦いを見届けてきた白蓮の意識が、ここで刈り取られていたのだ。



「……?」

 どこかから聞こえる剣幕と、静かな憤怒が込まれた二つの声に、白蓮は意識を呼び戻された。瞼を開き、寝ころんだまま首を動かして辺りを見渡す。

 今、自分がいる場所が街の一角にある病院の一室であり、自分はアルカナサンドの攻撃を受けてここに運ばれたこと、今も聞こえてくる誰か二人の会話が病室の扉の先から聞こえてくること。そして、その二人があのアルカナサンドの討伐を行った春野と、あの戦いの中で姿を見せなかった市長であることはすぐに理解ができた。

 ――だが、剣幕を発する方――市長が春野に対して言う『理屈』は、人として到底理解できるものではなかった。

「だから君の介入は要らなかったというのだ! あと少しで騎士団が結成しきり、アルカナサンドを討ち取っていた! ただ君はァ、人民と街にィ、危害と損害を加えただけだ!」

「だったらそいつらの顔を見せろ。お前が言う時間は俺が戦ってる間にあっただろ。だったら全員揃ってるよな?」

「――か、彼らは君の攻撃の余波で今は病院にいる! とにかく、君は我々に迷惑をかけたのだ! その代償を――」

「――それ以上自分のツラだけを守るようなこと言うならよ。お前の言うように、俺がこの街消し飛ばしてもいいんだぜ?」

「――⁉」

ただ市長は、自分の不甲斐なさと碌に対応できなかった失態を隠蔽したいのだろう。市長は春野に責任を押し付けようとしているのだ。――そして、彼が返した『脅迫』。市長がどう判断するか分からないが、彼なら実現しえることには間違いないだろう。万が一にと、白蓮はベットから体を起こし、弟子が置いてくれたのだろう傍に置いてあった新しい刀を手に取る。

「きょ、脅迫する気か? この私を⁉」

「お前に言われたかねぇよ。……なんでか知らねぇが、お前見てくると無性に腹が立ってくる」

扉の向こう側から、魔力が集まるのを感じる。

「――や、やめろ! それを私に向けるなぁ‼」

「責任とって、ここの奴らに詫び入れろ。どうせ、お前の信頼なんてもうここの奴ら全員持ち合わせてねぇよ」

「――……!」

 春野が吐き捨てたのを最後に、一方が足早に立ち去る音が聞こえてくる。おそらく、言い負かされた市長が逃げたのだろう。足音が聞こえなくなったところで、白蓮は刀を杖にように突きながら体を支え、押し開いた病室の扉の前にいた春野と向き合う。

「……春野」

「……見舞いに来てやろうと思ったんだが、もう街の奴らも見たくない。――まぁ、死なねぇぐらいには頑張れよ」

「待ってくれ!」

 嫌なものを見たかのような表情を作り、目尻に皺を刻んだ春野がそう吐き捨て、踵を返そうとする――そんな彼を呼び止め、春野がしぶしぶ振り返った所で白蓮は手にしていた刀を腰に掛ける。そして、白蓮が行ったのは立礼――彼に対して、最敬礼を向けた。

「市長は君のことを邪険に思っているそうだが、私は君に感謝している。為す術なく倒れるしかなかった私の尻拭いをしてくれた。それに、君が応急処置をしてくれたこともあって、私は今ここにいる――感謝を」

頭を下げているため、春野の顔が見えることはない。二人が並ぶ廊下に緊迫した空気が流れる。――春野が、重々しいため息をついた。

「――お前を助けたら、『仲間』を想っていたころの感覚を味わえると思ったんだがな」

「……すまない」

 どう返せばいいのか分からなかった。ただ、春野の失望だけが痛々しく伝わってくる。それが彼自身やるせないものであることも。

 《古代陛忌》を討ち取るほどの《能力》を春野は持っていた。だが、アルカナサンドはあくまでも雑兵に過ぎないのだ。この『世界』には、その上位互換の《古代陛忌》は勿論、魔王軍《幹部》の数々が存在する。

『――もし、『仲間』を大切にすることに意味があったなら、力は必要だからな』

春野は、この『世界』にはびこる脅威を理解しており、理解しているうえで脅威に立ち向かおうとする覚悟を持っている。――だが、その守るための力が不十分であること、なぜ自分が『仲間』を守ろうとするのか。それが分からなければ彼が覚悟を持つ意味も、命を懸ける意味もない。――本来の自分の生き方を求める春野がやるせなくなるのは当然のことなのだ。

「お前には疑問しかない」

「疑問、だと?」

 失望を含んだ言葉を投げかけられて、訳が分からず白蓮はその下げていた頭を上げて春野の顔を見つめた。春野の顔は、先の失望の感情とは対照的に、その瞳には困惑の色が浮き出ていた。

「自分の命を捨ててまで、街の住民は百歩譲って分かるとしても、自分のことを切り捨てようとする敵でしかない奴まで助けようとすることが理解できないんだよ。――自分にとって大切なもの以外を助けようものなら、死ぬぜ。この過酷な『世界』なら特にな」

「……」

 きっと、戦場に向かっていたあの時に見たのだろう。自分以外の全員が逃げ惑い、そんな彼らを庇おうとして最終的に白蓮が致命傷を負うまでの経過を。痛々しく血がにじむ白蓮の腹部、その傷を顎で指す春野の瞳がそう説明しているようだった。

 彼は決して、救うことをダメとしているわけではない。春野の言うように、『実力者』と銘打たれている人ならよりこの『世界』で生き残り、救うものを限定すれば自分も、救いたいものも助けられる可能性が上がる。――だが、その他は全て見殺しにするということなのだろうか。

「君の言うことももっともだと思う。それもきっと正義の一つだ。私はそれを否定したりはしない。――だが、自分が助けられるものならその全てを救いたい」

「なんでだ」

「それが、人としてできることだと思うからだ」

「……できること、ね」

 白蓮の想いを聞いて、春野は完全に興味をなくしたようだった。懐にしまっていた中折れ帽を被り、最後に一瞥を向けた春野は白蓮の前から立ち去ろうとする。

「春野」

「……なんだよ」

「正直なことを言おう。私は君に恩を返したいと思っている。だが、今のこの体では君を鍛え上げることは無理だ――だから、君に私の友人を紹介しよう!」

「……はぁ?」


「スタンダードか……」

「行ったことがあるのか?」

「あの町にも調べにな。だいぶ昔にだが」

「友人には私の方から伝書鳩を使って先に伝えておこう。――友人は人の才能を長けさせることに優れていてな。彼女から学ぶといい。なんなら君と彼女は気が合うだろう。仲間にしてくれても構わないからな! あぁそうだった。彼女はスタンダードで市長をしているから、市役所に行くといいぞ」

「……」

 刀を杖に、腹部の傷を抑えながら空元気のような笑顔を浮かべる白蓮に対し、春野はまたため息をつく。同時に、傷がまだ治り切っていないのによくぞそこまで他人に気を遣っていられるなと感心もする。

 今、そうして最後のやり取りを行う二人がいるのは街の外壁――この街唯一の正面門の前だ。身に纏うコートに合わせた白い中折れ帽を被り、数日分の金銭と生活用品を詰めこんだ金属製のバックを片手に持って、春野はこの街を去ろうとする。

「……まぁ、これで貸し借りはなしってことにしとけ」

「なんだか上からな要望だな。君らしいが――これを機に、君が大物になることを願うよ」

「知ったかのような顔しやがって」

「――仲間だと理解し合うのは、後のことだろう?」

「――」

一瞬、春野は呆けた表情を浮かべたが、理解するや否や悔し気に舌を鳴らした。

「若造が」

「なんとでも言ってくれていいぞ?」

意地悪く笑う白蓮に春野はしかめっ面を浮かべ、歯ぎしりを立てる。だが、すぐに思い直したように乾いた笑みを作り、寂し気な感情をその黄緑の瞳に宿した。そして、今度こそ踵を向ける

「……じゃあな。あの市長がいる限りは戻ってくる気は起こさねぇ」

「それは惜しいな。妹に君のことをよく聞くことにするよ――私は、この街を離れなれないからな」

 同じように物惜しみをする顔を作った白蓮に対し、背を向けたまま春野は肩をすくめた。そして、何も言うことなく春野は歩みを進める。彼なりに決意を固めたのだろう。彼女に一瞥を向けることもしない。ただ、白蓮はそんな春野を見送ることしかできず――、

「――この終末な『世界』の中に、まだ彼のような人物がいたとは……」

途端、刀を杖にしながらも立ち上がっていた白蓮の体が膝から崩れ落ち、白目を剥いて倒れ込んだ。その彼女の背後にいるのは、黒髪を首筋まで伸ばした中年の男。穏やかな顔持ちで、着こんだワイシャツからは程よく引き締まった肉体が見て取れる。

「すまない。傷ついた体を無理に動かしてしまったね」

うつ伏せになって倒れ込む白蓮。その体には未だアルカナサンドとの戦いで刻み込まれた腹部の傷が痛々しく残っている。――それが、彼が右手を彼女の体にかざすだけで傷が蠢き、生み出された肉体がその傷を埋めたのだ。

白蓮の無事を確保したところで男はまた、街の出入り口の先に広がる野原の奥に消える春野を見送る。

「君は素晴らしい。私の心を、君はその生き方で埋めてくれるのかもしれない」

 穏やかな風が靡く芝生の上に男は胡坐をかき、まるで親友を見送るかのような感情をその灰色の瞳に宿す。

「――影ながら、君のことを見届けさせてもらおう。そして、君と話ができる許可が下りる日を、心から願ってみよう」


――そして、物語は現在に戻る


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