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第一話「いつかの黒」前篇〜馴れ初め〜

雁咲美緒の過去編です。

長くなりそうだったので、前篇と後篇に分けました。

楽しんでいってください。

ネオンが光る繁華街。

そこに一つ、カッカッと鳴り響く足音。

「…はぁ。頭痛い…。」

そう愚痴を吐く茶色の細縁丸メガネの彼女は雁咲 美緒。

一見彼女は普通のイマドキのOLに見えるが、雁咲はある能力を持っている。

人気のない路地裏にはいるとしゃがみ込んで小さな鍵を取り出し、地面にさす。

ガチャと鍵が開いた感触がした。

「認証完了。地下30層、夜行祓代行屋に転送します」

次の瞬間、雁咲は少し古びた一戸建ての家の前にいた。

軒先には「夜行祓代行屋」とかかれた看板がある。

すると中から、銀縁のメガネをかけた男が現れる。

「こんばんは。雁咲さん。…あの、今日もまた遅刻ですか?」

「うるさい。表の仕事が長引いたのよ。」

「(…かといってまた早退して家でゴロゴロしてたんでしょ)」

「鵜飼。私はそんな自堕落な人間じゃないわ。」

「(そうだ。この人心が読めるんだ。どっかのピーナッツ娘かよ。めんどくさいなぁ…)」

「めんどくさくて悪かったわね。それと私はピーナッツは嫌いよ。」

「まぁまぁ、今日はまだ依頼人さんも来てないですし。ちょっとゆっくりしていましょう。」

「そうね。資料庫にいるわ。」

「お飲み物は?」

「アイスコーヒー。とびきり濃いのね。」

「わかりました」

彼の名は鵜飼。雁咲の部下で3年ほど前に代行屋にやってきた。彼には一つ、不可解なところがある。下の名前を名乗らないのだ。雁咲は鵜飼に何度もそのことを問いたが、その度ものすごい圧をかけられ「知らない方が身のためです。」と言われてしまうため、その理由は雁咲でも知らない。

雁咲はいつも依頼人の対応をしている応接室の奥、扉を開けた先の廊下の突き当たりにある、鍵のかかった扉の前に立った。その扉には「この先資料室 機密事項保護のため、関係者以外の立ち入りを固く禁ず」とプレートが打ちつけられている。

雁咲は胸ポケットのところから一枚のカードを取り出した

それをリーダー部にかざす。

…ニュウシツニンショウヲカイシシマシタ。…カリサキミオ、100.0パーセントイッチ。カイジョウショリカンリョウ。トビラガオオキクウチガワニヒラキマス。ゴチュウイクダサイ…

ガチャンと大きな音を立て、扉が開く。

資料庫内は円形で、どこか懐かしい匂いがする。

入って右には色とりどりの表紙の本が一万冊ほど並んでいる。雁咲はその中から青い表紙の本を取り出した。

「この小説家、新刊出してたのね。鵜飼たまにはやるじゃない。」

…機密事項って小説のこと?…当然ながらそうではない。

機密事項は入って左の棚。オールブラックの表紙がどこか美しい。その表紙には

「Yuka Asamoto 22××〜22○○ lot.M131245」

のように人の名前、西暦、それぞれの識別番号が書かれている。

雁咲はここで人のトラウマ、失敗などから生まれる「黒い記憶」を消し去る仕事をしている。

消し去るといえど、この世から消滅することはなく、このように一人一人本のような形となり残るのだ。これを記憶の本(夜行の記録)と呼ぶ。

なぜ彼女が今ここでこのような仕事をしているのか。

彼女の記録を開いてみよう。

…「Mio Karisaki 2134 lot.B000015」…

これは雁咲が15歳の年、中学3年生の時の話。

5月も半ばとなり、緑が映える季節。

雁咲のクラス、3組では6月の終わりに控えている修学旅行の部屋決めをしているところだ。

「美緒ー。一緒の部屋なろ!」

「いいよ!他に誰誘う?」

「うーん。別に2人部屋でよくない?」

「あー…それいいかも!」

「まじで!?いいの?やったー!美緒と2人なら絶対楽しい!」

「そんな喜ぶー?私も楽しみ!」

雁咲と同じ部屋になったのは幼馴染である神崎詩織。

雁咲と神崎は4歳の時に出会い、今でも休日は一緒に遊びに行くほど仲が良い。

中学に入り、女子テニス部に入部した2人は先日引退をした。

後輩とも仲がよかった2人はキャプテンと副キャプテンを務めていたこともあり、ちょくちょく部活に顔を出し、その度に顧問に「勉強しろー!」と怒られる。

そんなこんなで楽しく時間が過ぎ、気づけば修学旅行の日になっていた。

雁咲と神崎は新幹線の座席も隣だ。

「ねーねー。なんで詩織は中1の時吹部に入らなかったの?あんなに入りたいって言ってたのに。」

「あー。言ってなかったっけ?おばあちゃんに『吹奏楽部っていう部活は精神力が大切なのよ。ひょんなことから音楽が嫌いになることもあるのよ。私もなったことあるわ。

その覚悟があるのなら入ってみなさい。』って言われたの。

私結構メンタル弱いからさ、怖くなっちゃったわけ。だから迷ってたんだけど、美緒が女テニに入るって知って私も女テニに入ったんだ。」

「そうだったんだ。詩織音楽好きだもんね。」

「あ…!この話で思い出した。今日スリッツのライブのチケのセールの日じゃん!」

「そうじゃん!ドームだよね?ぜっったい行きたい!」

「今日の8時。部屋で一緒に取ろ!」

「うん!2人で行きたい!」

そんな他愛のない話をしていると後ろから何かヒソヒソ喋る

声が聞こえる。

「詩織ちゃんと美緒ちゃんってすっごい仲いいよね。」

「ね。あ、そうそう。一つ上の先輩でさ、今年女子同士で結

婚した人がいるみたいだよ。」

「えっ!そうなんだ。同性婚も最近よく聞くよね。」

「なんか推しのアイドルコンビみてるみたいで、いいよ

ね。」

「あの2人も結婚するのかな?」

「どうなんだろ。お似合いだと思うけど。」

22世紀の日本では同性婚が合法化され、同性同士でもお互い

の精子か卵子を利用して子供を作れるようになった。

だが、雁咲には心に決めている人がいる。

(鳥羽凛くん...今日こそ告白するんだから。夕飯の時に約束し

て...ここの廊下ならみんな使わないはず。)

「ちょっと、美緒。何そんな真剣な顔してしおり読んでるの

よ。酔うよ。」

「あー...なんか、忘れ物、、、してないかなっ...て。」

「ふふっ。なんそれ。もう遅いよ。美緒ってばてんねー

ん!」

...鳥羽凛(とばり) 京楽(けいら)男子テニス部元キャプテン。

雁咲とは小学校から同じで、たまに時間が合えば2人で帰っ

ている。銀縁のメガネをかけていて、高身長。おまけに頭も

いいのだ。雁咲は出会った時から鳥羽凛にゾッコンだった。

そして、神崎にも心に決めている人がいる。

(美緒、かわいいなぁ。はぁ...。好き。大好き。結婚したいな

ぁ。一緒の部屋になったし今日こそ告白しよう。やっと、や

っと結婚できるね。お家はどこに建てようか。ふふっ。ふふ

ふふっ。大好きだよぉ...)

神崎は雁咲のことが好きなのだ。

それも異常なくらいに。

普段はどちらかといえばクールな神崎だが、胸の内では雁咲

のことばかり考えている。

何か不穏な雰囲気だが、大丈夫だろうか。

そんなことを両者考えながら、あっという間に目的地の広島

に到着した。

「広島きたぁぁぁー!」

「美緒、テンション上がりすぎ....うっ。ちょっと酔ったか

「大丈夫?」

「大丈夫。(はぁ、美緒の笑顔に酔いそうだよ。)」

「今日は自主研修だね。早速行こう!」

1日目の午前は自主研修。皆それぞれ事前に決めたテーマに沿

って研修をする。この学校は一人ひとり違うプランを組むの

が特徴だが、彼女たちはバレないように同じプランを組んで

いた。お好み焼きを食べたり、神社巡りをしたあと、ホテル

に着いた。

ロビーに着くと、皆あっけに取られた。

豪華なシャンデリア、それを囲むようにそびえる大階段、そ

の横には大きな彫刻や絵画が飾ってある。皆事前にホテルに

ついては調べていたが、写真の数倍は豪華爛漫なホテルに

「これさ、俺らが泊まって大丈夫なとこ?、」「あとから追

加料金とか取られないよね?、」「俺たちここではたらかさ

れるの?」などの戸惑いの声を漏らしていた。

すると前に先生が出てくる。

「はいはい。静かに。全員集合時間までに揃いましたね。素晴らしい。このあと、部屋ごとにお風呂に入ります。入り終わっ

たら2階の食堂に集合してください。

先日も言いましたがこのホテルは私たちが貸し切っていま

す。ですがあまり羽目を外し過ぎないように。では201の生

徒から荷物を部屋におき次第、入浴の準備をお願いします。

放送が入ったら移動を開始してね。では解散です。」

雁咲と神崎は部屋に荷物を置きしばらくだべっていた。

放送が入り、2人は風呂に移動した。

30分ほどで上がり、食堂に向かった。

食堂もロビーと同じように、豪華爛漫であった。

食べ終わると遂に美緒は覚悟を決めた。

彼のある1組のところまで急いで向かった。

「あ、鳥羽凛くん!」

「雁咲さん?なに?」

「えっと、その、このあと8時くらいにさ2階の外廊下来てく

れない?」

「外廊下...あぁあそこか。わかった。」

「あ、ありがとう。」

この一部始終を遠目で見ていた者が1人。

(美緒が鳥羽凛くんとなんか喋ってる?なんだろ?)

しばらくすると1組の面々が奥から続々と歩いてきた。

「鳥羽凛の奴さ、なんか雁咲さんから話しかけられてた

ぜ。」

「え、まじ?まさか...」

「いや、あるぞ。2人さ女テニと男テニのキャプテンじゃ

ん。2人ともスタイルいいし、前から結構仲良いし。」

「あそこがカップルとか推せるわー」

「わかる。」

(まさか...ね。美緒も私のことが大好きだもんね。そんなわけ

ないよね。)

そして迎えた8時。

「詩織、ちょっと他の部屋見てくるね。」

「(まさかとは思うけど....)私もついてっていい?」

「いや、ちょっと待ってて。」

「いや、行かせて。」

「ごめん、待ってて!」

雁咲はそういい、神崎の手を振り払った。

(嘘でしょ?まさかほんとに?)

神崎は気になり、雁咲の後をこっそりとつけていた。

しばらくすると雁咲は足を止めた。

全く人気のない静まり返った外廊下。

そこには鳥羽凛がいた。

神崎は固唾を飲んで、その始終を見届けようと息を潜めてい

た。

「いきなりこんなとこに呼び出してごめんね。」

「どしたの?なんか連絡事?」

「そうじゃなくて、あのね。実は...、私鳥羽凛くんのことが

ずっと大好きなんです!付き合ってください!」

「おぉ、そうきたか。偶然だね。実はこんな2人に慣れる機

会なんてそうそうないから、僕からも言おうと思ってた。」

「えっ、それってつまり...?」

「雁咲さん、僕も前から大好きです。どうぞこれからも彼氏

としてよろしくお願いします。」

(やっぱり...そうなのね、しかもOKされちゃった。完璧に抜

け駆けされたじゃない...。)

「...グスッ、嬉しい。ありがとう。鳥羽凛くん。」

「雁咲さんのことが好きだったから、今までされてきた告白

も全部断ってた。だけど勇気がなかなか出なくてさ。まさか

雁咲さんから言ってくれるなんてさ。あ、これからさ下の名

前で呼んでいい?」

「全然いいよ!むしろ呼んで欲しいな。」

「じゃあ美緒?でいいんだよね!美緒!改めてよろしく

ね!」

「私も鳥羽凛くんのこと下の名前で呼んでいい?」

「もちろん!」

「じゃあ改めてよろしくね!京楽くん!」

「美緒、ハグしていい?」

「いいよ!」

タッタッタ…ギュッ!


後篇に続く…


次話予告

すれ違う2人の思い。

胸が熱くなるほどの失意。

感情に突き動かされた者のとる行動とは。

第二話「いつかの黒」後篇〜愛憎と窮屈〜

公開日未定

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